夕映物語   作:野良犬

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2時間目『ドッキリ図書室危機一髪!?』のネギ視点、かーんせーい。




違法魔法薬散布事件・表

「はあーーー、またやっちゃったよ……」

 

 今日の担当授業が終わった後、僕は見晴らしの良い広場の中心にあるモニュメントの階段に腰掛けて深いため息を吐いていた。

 思い出すのは日本に来てから一番接点の多い人。

 

 神楽坂 明日菜さん。

 

 最初は意地悪な事言ってくるし暴力的で無法者な人だと思ってたけど、嫌がってたのに僕を部屋に泊めてくれたり、このまま頑張れば良い先生になれるかもって言ってくれたりして、実はいい人なんだなって思った。

 魔法の事がバレた時も何だかんだ言いつつ秘密にしてくれてるし。

 ………タカミチとの仲を取りもたないとバラすって脅されたけど。

 

 そんな明日菜さんに昨日の放課後と今日の授業中、ひどい事しちゃった。1回目は記憶を消そうとしてパンツを消しちゃったし、2回目は明日菜さんの英語のダメさ加減に思わず笑っちゃったあと服を吹き飛ばしちゃった。

 

 しずな先生にも怒られちゃったし良いトコ無しだよ僕。

 

 …………明日菜さん、絶対怒ってるよなぁ。

 授業中ずっと睨んでたし………。

 

 僕の脳内では、頭から悪魔みたいな角を生やしてオデコに青筋立てながらキシャー!って威嚇してる明日菜さんの姿が思い浮かんでいた。その怖さはかつて見た事がある悪魔達にも引けを取らないと思う。うん。

 

「でもホントどーしよ。謝ったら許してもらえるかなぁ」

 

 ……許してもらえなかったら部屋を追い出されるかも………………。

 な、何かないかな!? お詫びの品的な物!?

 

 僕は慌てて持ってきていた鞄の中を引っ掻き回した。この鞄は中に入れられる量を5倍に増やせる拡張の魔法が施されてるマジックアイテム。ネカネお姉ちゃんが誕生日プレゼントでくれた物で、以来ずっと大切に使い続けてる物だ。

 しばらく鞄の中をゴソゴソしていると指先がガラスっぽい何かに触れた。何だろう?と思って取り出してみると、古ぼけた試験管みたいな物が出てきた。

 

「これって………」

 

 出てきたのは昔おじいちゃんがメルディアナ魔法学校への入学祝いにプレゼントしてくれた『魔法の素・丸薬七色セット(大人用)』だった。もらったのはいいんだけど、使うのは何だか勿体無くてずっと仕舞い込んでたヤツだ。

 

 鞄に入れた覚えはないんだけど…………多分お姉ちゃんが入れてくれたのかな?

 まあいいや! これがあれば明日菜さんが欲しがってたホレ薬っぽい物が作れるかもしれない!

 あ、でも明日菜さん今朝は「自分の力でなんとかする」って言ってたなぁ。

 う~~~ん………………。

 とりあえず作るだけ作って、使うかどうかは明日菜さんに決めてもらおう。

 コレで許してもらえるとは思ってないけど、これくらいしか僕に出来る事ってないし……。

 そうと決まれば早速。

 

 僕は人に見られないように近くの林の中に移動した後、鞄から簡易的な魔法薬作りの道具を取り出して準備を整えた。ビーカーに入れた水がアルコールランプの火で沸騰したところで丸薬を軽く砕いて入れる。

 

「ラス・テル マ・スキル マギステル」

 

 始動キーを唱え、呪文と共に練り上げた魔力をビーカーに注いでいく。

 

「【age nascatur potio amoris(アゲ ナスカーテゥル ポティオ アモーリス)】!!」

 

 ボンッ!と音が響き煙を上げさせながらもなんとか成功。「いざ、生ぜん、恋の媚薬よ」なんて安直な呪文だなーとか思いながら無事完成したホレ薬に蓋をする。

 

 うん、思ってた以上に上手く出来てる。

 これならありとあらゆる異性からモテモテ状態になれるぞ。

 

「明日菜さん、喜んでくれるかなぁ」

 

 完成したホレ薬を片手に、僕は明日菜さんを探しに校舎に向かって走り出した。

 

 後で思い返してみるとこの時の僕は、ホレ薬が上手に出来た嬉しさから当初の『お詫び』という目的を忘れて『上手く出来たホレ薬を使ってもらう』という目的にすり替わっていたと思う。

 

 

 

 2-Aの教室まで戻ってくるとほとんどの人は帰った後だったけど、明日菜さんはまだ残ってた。どうやら木乃香さんとおしゃべりしてたみたいだ。他にもいいんちょさんがノートに何か書き込んでいたり、椎名さん・釘宮さん・柿崎さんがおしゃべりしたりして教室に残ってた。

 

「明日菜さん明日菜さん明日菜さーーん」

 

 僕は声を上げながら一直線に明日菜さんの下へ向かう。その声で僕に気付いた二人が振り返ってこっちを見た。

 

 う……明日菜さんが睨んでくる。

 

「何の用よ」

 

 くあっ!っと僕を睨みながら聞いてきた。

 コワイ。

 

「じ、実は出来たんですよ。例のヤツが!」

「? 例のヤツ?」

 

 思い当たる事が無かったのか、怪訝そうな顔をする明日菜さん。周りに聞こえると流石にマズイと思った僕は、声を潜めながら伝えた。

 

「ホレ薬ですよ、ホレ薬」

「…………(ぴくっ)」

「ホントは今朝言ったみたいに作るのに4ヵ月は掛かるんですけど、偶々荷物の中に作る時間を短縮できる素材があったんで作ってみたんです」

「…………………………………………………………………いらない」

 

 明日菜さんはしばらくジーっと僕が持ってるホレ薬を見ていたけど、受け取る事無く顔をフイッと背けてしまった。

 使ってくれるものだとばかり思っていた僕は慌てて明日菜さんを説得する。

 

「ま、待って下さい! 本当に効くんですよコレ」

「だからいらないって言ってんでしょーが」

 

 嘘だ。だってさっきジーっと見てたし。

 

「本当なんですってばー。騙されたと思って、少しだけでもいいですから」

「………………」

 

 顔を背け続ける明日菜さんの顔の近くにグイグイとホレ薬を突きつける。せっかく作ったんだから使ってもらいたいんだけど、頑なに受け取ってもらえない。

 

「明日菜さーん。明日菜さんってばー」

「………………………だあああ! もう鬱陶し…」

「「あ」」

「ん~?」

 

 こっちに振り返りながら払うように振った明日菜さんの腕がホレ薬を持っていた僕の腕に当たった。当たった衝撃で蓋が取れたホレ薬がくるくると回転しながら飛んでいく。

 その先にはおやつでも食べていたのか、プラスチック製の容器を持ってスプーンを咥えてる木乃香さんが。

 飛んで行ったホレ薬はそのまま木乃香さんが持っている容器に中身を盛大にブチ撒けた。

 

「うひゃあ!?」

「こ、木乃香さーん!?」

「ごめん木乃香! 大丈夫!?」

「びっくりしただけやから大丈夫やよー。それよりネギ君、このピンクのヤツなにー? 何かネトネトするえ」

「ピンク? ネトネト?」

 

 おかしいな?

 ホレ薬の見た目は薄い水色の液体で、粘り気なんて無いはずなんだけど?

 

 疑問に思いながら木乃香さんの手元に視線を向けてみると、容器の中には半透明でピンク色なナニカがゴポゴポと泡立っていた。

 

 え、なにこれ?

 

「ねえネギ。何よアレ………」

「すみません、僕も何が何やら………………あ!?」

 

 もしかしてホレ薬と容器の中身が混ざっちゃったから?

 だとしたらマズイよ!?

 あの反応の仕方、昔アーニャが魔法薬の実験で失敗した時のヤツにそっくりだ!?

 

 

―――ボオオオォォォンッ!!

 

 

「ひゃああああ!?」

「きゃああああ!?」

「うわああああ!?」

「ちょ!? 何事ですの!?」

「何この煙!?」

「うわっ! 何か飛んできたわよ!?」

「イヤーン、何かヌルヌルするよー」

 

 

 僕がそう思い至った瞬間、泡立つ激しさを増していたソレは煙を撒き散らしながら爆発した。爆風でピンク色のナニカも飛び散り教室内はピンク塗れになった。至近距離にいた僕・明日菜さん・木乃香さんにはベットリとくっ付き、教室に残っていた他の4人にも少量だけど被害が出ている。

 

 どうしよう、これ………。

 

 予想外の出来事に頭を悩ませていたら教室の扉が開いた。誰か来たらしい。

 

「お嬢様、明日菜さん。ただいま戻りまし………………何事!?」

「あ、せっちゃーん。こっちー、こっちやえー」

 

 入って来たのは、えっと、桜咲さんだっけ?

 よく木乃香さんと一緒にいるのを見かける人だ。

 

「一体何があったんですか? コレ」

「ん~~? せっちゃん知りたい~?」

「お嬢様?」

「木乃香?」

 

 あれ? 木乃香さんの様子がおかしい。

 桜咲さんをとろんと蕩けた顔で見つめながら近付いていく。

 

「お嬢さ「んちゅ~」もごっ!?」

 

 うわわ、木乃香さんが桜咲さんにキスした!?

 

「んん~……くちゅ……にちゃ……」

「んぐっ……んぅ?…………ん”ん”ーー!?」

 

 あわわわ!? あ、あれってフレンチキスってヤツだよね!?

 は、初めて見た。

 

「木乃香!? 何してんのアンタ!?」

「ちゅ~~、ちゅぽっ。ん~? なんや急にせっちゃんとしたくなってん。ちゅっちゅっ」

「………………………………………………」

「刹那さんもしっかりー!?」

 

 桜咲さんを抱き締めながらキスの嵐を浴びせる木乃香さん。

 キスの嵐を浴びながら真っ白になってされるがままの桜咲さん。

 それを諌めようとしている明日菜さん。

 

 もうわけがわからないよ。

 

「ネ~ギ~く~ん♡」

「え?」

 

 諦めにも似た感情が湧き上がってきたのを感じていると、誰かに後ろから抱き締められた。

 柿崎さんだ。その顔は木乃香さんと同じ蕩けた顔をしてる。

 

「アハハハ♡」

「ウフフフ♡」

 

 今度は左右から椎名さんと釘宮さんが抱き付いてきた。二人も同じく蕩けた顔をしてる。そんな3人を見ながら、僕は本能的に理解した。

 

 あ、これマズイやつだ。

 

 そんな僕を余所に、柿崎さんは囁きかけるように僕の耳元に語りかけてきた。

 

「ネギ君ってよく見ると、スゴク可愛いよねー」

「だよねだよねー。美砂もそう思うよねー」

「え、ええ? そ、そうです、か?」

「そうだよ。私、委員長みたいな年下趣味はないと思ってたけど結構ありかも」

「それに何だかネギ君って見てるとイジリたくなるよね、性的な意味で」

「円と桜子もそう思う? それじゃ、いっちょヤっときますか?」

「「さーんせーい♡」」

 

 柿崎さんの言葉に同意する椎名さんと釘宮さん。

 3人は巧みに連係しながら僕の服を脱がそうとしてきた。

 

「はーい、ぬぎぬぎしましょうねー」

「うわわわ、やめっ、やめてくださいーーっ」

「だいじょーぶだよー、ネギ君。痛くなんてしないから♡」

「むしろ気持ちいいらしいよ。した事ないけど」

 

 コートとスーツの上を脱がされた。

 ズボンも脱がされそうになってるけど必死に抵抗する。

 僕何されるの!? 気持ちいいって何が!?

 

 何だか怖くなった僕は明日菜さんに助けを求めた。

 

「あ、明日菜さん助けてーーっ!」

「え? ちょっ!? アンタ等子供に何してんふひゃあ!?」

 

 こっちに気付いて柿崎さん達を止めてくれようとした明日菜さんが変な悲鳴を上げた。原因はいいんちょさんだ。蕩けた顔をしながら明日菜さんの背中から抱き付いて胸をモニモニと揉んでる。

 

 意味が、わからない。

 

「ちょ、ちょっと委員長!? んっ、ア、アンタ何やって、あっ、くぅ、何やってんのよ!?」

「おかしいですわ、おかしいですわ。ネギ先生にならまだしも、何故私が明日菜さんにこのような気持ちを抱かなければいけないのですか。ええ、わかっています、わかっていますとも。全てはこの生意気なおっぱいがいけないんですわ。見境無く周囲を誘惑する小憎たらしいコレが全て悪いに決まっています。ではどうするのですか? 雪広 あやか。諸悪の根源たる存在をこのまま放置するというのですか? 否! 断じて否! これ以上の被害者が出る前にこの私自らが引導を渡して差し上げます! 覚悟はよろしいかしら、明日菜さん!」

「人の胸揉みながら好き勝手言ってんじゃないわよ、このバカん長! ひあっ、だ、だから揉むな! 脱がすな! 摘むなーーー!!」

 

 なんか凄い事になってる。

 ダメだ。明日菜さんは頼れない。

 木乃香さんもおかしくなっちゃったし、桜咲さんは意識を取り戻したみたいだけど木乃香さんに押し倒されてるから動けない。

 杖は職員室に置いてきたから詠唱魔法も使えない。

 どどどどどうしよう!?

 

「うう、うわああああん!!」

「「「あ」」」

 

 矢継ぎ早に変化していく状況について行けずパニックになった僕は、手足を必死にバタつかせてなんとか柿崎さん達の拘束を振り解き、おかしくなった3人から逃げる為に教室の外に出て走り出した。

 

「「「待ってー、ネギくーん♡」」」

「イーーーヤーーー!」

 

 本当は廊下を走っちゃいけないんだけど、なりふり構わず我武者羅に走る。呪文詠唱を必要としない簡単な身体強化を使ってるのに逃げ切れない。

 

 3人共足速いよ!

 それにこのままじゃいずれ体力切れになって捕まっちゃう。

 運動能力を強化出来てもスタミナを強化出来るわけじゃないし。

 

 限界を感じて焦り始めた僕の行く先に、見覚えのある後ろ姿が見えた。

 あれは……早乙女さんだ!

 

「早乙女さーん、危ないです! 逃げてー!」

 

 僕の声が聞こえた早乙女さんがこっちに振り返った。

 

「え? あ、ネギ君じゃん。どしたのって何じゃありゃあ!?」

 

 僕を追いかけて来ている柿崎さん達の異様な様子を見て驚く早乙女さん。彼女はそのまま僕の横に並んで走り出した。

 

「で? ホントどしたのアレ?」

「そ、それがちょっと色々あって追われてて……」

「アハハ、またなんかやらかした? 私が言うのもなんだけど、ウチのクラス悪ノリするヤツ多いからねー」

 

 そう言って楽しそうに笑う早乙女さん。

 ていうかまたって……。

 僕だって好きでしてる訳じゃないのに。

 

「ま、そーゆー事ならおねーさんに任せなさいってね」

「え? あ」

「こっちこっち♪」

「あわわわ」

 

 ウィンクしながら僕の手を引いて、走るスピード上げる早乙女さん。簡単な身体強化をしている僕を容易に引っ張っていけるくらいの足の速さを見せる彼女に、僕は少し意外に思いながら驚いた。

 

 柿崎さん達もそうだけど文系に見える早乙女さんもこんなに足が速い。

 麻帆良じゃ皆こうなのかな?

 

 少し振り返って見ると、あんなに足が速かった柿崎さん達がどんどん追いつけなくなっているのが見える。

 

 わあ、早乙女さん凄いなぁ。

 もしかして明日菜さん並に足が速いんじゃないかな?

 これなら逃げ切れるかもしれない!

 

「ネギ君。次の角、左行くよー」

「は、はい!」

 

 そんな事を考えてたら早乙女さんから声をかけられた。彼女の指示通り、見えてきた角を左に曲がる。

 

「はい、ここ入ってー」

「はい!」

 

 曲がってすぐの両開きの大きな扉を開けて中に入る。早乙女さんは入ってすぐ扉に鍵を掛け、唇の前に人差し指を立てながらシーっと「静かに」のポーズをした。僕も頷きながら両手で口を押さえ息を潜める。

 しばらくそうしていたらバタバタと複数の足音と話し声が聞こえてきた。

 

「あれー? ネギ君いなくなっちゃったよー?」

「むぅ、ハルナに先越されたかぁ」

「早乙女ってあれでウチのクラスの図書館探検部の一員だからねぇ。今回は相手が悪かったわよ」

「うぎぎぎ、うら若き純朴少年の初物がー!」

「まあまあ抑えて抑えて。予定とは変わっちゃったけど、この際だし3人でスる?」

「そーしよっかー。私そろそろガマン出来なくなってきたかもー」

「フフ、2人にクラス公認エロ番長の実力を見せ付けてあげるわ!」

「はいはい、期待してるわねー」

 

 そう言って3人はどこかに去って行った。僕は逃げ切れた安心感から脱力して思わずため息を漏らしながら、助けてもらったお礼を言う。そんな僕に少し顔を赤くした早乙女さんが尋ねてきた。

 

「……………ねえネギ君。本当に何があったのよ? なんか聞き捨てならないセリフが聞こえたんだけど」

「え? え、え~と…」

 

 い、言えない。

 実は魔法でホレ薬を作ってみたんだけど、木乃香さんのおやつと混ざって変質した所為で皆おかしくなった、とか絶対言えない。

 大体、魔法の事は秘密だし。

 この騒ぎの収拾とか教室内の後始末とかやらなきゃいけない事がいっぱいあるけど、今は何とか誤魔化さないと!

 

 僕は何か誤魔化せる物がないか逃げ込んだ部屋の中に目を向けてみる。そこにはメルディアナ魔法学校の書庫に勝るとも劣らない大きさの図書室があった。

 

「わーーっ。お、大きい図書室ですねー」

「露骨過ぎて無理があると思うわよ? ネギ君」

「ほ、ほんがいっぱいだー。こりゃすごいやー(棒読み)」

 

 強引に誤魔化した。早乙女さんもヤレヤレって感じで肩を竦めながら説明してくれた。

 

「麻帆良ってすっごい古くてさ。昔、ヨーロッパ……だったかな? ソッチ系の人が来て作ったんだって。アホみたいに歴史が長いから蔵書数もどんどん増えてってねー。大学部の図書館島とかもっと凄いよ」

「へえーー。詳しいんですね、早乙女さん」

「ん~、これでも図書館探検部だからねー」

 

 僕は彼女の説明に感心しながら図書館探検部って何だろう?と疑問に思い、早乙女さんに聞こうとした。けれどもその前に僕を抱き締めるように背後から腕が身体に絡まり、背中に凄く柔らかい感触が伝わってきた。振り返ってみるとさっきよりも顔を赤くした、具体的には蕩けた顔(・・・・)をした早乙女さんが僕を抱き締めて微笑んでいた。

 嫌な予感を感じつつ、僕は彼女に尋ねてみる。

 

「さ、早乙女さん? ど、どうかしました?」

「んふふふ♪ さあ? 何だと思う? ネギ君………………カプッ」

「うひぃっ!?」

「ふふ、可愛い声」

 

 み、耳を噛まれた。

 痛くはないけど変な感じにゾワゾワする。

 それに抱き締める腕の強さが増してる。

 さらには柿崎さん達と同じ様子の早乙女さん。

 

 コ レ ハ マ ズ イ

 

 僕は即行逃げ出した。

 

「う、うわーーん! だれかーー!」

「ネギ君待てーー♪」

 

 本棚を利用して懸命に逃げる僕。

 そんなのカンケーねーとばかりにひょいひょい本棚を飛び越えて追ってくる早乙女さん。

 

 魔法が使えない僕が彼女に敵う訳がなく、結局すぐに捕まって押し倒された。早乙女さんは押し倒した僕の上に跨って焦点の合わない視線を向けてきてる。

 

「つっかま~えた♪」

「あう~~……」

 

 なんで早乙女さんまでおかしくなってるんだろう?

 ここには皆がおかしくなった原因だと思うピンクのアレはないのに。

 アレがベッタリ付いてたコートとスーツの上は教室で脱がされて置いて来たし。

 

 そう考えていた僕の視界に気にしていなかったズボンの裾が映った。そこにはズボンにベットリと付いた結構な量のピンク色のアレが。

 

 ここにも付いてたー!?

 

 驚愕している僕を余所に、早乙女さんはどんどん顔を近づけてきていた。

 昨日やった明日菜さんの告白の練習の時みたいに心臓がドキドキする……って!?

 

「だ、ダメですよ、早乙女さん! 生徒と先生がそーゆー事しちゃいけないってお姉ちゃんがー!」

「ネギ君。禁断の愛って甘美な響きで良いと思わない?」

「思いませんーーー! あ、明日菜さーーん!」

「あ、こういう時に他の女の名前を呼ぶのは感心しないよ? ネギ君」

「そんな事言われても!?」

「しょーがないねぇ、おねーさんが忘れさせてア・ゲ・ル♡」

「だーーれーーかーむぐっ!?」

「ん………」

 

 キスされた。

 両手でガッチリ頭を掴まれてるから逃げられない。

 腕で押し退けようにもビクともしない。

 そうこうしてる内に、僕の口の中にナニカが入って来た。

 ぬるりとしたそれは口の中を縦横無尽に蹂躙していく。

 ナニカが口の中を蹂躙する度に変な感覚が全身に走って意識が朦朧としてきた。

 

 その後、意識を失う寸前に僕の耳に聞こえてきたのは、何かが壊れる音と明日菜さんの怒鳴り声。

 そして誰かの呆れるようなため息だった。

 

 

 

 その夜、意識を取り戻した僕は木乃香さんに心配されつつ、明日菜さんにお説教された。

 次の日、学園長としずな先生からも厳重注意を受けた。

 トホホ……。

 

 あ、でも学園長が言ってた事態に対処してくれた人って誰なんだろう?

 聞いてみたけど僕にはまだ早いって教えてもらえなかった。

 迷惑掛けちゃったし出来れば謝りたいなぁ。

 

 

 

 

 

 * * * *

 

 

 

 

 

『チア三人娘のその後』

 

―――麻帆良学園 学生寮 651号室・朝―――

 

「…………」

「…………」

「すぴー」

 

 早朝、柿崎 美砂と釘宮 円は固まっていた。

 この状況は一体何なのか。

 理解できない、いや、したくない。

 2人は同じ想いを抱いていた。

 ちなみに椎名 桜子は未だ夢の国の住人である。

 

 さて、2人が何故寝起き姿のまま固まっているのか。

 原因を探ってみよう。

 

 3人は同じ部屋のルームメイトだ。

 同じ部屋で寝ていた事に問題は無い。

 いつもの事だ。

 だがしかし、今回は少々事情が異なる。

 

 3人が同じ布団で寝ていたからか?

 否。

 滅多にないが寝惚けて人の布団に潜り込んでしまう事は以前にもあった。

 特に冬場。

 故にそれは許容範囲である。

 

 では何が原因なのか。

 

 それは『3人が全裸であり、明らかに事後にしか見えない』という事だ。

 ついでに『汗やら何やらでベタベタする肌』

 『何かを吸収して湿っている布団』等の判断材料もある。

 

 2人は思った。

 もしかして、自分達は友達の範疇を越えた事をいたしてしまったのだろうか?

 思い返せば昨日の放課後からついさっき起きるまでの記憶が無い。

 いや、正確には酷く曖昧だった。

 

 覚えているのは放課後、教室で雑談していたら子供先生がやって来た事。

 自分達と同じく教室に残っていたクラスメイトと子供先生が何かしていた事。

 突然教室内に発生した謎の煙と飛んできたナニカ。

 そして朧気な情事風景。

 生々しい柔肉の感触。

 舌に残る僅かな後味。

 鼻腔に残る甘い香り。

 耳に残るお互いの嬌声。

 

 それらを思い出し、認識し、「ヤっちまった」と自覚した2人は……。

 

「…………おはよう、円。寝惚けてパジャマ脱いじゃうとか私達アホよねー」

「…………おはよう、美砂。そうね、ネギ君来てからバタバタしてたし疲れてるのかしらねー」

「「あはははは」」

 

 全力でスルーした。

 どうやら無かった事にするつもりらしい。

 いそいそと服を着る2人。

 なんとか体裁を取り繕ったところで3人目が目を覚ます。

 

「ふあぁぁぁ………2人ともおはよ~」

「おはよう、桜子。寝癖凄いわよ、あんた」

「おはよう、桜子も早く服着なさい。風邪引くわよ」

「うん~……それにしてもー」

 

 世界はこんなはずじゃなかった事ばかりとは良く言ったもの。

 2人にとって現実は非情であった。

 

「昨日は気持ち良かったよねー。次はいつスるー?」

「「蒸し返すなああぁぁ!!」」

「アイター!?」

「あんたバカなの!? ねえバカなの!?」

「何でスルーしてるのに言っちゃうかなこの娘は!?」

「えー? 何で私怒られてるのー?」

 

 阿鼻叫喚である。

 

「OKOK、落ち着きなさい柿崎 美砂。まだ慌てるような時間じゃないわブツブツブツブツ……」

「私はノーマル私はノーマル私はノーマル私はノーマル私はノーマルブツブツブツブツ……」

「??? 変な2人ー」

 

 『椎名 桜子』

 実は某百合少女達と小1の頃から何気に同じクラスであり続けた為なのか多大な影響を受けており、ソッチ関係の事についてはかなり寛大な感性を持つに至っていた。

 

 この程度では彼女の日常は揺るがない。

 それが彼女にとっての幸運な事なのかどうかは彼女自身にしか判らないが。

 

 

 

 それからしばらくの間、挙動不審な2人と通常運転な1人のチア三人娘が目撃されたそうな。




明日菜のおっぱいは生意気なおっぱい。
異論は認めます。

夕映視点は現在7割完成。
今月中には更新できる………はず!

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