夕映物語   作:野良犬

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大変長らくお待たせしました。
野良犬、復活でございます。

前回の更新から約半年。
自分でもビビる遅筆さです。

次話はさすがにここまで遅くはならない……といいなぁ。

魔法や技の名前を『』から【】に変更しました。

では、いつもの様に生暖かい目で読んでやってください。


アホな騒ぎは遠くから眺めるのが一番です……無理ですが。 by夕映

 ネギ先生が麻帆良に来てから五日が経ちました。

 一先ず今までの事を思い返してみるです。

 

 違法魔法薬散布事件が起きた夜、寮の大浴場で何やら一騒動あったようです。

 木乃香達の話だと委員長さんにネギ先生が明日菜さん達の部屋へ居候する件がバレ「公正な審査をするべきですわ!」という委員長さんの癇しゃk……もとい主張の下「『母性的で包容力がある人 = 胸が一番大きい人』がネギ先生を貰う権利を得る」という乳比べ大会をしたとか。

 

 ………那波さんで決まりですよねソレ。

 彼女は中学生にしてバスト94cmを誇る脅威(胸囲)の持ち主です。

 その上、普段からボランティアで保育園の保母さんをしているので子供の世話も上手。

 あの人以上の母性の塊なんて麻帆良広しと言えど、しずな先生くらいのものですし。

 

 ですが権利を勝ち取ったのは明日菜さん。目測でHカップはあったそうです。

 

 ………その時点で何かがおかしいと疑問を持って欲しい、そう思ってしまうのは私の贅沢な望みなんでしょうか?

 

 結局ネギ先生が居候する部屋が変わる事は無かったそうですが、明日菜さんがトイレに引きこもってしまい結構困ったらしいです。

 

 ………まあ、十中八九ネギ先生が魔法で何かしたんでしょうねぇ。

 

 麻帆良学園学生寮はネギ先生以外にも複数の魔法生徒や魔法的素質のある人が暮らしている場所の1つ。元々、若くて健康な純潔の少女というのは生贄や寄り代等、色々な理由で狙われやすいものです。そこに魔法的素質が加われば、人体実験の材料や優秀な次世代を産み出す為の母体等の価値が付加され、さらに狙われやすくなるです。それ等を阻止する為に寮は建物自体の強度も然る事ながら魔法的な防備でも麻帆良内でトップクラスのモノになっているです。なので魔法に対する認識阻害も他の場所よりも強力なモノが施されているので、多少の事では魔法バレの心配は無いでしょう。寮には管理人さん(HIYOKOエプロンと竹箒が標準装備の未亡人魔法使い)もいる事ですし。寮に施されている認識阻害は千雨さんのような強力な認識力持ちや既に魔法を知っている人には効きませんが、そのあたりは管理人さんの管轄。彼女なら上手くフォローしてくれているでしょう。

 

 というか、以前の世界でこんな一種の防衛拠点みたいな建物に平然と侵入してきていたカモさんの変態さ加減を再認識し、呆れを通り越して感心すらしてしまいそうです。悪い意味で。

 

 

 

 

 

 

 翌日、登校して来たハルナが「変な夢見た」と笑いながら言っていました。植え付けた認識は上手く定着出来たようです。ただ、そのあと彼女がポツリと呟いた言葉。

 

「私、ショタコンかもしれない」

 

 この言葉を聞いた瞬間、飲んでた『皮ごとバナナはまぐりオレ』を噴きそうになりました。

 これ、私の所為なんですかね? それとも本当に?

 

 ハルナの言葉を聞いた私は1つの仮説に思い至りました。

 以前の世界では結局よく判らなかったハルナの男性に対する好みのタイプ。いつもテンション高く賑やかしているだけで、基本的に私やのどかの背中を(強引に)押して発生した状況を楽しむスタンスを崩しませんでした。ですがハルナがそうしたスタンスを崩さなかった理由に『私達に遠慮した』というモノがあったとしたら? ネギ先生への好意を「夕映達と取り合うほど強い想いじゃない」という理由で早々に見切りをつけて吹っ切ったのだとしたら? この世界では私とのどかが恋人関係である事から身を引く必要が無いが故の先の言葉なのだとしたら?

 

 真相はもはや確認のしようもありませんが、もし今後ハルナが本気でネギ先生に好意を寄せる事があるのであれば、私はかつて彼女がしてくれた様に協力する事も吝かではありません。決して以前の世界で散々からかってくれやがった仕返しがしたい訳ではありません。ええ、決して。

 

 まあ、アグレッシブな彼女には必要無いかもしれませんが。

 

 

 

 

 

 

 その日の放課後、ネギ先生はやらかしてくれたようです。

 授業は特に問題無く(こな)したネギ先生はその日の放課後にタカミチ先生から貰った『2-A居残りさんリスト』に記載されている馬鹿四天王の4人、最近では『バカルテット』と呼ばれている4人を集めて小テストを行ったです。

 

 まき絵さん・クーフェさん・楓さんの3人は、比較的早く合格点の10点満点の6点以上を取れたので帰宅。教室に残っているのは明日菜さんとネギ先生の2人だけになりました。

 

 明日菜さんを励ましながら丁寧に教えるネギ先生。

 点が思うように取れず少しづつ焦りだす明日菜さん。

 

 ですが何度目かのやり直し小テストの採点が終わるも結果は芳しくなく、明日菜さんはついに机に突っ伏して諦めかけてしまいます。ネギ先生も今まで以上に彼女を励ましたです。

 

 そんなある種の緊張状態だったこの瞬間にタカミチ先生登場。

 

 この時のタカミチ先生にも特に悪気は無く、ただ純粋にネギ先生とバカルテットが上手くやれているのか気になっただけなのでしょう。ですが私はこう言いたい。

 

 この人、間が悪過ぎる。

 

 今まではタカミチ先生と一緒にいられるが故に居残りでも然程気にせずにいられた明日菜さんですが、今はタカミチ先生に駄目な自分を知られてしまう事に危機感を覚えています。たとえ相手が元担任で今更取り繕っても手遅れだとしても。恋する乙女は視野狭窄とはよく言ったものです。言いませんか? まあいいです。

 

 で、そんな状態の明日菜さんはタカミチ先生がいなくなった直後に小テストの束を持って逃亡。敷地内を全速力で駆け巡りました。それを慌てて追いかけるネギ先生。そこまではいいんですけどね?

 

 

 何 故 飛 ぶ で す か

 

 

 結構遅い時間の女子校エリア内とはいえ、部活帰りの生徒や教職員の類はまだまだいるというのに。走って追いかけろと言いたい。

 

 念話で話を聞いた瞬間飲んでたお茶噴いたです。

 一緒に寛いでいたのどかとエヴァさんに不思議そうな顔されました。

 

 何でこう何か飲んでいる時にピンポイントでやらかすですかね? あの子供先生は。これからも私はネギ先生関係で噴く事になるのでしょうか?

 

 本気で勘弁して欲しいのですが。

 

 まあ、その後ネギ先生達はきちんと和解?をしたようで、二人で寮に戻っていったそうですが。

 

 何故その場にいなかった私が事の顛末を知っているのか、ですか?

 対応した方達から報告を受けたからです。

 

 麻帆良に限った話ではありませんが、旧世界で魔法使いが一定以上の集団となり活動拠点を持つ場合、必ず情報操作を行う専門の組織・機関を作らなければいけないと言う決まりがあります。理由は単純、あらゆる面での魔法の秘匿を円滑に行う為です。麻帆良で言えば裕奈さんのお父様である明石教授が率いる情報統括部がそれに当たります。そして情報統括部の下部組織として様々な集団にカモフラージュした実働班があり、この一件は彼等が担当しました。私達も四六時中ネギ先生に張り付いている訳ではないので。

 

 カモフラージュした実働班は多岐に渡ります。

 例えば麻帆良の文化部160個の内、二割が隠れて活動している魔法関係の部だったり。

 例えば麻帆大の『世界樹をこよなく愛する会』のようなサークルとして表向きは活動していたり。

 例えば広域指導員の大半が魔法先生だったり。

 例えば街中には店舗や事務所に偽装した魔法的な拠点が複数あったり。

 それ等が有事の際に連係して秘匿作業に従事する訳です。

 

 この一件の場合『今年の麻帆良祭中に行われるイベントに向けた新技術の実験の一環』という事で処理されました。とはいえ、人を使ってイベントの告知をしただけなんですけど。魔法による情報操作なしでも、この言い訳に納得してくれる麻帆良市民は実にやり易い相手です。魔法使い的に。

 

 

 

 

 

 

 さらに翌日、しずな先生から昨日の放課後の一件についてネギ先生に注意して貰いました。厳重注意ではないので学園長からのお説教はありません。2日目の授業の一件や違法魔法薬散布事件に続いて注意され、自身の失態にネギ先生は大層落ち込んでいたようです。しかし、しずな先生の慰めと励ましでやる気を取り戻し、それ以降は彼女の教えに対して驚異的な学習能力を発揮。今日に至るまでの間、授業を難なく(こな)していました。

 

 それにしても、しずな先生の落として上げる飴と鞭の使い分けの巧さは一体どこで学んだのでしょう? 随分と手慣れていましたし、身近に世話の焼ける人でもいるのかもしれませんね。顎ひげメガネ的な人が。

 

 しかし、やれば出来るんですよね、ネギ先生は。ただ、現段階では知らない事が多いだけで。教えればすぐに覚えられるですし。あとは魔法への秘匿意識がマシになってくれれば言う事無しなんですが、その辺は追々ですかね。

 

「ゆえ~、そろそろ帰って来て~」

 

 ちょっと深めの考察に耽っていたら、のどかに呼ばれてしまいました。

 別に現実逃避していた訳ではありません。

 急に今までの状況確認をしたくなっただけなのです。

 

「だから違うのですよ? のどか」

「うん、それはいいから」

 

 のどかに急かされ意識を目の前に向けます。

 

 そこで行われていたのは、うら若き乙女達によるキャットファイト。対戦カードは麻帆良学園本校女子中等学校2-A vs 麻帆良学園聖ウルスラ女子高等学校2-D。会場は中等部校舎の屋上。お代はタダ。ただし授業中につき教室からの脱出と会場までの移動は自己責任です。

 

 ……この人達、何やってるんでしょうか?

 自習だからってわざわざ中等部の校舎まで来て。

 

「構って欲しいんじゃないかな?」

「阿呆だからだろう?」

「マスター、もう少し歯に衣を着せた方がよろしいかと」

「ハッ、そういう言葉が口に出るという事はお前も内心そう思っているのだろう? 茶々丸」

「私のログには何もありません」

 

 3人の意見が割とヒドイです。そして3人の声が聞こえたのか、何やら噛ませ臭を漂わせている黒髪のリーダーっぽい人がこちらをキッ!っと一睨み。

 

 おお、コワイコワイ。

 乙女にあるまじき眼光ですよ?

 

 そうこうしていると、女子高生に捕まっていたネギ先生が小規模の暴走くしゃみで仲裁。お互いの確執にスポーツで決着をつけさせるつもりのようで、両クラス対抗の勝負を提案していたです。

 

 ……今の暴走くしゃみの影響でネギ先生の立っていた場所が若干割れたんですが。

 女子高生側は制服姿のため、突風でパンツ丸出し状態ですし。

 まあ、結果的にとはいえ諍いを止める切っ掛けになってますし、不可抗力という事で不問としますか。

 

 しかしリーダーさん、黒のスケスケ紐パンですか……。

 思わぬ所で同好の士を発見です。

 

「ゆえとお揃いだね」

「ヤツも全部脱がないと出来ない人種か?」

「撮影成功。上手に撮れました」

 

 うるさいですよ外野。

 私のはスケスケじゃありません。

 脱ぐ脱がないは個人の自由です。

 あと茶々丸さん、自重。

 そんなの撮ってどうするですか?

 

「一定の年齢層の女性達が身に着ける下着類の傾向調査に対する参考資料です。サンプルは多いに越したことはないので」

 

 どうしましょう。

 最近、茶々丸さんの言ってる事が割と理解できません。

 言葉は確かに日本語のはずなんですが。

 彼女はどこへ向かっているのでしょうか?

 

 それはともかく、ネギ先生の提案は咄嗟に思い付いたにしては悪くない案だと思うです。

 お互いに鬱憤が溜まっているようですから、適度なガス抜きに丁度良いでしょう。

 もっともネギ先生がぶつぶつ呟いているような『夕日をバックに友情が芽生える』なんて展開は起きないでしょうけど。

 

 フム、どうやら話が纏まりつつあるようですね。

 

「そんな事言ったって年齢も体格も全然違うじゃん!」

「ふん、確かにバレーじゃ話にならないかしら」

 

 授業内容のバレーではこちら側が不利だと亜子さんが指摘してますけど、身体能力であちらを凌駕している人や対等な人、こっちに結構いますよね?

 

 凌駕組は私・のどか・エヴァさん(魔力強化あり)・茶々丸さん・刹那さん・真名さん・楓さん・クーフェさん・超さん・ザジさんの計10名。

 

 対等組は明日菜さん・委員長さん・ハルナ・まき絵さん・アキラさん・裕奈さん・美空さんの計7名。

 

 いや、アキラさんは凌駕組でしょうか?

 あの人、アーティファクトを使った美空さんに一瞬で追い付き、片手でヒト1人を投げ飛ばす腕力の持ち主ですし。

 

 とりあえず……うん、普通に勝てるのでは?

 

 ちなみに身体能力の判断基準は麻帆良における平均的な身体能力値を参考にした推測です。

 外の人達の基準とは異なるので注意が必要になります。

 

 ………私は誰に言ってるんでしょうか?

 

「それじゃあハンデをあげるわ。種目は……そうね、ドッジボールでどうかしら?」

 

 あれこれ考えていたらリーダーさんが提案をしてきたです。

 

「こっちは11人。そっちは倍の22人出てもいいわよ」

 

 何か企んでそうなドヤ顔でそう言い放つリーダーさん。

 後ろに控えている人達も顔がニヤけているです。

 

 ……これってもしかしなくてもバカにされてますか?

 バカな中学生を嵌めてやろう的な感じで?

 

 ……いくらなんでも引っ掛かりませんよね?

 

 限られたコートの中で行う競技において、人数が多い事が必ずしも有利という訳ではない事ぐらい、ちょっと考えれば誰にでもすぐに分かるはずです。

 

 こんな見え透いた罠に引っ掛かる人がいたら見てみたいもので――

 

「わかっモガッ!?」

「あれ? 明日菜は?」

「さっきまでここにいたよね?」

 

 私はリーダーさんの提案を受けようとしていた明日菜さんの口を塞いで引き摺りつつ、皆の後ろまで気配を隠しながら退避。モガモガ言ってる彼女がおとなしくなるまで抑えておく事にしました。

 

 それにしても……いたですね、引っ掛かった人。

 難しく考えるより直感で行動する明日菜さんらしいと言えばらしいですけど。

 

「ンンー、ンンンン」

 

 幾分か落ち着いた彼女が腕をペシペシ叩いてきました。

 大丈夫そうですし、抑えを解いてあげましょう。

 

「プハッ! (何すんのよ夕映!?)」

 

 ジト目で睨み付けつつも、私の様子を察して小声で叫ぶという器用な事をする明日菜さん。

 察しは悪くないのに搦め手にはすこぶる弱い人ですね。

 

 私は明日菜さんの訴えを受け流しながら、先程まで彼女がいた場所を指差します。そこにはリーダーさんと対峙する委員長さんの姿。

 

「ふっ。女子高生敗れたり、ですわ!」

「な、なんですって!?」

「どーゆー事? いいんちょ」

 

 ズビシッとリーダーさんを指差し、高らかに言い放つ委員長さん。

 指摘され、挙動不審になるリーダーさん。

 委員長さんの言葉に首を傾げる裕奈さんを始めとしたクラスの皆さん。

 

「良いですか皆さん。あちらが提案したこのハンデは一見私達に有利に見えます」

「そーだね。人数多い方が有利じゃん」

「しかし! それはサッカーやバスケの様な競技ならば、ですわ。ドッジボールの様な競技においてはむしろ逆! こちらは人数の多さ故にコートが狭まり動きに制限が掛かるのに加え、あちらにとっては動きの鈍い当てやすい的が増えるという事に他なりません!」

「「「「「ナ、ナンダッテーーーー!?!?」」」」」

 

 自分達が嵌りそうだった相手の罠に驚愕の声を上げる皆さん。

 実にノリがいいです。

 

「本来であればこの罠に掛かり窮地に陥ったやもしれません。 で す が !」

 

 腰に手を当て、髪をファサリと払ってポーズを決める委員長さん。

 

「この"雪広 あやか"の目の黒いうちは、この様な浅はかな計略など通じないと知りなさいっ!!」

「おおっ!」

「いいんちょさすが!」

「ナイス委員長!」

「オーホッホッホ!」

 

 相手の計略を見破り、暴いた事でクラスの皆のテンションが昂ぶっています。委員長さんはいつも通り、花を背負ってお嬢様笑い。

 

 花束をセットしているメイドさん、お疲れ様です。

 

「フ、フンッ! 少しは頭が回るみたいじゃない」

「ま、まあ? これくらいは見抜いてもらわないと相手にならないって言うか?」

「そう! あえて試した訳よ、あえて!」

 

 あちらの動揺具合がヒドイ。

 自分達の策が見破られた場合の事を想定していなかったのが手に取るように分かるです。

 

 そんな彼女達の様子を一通り見終えた後、隣で私と同じように見ていた明日菜さんに目を向けました。私が見ている事に気付いた彼女はバツが悪そうに目を逸らしたです。

 

 ジーっと彼女を見つめる私。

 目を逸らし続ける明日菜さん。

 微動だにしない私。

 冷や汗をかき始める明日菜さん。

 どこぞの物騒なピンクの探偵ウサギのような目で彼女を見る私。

 大量の冷や汗をかきながらソワソワと落ち着きが無くなる明日菜さん。

 

 しばらくそうしていると、とうとう観念したのか不貞腐れるように口を開きました。

 

「……………悪かったわよぅ」

「分かって頂けたようでなによりです」

 

 ようやく自分が陥りかけていた状況を認める事が出来たようです。

 

「と、とにかく! 委員長ばっかりに任せてらんないわ。行くわよ夕映!」

「え?」

 

 先程の失態を取り戻そうとしているであろう彼女に引っ張られる。

 

「あの、明日菜さん? 私は見学を……」

「何言ってんのよ。夕映は貴重な戦力の1人なんだから参加に決まってんでしょーが」

 

 彼女の中では私の参加は確定事項らしいです。抵抗空しくズルズル引き摺られる私は、一縷の望みをかけてのどか達に目を向けました。

 

「頑張ってねー」

「骨は拾ってやるぞ」

「最高画質で勇姿を撮ってみせます」

「薄情者ー!」

 

 3人揃って親指立ててやがったのです。

 うう…………アホな騒ぎは遠巻きに眺めてお茶を濁したいというのに。

 

 そんな私の思惑はまるっと無視され、とうとう諍いの中心まで引っ張り出されてしまいました。そして、なんとか体裁を取り繕ったリーダーさんが近づいてきた明日菜さんと私に気付き、声をかけてきたです。

 

「あら、神楽坂 明日菜。姿が見えないと思ったら、そんな小さい子を連れてきてどうするつもりかしら? もしかして、勝負に参加させるの? 冗談は止して欲しいわね。お遊戯がしたいんだったら余所でしてくれない? 貴女も足手纏いになんてなりたくはないでしょう? ねえ、お・チ・ビ・さん♪」

「「あ」」

 

―――――ほう。

 

「明日菜さん、委員長さん」

「「はいっ!!」」

「気が変わりました。この対決、私が指揮を執っても?」

「え、ええ。構いませんわ」

「アイツ、夕映の地雷踏み抜いたわね」

 

 ふふふ、目に物見せてやるDEATH。

 私を『目に見えないくらいの豆つぶドちび』と言った事、後悔するがいいのDEATHよ。

 

 あとでこの時の事を思い返してみれば、自分達の崩された策の代わりに少しでも有利な状況にしようと思って挑発してきたのでしょうね。それが自分達の敗北を決定付けるモノになるとは知らずに。あの余計な挑発をしなければ、あるいは彼女達が勝利する可能性が無きにしも非ずだったというのに。徹頭徹尾自業自得ですが。

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

「キレたな」

「キレたね」

「お怒りですね」

 

 率先して指揮を執り始めたゆえを見て呟く私達。薄暗いオーラを滲ませながら嗤っている彼女の様子から、おそらくは身長の事で何か言われたのだろうと察した。

 

「しかし何でアイツはあんなにキレてるんだ? 気持ちは分かるが今はもう(・・・・)気にする必要は無いだろうに」

「あはは。ゆえのアレって殆ど条件反射なんだよね。こっちに来るまで散々からかわれてたから」

 

 大体ハルナの所為。

 この一言で済むんだから、以前の世界でどれだけ弄られてたか分かるというもの。

 それに十中八九、言われた言葉より酷く脳内変換してるだろうし。

 正直、手の施しようが無いから諦めた。

 

 ゆえがいいんちょさんとアスナさんを連れて戻ってきた。

 参加メンバーを決めるみたい。

 

「さて、では誰が出るのか、ですが」

「はいっ! 私は出るわよ!」

「私もですわ。このまま引き下がれませんもの」

「私も! 元々の原因は私達だし」

「頑張るよ」

「では私、明日菜さん、委員長さん、裕奈さん、アキラさんの5人は確定、と」

 

 ゆえは周囲を見渡した。他の参加メンバーに目星を付けたらしい。

 

「木乃香、刹那さん」

「はいな~」

「えっと……良いのでしょうか?」

「構いません。私が許します」

「良いのかなぁ……」

 

 参加に渋る刹那さん。

 戦力過剰になるのを気にしてるみたい。

 

「ふむ、木乃香」

「せっちゃん。ウチ、せっちゃんと一緒に参加したいな~」

「う……」

「…………あかん?」

「出ます(0.02秒)」

 

 木乃香の『お願い』で即陥落。

 チョロい、チョロ過ぎだよ刹那さん。

 ゆえと木乃香が刹那さんの見えない所でサムズアップしてるよ。

 

「真名さん」

「私か」

 

 真名さんを選ぶとか。

 ゆえの本気具合が窺える。

 

「まあ、程々に頑張るさ」

「………」ピラッ

「……!」

 

 あ、ゆえが真名さんに何か見せてる。

 

「成功報酬です」

「了解だ。報酬分の仕事をしよう」

「契約成立ですね」

 

 雇った。

 依頼扱いで雇ってるよ。

 どんだけ本気なの、ゆえ。

 

「クーフェさん、楓さん」

「勝負するアル」

「ニンニン」

 

 即答で自分達の参加条件を提示する2人。

 以前から戦いたがってたもんね。

 ゆえは「テストで400位以上になれたら」って逃げてたけど。

 ここぞとばかりに要求してきたね。

 

「………1回だけですよ?」

「本当アルか! 約束アルよ!?」

「その代わり、分かりますね?」

「任せるでござるよ」

「全力でやるアル!」

 

 念願の勝負の約束に気合いを入れる2人。

 高校生側が不憫に思えてきた。

 

「超さん」

「私ネ」

 

 見つめ合う2人。

 

「アレ? 私には何もなしネ?」

「え? 必要ですか?」

「扱いが酷くないカナ!?」

「………研究室最奥のパソコン」

「 」びくっ

「リプレイ動画集」

「ハッハッハ! 大船に乗ったつもりで私に任せると良いヨ!」

 

 なんだろう、今の?

 ゆえってば超さんの弱みでも握ってるのかな?

 なんかハカセさんも頬を赤く染めながら視線を逸らしてるんだけど。

 

 こうして参加メンバーは決まった。

 

◇2-Aチーム

 綾瀬 夕映

 神楽坂 明日菜

 雪広 あやか

 明石 裕奈

 大河内 アキラ

 近衛 木乃香

 桜咲 刹那

 龍宮 真名

 古菲

 長瀬 楓

 超 鈴音

 

 こ れ は ヒ ド イ

 

 11人中8人が自覚の無い人を含めて魔法関係者。

 関係者じゃない人も運動能力が高い人しかいない。

 高校生側の勝利は絶望的としか言いようがなかった。

 

 

 

 

 

 

 対決の結果は予想通り。

 11対0で2-Aの圧勝。

 

 飛び交うボール。

 吹き飛ぶ女子高生。

 響く歓声と悲鳴。

 

 酷かった。

 

 高校生側も必死に対抗していたんだけどねぇ。

 

 対決開始直後、アスナさんが全力投球したボールを片手で受け止めたリーダー格の英子さん。余裕そうな顔だったけど、右手を痛そうに振ってるのが見えた。そのあと自分達の正体を明かす彼女達。曰く、ドッジボール関東大会優勝チーム 麻帆良ドッジ部『黒百合』である、と。

 

 もしかしたら、アレはこちらを威圧するつもりの行為だったのかもしれない。

 

 制服を脱ぎ捨て、下に着ていたお揃いのユニフォームを見せ付ける姿。

 見学していた高校生側の人が撒く紙吹雪。

 その紙吹雪の中で高らかに行われた名乗り。

 

 でも、私はソレを見て思ってしまった。

 

 なんという仕込み能力。

 なんというサービス精神。

 これでネタさえ面白ければ、と。

 

 ちなみにクラスの何人かには受けてた。

 笑いのツボって人それぞれだよね。

 

 そんな私達の態度が気に入らなかったのか「ナマイキな子ザル達だわ!」と憤慨しながら反撃してきた。太陽を背にして投げる【太陽拳】や、三角形の軌跡でターゲットを囲み隙を突いて当てる【トライアングルアタック】などで対抗した高校生側だったけど、その全てを避けられ、かわされ、防がれてしまった。そこから先は2-Aチームの猛反撃。

 

 アスナさんといいんちょさんの息の合った連携投球。

 頭上から【ダンクシュート】を打つ裕奈さん。

 【剛力シュート】(ハルナ命名)で相手を吹き飛ばすアキラさん。

 木乃香の応援を受けて三面六臂の活躍をする刹那さん。

 魔眼を使い隙あらば即当てにいく真名さん。

 圧倒的身体能力で相手を翻弄する楓さん。

 【チャイナダブルアタック】で撃破する古菲さんと超さん。

 そして4種類の変化球を駆使するゆえ。

 

 オーバースローで回転を与えるように手首を上から下に巻き込むように意識して投げる【ドロップ】

 オーバースローでバック回転を与えるように親指以外の指先を使い上から下に引っかくように投げる【アップ】

 サイドスローで時計方向へ回転を効かせ、ボールを手前に引っかくように親指以外の指先を使って投げる【シュート】

 サイドスローで反時計方向への回転を効かせ、右から左へ手首を巻き込むようにして投げる【カーブ】

 

 どれも一般的な変化球と言われているモノだけど、ゆえの身体能力で投げられてるものだからボールの回転速度が酷い事になってた。当たったら弾かれる。掴んでも弾かれる。どうしようもない。

 

 そんな猛攻に耐えられず、高校生側は抵抗空しく敗北したのだった。

 

 そこまでは良かったんだけどね。

 

 試合終了後、英子さんがあちら側に背を向けていたアスナさんにボールを投げた。間一髪、瞬動で間に入りボールを止めたゆえ。

 

「大丈夫ですか? 明日菜さん」

「あ、うん」

 

 でも、ゆえの顔にはさっきまでとは別種の怒りの感情が見て取れた。

 

「………」

「な、なによ」

 

 振り返り、ジッと相手を見つめるゆえ。

 うろたえる英子さん。

 

「……少し、”おはなし”が必要なようですね?」

「ちょ!? どこに連れて行く気よ!?」

「いいから、ついて来て下さい」

「う……」

 

 抵抗しようとする彼女を有無を言わさず連れて行くゆえ。その様子にほとんどの人達は呆然と見送る事しか出来ず、授業終了のチャイムと共にそれぞれの教室へと帰っていった。

 

 

 

 

 

―――放課後―――

 

「さ、ここですよ」

「………」

「な、何しに来たのよアンタ!」

 

 あれから姿が見えなかったゆえが英子さんを連れて帰って来た。彼女の姿を見て警戒するアスナさん。けれど英子さんはそんなアスナさんに構わず、視線を逸らしながら口を開いた。

 

「…………さっきは悪かったわね」

「へ?」

「英子さん」

「………ごめんなさい」

 

 最初は不貞腐れたような言い方だったけど、ゆえに一声かけられた途端、不承不承ながらもアスナさんに頭を下げて謝っていた。

 

「はい! これでいいんでしょう!?」

「いいですか? 明日菜さん」

「え、あ、うん。実際にぶつけられた訳じゃないし。もう気にしてないよ」

「じゃ、私は帰るから」

「はい。またです、英子さん」

「フ、フン!」

 

 ちなみにこのやり取りの間、英子さんは帰るまでずっとゆえと手を繋いだままだったりする。

 最後のやり取りの時も、赤面していたのを確認できたし。

 姿が見えなかった間、ゆえが何をしてたのか容易に想像がつくなぁ。

 

「あの……夕映」

「? はい」

「えっとさ……さっきは、その…助けてくれて……アリガト」

「はい、明日菜さんに怪我がなくて良かったです」

「うん、夕映のおかげ」

 

 朗らかに笑い合う2人。

 思いの外順調そうだね。

 色々してきた成果が出たかな。

 勝負後、英子さんがやった一件も結果的には良い影響になったみたいだし。

 

 2人が相思相愛なのは傍から見てれば分かり易い。

 肝心の2人がその事に無自覚だけど。

 

 アスナさんは自分の初恋の相手がタカミチ先生だと思ってる。

 確かに以前の世界ではそうだったかもしれない。

 でも、この世界では違うと言える。

 気付いてないんだろうなー。

 私やエヴァさん、茶々丸さんがゆえと一緒にいると、必ず羨むような目で見てるの。

 

 ゆえはアスナさんを自分の計画に組み込んでいる事に対して負い目を感じてる。

 小さい頃から構っていた事もあって彼女を気にしてるのはソレ等の延長だと思ってる。

 本人はそう割り切ったつもりなんだろうけど。

 割り切れてないのが丸分かり。

 分かるよ、ゆえの事だもん。

 

 ゆえもアスナさんも一体いつ自分の気持ちに気が付くのやら。

 一応、私も動いてはいるんだけどねー。

 

 遅効性の睡眠薬をゆえに盛ってアスナさんの部屋に泊まらせてみたり。

 放課後、アスナさんが覗いてるのを承知で見せ付けるようにゆえとキスしてみたり。

 

 お互いを意識するように仕向けてみたけど、先は長そう。

 それに、この件に関してはエヴァさんの協力は仰げない。

 アスナさんが自分の想いを自覚してくれれば話は別なんだけど。

 とりあえず、まだしばらくの間は様子見かな。

 

 相手の幸せが自分の幸せ。

 使い古された言葉だけどまさにそんな感じ。

 ゆえが幸せになれそうならガンガン取り組んでいくつもり。

 ハーレムだろうとバッチコイだよ。

 

 私がそんな事を考えてるとは知りもしないだろうゆえは、アスナさんと別れてこっちに近づいて来た。

 とりあえず私とエヴァさんは彼女の頬をムニーと左右に引っ張った。

 

「痛いれふ。のどょか、エヴァひゃん。何ひゅるでふか」

「ふーんだ」

「甘んじて受けろ、浮気者め」

 

 自業自得だよ、ゆえ。

 確かにね?

 心からその人の事を好きなら私も受け入れるって言ったよ?

 でもヤキモチも妬くってちゃんと言ったよね。

 あとで英子さんにした事、聞かせてもらうからね?

 

 ”おはなし”と称して何したのかなー? かなカナ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後しばらくの間、中等部のとある教室にちょくちょく顔を見せに来る女子高生が目撃されたらしい。

 なお、その都度とある教室では複数の女生徒に頬を抓られる小柄な少女がいたそうな。




≫未亡人魔法使い。
 音無 ○子似の管理人さん。

≫どこぞの物騒なピンクの探偵ウサギ。
 う○みちゃん、目つき悪っ!

≫真名への報酬。
 『甘味処 麻帆良 あかりや』の、あんみつ無料引換券10枚綴り。

≫研究室最奥のパソコンの中身。
 超やハカセの若気の至り。

≫”おはなし”の内容。
 壁ドンならぬ床ドンからのお説教(R-18)

≫ちょくちょく顔を見せに来る女子高生。
 ハーレム入りはしません。


1巻、終了です!
次回はようやく2巻に突入。
長かったナ~。

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