夕映物語   作:野良犬

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2時間目『ドッキリ図書室危機一髪!?』の夕映視点、完成です。

タグに『他作品の魔法』『残酷な描写』を追加。

やっぱり心理描写はムズイですね。
急激に執筆速度が落ちます。
まさか一行も書けない状態が二週間も続くとは……。

話に違和感を感じる人もいるかもしれませんが、生暖かい目で読んでやってください。


違法魔法薬散布事件・裏

 お弁当を食べ終わった後、私は茶々丸さんに膝枕してもらいながらのどかと一緒にのんびり寝転がっていました。茶々丸さんは手櫛で私の髪を(くしけず)り、のどかは私の胸を枕代わりにして上に折り重なって寝ているです。

 

 別に重くはないので上に乗るのは構いませんが、胸をやわやわと軽く揉み続けるのは止めてくれませんか? 茶々丸さんが撮影してるんですが。

 

「い・や♪」

「私の事はお気になさらず。ここにいるのは茶々丸という名のただの枕です」

 

 見惚れるようないい笑顔で拒否るのどかと事も無げに言い放つ茶々丸さん。

 のどか? その笑顔は出来れば別のシチュエーションで見たかったです。

 茶々丸さん? あえて言わせてください。

 

 貴女のようなただの枕がいるものですか。

 

 2人に内心ツッコミを入れつつ、制服の中に手を入れようとしてくるのどかの手をぺチリと叩いていたら、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴りました。

 それを聞いた私はじゃれ合いに決着がついた2人、四つん這いにさせられて人間椅子になっている明日菜さんと彼女の上に座って勝ち誇っているエヴァさんに教室に戻るよう声をかけます。

 

「エヴァさん、明日菜さん、そろそろ教室戻るですよー」

「む、もうそんな時間か。仕方ないな、このくらいで勘弁してやるか」

「ウギギギギ………」

 

 エヴァさんが明日菜さんのお尻を軽くペシペシ叩きながらそんな事を言ってるです。

 明日菜さんも分かり易いくらいに悔しがっています。

 

「よっ」

「ふぎゅっ!?」

 

 明日菜さんの上から飛び降り、華麗に着地するエヴァさん。

 彼女が飛び降りる際の反動でベシャリと潰れる明日菜さん。

 

「ほら、明日菜さんも立つですよ」

「ううぅぅ…………」

 

 私はそんな明日菜さんの手を引いて起こし、立たせて制服に付いた汚れを叩き落とします。

 明日菜さんはタパーっと滝のような涙を流しつつ、おとなしくされるがままです。

 

「では、戻りましょうか」

「………うん」

 

 コクリと頷く明日菜さんの手を握ったまま、のどか達3人が待っている屋上の入り口へと歩き出します。素直に手を引かれながら歩く彼女を見ていると、転校して来てまだ間もない頃の事を思い出すです。

 

 何事にも無気力で周囲に興味を持たなかった明日菜さん。唯一感情をあらわにしたのが委員長さんと喧嘩する時だけでした。以前の彼女を知っていた私は、たとえ彼女とは別人であると理解していても、いずれ利用するのが確定している相手だと分かっていても、今の彼女を放っておく事が出来なくて、のどかと一緒にいろんな所へ連れ回して遊び回ったです。

 最初は面倒臭そうな顔をしていた明日菜さんですが、時を経るにつれて少しづつ良い反応を見せてくれるようになりました。そこに以前から交友があった委員長さんが加わりその傾向が加速。小2の頃に木乃香が明日菜さんと一緒に暮らすようになってからは更に加速。小4の頃には今のような年相応の快活な少女になっていました。

 連れ回していた影響なのか、手を繋ぐ事を好むようにもなりましたが。ついさっきまで少し不貞腐れていた様子だったのに、今ではすっかりご機嫌になってるです。

 

 そんな明日菜さんと待っていたのどか達を連れて教室に戻った私は、現在午後の授業を受けている真っ最中。正直、中学レベルなら授業内容聞いてなくても問題ないのですが、素行不良のレッテルを貼られるのはマズイので、先生(古典担当)に気付かれないように午前中の授業風景について考えるです。

 

 考えるのは勿論、今話題沸騰中の9歳児。ネギ先生についてです。

 

 今日の一時間目にあった英語の授業。ネギ先生にとって二度目の担当授業は、始めの内はなんの問題も無く順調でした。ですが、誰かに英文を和訳させようと考え、明日菜さんが選ばれてから雲行きが怪しくなっていったです。

 定期的に私達が勉強を教えている為、以前よりは若干成績が良くなっている明日菜さんですが、それでも馬鹿四天王に選ばれてしまっています。ちなみに筆頭はまき絵さんです。

 そんな彼女が急に指定された英文の和訳を行う事が出来るでしょうか?

 

 答えは否。

 

 辞書を片手にじっくり時間をかければ話は別でしょうが、急に当てられた事で焦ってしまった明日菜さんは、いつも以上にしっちゃかめっちゃかな訳し方をしてしまったです。ソレを思わず笑ってしまったネギ先生の一言からクラス内が反応し、明日菜さんを笑い者にする形になってしまいました。そこからはいつもの2-A節が発揮され、授業はまたグダグダの内に終了してしまったのです。

 まあそれは良いんです。いえ、あんまり良くはないですが今は置いとくです。授業が終わった後、職員室に戻ったネギ先生は指導教員であるしずな先生に怒られてるでしょうから。

 

 ん?

 何ですか? エヴァさん。

 教室にいなかったはずのしずな先生が何故ネギ先生の授業内容を知っているのか?ですか。

 

 私が念話で報告したからですが何か?

 

 ふふ、少し絞られると良いですよ。ネギ先生。

 

 あとエヴァさん。

 暇潰しで読心術使わないでください。

 

 さて、それよりも問題なのはネギ先生の代名詞と言っても過言ではないのではないかと私が勝手に思っている『くしゃみによる武装解除の暴走』です。あれは魔力制御が甘いとかいうよりも、もはや呪い的なナニカなんじゃないかと疑いたくなるです。なにせネギ先生が本物クラスの実力者になって暴走回数は減っても治りはしなかった筋金入りですから。ていうか【雷天大壮2】が追加され強化されてしまう始末です。モウイミガワカラナイ………。

 以前の世界でもどれだけの被害があったことか。ネギ先生が悪意や邪な下心で行っている訳ではないのが不幸中の幸いなんでしょうか?

 

 今回の暴走の原因は笑い者にされた事に怒った明日菜さんが傍にいたネギ先生に詰め寄った瞬間、彼女の髪がネギ先生の鼻先を擽ってしまうという事態が発生した事にあるです。実に漫画チックな展開です。実際に目の前で起こると対処に困ります。どうしろと?

 

 ネギ先生を中心として発生した【風花・武装解除】

 幸いな事にくしゃみを媒介にしているおかげなのか、威力の大部分はネギ先生が顔を向けている前方に収束され、周囲への被害はスカートが捲れた程度で済んだです。それはそれでアレですが。

 ですが無効化フィールドをまだ展開出来ない明日菜さんはそれを至近距離でモロに受けてしまい、ブレザー・ベスト・スカートが吹き飛ばされてしまいました。そして下着にワイシャツ一枚と言う扇情的な姿に。

 

 触り心地の良さそうな形の良い白いお尻と健康的な太腿が実に魅力的でした。

 

 いえね? 私も頑張ったんですよ? 

 私の席、明日菜さんの真後ろですから暴走の余波がモロに襲い掛かって来たのを慌てて防いだり。ネギ先生にバレないように注意しながらレジストして明日菜さんのワイシャツだけは守り通したり。私の両隣のハルナや千雨さんに余波が過剰に行かないように障壁を張ったり。木乃香のスカートが捲られた事に対して動き出しそうだった刹那さんを念話で抑えたり。ネギ先生の魔法の暴走を見てレイプ目になったエヴァさんを念話で慰めたり。

 

 ですから思わず誰かにネギ先生の教師振りを事細かに報告してしまったり、少しくらい目の保養をしても許されると思うんです。

 

 だから私は悪くない。

 

 よし、理論武装(言い訳)完了。

 

 その後はボタンやホックが取れてしまい着れなくなった制服の代わりにジャージに着替えた明日菜さんが、凄い目つきでネギ先生にガンをとばしてました。その視線を浴び続けてビクビクしていたネギ先生。

 まあ、自業自得なんですが。

 

 そういえば気になったんですが、ネギ先生って教育学の勉強した事あるんでしょうか? オックスフォードの出というのが捏造したバックグラウンドなのは確かですが。

 

 ………………………ちょっと放課後、学園長に確認した方がいいかもしれませんね。

 

 そんな事を考えつつ、時々ちょっかいをかけてくるエヴァさんの相手を先生にバレないようにしながら、私は退屈な午後の授業を乗り切ったのでした。

 

 

 

 

 

 * * * *

 

 

 

 

 

―――ネギを追って明日菜が出て行った少し後の教室―――

 

「………………………………何ですか、コレ?」

 

 学園長室から戻ってきた私とのどかの目に最初に映ったのは、ピンク色をしたゲル状のナニカに塗れた教室でした。妙に湿気の多い空気に異様に甘い香りが漂っているです。

 

「のどか」

「うん」

 

 私達はすぐさま異空倉庫からフルフェイスタイプの防毒マスクを取り出し装着しました。異臭や空気の違和感に対する対処法を用意しておく事は、魔法薬学を嗜む者として当然の備えです。

 まあ、魔法障壁でレジストする事も出来るですが、多用してネギ先生に気付かれたくないので念の為です。

 

「とりあえず、のどかは教室内を調べてみてください。この状況で誰か残っているのなら救助した方がいいでしょうし。私はこのゲル状の物を調べてみます」

「わかった、何かあったらすぐ呼ぶね?」

「はい」

 

 さて、調査開始です。

 

 私はまず異空倉庫から大きめのビーカーと匙を取り出しゲル状の物を採取しました。採取した感じでは、ローションに近い感触のようです。

 次に採取した物に手のひらサイズの小さな魔法陣を展開して解析魔法をかけます。さすがに専用設備を使った時ほど詳細な成分分析などは出来ませんが、人体にどんな影響があるかぐらいは解るです。

 

 結果は……………。

 

「…………………………はあ?」

 

 媚薬? 媚薬ですかコレ? しかもかなり強力な。

 

 ゲル状のコレ(以降、媚薬と呼ぶ)は揮発性が極めて高く、気化する事で無色で甘い香りがする催淫ガスを発生させます。それを人間(・・)が吸引すれば意識の混濁、思考誘導、軽度の記憶障害、強制的な興奮状態をもたらし擬似的な発情状態になるです。催淫ガスの影響は吸った人間の個人差にもよりますが有効時間は約3時間。ゲル状のまま服用するとさらに効果が倍増するようです。ちなみに純粋な人間の女性にしか効果ありません、この媚薬。半妖や半魔の場合、精々ちょっと身体が火照る程度のようです。

 

 そして、この媚薬に残っていた覚えのあり過ぎる魔力残滓。

 

 ネ~ギ~せ~ん~せ~い~……。

 

 彼は何を思ってコレを作ったですか。

 

 彼自身がそういう事を目的として使う為?

 イヤイヤ、カモさんじゃないんですから。

 

 誰かに頼まれた?

 いえ、この手の魔法薬は危険指定されている魔法薬物全般を扱う為の国家資格『甲種危険魔法薬物取扱者免状』か『乙種危険魔法薬物取扱者免状』を取っていなければ作っただけで違法になる事ぐらい、ネギ先生も知っているはずです。

 私達の場合、私が『甲種』のどかが『乙種』を持っています。

 まだおじい様が存命だった頃に試験を受けて取りました。

 相応の実力と資格修得者の推薦さえあれば、年齢に関係なくこういった資格を取る事が出来るのが魔法関係の良いところです。

 ちなみに『甲種』は第1類~第6類すべての種類の危険魔法薬物の取り扱いが認められ『乙種』は第1類~第6類のうち自分が免状を持っている類の危険魔法薬物の取り扱いが認められます。

 

 ただの事故?

 ………………絶対に無い、と言い切れないのがネギ先生の怖いところですね。

 

 これ以上考えてもわかりませんし、真相の究明は後回しです。

 まずは事態を収拾しますか。

 被害が出ているのが教室内だけなのは不幸中の幸いなんですかね。

 放課後であるおかげで校舎内に人が殆どいないのもありがたいです。

 動き易いにこした事は無いですから。

 

「ゆえー、ちょっとこっち来てー」

 

 これからどう動くか考えていた私に教室内を調べていたのどかが声をかけてきました。

 

「何かありましたか?」

「えーっと、とりあえず教室内に3人いたんだけどね。ほら、あれ」

 

 何故かトンカチを持っているのどかが指し示している方を見てみる。そこには言われた通り3人の女生徒が倒れていた。

 

 1人は誰かの制服一式を掴んで目を回しながら気絶している少しピンク塗れな委員長さん。顎が赤くなっているのを見るに、おそらく媚薬で発情して誰かに襲い掛かった委員長さんは、あの制服の持ち主に気絶させられたのでしょう。

 

 もう2人は半裸状態で絡み合いながら頭に小さなタンコブを作って気絶している盛大にピンク塗れな木乃香と刹那さん。こちらは分かりやすいです。発情した木乃香に刹那さんが襲われたのでしょう。それにしても2人とも大変扇情的な姿ですね。思わず見入りそうになるです。

 

 想像してみてください。

 

 大和撫子風のほんわか系黒髪美少女と剣術小町風の忠犬系黒髪美少女が胸部装甲に標準装備されている桜色の先端突起やら指を入れて弄り倒したくなる小さくて可愛いおへそやら下着を脱がされギリギリまで捲れ上がったスカートから覗いて見えそうな秘密の花園などをチラ見せしながら全身粘液塗れになって若干透けた制服を申し訳程度に身に纏いつつ絡み合っている姿を。

 

 普通にガン見するでしょう? そんな光景が目の前にあったら。

 

「ゆえ?」

「見てませんよ?」

「何も言ってないよ?」

 

 アホな事考えてないで真面目にやるです。

 別にのどかの笑顔が怖かった訳ではありません。

 ええ、ありませんとも。

 

「まあ、委員長さんはいいとして、何で木乃香達はタンコブ作って気絶してるですか?」

「んと、私が見つけた時はまだ起きてたんだけど、放っておいたらそのまま最後までシちゃいそうだったからコレで気絶させたの。私が言うのもなんだけど、初めてがコレなのはちょっと可哀想かなって思って」

「私としてはあれだけやっといて2人がまだだった事に驚きを禁じ得ませんが。それに何で2人の進捗具合を正確に把握してるですか」

「よく木乃香から相談されてるからね、私」

 

 夏休みの時みたいにですか。

 

 トンカチをフリフリしながら答えるのどか。

 まあ、気持ちは分かるです。以前の私達の初めては結構アレでしたからねぇ。

 この世界での初めても言わずもがなですが。

 

 

 

 

 

 * * * *

 

 

 

 

 

 魔法探偵と麻帆良の警備員の二足の草鞋で地球での職歴を手に入れ、ISSDA(国際太陽系開発機構)に無事就職出来た私と別口から無事就職出来たのどかは改めてネギ先生に告白する事を決意。

 

 物の見事に二人揃って振られました。

 

 その夜、失恋を癒す為の酒盛りで自棄酒を大量に飲んでベロベロに酔っていた私達は、ネギ先生に出会ってからの思い出話やネギ先生へのダメ出しと愚痴り大会で盛り上がっていたです。

 しかし話題がお互いの事に路線変更した辺りから雰囲気が怪しくなっていきました。その時の話題はいわゆる「もしも自分が男だったらほっとかないのに」的な在り来たりなヤツです。で、お互いがお互いを「イヤイヤのどかの方が」「イヤイヤゆえの方が」と褒め称え合いどんどんヒートアップしていったあげくに口論じみたモノに発展。

 どちらがよりいい女なのか勝負する事になったのです。勝負方法はそれぞれが相手の良いところを言い合い、1つでも多かった方が勝ちと言うもの。

 

 実にアホです。酔っ払いに常識を求めてはいけない実例ですね。

 

 勝負開始直後はお互いに相手の容姿・性格・言動・仕草から趣味・服装や化粧のセンス・思わずときめいた過去や最近のエピソード・相手の性癖についてまで事細かに語っていました。自分の事ながらよくもあそこまで語り尽くせたものです。どれだけのどかの事好きですか私、と後で自分に呆れました。

 

 まあ、そこまで語り尽くせば流石にネタもなくなり、その時点でカウントは同数だった私達。次にやり出したのは相手の身体を実践込みで褒めるというモノでした。やれ肌の滑らかさがどうこう、やれ髪の艶がどうこう、やれ胸の触り心地がどうこう、やれお尻の形がどうこう、やれ触られた時の反応がどうこう、と際限なくお互いに相手を弄り倒す私達。酔った頭に快楽を流し込み続けた私達は、いつしか勝負の事など忘れてお互いを求め合い貪り合っていました。

 

 どれだけはしゃいでいるように見えても、長年の初恋に敗れたばかりの私達です。人肌恋しかったというのもあったのでしょう。心に出来た喪失感を埋めたかったのかもしれません。もちろん埋める相手は誰でも良い訳ではありませんが。

 

 その日、私達はそのまま親友の範疇を越えました。

 

 酔った勢いで。

 

 これが私達の初めてでした。

 

 その後は、翌朝起きて昨夜の事を全て覚えていた私が自己嫌悪と罪悪感の渦に飲まれて鬱状態になったり、目覚めたのどかが私を見た瞬間湯気が出そうなほど真っ赤になった顔をシーツで隠そうとする仕草に癒されたり、出勤初日から遅刻しそうになって慌てて準備したり、仕事に慣れるまで時間が取れなかったりで、あの夜の事をゆっくり話し合う機会が持てず、ギクシャクした雰囲気のまま一週間が過ぎてしまったです。

 

 その日は休日であり、休日明けの仕事関係で魔法世界側に来ていた私達ですが、のどかはクレイグさん達に誘われて日帰りトレジャーハントに行ってしまったので、宿泊施設に残った私は悶々とした想いを抱えながら一人寂しくボーっとベッドに転がっていました。

 

 しかしもうすぐ正午になるといった頃に事件が発生。何者かが宿泊施設に襲撃してきたのです。相手の動きからして狙いは明らかに私でした。ストレスが溜まり少々イラついていた私は割りと手加減無しでそれ等を鎮圧。襲撃犯達は例外なく宿泊施設の壁に『雷の投擲』で串刺し刑に処しておいたです。

 

 それ等が終わると同時に今度はアリアドネー時代に使っていた念話による長距離緊急通信が入りました。通信相手はハルナ。何で騎士団仲間しか知らないはずの通信の術式を知っているのかはひとまず置いておくとして、聞かされた通信内容は最悪な物でした。

 

 ハルナ曰く「のどかと木乃香が誘拐された」と。

 

 私以外の元3-Aの皆も襲撃を受けており、その殆どは失敗に終わっていました。ですが、少数で遺跡に潜っていたのどかと『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』の任務で辺境の地にいた木乃香は別でした。

 

 のどかの方ですが、満身創痍で街に戻って来たクレイグさんとクリスティンさんの話によると、思いの外早く予定していたトレジャーハントが終わり街へ帰ろうとした時、身なりのいい魔法使い達とその私兵らしき集団の待ち伏せに遭い襲撃されたそうです。必死に抵抗したものの数の暴力には敵わず叩きのめされ、のどか・アイシャさん・リンさんを連れ去られてしまった、と私が合流した際に包帯だらけのフラフラの身体で土下座しながら話してくれました。

 私は湧き上がる怒りを「怒る相手を間違えてはいけない」と押さえ込み彼等の頭を上げさせました。「謝罪はのどか達を助けた後で彼女達にして欲しい」とそう言って。

 

 そして木乃香の方。人の行き来があまり無い辺境の地で刹那さんと2人で任務に就いていたそうですが、別に木乃香達でなくても良い内容の任務だったそうです。

 木乃香は両世界においてトップクラスの治癒術師。彼女の治癒を心待ちにしている者達は沢山いるです。なのに新人の『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』にやらせる類の辺境調査任務が舞い込んで来た事に対して刹那さんは懐疑的だったそうですが、何か理由があるのだろうと木乃香が了承してしまったんだとか。そして調査任務の最中、ガラの悪いチンピラ風の集団を引き連れた明らかに周囲の者とは格の違う傭兵特有の雰囲気を醸し出している男が2人を襲撃。男はチンピラ集団を囮に使い、奴等を薙ぎ払っていた刹那さんの隙を付いて自分ごと彼女と一緒に転移符で強制転移。転移直後、刹那さんだけを残してまたも転移。刹那さんが急いで元の場所に戻った時には彼女が倒した無数のチンピラ達だけしか残ってなかったらしいです。

 倒れていたチンピラ達を起こし懇切丁寧に説得(・・・・・・・)して話を聞いた刹那さんは彼等の仮拠点に訪問(を強襲)。その場にいた者達全員を誠心誠意を込めて説得(・・・・・・・・・・)し、木乃香を連れ去った男が向かったという街行きの飛鯨船に乗り込み、着くまでの間にネギ先生に連絡を入れたんだそうです。

 

 それ等の話はすぐにネギ先生や他の人にも伝わり、ネギ先生率いる『白き翼』・ナギさん率いる『紅き翼』・クルトさん率いる私設重装魔導装甲兵団・テオドラ第三皇女率いる帝国近衛騎士団・リカード主席外交官率いる私設近衛軍団(ガチムチマッチョ集団)・セラス総長率いるアリアドネー魔法騎士団による巨大捜査網が構築されたです。ですが犯人達の潜伏場所は割りとあっさり判明しました。かつて『白き翼』時代にエヴァさんから貰った白い翼のバッチの反応が二つ、刹那さんが向かっている街の外れから感知されたからです。

 

 その場所は、とあるMM元老院議員の息子達であり『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』試験合格者で『絶対正義』を掲げる過激派集団のリーダー的存在が現在滞在している大きな別荘。地元の人達の話では、兄は横柄で威張り散らす性格の女好き。弟はそんな兄の腰巾着にして太鼓持ち。地元の年頃の女の子達や女性達は言い寄られたり、ちょっかいをかけられたりで非常に迷惑に思っており、何で試験に合格出来たのかわからないくらいの三流魔法使いだそうです。

 また、周囲には同じような『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』試験合格者が複数とその私兵らしき集団が群がっており、ガラの悪い連中を金に物を言わせて集めて御山の大将気取りだとか。

 

 奴等は私を含めた元3-Aの皆を、自分達の集団へ入れようとかなり強引な勧誘活動をしていた連中です。今回の襲撃を私達に対する敵対行動及び宣戦布告と受け取り、導入出来る全戦力を持って物理的にも社会的にも壊滅させる事が決定されました。

 

 その後、襲撃犯を追って来た刹那さんが先に現地入りしていた私達と合流。街の場所が連合圏内である為、他国の戦力である帝国近衛騎士団・アリアドネー魔法騎士団には国境沿いを押さえてもらい、私設重装魔導装甲兵団・私設近衛軍団(ガチムチマッチョ集団)が別荘の周囲を包囲して、『白き翼』&『紅き翼』+ クレイグさん・クリスティンさんは別荘に向かいました。

 

 戦力過剰? ハハッ、面白い冗談です。むしろ物足りないくらいでしたが何か?

 私達側:犯人側 = 真祖:オコジョ妖精くらいの戦力差は当然でしょう?

 

 のどかに手を出したのですから。

 

 別荘の入り口で見張りの真似事をしていたチンピラ達にネギ先生が声をかけると、初めのうちは威勢良く恫喝していましたが、相手が『世界を救った英雄』に『千の呪文の男』と『伝説の傭兵剣士』である事に気付くと顔を青くしながらうろたえだしました。ネギ先生が奴等の罪状を読み挙げている時も時折小さな声で「こんなの聞いてねえ」やら「話が違う」やらと聞こえてきましたが知った事じゃありません。

 うだうだと誤魔化そうとするチンピラ達にイラつき【雷の暴風】をブチ込もうと決め、溜め込んでいる魔法の1つを発動しようとした瞬間「「ゴチャゴチャうるせええぇぇ!!」」とナギさん・ラカンさんがチンピラ達ごと入り口を粉砕し突入。2人が内部にいた身なりのいい魔法使い達相手に無双しているのを横目に、私と刹那さんは茶々丸さんのナビゲートに従いのどかと木乃香が監禁されているであろう場所まで強行突破。途中に遭遇した敵については相手をする時間も惜しかった為、慌てて追いかけて来たネギ先生達に全て丸投げしたです。

 通路を全力疾走して辿り着いたのは、地下施設の最奥にあった分厚く頑丈そうな金属製の扉に守られた部屋。扉を刹那さんが一閃で斬り破り、室内に2人同時に突撃しました。

 

 そこで私達が見たものは……。

 

 

 

 

 

 ショッキングピンクに彩られた悪趣味な内装。

 

 

 部屋の隅に設置された大きな棚に並んでいる卑猥な道具の数々。

 

 

 壁に固定されている鎖に繋がれながら驚いた顔でこちらを見ているアイシャさんとリンさん。

 

 

 彼女達と同じく繋がれている憔悴し切った複数の見知らぬ女性達。

 

 

 中央に置かれた、これまた悪趣味なショッキングピンクの大きなベッド。

 

 

 そのベッドに鎖で手首を繋がれているのどかと木乃香。

 

 

 仰向けに寝かされ、衣服や下着を無残にも破かれ、裸体を晒させられているのどか。

 

 

 四つん這いにさせられ、下半身に纏っていた全ての衣服を剥ぎ取られている木乃香。

 

 

 叩かれたのか、左頬を赤く腫らしながらも折れる事無く相手を睨み返しているのどか。

 

 

 何かに耐えるように固く目を瞑り、歯を食いしばっている木乃香。

 

 

 そして

 

 

 のどかの足を掴んで無理矢理開かせ

 

 

 木乃香の腰を掴み、お尻を撫でながら

 

 

 2人の秘所に

 

 

 股間についた穢らわしい汚物(男根)を突き立てようとしている

 

 

 2つの人語を解する醜悪な肉塊(2人の下卑た笑みを浮かべているデブ)

 

 

 それを見た瞬間

 

 

 全ての遅延魔法を順次解放させ

 

 

 全ての気を解放し瞳を黒く反転させ

 

 

 

 

 

 

 

 私達は

 

 

 

 

 

 

 

 自ら理性を手離しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識を取り戻した時、私はローブを纏って身体を隠したのどかに後ろから抱き締められていました。彼女は私を抱き締めながら「私は大丈夫だから」と何度も何度も言い聞かせるように繰り返していたです。

 

 そんな私達の目の前には、両肘・両膝から先が炭化して無くなっており、穢らわしい汚物(男根)が跡形も無く消滅している真っ黒焦げの人語を解する醜悪な肉塊(時々呻き声を上げるデブ)が無数の【雷の投擲】によって磔になっていました。

 さらに、ネギ先生直伝の【雷華崩拳】で連打でもしたのか私の両手は赤い汚汁()で汚れており、右拳を人語を発する穴が開いている腫瘍(顔面)にメリ込ませ陥没させていました。

 

 ぴくぴく痙攣していて実にキモかったです。

 

 のどかの事を抱き締め返したくても汚汁()に塗れた手で触るわけにもいかず、何か拭く物でもないかと周りを見回してみました。この時初めて気付いたのですが、そこは地下ではなくいつの間にか一階までブチ抜いて来ていたようです。

 

 少し離れた所に木乃香に抱き付かれた刹那さん。あちらもこっちと同じ状況のようでした。その足元には何とも形容し難い肉達磨(斬り刻まれた血塗れのデブ)が周囲に汚汁()やら刻まれた肉片(手足)やら穢らわしい汚物(男根)やらを撒き散らして転がっていました。

 

 非常にばっちかったです。片付ける人が苦労しそうでした。

 

 その後、青い顔をして少し内股になった男性陣が肉塊等(デブ達)を回収。若干引いた顔をした女性陣によってアイシャさん達と捕まっていた女性達も無事保護され、運良く逃げ出した奴等も二重の包囲網を突破する事は出来ず全員捕縛されました。

 

 ただ、木乃香を誘拐した傭兵風の男は壊滅作戦が始まる直前に自首していた事には驚きましたが。どうやら肉塊等(デブ達)に細工された強制証文(ギアスペイパー)を使われ、不本意な仕事を請け負う破目になったそうです。肉塊等(デブ達)への意趣返しとして、契約に反しない範囲で刹那さんが追いかけてきやすいようにしていたらしいです。チンピラ達を撤収させていなかったのもその一環だったとか。

 木乃香の証言でも連れ去られた時はやけに丁重に扱われていたらしいですし、のどかの『いどのえにっき』でも確認したので嘘はないでしょう。

 

 あの肉塊等(デブ達)やその関係者達がその後どうなったのか私は知りません。奴等の犯行動機や言い分も同様です。記憶に留めておくと脳が腐りそうだったので知る事を拒否しました。

 ネギ先生曰く「もう彼等が夕映さん達の前に現れる事は二度とありません」と教えてくれましたが。

 

 のどかと木乃香、それにアイシャさんとリンさんは本当にギリギリで最悪の事態には至っていませんでしたが、他の女性達は心身共に深刻なダメージを負っていました。回復には膨大な時間を有するそうです。後で分かった事ですが、あの女性達は『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』試験合格者で任務中の行方不明扱いになっていた人達でした。木乃香を誘拐したのと同じ方法で連れて来られ長期間監禁され陵辱され続けていたようです。

 

 …………やっぱり消し炭にしといた方が良かったですかね?

 

 そんな事件があった深夜、私とのどかは高級ホテルの一室にいました。クルトさんのご好意で『白き翼』&『紅き翼』+ トレジャーハンター組が招待されたからです。

 クルトさん曰く「また1つ、大きな膿を搾り出せたお礼とご無事だったお祝いです」との事でした。

 

 部屋の中、2人きりで話し合う私達。お互いの無事を改めて喜び合いながら、一週間前から続いているギクシャクした関係に決着を付ける為です。

 

 私はこの事件で、自分がどれだけのどかの事を特別な存在として見ているかを改めて知りました。切っ掛けは酔った勢いだったかもしれませんが、今の私はのどかを失うくらいならその原因をあらゆる手段を用いて抹消する事を許容し、自ら手を汚す事が出来る程に彼女の事を求めている事を自覚したです。

 

 のどかの事がこの世の何よりも大好きだと言う想い。

 彼女の笑顔をいつまでも見ていたいと言う願い。

 彼女を害する全てから守りたいと言う望み。

 ずっと傍にいたい、いて欲しいと言う執着心。

 誰にも渡したくない、触れさせたくないと言う独占欲。

 彼女に仇なす者は全て塵芥と化せと言う悪意。

 

 そんな、心の奥底に渦巻く様々な感情。

 決して綺麗とは言えないどろどろとしたモノ。

 

 私がのどかに対して抱いていたソレを、彼女に全て伝えました。

 

 正直、伝えるのは怖かったです。

 ぶっちゃけ自分でもちょっと引く位、のどかの事好き過ぎでしょう、と思いましたから。

 強過ぎる想いは忌避されやすいもの。

 もし、のどかにそう思われたら、と思うと身体と心が竦みました。

 ですが、のどかに嘘は言いたくなかった。

 だから、たとえ嫌われるとしても正直に伝えておきたかったのです。

 

 結果、私の想いはのどかに受け入れてもらえました。

 

 のどかも話してくれたです。

 一週間前のあの夜から、ずっと私の事が頭から離れなかったと。

 あの夜の事を思い返しても、同性同士だという忌避感や間違いを犯したという罪悪感は一切無く、羞恥や愛おしさしか感じなかったと。

 私と会えなかった一週間はいつも以上に寂しかったと。

 誘拐され、自由を奪われ、暴力を振るわれても決して折れずに諦めなかったのは私が助けに来てくれると信じていたからだと。

 怒りのままに我を忘れて肉塊等(デブ達)を蹂躙している私を見て思ったのは、惨状への嫌悪でもなく、暴力への恐怖でもなく、自分の為に私が怒ってくれている事への歓喜だったと。

 もしも立場が逆だったら自分も私と同じ事をするだろうと。

 

 

 想いを伝え合い、お互いを受け入れた私達は、このあと本当の意味で結ばれました。

 

 

 周りから見れば、私達の関係は歪で普通ではないかもしれません。

 心の隙間を埋める為に傷の舐め合いをしているように見えるかもしれません。

 「そんなのは間違っている」と言われるかもしれません。

 世間一般的に疎まれるかもしれません。

 

 ですが、そんな人達に私はこう言いましょう。

 

 だから? と。

 

 私はのどかが好きです。

 愛しています。

 切っ掛けはどうあれ、この想いに嘘偽りなど一切ありません。

 

 

 

 

 

 というか関係無い部外者風情が首突っ込んでくるなです。

 

 

 

 

 

 * * * *

 

 

 

 

 

 懐かしいですねぇ。

 逆行してからは幼い身体が影響したのか、考え方が随分と丸くなったような気がします。

 

 それに、翌朝部屋を出た時に他の人達と鉢合わせたりもしましたね。

 具体的には『私とのどか』『木乃香と刹那さん』『クレイグさんとアイシャさん』『クリスティンさんとリンさん』がそれぞれ同じ部屋から同じタイミングで出てきたです。

 

 実に微妙な雰囲気になりました。

 

 私とのどか以外の女性陣が覚束ない足取りでしたし、それぞれの2人の距離が近い事から昨夜何があったのかは容易に想像がつくです。

 

 ………ってイヤイヤイヤ違うです違うです。

 盛大に思考が逸れてます。

 何で事態の収拾をつけようとして私達の馴れ初めを思い返してるですか。

 

 閑話休題。

 

 さて、それでは3人には申し訳ないですが、何があったのか記憶を少しだけ見せてもらうです。悠長に起きるのを待ってもいられませんし。

 ………若干2名ほどのどかが気絶させた事は気にしない方向で。

 

 のどかに人払いと認識阻害の結界を張ってもらいながら、私は呪文詠唱を開始します。

 

 使うのは意識シンクロ魔法の亜種。

 サルベージした3人の記憶を統合・編集して足りない部分を補い合ってから、体験するのではなく映像で確認する魔法です。

 

 そうして私達の脳裏に浮かび始める光景。

 ソレを見て一番最初に思った事は

 

 コ レ は ヒ ド イ

 

 でした。

 

 こけしが空を飛び、あかべこが宙を舞い、シャケが頭上から落ちてくる。

 そんな日常がリアルで起きていそうな麻帆良においても在り得ないと言わざるを得ない有様。

 ネギ先生はどれだけトラブルの神に愛されてますか。

 神っぽいモノがいる事を知っている身としては笑えないのですが。

 のどかも「うわぁ」とか言ってますよ。

 

 まずネギ先生。

 事故とはいえ違法魔法薬散布とかシャレにならないです。

 速やかに今回の一件を無かった事(・・・・・)にしなければ。

 最近はMM派の魔法先生の目も若干鬱陶しくなってきていますからね。

 彼等に見つかると面倒です。

 

 次にチア部の3人。

 事に及ぶ前に阻止しないと大変です。

 スキャンダル的にとか、ネギ先生や3人の貞操的にとか。

 もし仮にチア部の3人の誰かが御懐妊なんて事になったら最悪過ぎます。

 

 次に明日菜さん。

 委員長さんに渾身のアッパーを炸裂させて気絶させ、襲われた際に駄目になった制服からジャージに着替えてネギ先生の後を追いかけたようです。

 魔法バレは既にしているとはいえ、私の事を彼女に知らせるのはまだ早い。

 出来れば彼女がネギ先生の下へ辿り着く前に事を片付けたいですが。

 最悪の場合、気絶させるしかないですかね。

 

 兎にも角にも、この場はのどかに任せて私は5人を追いましょう。

 校舎の外に出られでもしたら厄介ですし。

 

「私はネギ先生達を追います。のどかはこの場の対処をお願いできますか?」

「任されました」

 

 ピッと可愛く敬礼しながらのどかが自分の異空倉庫から取り出したのは、四つの大型キャスターが付いている銀色に鈍く輝く円柱型の、どこからどう見ても業務用掃除機っぽい物。

 

 超強力吸引お掃除マシーン『吸い吸い号』

 

 本体寸法:幅283mm×奥行330mm×高さ416mm

 本体質量:6.8kg(付属品含む:7.8kg)

 動力:魔力充填式

 ホース:1.9m(黒色)

 延長管:2本

 吸口:床用、棚用、すき間(サッシ)用、生物(ナマモノ)

 

 調合中にやらかして飛び散ってしまった魔法薬の片付け用に、以前ハカセさんに作ってもらった発明品です。固体だろうと液体だろうと気体だろうと何でも吸い取れる優れもの。吸引できる容量も見た目以上に多く、何かと重宝しているです。下手に吸引力をMAXにするとシャレにならない事になるので注意が必要ですが。

 

 フルフェイスマスクを着けながら、嬉々としてゴテゴテしい掃除機を倒れている人に使う少女。

 実にシュールですね。

 

 私は早々に廊下へ退散する事にしました。

 決して自分に被害が来る前に逃げようとしている訳ではありません。

 背後から聞こえる「ジュゴゴゴゴ!」とか「ヴュロロロロ!」いう音は気にしない方向で。

 教室から出る途中、床に落ちていたネギ先生のスーツの上着からハンカチを拝借します。

 

「さて、ネギ先生達は今どこにいるやら」

 

 ピシャリと背後の扉を後ろ手で閉め、まずはネギ先生達がどこにいるのか探す事にしたです。

 使うのは【遠聴(エグザウディレ・デ・ロンゲ)】という魔法。

 聴力を強化し遠方の音でもはっきりと聞こえるようになる魔法です。

 

 別名【盗聴魔法】

 

 魔法探偵時代に偶然手に入れた書物『エルモアの魔道書』に記されていた、現代では失われてしまった遺失語魔法(ロストスペル)の1つです。

 他にもいくつか修得出来そうな遺失語魔法(ロストスペル)があったので覚えました。

 

 耳を澄まして意識を集中します。

 

 誰かの歩く音。

 急いでる?

 早足です。

 

 楽しげな話し声。

 これからカラオケだそうです。

 2-4-11って何の事でしょう?

 

 麻雀部の練習。

 なんか明らかに次元の違う人がいるんですが。

 あ、一緒に打っていた一人が泣きながらどっかに走り去って行ったです。

 

 軽音部の休憩時間。

 持ち込んだ紅茶飲んでます。

 む?

 ケーキまで用意済みとは。

 

 痴情の縺れっぽい言い争い。

 彼女(女子中生3年)元カノ(女子高生1年)から恋人(女子中生2年)を守ろうとしています。

 元カノ(女子高生1年)彼女(女子中生3年)とヨリを戻したいようです。

 その為に恋人(女子中生2年)を陰ながら追い詰めて別れさせようとしていた模様。

 

 その近くの物陰で息を潜めている和美さん。

 「特ダネキターー!」って小声で言ってます。

 

 学園長を嗜めるしずな先生。

 どうやらまた学園長の悪戯の被害にあったようです。

 

 フォフォフォと惚ける学園長。

 頭にバッテン印の絆創膏を貼っている模様。

 しずな先生からの制裁はしっかり受けたようです。

 いい加減ボケた振りして悪戯するの、やめてください。

 

 苦笑いのタカミチ先生。

 貴方はもっと怒っていいと思います。

 

 明日菜さんの荒い呼吸音。

 ネギ先生への愚痴も聞こえます。

 

 何かを追いかけるハルナ。

 実に愉しそうです。

 追っているのは……ネギ先生?

 

 助けを求めるネギ先生。

 捕まって明日菜さんの名前を叫んでるです。

 

「見つけたです」

 

 幸いながら、まだ校舎内にいてくれました。

 しかしハルナの様子からして彼女も媚薬にやられている可能性が高いです。

 というか何故ハルナがいるですか?

 ネギ先生を追っていたのはチア部の3人だったはずですが。

 

 疑問に思いつつ、私はメモ帳を取り出し【念写(デスクリべーレ)】を使いました。

 対象に関連する物事を紙に写し出す遺失語魔法(ロストスペル)の1つです。

 例えば手作りのクッキーにこの魔法を使うと、作った人、調理に使った道具や設備、材料等の複数の情報を写し出す事が出来るです。

 

 使いこなせれば、ですが。

 

 引き出せる情報量が多い為、情報の取捨選択がキッチリ出来ないと目当ての情報を見つけられないという欠点がある魔法でもありますから。

 今回はさっき拝借したネギ先生のハンカチを使い、持ち主の現在位置を写し出すです。

 

 メモ帳に写し出されたのは、この校舎の隅っこにある広めの図書室の室内。所蔵してある書物が少し特殊な物である所為なのか、滅多に人が来ない場所です。おそらくハルナが案内したのでしょう。

 

 あちらは明日菜さんの声がした方向ですね。

 急ぎますか。

 

 私はそう判断して瞬動を使用を選択。廊下を高速で駆けて行きます。

 ネギ先生達3人がいる方向には他に人がいない事は確認済みなので遠慮はしません。

 目的地へ向かいながら、私は学園長に念話を入れます。

 

《学園長。少しいいですか?》

《フォ? 夕映ちゃんかの? ネギ君の事でまだ何か聞きたい事でもあったかのぅ?》

《ネギ先生関係の事で報告が》

《………ふむ、話とくれ》

 

 私は今回ネギ先生が引き起こした一件について、分かっている事を簡潔に学園長へ報告しました。報告を聞いた学園長はしばらく考え込んでいたですが、ため息混じりで念話に答えました。

 

《はあ~……ネギ君にも困ったもんじゃのぅ。して、儂等も動いた方がいいんかの?》

《いえ、事態の収拾はもう少しで付けられるです。学園長は明日ネギ先生を呼び出して、しずな先生と一緒に厳重注意という形で叱ってください》

《叱るのはいいんじゃが、しずな先生と一緒にかの?》

《ネギ先生は英国紳士を自称していますから、女性からの言葉は耳に入りやすいでしょう。それにネギ先生はお姉ちゃん子です。相手が年上の女性なら効果は増すかと》

 

 まあ、耳に入りやすくても頭の中に残るとは限りませんが。

 

《あい分かった。そっちは任せてしもうていいんじゃな?》

《はい》

《では、頼んだぞい》

《事が終わったら詳しい報告をしに行くです》

《うむ、待っとるぞい》

 

 そう言って念話を切………………る前に一言。

 

《ああそうそう、もう1つ》

《フォ?》

《ボケた振りしてしずな先生の胸に顔突っ込むの、やめてください》

《フォッ!?》

《では》

《ま、待つんじゃ夕映ちゃ》プツリ

 

 念話を強制遮断したです。

 何か聞こえた気もしますがきっと気のせいですね。

 

 そうこうしているうちに目的地付近に到着しました。ここからは普通に走るです。明日菜さんといつ遭遇するか判らないですから。

 ですが、結局目的地に着くまで明日菜さんとは遭遇する事無く図書室に到着。そこで私が見たのは………………。

 

「何を………やっとるかーーーーッ!!」

「「マんボッ!!?」」

 

 図書室の扉を勢い良く蹴り破る明日菜さん。

 後頭部に直撃した扉の勢いでネギ先生に頭突きして気絶するハルナ。

 ハルナの頭突きで気絶した、ズボンを半ばまで脱がされているネギ先生。

 

 という現場でした。

 

「はあああぁぁぁぁ…………」

 

 思わずため息が出たです。

 それくらい許して欲しい。

 しかし間に合いませんでしたか。

 

 図書室の入り口の陰に隠れて中の様子を窺います。気絶した2人を前にあたふたしている明日菜さん。どうやらどっちから介抱すべきか決めかねているようです。

 

「――――そいっ」

「えーっと、こ、こーゆー時は――――ガクッ」

 

 私はそんな明日菜さんの背後に音も無く近づき、彼女の意識を刈り取りました。倒れる前に彼女を抱き止め床に寝かせます。ネギ先生とハルナも並べて寝かせました。

 

 まずは媚薬が付着しているネギ先生のズボンを回収。異空倉庫から取り出した私用の『吸い吸い号』で媚薬を除去しネギ先生に穿かせます。ついでにハンカチをポケットに突っ込んでおくです。

 次にハルナがどういった経緯でネギ先生と一緒にいたのか記憶を確認。とりあえず媚薬の効果が切れる三時間は目覚めないように処置して、今回の事は夢だと思ってもらう為に「ネギ先生を襲う夢を見た」という認識を植え付けました。明日菜さんに関しても「2人を寮の部屋に連れ帰った後、疲れて眠ってしまった」という認識を植え付けたです。記憶を弄るよりこっちの方が楽ですので。認識は曖昧なモノで構いません。「よく覚えていないけど○○だった気がする」程度で丁度いいです。後は各々が違和感を勝手に自己解釈して納得するですから。

 蹴破られた扉も簡易的にですが修復完了しました。

 

 全ての処置が終わったと同時にのどかから念話が入りました。

 

「刹那さんが目を覚ましたから2人で木乃香といいんちょさんを寮に運ぶね」

 

 との事。

 

 私もこちらの状況を説明し、寮で合流する事にしました。

 

 3人を手っ取り早く運ぶ為に魔法を使います。本日三つ目の遺失語魔法(ロストスペル)です。

 その名も【遠隔扉(ヤヌア・コーリベト)

 簡単に言ってしまえば『魔法版どこ○もドア』です。

 私には物を媒介として移動するゲート系の高等魔法を扱う才能が無かった為、移動手段として覚えました。流石に本物のどこ○もドアみたいに10光年以内の距離を移動出来たりはしません。

 

 10光年も離れた場所を明確にイメージし、移動距離に比例して増える途方も無い消費魔力を確保出来れば理論上は可能ですが。

 

 少なくとも私には無理です。

 まあ、日本国内程度なら余裕で移動出来ます。

 

 さて、まずはハルナから運ぶです。彼女は一人部屋なのでなんの気兼ねもなく部屋に繋げてベッドの中に放り込みました。

 次に明日菜さん達の部屋に繋げ、ネギ先生をロフトに置いてある布団の中へ。明日菜さんをガラス張りのテーブルに突っ伏させ、疲れて眠ってしまった状態を演出しました。

 

 そこまでやり終えた私はそのまま部屋に残り、のどか達が来るのを待つ為に明日菜さんの寝顔を観察しながらのんびり寛いでいたです。

 ですが、不意に思い出した事がありました。

 

「あれ? チア部の3人ってどうなったんでしょう?」

 

 確か、調べた時には校舎内にはいなかったですよね?

 

 そう思い、私は【遠聴(エグザウディレ・デ・ロンゲ)】で彼女達の部屋の方向に聞き耳を立ててみたです。

 その結果は………。

 

 

 ………

 

 

 ………………

 

 

 ………………………

 

 

 ………うん、問題なしです。

 あれですね。

 ああいった事は本人達の問題であって部外者の私が口を挟む事じゃないです。

 決して今行ったら確実に巻き込まれそうだから行かないのではありません。

 コジンのイシをソンチョーしているのです。

 

 その後、のどかと木乃香を背負った刹那さんが到着。委員長さんは来る途中で帰宅中だった那波さんと夏美さんに出会ったので渡してきたそうです。

 刹那さんに今回の事情を説明した際に、ネギ先生への不信感を抱き始めている事に気付き慌ててフォロー。こんなところで2人の間に不和が生じてしまっては困りますから。少し渋々といった表情でしたが何とか説得する(言いくるめる)事に成功したです。

 

 木乃香にも明日菜さん達と同様に夢と思わせる認識を植え付けた私達は刹那さんと別れ、学園長に今回の事件の詳しい報告をする為に学校へ戻りました。

 先程の念話での事を言い訳しようとしている学園長にセクハラ爺(養豚場の豚)を見る目を向けながら無事に報告を終え、事件は無事に収束したのでした。

 

 翌日、挙動不審な2人と通常運転な1人のチア部の3人を見て、ちょっと気まずい思いをしましたが。

 その他にも麻帆良学園七不思議に『怪奇! 放課後の廊下を爆走するガスマスク!?』というモノが新たに追加されたとか。偶然、外から校舎内を見ていた生徒がいたそうです。

 

 

 

 

 

 ………………外すの忘れてましたね、そういえば。




いつか書こうと思っていた二人の馴れ初めをいつの間にか書いてました。
時間かかったのは大体コイツの所為。

遺失語魔法(ロストスペル)は『少女魔法学・リトルウィッチロマネスク』から。
野良犬は神作だと思っています。

最近ちょっと茶々丸に言わせてみたいセリフが出来ました。

「私はいつだって、貴女の幸せを願っていました。
 貴女は私の――――マスターだから!!」(某山猫のセリフ)

しかし、これを茶々丸に言わせるにはエヴァと敵対する必要がある為、
シチュエーションが思い付かず現在お蔵入り中。

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