夕映物語   作:野良犬

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相手が二人以上いるという事でハーレムタグを追加。

今回は難産でした。

気付いたら13000文字超えてたし。

相変わらずの捏造加減。

胃薬を用意してお読みください。


自覚と別れと欲張りと

 実践訓練という名の砲撃合戦が無事終わり、私達は現在別荘の大浴場で汗を流しています。

 どこの王宮か、と言いたくなるくらい広く、常に湧き出ている魔法の温泉はチャチャゼロさんの妹さん達が24時間管理しており、いつでも好きな時に好きなだけ入れるという仕様です。しかも入浴中、入り口には妹さんが必ず数人待機しており、どんな要望でも即対応可能という贅沢なオプション付き。これを個人所有とか、やっぱりエヴァさん半端無いですねアハハハハ……。

 

 …………………………はい、現実逃避もこれ位にして、この状況を如何にかせねば。

 ちらりと視線を向けると、膨れてはいないものの、私の隣で湯船に浸かっている若干不機嫌そうなのどかの横顔。砲撃合戦後、多少は機嫌が直ったようですが、まだ口を利いてもらえません。やはりここは素直に謝るべきでしょう。

 

「あの………のどか?」

「………………………なに?」

 

 おおぅ…のどかがジト目でこっち見てるです。怯むな私。頑張れ私。

 

「ごめんなさいです」

「………………………」

 

 湯船から上がり石床の上で、ザ・土下座。お互い全裸ですが気にしない方向で。

 契約上仕方ないとはいえ、恋人に嫌な思いをさせてしまったのは事実ですから。

 謝る私をしばらく見ていたのどかが、ため息を吐きながらようやく口を利いてくれました。

 

「…………………ハァ。もういいよ、ゆえ。頭上げて」

「はいです」

 

 頭上げる私に近寄り、手を握りつつこちらを見詰めるのどか。目が「しょうがないなぁ」と語っています。

 

「まぁ、いつかはこうなるんじゃないかなぁって思ってたんだけどね。前もそうだったし」

「はい? 何の話ですか?」

「前の世界で、ゆえって同性に結構モテてたんだよ?」

「………えっ?」

 

 何ですかそれ、初耳なんですが…………一体誰が?

 

「例えばエミリィさんとコレットさん。

 エミリィさんはアリアドネーからの大使として、コレットさんはそんなエミリィさんの護衛の一人として麻帆良に来てたけど、あれって六割くらいゆえを追い駆けて来てたんだよ?」

 

 あの二人がですか? じゃあ、のどかと付き合ってることを知った時の、浮気者だの泥棒猫だの騒いでたのは冗談ではなく?

 ビーさんが困った様な笑顔をしてたのも、カッツェさんやデュ・シャさんがニヤニヤしてたのも、ソレを知ってたからですか?

 ハルナが煽っていたからてっきり3-A的なノリだとばかり……………。

 

「他は、真琴ちゃんにそのクラスメイトの女の子達、魔法探偵の時の依頼人の女の人達とか……………あと―――――パイオ・ツゥさん」

 

 指折り数えていくのどか。

 

 真琴さんは、連続下着強奪事件以来、まき絵さんの弟の影久さんとよく事務所に遊びに来ては、郵便物などのほったらかしにしていた物を片付けてくれたり、真琴さんが作ってくれたお菓子でお茶したりしたぐらいなんですが……。美味しいと褒めると顔赤くして凄く喜んでましたけど。

 

 真琴さん達のクラスメイトの娘達は、二人から事件を解決したのが私と伝わり(実際解決したのはネギ先生ですが)、街中で偶然出会った時に「良かったら私達と一緒にお茶しませんか?」と誘われました。それ以来面白半分に『夕映お姉様』などと呼ぶようになっただけですよ?

 

 魔法犯罪や魔獣被害で依頼に来た女性達は、依頼解決後「報酬以外にもお礼がしたい」と言われたです。最初は断っていたですがどうしてもと言うので、どこぞの高級ホテルのレストランで食事したり、お酒飲みに行ったりしました。私は酔い覚ましの魔法を使っていた為一定以上酔う事が無く、先に酔い潰れた女性をそのホテルの部屋に寝かせ介抱するというパターンがほぼ毎回あったですが。朝起きた時、残念そうな顔をしていた様に見えたのは気のせいだと思いますし。

 

 パイオ・ツゥさん……………あの人は正直よく分からないです。事件以来、たびたび私の前に現れては、セクハラする→捕まる、を繰り返していました。ISSDAに就職した後もソレは変わらず、アキラさんや亜子さん達も被害にあったらしいです。初めて自力での捕縛に成功した時、今まで胸を揉まれ続けた仕返しに、私の気が済むまで揉みしだきましたが、アレがいけなかったんでしょうか? それ以降出現率が上がった気がします。私の部屋で普通に寛いでたりするんですよね、あの人。

 

 コレ、モテてるって言うんでしょうか?

 

「納得いかないって顔してるね」

「まぁ、はい」

 

 「困った娘だね」って顔しないでください。私は鈍感ではありません……………多分。

 

 身体が冷えてきたので、もう一度並んで湯船に浸かり話を続けます。

 

「ゆえはこの世界のエヴァさんが、以前のエヴァさんより雰囲気や態度が柔らかいって思わなかった?」

「あー、はい。雰囲気が柔らかいというか、妙に距離が近いというか」

 

 以前と比べて世話焼き度が上がっているというか、色々便宜を図ってくれるです。放課後や休日に、よくお茶会や野点に誘ってくれたり、一緒に買い物や甘味処巡りに出掛けたりもしてるです。

 確かに以前はこんな事した事なかったです。

 

「エヴァさんと契約してから三年くらいした頃にね、『夕映を私の物にする』って宣戦布告されたの」

「何ですかそれ!?」

 

 何言ってるですかエヴァさーん!?

 

「『先ずは愛人枠だ』だって」

「おおぅ……………」

 

 そういえば茶々丸さんから聞いた事があるです。エヴァさんは略奪愛上等な人だと…………。

 

「もちろん私は正妻の座を渡す気なんてないけど、エヴァさんなら愛人枠でならいいかな、とも思うの。ほら、あれ……………妻妾同衾?」

「……………………また凄い事言い出したですね、色んな意味で」

「とか言って、ゆえだって満更じゃない癖に。…………エヴァさんの事、好きになってきてるでしょう?」

「ぬぐっ…………………ハァ。よく分かるですね、のどか」

「分かるよー、だってゆえの事だもん♪」

 

 そう。のどかの言う通り、私はエヴァさんに惹かれている。

 

 嬉しそうに和菓子を頬張るエヴァさん。

 得意げに胸を反らしながら笑うエヴァさん。

 優雅にお茶会を楽しむエヴァさん。

 私達に着せる服を真剣に悩みながら選ぶエヴァさん。

 賭け囲碁で学園長秘蔵のお酒を手に入れご満悦なエヴァさん。

 チャチャゼロさんに楽しみにしていたお酒を飲まれ怒って追い掛け回すエヴァさん。

 涼しい木陰で私の膝を枕にしながら猫のように丸くなって眠るエヴァさん。

 苦手なモノが出てきた時のちょっと涙目のエヴァさん。

 吸血する時に愉悦した表情で私にエッチィ事をするエヴァさん。

 その後で愛しそうに微笑みながらキスをしてくるエヴァさん。

 

 以前は見せてくれなかった彼女の表情(かお)

 以前は知る事が出来なかった彼女の表情(かお)

 沢山の彼女と触れ合い、知る内に、いつの間にか彼女に惹かれていた。

 

 のどかと言う恋人がいながら。

 

 私って気が多いのでしょうか? 浮気性? 尻軽?

 どっちにしても、どうしようもないダメ人間じゃないですか。

 アホですか私。

 

 のどかはそんな事を考えていた私を、緩やかな階段状になっている湯船のへりに押し倒し、四つん這いになって覆い被さってきました。

 

 お湯に温められほんのり赤みを帯びながら水滴を滴らせる色白の肌。

 程よい大きさで形も良く柔らかさと張りのある胸。

 その先端を彩る淡い桜色。

 思わず触りたくなる様なくびれのある細い腰。

 小さなおへそがちょこんと存在するスベスベのお腹。

 秘所を守る様に薄っすら生え始めている茂み。

 鍛えられ程よく引き締まった太腿。

 

 のどかの胸、また少し大きくなってるです。小6のスタイルじゃありませんよねコレ。

 幼いながらも艶かしいというか、こうやって直視するとドキドキするんですが。

 

 そのまま私に抱き付き身体をぴったり重ね合わせるのどか。

 彼女の胸と私の胸が触れ合い、お互いにふにゅりと形を変えていきます。

 先端が擦れた時、少し声が出そうになりましたがなんとか我慢しました。

 そんな私を他所にのどかは左の耳元に囁いてきたです。

 

「………ねえ、ゆえ?」

「……のどか?」

「私の事を一番に考えてくれるのは嬉しいけど、それを理由に自分に嘘を付かないで」

「別に………そんな事は………」

「はい、嘘。ゆえがこういう時、自分の気持ちを抑えて逃げちゃうのはネギせんせーの時に実証済みだよ?」

「うぐっ」

 

 学園祭の時、全力で逃走するわ、高所から飛び降りるわ、色々やらかしてますからね、私。

 否定できないです。

 

「私に遠慮しないで。ゆえの幸せが私の幸せ。そりゃあ誰彼構わず手当たり次第っていうのはダメだけど、ゆえが心からその人の事を好きなら私は受け入れるよ?………ヤキモチは妬くだろうけど、こんな風に……」

「へ?……あっ」

 

 そう言って左の首筋にキスをするのどか。先程エヴァさんが吸血していた場所です。

 

「んーっ。の、のどか? ちょっと痛いです」

「―――――――――チュッ」

 

 上書きする様に、エヴァさんと同じ場所に少し痛みを感じる程強く吸い付かれたです。わざと音を立てて唇を離し最後にぺロリと一舐め。実に満足そうな顔をしてるですね。

 

「それじゃあ、ゆえ。エヴァさんの事、正直に考えてみて」

 

 そう言って私のオデコにキスした後、のどかは大浴場から出て行きました。

 正直に考える……ですか。

 私はしばらく湯船のへりでゴロゴロしながら、彼女に言われた事を考え続けました。

 

 

 

 長湯でのぼせる前にお風呂から上がり、エヴァさんの指示で妹さんが用意した黒いナイトドレス(肩・胸元・背中がドレスを支える肩紐以外丸見え)に着替えたあと、三人のもとへ案内して貰いました。

 エヴァさんとチャチャゼロさんは既にワインを開けて飲んでおり、のどかも席に着いていました。待たせてしまったようです。

 

「遅ェーゾー」

「随分ゆっくりだったな? 夕食の準備はとっくに………………」

 

 エヴァさんが私を凝視しながら停止したです。先程ののどかの言葉が浮かんできて、思わず目を背けてしまう。彼女はそんな私に気付かずに、のどかを見ながら言いました。

 

「……………なるほど、なかなか挑発的じゃあないか? のどか」

「フフフフ♪」

 

 突然笑いながらお互いを視線で牽制し出す二人。いきなりの事に呆然としていると、チャチャゼロさんが近付いて来たです。

 

「訳分カンネーッテ顔シテンナ。トリアエズ、コイツデ首筋確認シテ見ロヤ」

「?……………あー」

 

 渡された手鏡を見てみると首に紅い痕が。はい、どう見てもキスマークですね。コレが原因ですか。

 

「どうしましょう?」

「ホットケヨ、先二食ッチマオウゼ。ホレッ、オメーモ飲メ」

「未成年にお酒を勧めないでください」

「イージャネーカ、カテー事言ウナッテ」

 

 私を席に座らせ膝の上で飲み始め、お酒を勧めるチャチャゼロさん。この人?も結構マイペースですよね。

 あっ、二人がこっちに気付いたです。

 

「あー!? チャチャゼロ、貴様いつの間に!?」

「そうです! ずるいです、チャチャゼロさん!」

「ケケッ、知ラネーナァ」

 

 毎度の如く騒がしくなる私達。こういう日々がずっと続いて欲しいと心から思うです。

 

 

 

 

 夕食の後、エヴァさんの部屋に連れ込まれ、デザート代わりに吸血されました。

 吸うのは良いんですが、もう少し手加減して欲しいです。

 

 

 * * * *

 

 

 別荘で使わせて貰っている部屋へ戻った私は、ボフッとベッドに倒れ込みます。少し貧血気味でボーっとする頭で、この5年間にあった事を思い出していく。本当に色々ありました。

 

 まず小2に進級した時の事。

 木乃香が関西から引っ越して来たです。相変わらずのほんわかした雰囲気に、ほんの少し不安や寂しさの色を見せつつ、明日菜さんと即行で仲良くなっていました。当時からタカミチ先生は度々出張で海外に行っていた為、学園長が一人になりがちな明日菜さんと寮で同居させたのがいい切っ掛けになったようです。一週間もすれば明日菜さんと委員長さんのじゃれ合いも、のほほんと笑ってスルー出来る様になってたです。

 ただ、私とのどかを見て頬を染めながら目を輝かせていたのが少し気になりますが。

 

 次は小2の冬です。

 以前からタカミチ先生に繋がりを強くして貰っていたクルトさん経由で、MM元老院の一派がネギ先生の村の襲撃を計画している事が報告されました。この頃の私はなぜか学園長の相談役の真似事をするハメになっており、この報告も私・のどか・エヴァさん・学園長・タカミチ先生の五人で聞いていたです。黒幕はおじい様です。

 その報告を聞いたエヴァさんとタカミチ先生が真っ先に村の救援を主張。私達二人も、エヴァさんの呪い解除の為と、この世界のネギ先生が石化を無事免れる保障は無いという判断から賛同。学園長も同意し、満場一致で可決されました。

 しかし襲撃時期が1997年の春先という曖昧な事しか分かっていない事。

 大規模に動くとこちらがMM元老院の動きを察知した事がバレ、襲撃時期をズラされかねない事。

 この二つの理由から麻帆良最強戦力の一人であるタカミチ先生を、1997年の元日からメルディアナ魔法学校に半年間の出張という名目で派遣する事が決定したです。

 結果はなんとか成功。救えた村人はネギ先生を入れて約三割。ネカネさん・スタンさん・アーニャさんのお父様等、以前は石化されてしまった人達も幾らか救出出来たようです。とはいえ、ネカネさんのご両親・アーニャさんのお母様等、石化されてしまい救えなかった人達の事を、タカミチ先生は酷く気にしていたですが。

 そして救出の際、タカミチ先生はナギさんに遭遇したと発言。負傷者がいた為すぐに見失ってしまったが、フードから少し見えた顔、使っていた杖や魔法、そして杖を貰ったネギ先生の証言から、間違いないと断言したです。

 コレを聞いたエヴァさんが、呆然→含み笑い→高笑い→怒り大爆発、と百面相を披露。

「呪いが解け次第探し出して、フルボッコにしてくれる!!」と息巻いてたです。無理もありませんが。学園長やタカミチ先生も苦笑してました。

 助かった人達はウェールズの山奥にある魔法使い達の街へ移り住み、ネギ先生も9月からメルディアナ魔法学校へ入学が決まったそうです。あと、タカミチ先生はちゃっかりネギ先生と友達になって来てました。

 

 次は小3の夏です。

 私とのどかはクラス替えで別のクラスになっていた為、知ったのは全てが終わった後でした。

 ……委員長さんの弟さんが亡くなりました。正確には流産。木乃香の話では、酷い落ち込み様だったそうです。しかし、明日菜さんの放った『ジャンピング元気出せキック』が委員長さんの後頭部に炸裂。激怒した委員長さんが明日菜さんを追い掛け回し、いつものじゃれ合いに発展。その後、少しづつ委員長さんも元気を取り戻していったそうです。

 さすが親友同士ですね。本人達は認めませんけど。

 委員長さん曰く「乱暴なお猿さんを放って落ち込んでいる暇なんてありませんわ!」だそうです。

 

 次は小4の秋です。

 ネギ先生の村襲撃事件から、さらにエヴァさんの別荘を利用する様になったタカミチ先生が、ついに【気と魔力の合一(シュンタクシス・アンティケイメノイン)】である【咸卦法】の習得に成功したです。年甲斐も無く嬉しそうに海に向かって【豪殺・居合い拳】【千条閃鏃無音拳】【七条大槍無音拳】などを乱射し、エヴァさんに怒られてました。

 この頃のタカミチ先生は、ようやく私達の知ってるダンディメガネになったです。こう言っては何ですが、若いタカミチ先生って違和感が凄かったんですよね。これで心情的に落ち着いて相手が出来るです。

 ただ今度は明日菜さんから、何か聞きたそうな目で見られる事が増えたです。この頃の明日菜さんはタカミチ先生の呼び名を、タカミチから高畑さんに変えており意識し始めているみたいです。

 木乃香曰く「夕映にはのどかがいるのは分かってるんだけど、高畑さんと仲良さそうに話してるの見ると、ちょっとモヤモヤする」とため息交じりに言っていたとか。乙女心は複雑な様ですね。

 

 そして小5の冬。

 …………おじい様が亡くなりました。

 

 

 * * * *

 

 

 雪が薄っすら降り積もった庭を横目におじい様の寝室へ向かいます。今日はおじい様が話があるとの事で、エヴァさんと学園長に来て貰っています。

 持っているお茶をこぼさない様におぼんを一度床に置き、襖を開け声をかけます。

 

「皆さん、お待たせしました。お茶をどうぞ」

「ああ、ありがとう、夕映」

「うむ。ご苦労、夕映」

「フォッフォッフォ。すまんの、夕映ちゃん」

「もう、言ってくれれば手伝ったのに」

「いえ、気にしないでください」

 

 部屋の中に居たのは、布団から上半身を起こしているおじい様、その近くで座布団に座っているエヴァさん・学園長・のどかの三人。ちなみにタカミチ先生は例の如く出張でいません。

 皆にお茶を配り、私ものどかとエヴァさんの間に空けられている席に座ります。それを確認した学園長がおじい様に聞きました。

 

「それで? 今日はどうしたんじゃ?」

「ふむ、実はこれ以上の生存が厳しくなってきてね。夕映への知識や技術の継承も無事に済んだ事だし、そろそろ逝こうかと思うんだ」

「「……………はあ?」」

 

 おじい様がぶっちゃけたです。エヴァさんも学園長も「何言っとるんだ、コイツ」って顔してます。ていうか口に出てます。

 しかし、そうですか……。もう持たないのですね……。

 

「お前達はあまり驚いておらんな。知っていたのか?」

「はい。いずれ近い内にそうなるだろう、と聞かされていました」

 

 エヴァさんに聞かれ答える私。

 そう、これは既に覆し様のない事なのです。

 

 そもそもの始まりは大分烈戦争の頃まで遡ります。当時、連合側の後方支援部隊に所属していたおじい様は、とある噂を耳にしました。『旧世界(ムンドゥス・ウェトゥス)』の日本から徴兵されて来た隊がある、という話です。久しぶりに同郷の者と話がしたくなったおじい様は、その隊が戻ってきた時に彼等に会いに行きました。

 

 しかしそこでおじい様が見たのは、最低限の応急処置しかしていない疲弊しきった人達でした。おじい様はすぐさま手持ちの魔法薬で重傷者から治療を開始。治療が一通り終わった後、この隊の責任者に話を聞いたです。隊長と副隊長は天ヶ崎という関西呪術協会の呪符使いの夫婦で、先程一番最初に治療した人達でした。

 天ヶ崎さん達曰く、補給が雀の涙程度しかされないため治療も最低限しか出来ず、そんな状態で連戦を強いられている事。

 部隊長に要請しても、物資不足の為今ある物で何とかしろ、の一点張りで話にならない事。

 日本から持ってきた道具類も残り少なく、このままでは死者が出るだろう事。

 そもそも脅迫じみた手段で徴兵されて来た為、自分達を含めた全員が西洋魔法使いに不信感と嫌悪感を抱いている事等を話してくれたです。

 

 後方支援部隊で兵站にも関わっていたおじい様は、ここまで深刻な物資不足が起こるのはどう考えてもおかしい、と判断。物資の流れを調べました。

 その結果、天ヶ崎さん達の隊が所属する部隊には、物資不足になるとは考えられない十分な量の物資が確かに配給され、各隊の消耗に合わせて補給した、という部隊長のサイン付きの書類が出て来ました。おじい様はこの書類の写しと問題の隊の現状、そしてこの件に力を貸して欲しいと手紙を付け、以前知り合った元捜査官に郵送したです。

 

 数日後、事態は急変。件の部隊に憲兵隊の強制捜査が入りました。捜査の結果、部隊長は捕縛され次々と犯行が明らかになりました。

 部隊予算の横領、情報漏洩、補給物資の横流し、そして不法徴兵してきた旧世界の人間を周囲にバレない様に使い潰そうとしていた事が判明。しかも主犯は戦争推進派の元老院議員であり、部隊長はおこぼれに与っていた傀儡だという事実まで判明。

 元捜査官はこれを戦争反対派筆頭のマクギル元老院議員に報告。主犯の元老院議員は即逮捕。その他多くの余罪やその協力者が芋づる式に出てきた為、全員終身刑は確実という大事に発展。この件でマクギル元老院議員の発言力は大きくなったそうです。

 

 その後、マクギル元老院議員と元捜査官から、兵役を解除された天ヶ崎さん達と事件の発端となったおじい様に今回の事件について説明がされました。

 主犯の元老院議員は私腹を肥やす為に旧世界の人間を不法徴兵し、配給される予算や物資を自分の懐に入れ、証拠隠滅と傀儡の部隊長の戦果稼ぎの為に集めた人間を使い潰す事を思い付いたそうです。

 元捜査官曰く「旧世界の田舎者風情が私と連合の役に立てるのだ。光栄に思うのが筋だろう?」と主犯は本気で語っていたそうです。どうしようもない屑ですね。

 また不法徴兵を行う際、本来なら旧世界に干渉する時は現地の下部組織を通して行う事が定められているにも関わらず、麻帆良に一切話を通さず隠れて関西呪術協会に接触。出兵を断った関西呪術協会に対し、相手の身内が不慮の事故に遭うかもしれない等の脅迫行為を実行。出兵せざるを得ない状況にさせられたのが不法徴兵の真相なんだとか。

 マクギル元老院議員と元捜査官は、今回の事件を未然に防げなかった事を深く謝罪し、近い内に日本へ帰れる様に手配する事、消費した道具の総額・隊が挙げた戦果の正当な報酬・不当に他国の兵役に着かせられていた事への賠償金等も支払う事を確約したです。

 天ヶ崎さん達もそれを受け入れ、数日後日本へ帰る日が来ました。

 

 しかし当日、ゲートポ-トで天ヶ崎さん達と見送りに来ていたおじい様・元捜査官を巻き込んだ魔法地雷による爆破テロが起こりました。

 犯人は行方不明だった主犯の元老院議員の秘書だった男。犯行動機は逆恨みです。

 元捜査官と他の関西呪術協会の人達は軽傷で済みましたが、爆心地に近かったおじい様と天ヶ崎さん夫婦が致命傷を負いました。ですが結界で外部と隔離しているのか駐在治癒術師が来る気配がありません。おじい様は手持ちの魔法薬で治療する事に決めました。しかし爆発の影響で手元にある魔法薬は回復薬が2つと、何かあった時の為に調合した『魔薬』が1つだけ。

 

 『魔薬』とは開発したは良いものの、その薬効や副作用の危険性から、世間一般に公表するのをおじい様が自らに禁じた魔法薬の総称の事。

 この時持っていたのは『強制延命薬』

 薬効は『どんな致命傷でもその状態を維持し延命し続ける』

 副作用は『服用した時の状態を維持する為、他の魔法薬や回復魔法が効かない』

     『定期的に服用し続ける必要があり、やめると死に至る』

 

 おじい様は迷わず回復薬を夫婦に、自分に『強制延命薬』を使用しました。

 

「私はあの時から死に掛けたままだ。本当は夕映達が成人するまで持たせたかったけど、もう限界でね。これ以上『強制延命薬』を服用しても効果は殆どない。妻を待たせるのもそろそろやめようかと思ったんだ」

「………そういう事か」

 

 事情を話しすっきりした顔のおじい様と納得している学園長。学園長も奥さんに先立たれていますから、思う所があるのかもしれません。

 

「それで? 話はそれだけでは無いのだろう?」

「ああ、二人には夕映とのどか君の事を頼みたくてね。まぁ、必要無いかもだけど」

「当然だな。言われずとも私は二人を手放す気は無いぞ」

「あとの事は儂らに任せておけ」

 

 頼みを引き受ける二人を見て満足そうに頷いたおじい様が、今度は私達に話しかけました。

 

「夕映、のどか君」

「「はい」です」

「二人のおかげでなかなか楽しい余生を過ごせた。ありがとう」

「いえ、私達もおじい様にはお世話になりっぱなしで」

「私がゆえと一緒にいられるのも泰造さんのおかげです」

「「今まで、ありがとうございました」」

 

 今までの感謝を込めて二人でお礼を言う私達。そんな私達を見て嬉しそうに頷いたおじい様は、布団の上に横になりました。

 

「さて、薬の効…果も切れて…きた。皆、さよなら…だ」

「うむ。さらばじゃ、泰造」

「じゃあな、泰造」

「さよならです、おじい様」

「さようなら、泰造さん…」

 

 だんだん反応が鈍くなっていきます。しかし最後にと言わんばかりに口を開くおじい様。

 

「…なあ、近右衛門…」

「なんじゃ、泰造」

「…………三人の孫に看取られて逝くのは、いいものだ!!!」クワッ!! ガクッ

「オイ待てコラッ!? どさくさ紛れに私を孫扱いか貴様ッ!?」

「……………………」チーン

 

 実に満足そうな死に顔です。呆れるくらいに『やり切った顔』してます。

 

「最後の最後でやり逃げか!? 本当にいい根性してるなコイツはッ!!」

「フォッフォッフォ、泰造らしいのぅ」

「ハァ………おじい様ぁ…」

「アハハ………」

 

 悔しがるエヴァさん。

 笑う学園長。

 やらかしたおじい様に頭が痛い私。

 苦笑するのどか。

 

 こうして涙など全く無く、私達はおじい様とお別れしました。

 

 

 * * * *

 

 

 その後、表向きは学園長が保護責任者になり、私とのどかはエヴァさんの家に住む事にしました。おじい様の家は私が遺産として中身ごと受け継ぎ、ダイオラマ魔法球に収納してエヴァさんの地下室に置かせてもらっています。調合済みの『魔薬』とか実験器具や貴重な素材とかもあり、そのまま置いておくのは危ないので。

 

―――コンコン

 

 ベッドで仰向けに寝転がってボーっとしていると、ノックの音が聞こえてきたです。

 おや? 誰でしょう?

 

「夕映、入るぞ」

 

 こちらの返事を待たずに入って来たのは、赤い液体の入ったコップ付きのガラスの水差しを持ったエヴァさんでした。寝転がっている私を見て呆れ顔で近付いて来ます。

 

「まるで浜辺で転がってるセイウチだな」

「どこかの吸血鬼さんが遠慮無く吸ってくれた所為なんですが?」

「あー、まあ何だ。……すまん」

「もうちょっと手加減してもらえませんか?」

「善処はする。それよりコレを飲め」

「? 何ですかこれ?」

「増血剤だ。少しはマシになるだろ」

 

 身体を起こし、渡されたコップに注がれた液体を素直に呑みます。…………うん、不味いです。

 

「……酷い味です」

「良薬口に苦し、だ。ほら、まだしばらくは横になっていろ」

 

 そう言いながらベッドに座ったエヴァさんは、自分の膝に私の頭を乗せたです。もしかして、心配して来てくれたですか?

 

「………………」ナデナデ

「…………んゅ」

 

 頭撫でられてます。髪が指に絡まない様ゆっくりとした優しい指使いに、思わず目を閉じて堪能してしまいます。

 んー、気持ちいいです。

 気持ち良さに閉じていた瞼を開くと優しい笑みを浮かべたエヴァさんが見えるです。その笑顔を見ていると、また大浴場でののどかの言葉が浮かんできて、私はエヴァさんに問い掛けていました。

 

「……エヴァさん」

「ん?」

「エヴァさんは私の事、好きですか?」

「ブフッ!?……………………な、何だ唐突に?」

「のどかから聞きました。以前『夕映を私の物にする』と宣戦布告されたと。あと『先ずは愛人枠だ』とも言ってたとか」

「あ~、んー。まあ、その、何だ。……確かに言ったな」

「いつ頃から私の事を?」

「そう、だな。いつから、か…………」

 

 顔を赤くして視線を逸らしながら、指に髪をクルクル巻きつけてます。思ってた以上に可愛いリアクションが返ってきたですね。

 しばらく視線を彷徨わせていたエヴァさんは、意を決した様に話し始めました。

 

「最初は、悪の魔法使いで吸血鬼な私に、契約を持ちかけて来る様な馬鹿への興味が大半だった。

 しばらく行動を共にして、お前達が人外に対して偏見や嫌悪感を一切持っていない事に気付き、さらに興味を持った。

 お前達と一緒に、普通の娘の様に街で遊びまわるのが、自分でも呆れるほど面白かった。

 偶然、お前達がキスしている所に出くわした時は、驚きと共に胸が少し痛むのを感じた。

 イチャつくお前達にチョッカイを掛けるのは、思いのほか楽しかった」

 

 私の頭を撫でながら、今までを思い返すように話すエヴァさん。その顔は少し恥ずかし気ながらも楽しそうです。

 

「いつの頃からか、のどかが夕映に寄り添っているのを見て、私もしてみたいと思う様になった。

 お前達がイチャついているのを見かける度に、心がモヤモヤする様になった。

 夕映を吸血する時、今まで誰にも感じる事が無かった興奮を感じる様になった。

 いつの間にか、夕映の事を心底求めている自分に気付いた。

 自分が女に惚れる日が来るとは思いもしなかったが。

 

 そして、私はのどかに宣戦布告した」

 

 こちらを見下ろしたエヴァさんが、私の頬を撫でながら言いました。

 

「夕映。

 私はお前が、綾瀬夕映が好きだ。

 私は、お前が欲しい」

 

 あぁ。今、私は心底嬉しいと思っています。

 彼女に好きだと、欲しいと言われて喜んでいると自覚出来るです。

 

 真剣に見詰めてくる彼女に答える為に、私はエヴァさんの正面に座り直し見詰め返します。

 そして、彼女の手を握り正直な気持ちを伝えました。

 

「エヴァさん。

 私も、貴女が好きです。

 恋人がいる身でありながら、貴女を好きになってしまいました。

 

 のどかと別れる様な事は絶対に出来ません。

 けれど、貴女と離れたくないと思っている自分もいるです。

 悩みました。

 悩んで悩んで、考えて考えて。

 

 私は、考えるのをやめました」

 

「―――――は?」

 

 エヴァさん絶句。まぁそうですよね。

 

「私はのどかが好き。

 私はエヴァさんも好き。

 どちらか一人を選ぶ事は出来ず、どちらも手放したくない。

 いくら考えても、この想いは変わりませんでした。

 

 であるならば、もう開き直る事にしました。

 欲張りになる事にしました。

 人として最低な事を言っているのは自覚しています。

 私はダメ人間なのでしょう。

 それでも、私は二人が好きです。

 二人と、ずっと一緒にいたい。

 

 こんなダメな私です。

 どうしようもないアホです。

 今のを聞いて、それでも私を好きという気持ちが変わらないのなら。

 

 エヴァさん、私の恋人になってくれませんか?」

 

 言いました。言ってしまいました。もう後には引けません。

 私は大人しくエヴァさんの返事を待ちました。

 

「フッ、クククッ。

 この私を相手に堂々と二股宣言とはな……。

 まあいいだろう、夕映。

 そんなに言うなら、お前の恋人になってやろう。

 

 だが、覚悟しておけ?

 私は、お前を手に入れる事を諦めた訳ではないぞ?」

「はいです。これからもよろしくお願いしますね?」

「うむ」

 

 無事、受け入れてもらえました。ぶっちゃけ、怒られたり軽蔑されるかもって思ってたのですが。

 これで私達は恋人同士になった訳ですね。のどかにも報告しないと。

 

「ところで夕映」

「はい?」

「既成事実とは良い言葉だと思わないか?」

「え? うにゃ!?」

 

 エヴァさんに声をかけられたと思ったら、ベッドの上に倒れてました。しかも、身体が動きません。

 これは………………糸!?

 

「エヴァさん!? なにを!?」

「いやなに。私はのどかより随分出遅れているだろう?

 はれて恋人同士になった訳だし、ここは既成事実の一つでも作ってしまおうかと」

 

 なんて事を言い出すエヴァさん。いきなり過ぎやしませんか!?

 うわぁ、私の上に乗って舌なめずりしてるです。

 

「なに、私もスるのは初めてだが何とかなるだろう。伊達に長生きしとらん」

「あわわわ!?」

 

 あ、この人マジです。

 いえね? 別に嫌な訳ではないんですよ?

 ただこう、心の準備と言いますか。まだ、のどかともシてないのに、と言いますか。

 

 そんな私を他所に、食前の挨拶のポーズをとるエヴァさん。

 

「それでは、いただきm「そうは問屋が卸しませんっ!!」―ぬ?」

 

 クローゼットがズバンッ!と開き、中からのどかが飛び出して来ました。

 ………………………………えぇー。

 

「ようやく出て来たな、のどか」

「気付いてたんですか?」

「最初は分からんかったがな」

 

 何事も無かった様に普通に話し出す二人。

 なんでクローゼットの中にいたのか、気にしてるのは私だけですか?

 

「それよりズルイです、エヴァさん!

 二人の決着がつくまでゆえと初めてをスるの、ずっと我慢してたんですよ!?」

「そんな事は知らん。というか、お前達がまだシてなかった事に驚きだ」

 

 そんな、スるシてない、と大きい声で言わないでください。恥ずかしいです。

 しばらく話し合っていた二人ですが、どうにも折り合いがつかない様です。

 

「平行線だな」

「ですね」

「なら選択肢は一つか」

「ソレしかないですね」

 

 頷き合う二人はそのまま服を脱ぎ始め…………って!?

 

「なんでいきなり脱ぎ出してるですか!?」

「なんでって、そりゃお前」

「三人でスるからだよ?」

 

 何言ってるの?みたいに言われたです。もう決定事項ですか?

 

「安心しろ、夕映。女の身体の扱い方は、女が一番よく知っているものだ」

「いっぱい優しくするからね」

 

 ちょっとま、あっ、ダメですそんな、ひうっ!? そんな所舐めないでください!?

 ああっ、そこはダメって、んんっ、あ、はうっ!?

 

「ククッ、今夜は寝かさんぞ?」

「たくさん気持ちよくなろうね、ゆえ♪」

 

 ッア―――――!!

 

 

 

 

 この日、いつもとあまり変わらないノリに流されながらも、私は二人の恋人と結ばれ乙女から女になりました。

 

 ああ、太陽が黄色いです……。




急に三人をくっつけたくなり、こうなりました。

あっ、一応言っておきますけど、チャチャゼロはハーレム要員じゃありませんよ?

迷いましたけどね、好きなキャラですし。

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