元魔王ククルさん大復活!   作:香りひろがるお茶

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第七話     なんかしらんけど、わし焼失

 

 「ひ…、陽じゃ…。なんと眩しい…。なんと明るい…。なんと温かい。」

 

 陽光降り注ぐ洞穴の入り口で、自身を抱きしめ膝を折る幸薄そうな少女がいた。全く似合っていないその台詞を唱えていたのは勿論元魔王ククルであった。口調で丸わかりである。はて、ヌーとの戦闘を切り抜けた彼女が何故ここまで弱り切っているのだろうか。

 

 時は災厄の魔女との戦闘後に戻る。宝箱から出てきた少女、復讐ちゃんからもらったぷちハニー、それこそが今回の元凶であった。

 

 取り敢えずククルはハニーに対する感情を押し殺し、なんとかぷちハニーを持ち帰ろうと試みた。しかし重さ150kgのぷちハニーを運ぶのは流石にしんどい。精魂すり減らして運ぼうにも、どうしても時間が異様に掛かってしまった。更に最悪だったことは、ゆっくりと移動しているためか、頻繁に魔物が襲いかかってきたことである。ただでさえハニー運びで疲れた体に、少しでも衝撃を加えたら爆発するぷちハニー。ぷちハニーを地面に降ろそうにも、魔物に蹴り飛ばされでもしたら大変なことになる。必然的にククルはぷちハニーを抱きかかえるような体勢で、頭突きと蹴りで魔物を倒すしか無かった。少年漫画の地獄修行か何かだろうか。

 

 兎に角、ククルはこの苦行を乗り越え、ついにダンジョンからの脱出を果たしたのであった。空のないダンジョン内にいたためにククルにはかなりの時間を費やしたとだけしかわからなかったが、その実なんと二週間もかかっていたのであった。まるで救出された悲劇のヒロインかのような乙女台詞も納得である。やはり、全く似合ってないが。

 

 「もうダンジョンなんて懲り懲りじゃ…。」

 

 残念ククル。まだ街までの道のりが残っているぞ。

 

 

 

 「けひっ、はっ、干からびてしまうのじゃ…。」

 

 やりきった、ククルはやりきった。見える。カスタムの街の入り口である洞窟が見える。もうすぐだ。ぷちハニーの呪縛から解き放たれるぞ…。

 

 

 

 「ふーむ。おいシィルこっちにこい!」

 

 「なんでしょう、ランス様。」

 

 ククルが佳境に入る頃と同じくして、カスタムのアイテム屋には珍しく客が訪れていた。このアイテム屋を含む周辺の土地はククルが最初に訪れる少し前にある事件によって沈下してしまった。この事件を解決した英雄と彼の奴隷シィルがその客であった。彼らはこの街を出る前にアイテム屋で身支度を整えたく、トマトはアイテム屋引っ越しにの手伝いをさせることを条件に彼らに装備を幾つか見繕うことを約束したのであった。しかしランスという男は働かない。全て奴隷に仕事を押し付け、何か面白いものはないかと荷荒らしをするだけであった。酷い。

 

 「どうだ! エロエロでいいだろ?」

 

 「そ…そうですね…。」

 

 ランスが手に持っていたのは一見、JAPAN*の民族衣装に見えなくもない服だった。しかしながら、正しく魔改造和服であった。肝心の所が全く隠せていない。更には和服ということもあり、下着なしで着ることを考えると…。

※ 東の果ての島国 

 

 「何をぼさっとしてる。早く着てみろ。」

 

 猿と、形容すべきか。むふふとイヤラシイ目つきで笑うその顔は、確実に英雄と呼称されるものがするような表情ではないと思うのだが。

 

 「はい、ランス様。…えっ……これを…ですか?」

 

 ぽかり。げんこつである。何故かランスがシィルを殴る時、ぽかりと優しい擬音が流れるが、確実に、痛い。ひんひん…。

 

 アイテム屋の仕事もそっちのけでシィルはあんなことやこんなことに…。

 

 「なんだか私、お邪魔ですかね。」

 

 この場にはアイテム屋の店主たるトマトもいるのだが完全に蚊帳の外である。性的なものに興味関心も何もないが、少し寂しい。

 

 「ん? なんだ、トマトも仲間に入りたいのか?」

 

 「やっぱり蚊帳の外にいさせてもらいますー。」

 

 相手が街を救った英雄とはいえ、性行為となるとあまりいい感情が思い浮かばないトマトである。仕方ない、シィルちゃんの為にも、ここでトマトは身を引きます、およよよよ。

 

 

 

 「コヒュー…フヒゥー…。着いた…かの…。」

 

 ククルは朦朧としていた。骨がないために、力の抜けたその体は少しずつ人間の形を失っていた。あまりの異様さに、隣のおばあちゃんも言葉を失う。ガチャリ。

 

 「わっ、びっくりしました。お客さんですかね?」

 

 戸口を開けると都合よくトマトが目の前にいた。

 

 「と…トマト…。わしじゃ…帰ってきたのじゃ………。ほれ…宝も………。」

 

 報われた。ククルは約束を違えなかった。己の誇りと丸い物の全てを背負い、決して約束は裏切らなかった。

 

 

 

 「えーと、どちらさんです?」

 

 

 

 彼女はその瞬間、雪原の銀世界のように、静かに息を引き取った。悲しいかな、世界は彼女を裏切った。

 

 っていかんいかん。トマトに会ったのは幾分前の事だし、言葉も殆ど交わしていない。一方的に恩を感じているだけだ。彼女が忘れてしまっているのも無理はない。

 

 「……ッッハーッ…、ハッ…ハッ…ワ、忘れてしまうのも…仕方ないことじゃ……。」

 

 ククルは首の皮一枚、いや、頭に生えたアホ毛っぽい白ヒジキでなんとかルドラサウムに帰ろうとする魂を掴んでいた。

 

 

 「むっ。なんだか俺様の知らん子がいるぞ。カスタムの女の子は全員知ったつもりだったんだがどこに隠れてたんだ。」

 

 

 半ば無意識に声をする方へと顔を向けてみると、ハイパー兵器丸出しの性魔人がいたのであった。

 

 しおしおとヒジキが萎れていく音がする。能面のような不可思議な笑顔を貼り付けたまま、ククルはルドラサウムの元へ、旅だった。

 

 

 

 その腕から一生懸命抱えてきた宝物が、

 

 

      ぽろり

  

       ごとり

 

        ぴかり

 


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