元魔王ククルさん大復活!   作:香りひろがるお茶

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 長かった…。5000文字以上書くと文章の整合性?がとれているか不安になりますね。


第二十九話   リーザス奪還編 終幕

 「ランス様! 痛いの痛いのとんでけー。」

 

 「がはは! ノスの野郎は逃がしたがこれで後は魔王だけだ。一気に畳み掛けるぞ!」

 

 遂にランス達は魔人ノスを退けた。最早残るは目の前にいるであろう魔王一人。この高揚し切った流れに乗り遅れてはならないと、戦士としての本能がランスに囁く。

 

 「ランス殿。リーザス軍はほぼ壊滅状態です。先ほどの戦いと違い援軍は望めません…。それでも行くのですか…?」

 

 といったものの、マリスが言うように回復要因がセルとマリスしかいない現状では、既に壊滅したリーザス軍の助勢は見受けられるわけがない。ノス戦では多勢に無勢で押し切ったものの、ノスよりも更に上をいく存在であるジルに勝てるのだろうか。

 

 「相手は魔王なのよ…それにノスと一緒にここから出て行くかもしれないわ!」

 

 状況だけで言えば、明らかに分が悪い。加えてかなみの希望的観測も可能性としては無いわけでもない。眉唾ものだとしても信じてみたくなるというものが人間だ…。

 

 「ん? あぁそう言えばシィルも戻ったしなぁ。」

 

 ランス一行に不穏な空気が流れ始める。もう十分じゃないのか? 魔王になんて勝てるのか?

 

 「バカモン!! 魔王をこのまま放置すれば人類はおしまいだぞ! 大体目と鼻の先じゃないか!!」

 

 ランス達全員に対し大声を上げたのは魔剣カオス。誰よりも魔王を殺す事に情熱をかける男であった。ちゃっかり王女に馬鹿者と言ってしまったが大丈夫だろうか。既に淫乱呼ばわりもしているのだが。

 

 いかんいかん、危ないところだった。儂が叱咤せねば心の友は本当に挑まずに帰りそうだわい。儂がランスをしっかり支えねば。

 

 「ちっ、わかったわかった。おいリア、魔王を倒した暁にはリーザス城の女と自由にやる権利を必ずもらうぞ。」

 

 「ダーリンのためだから仕方ないけど…、私が一番最初にダーリンとエッチするんだからね!」

 

 ぷぅと頬を膨らませて答えるリア。その胸中はどれ程の葛藤に苛まれているのだろうか。

 

 「リア様…御労しや…。」

 

 ほろほろとマリスの目から涙が溢れる。一体どこにこれ程まともな身分も無い殿方をお慕いする王女がいようか…。これはもうランス殿にリーザス王と

なっていただくしか…。

 

 「おうし怪我人は下がってろ!」

 

 

 

 門の開く音が重苦しく響く。リーザス城王座に座っていたのは、封印の間であった女、魔王ジル。浮世離れした美しい肌に床にまで伸びた絹のような長

髪が、人間とは異なる存在だと淑やかに、それでいてギラギラと主張しているかのようだ。

 

 

 

 

 「来ましたね。カオス。まさか復活するとは思いませんでした。二度と力を取り戻さぬよう粉砕し、再び葬り去ってあげましょう。」

 

 ジルはゆっくりと立ち上がる。その起伏のない声はまるで人形のようだ。

 

 「はっ! 出来るもんならやってみろ!!」

 

 先の戦闘のようにはいかない。こちらも先手必勝、無駄な会話は控えレッドカーペットを踏みしめランスは一目散にジルへと跳びかかった。

 

 「私は魔王ジル。人間風情が追いつけると思いますか?」

 

 ランスは上段一発で決めてやるとカオスを振り下ろす。が、その刀身は予想とは違い、ガツンと王座にぶち当たった。

 

 「えっ? はっ? 何が起こった?」

 

 ジルは一体どこにと振り返ってみれば、いつの間にか後方にいたランス以外の誰もが倒れ伏しているではないか。一体どのような曲芸をすればこのよう

な事態に陥るというのだろう。ノス、ジルと先手を取られてばかりである。それにジルの姿が見えない。

 

 「凄まじい速度だ…。ランス! ここは一旦防御に回れ! 奴の魔法は儂が防ぐ!!」

 

 言った側から雷魔法が唸り声を上げてランスに襲いかかる。雷魔法はその特性から、兎に角速い。見て避けることなど不可能である。さしものランスもこれは避けられないと出来る限りの防御姿勢を取った。と、カオスの刀身からもやもやとオーラが現れ、ヒュっとジルの魔法に突撃。二つの衝撃は相殺され、輝きを失う。どうやら多少勝機はありそうだ。

 

 これで対魔法はどうにかなった。だが問題が全て片付いたわけではない。依然として魔法は止めどなく迫り来る上に、どこにもジルの姿がない。ただひたすら小鳥の泣き声のような不可思議な高音が、怒涛の勢いで鳴り響いている。

 

 「おいおい、見えないんじゃ攻撃も出来やしないぞ。」

 

 この音の正体はジルの足音だ。足音と称していいものかわからないが、ジルは高速で動き続け、その姿を不可視としているのだ。

 

 「くっ、儂は魔法を防ぐだけで手一杯じゃ。なんとかするのだ!」

 

 これが魔王と人間の差。絶対的なまでの肉体能力の差である。こればっかりは魔剣カオスと云えどもどうしようもない。

 

 「て言ってもなぁ…どわっ!?」

 

 「勘だけはいいようね…。」

 

 突如としてジルが姿を表し、ランスの右後ろからその爪を刃物のように突きだしてきた。ランスの天性の勘がなせる技か、なんとかランスは直前に気付き、難を逃れることが出来たが、魔法に加えて何時くるかわからない攻撃、突破口がまるで見えない。

 

 「また消えたぞ…。ウガーッ! 魔王らしく正面から戦ってこんかい!!」

 

 相手が見えない以上、攻勢に打って出ることも出来ず、時間と共にいらいらばかりが募る。ランスの気は長い方ではないのだ。

 

 「落ち着けランス…。奴が攻撃する一瞬、絶え間なく続いていた魔法が止まった。その時魔法が飛んできた方角が魔王のいる場所だ。」

 

 「んなまどろっこしい…。」

 

 カオスもランスをサポートしようと必死だ。なんとかジルに一太刀浴びせたいものだが残念ながらランスはその手の高等戦闘技術に疎い。

 

 「また右後だっ!」

 

 「どりゃ! やったか!?」

 

 カオスの声に合わせて全力で振りかぶる。しかしその手にいつもの感触が伝わってくることはない。相手がどうしようもなく速過ぎる。

 

 「振るのが遅すぎるわっ! 油断するんじゃない!」

 

 「なにぃ!? 俺様に文句言うつもりか!!」

 

 一向に攻撃できず、カオスによって守られているこの現状にランスの苛立ちは高まるばかりだ。

 

 「さっきから所詮剣の癖にベラベラと口出しばかりしやがって!」

 

 「こらっ! この状況で余所見する奴がいるかっ!?」

 

 この隙を見逃す愚か者がどこにいようか。ジルは再びランスを強襲、あわやここまでかとカオスの脳裏をよぎる。だが、予想外にもランスは集中力を欠いた様子もなく、ギリギリではあるものの、上体を反らしジルの攻撃を避ける。忘れかけていたが、この男も只者ではない。人類最強の男ランスなのだ。

 

 「ちっ、無駄に逃げ足だけは早い魔王だ。」

 

 全く拉致が明かない。今はカオスがジルの魔法を防いで入るが、カオスについては知らないことのほうが多い現状、何処まで頼ることが出来るか…。

 

 くそっ、どうにか突破口はないのか。さっきからジルはやたら右後方から攻撃を仕掛けてくる。それに無駄だとわかってる魔法をやたら撃ってくるのも変だ。なんで右後方からだけなんだ…? 確かにカオスを持っているのは左手、保身に回るなら右後方から…なのか? 取り敢えず右後方だ。右後方。

 

 「くぅ、魔法が激し過ぎる。ジルの居場所が掴めん…。」

 

 「がはは! それなら問題ないぞっ! どうせこっちだ、とりゃ!!」

 

 なんとなく来ると感じたタイミングでくるりと身体を回転し、カオスを振り下ろす。下ろし切る直前まで何も見えなかった空間だったが、突如何かとぶつかる衝撃と共に、倒れ伏そうとするジルが視界に入った。やはり右後方から来たか。

 

 「はぐっ!? う、うぅ。」

 

 あーん? なんか様子が変だな。強さは段違いだがまるでかなみを相手にしているみたいだ。さっきの魔人みたいな気迫もないし、何よりうじうじして思いきりがない、それになんというか何かを怖がってるみたいだ。

 

 「まぁ考えても面倒臭い。ランスアタァアアアック!!」

 

 膝をついたジルに渾身のランスアタック。だが流石の魔王か、ジルは直に体勢を立て直し、姿をかき消した。どうやらランスアタックは避けられてしまったか。

 

 ランスは同じように右後方の攻撃に備え構えるが、一向に攻撃してこない。雷魔法だけが絶え間なく続き、視界がチカチカと点滅する。

 

 「まーた逃げ腰か。しかも全然攻撃してこなくなったぞ。」

 

 「恐らく奴は儂が消耗するのを待っているのだ。何か手を打たなければ。」

 

 手を打つか…。紐でも引っ掛けてみるか? それともハイパー兵器を見せ付けてみるか? あー、もうやめだやめ。

 

 「走り回ってるんだったら適当に振りゃ当たるだろ!」

 

 ここでランスの堪忍袋が遂に切れた。雷魔法などお構いなしに、ブンブンと手当たり次第にカオスを我武者羅に降りだしたのだ。

 

 「ひっ!?」

 

 だがなんとそれが功を奏した。何を思ってかジルがその姿をさらけ出したのだ。これはランスの幸運か、それとも必然だったのか。

 

 「姿を表したぞっ! 今じゃランス!!」

 

 瞬時にカオスの切っ先がジルの喉元に当てられる。ジルは堪えるように首元に当てられたカオスを睨みつけていたが、段々とその目に恐れがありありと浮かび、微かに身体も震えだしたではないか。

 

 けっ、魔王がこんな只の女にしか見えない奴だったとはな…。なんかこのまま殺してもすっきりしないな…。

 

 

 

 

 

 「ランスさん! 油断せず直に封印致しましょう!」

 

 そこにセル・カーチゴルフが駆け寄る。どうやら怪我は大丈夫なようだ。

 

 「おぉ、セルさん。全員もう大丈夫なのか?」

 

 「ふんっ、私のマリスにかかれば回復なんてちょちょいのちょいよ!」

 

 「恐縮です。」

 

 全員が立ち上がり、ジルを囲むように並ぶ。もう彼女に逃げ場ない。

 

 「…ま、待って。」

 

 「なんだ? 命乞いか?」

 

 ランスはあくまでもカオスを話さずにジルへと視線だけを送る。ううむ、やはりいい女だ。ここで殺すのは勿体無い。出来ればエッチの一回ぐらいしたいものだ。

 

 「ランス! 早くしなさいよ!!」

 

 ジルの言葉に耳を傾けるランスに周囲は焦らざるをえない。相手はあの魔王なのだというのに此奴は何を仲良くしているのかと。

 

 「私は…もうカオスから逃げることは出来ないでしょう。ですが、私も魔王の前に一人の女。カオスを持つ男よ…封印をする前に私に女を教えて欲しい の…。」

 

 これはなんとも願ったり叶ったり。相手の方からエッチを求めてくるとは。これで完全和姦達成である。ランスがやらないわけがない。

 

 「ランス様っ! これは罠です!!」

 

 うきうきとし出すランスにシィルが警告する。これまでの道中で、ランスは確かに様々な困難を乗り越え、悪魔とまでエッチをした男だが、魔王とエッチだなんていくらランスでも危険過ぎる。相手は歴代最悪と呼ばれ魔性の女だというのに。

 

 「だーっ! うるさい! 女の願いの一つや二つ、聞き入れられなくてどうするんだっ!! これは男の使命なんだぞっ!!」

 

 いやはやそれはどうなのだろうか…。しかしこうでもなったらランスはテコでも動かない。セル以外の面子はそのことをよーく知っている。

 

 「私も一緒じゃなきゃヤダー!」

 

 何故リアはそうなるのか…。淫乱と称したカオスの気持ちもわからなくはないかもしれない。

 

 「ヤキモチ焼くんじゃない! さぁ行くぞジル!」

 

 結局、ランスの行動を止めることは出来ず、ランスはジルを連れて奥の寝室へと入っていってしまった。

 

 

 

 

 「だいぶ時間が経ったけどランスは大丈夫なの?」

 

 志津香としてはランスの命なんて本当にどうでもいいことだが、魔王の生死を左右するとあっては心配の一つや二つしてしまう。

 

 「心配あるまい、ここからでも奴の力は殆ど儂が抑えておる。少なくともあのランスが寝首をかかれることはないだろう。」

 

 「ふーん。便利なものね。」

 

 伝説の魔剣もそう言っているし、何よりランスが死ぬわけがないと他のメンバーは安心した様子である。だが、シィルの胸騒ぎだけは止まらなかった。相手は魔王。問題がない筈がない。

 

 どうかランス様…ご無事で…。

 

 

 

 

 

 「ランス、貴方は素晴らしい男ね…。素晴らしい時間だったわ…。」

 

 天蓋が軽く揺れ動き、添い寝をするランスとジルが見える。どうやら一発かました後のようだ。しかし、どうしてジルはランスと寝るなんて事をしたのだろうか。カオスを持つランスをガイと重ねて慰めにでもしているのだろうか。

 

 「俺様は世界一カッコイイ男だからな。当然だ。」

 

 ランスも積極的なジルにご満悦のようである。

 

 「私は…カオスに封印されたくはないわ…。奴に封印されるくらいなら…。」

 

 そんなランスに枝垂れかかるように被さり、ジルは胸中を打ち明ける。ランスとしてもこんないい女を封印なんてのは勿体無いなぁと思案していると、突如としてジルの周りの空気がざわめく。

 

 「ん? なんだ!?」

 

 「貴方と共に永久の眠りにつくわ!!」

 

 ジルの叫びと共に金縛りがランスを襲う。一体全体どうしたというのだ。ジルの力はカオスが封印しているのではなかったのか。

 

 「なにぃ!? カオスの奴めっ! 力が残ってるじゃないか!?」

 

 ジルはランスに馬乗りになったまま、呪文を長々と唱え続けている。この呪文はよくないと警鐘ががなりたてる。

 

 「ヤバイぞヤバイぞヤバイぞ。おい誰か助けに来いっ!!」

 

 「アハハハハハハハハハハハハハハハ………。」

 

 遂に呪文が発動した。ジルとランスの間に不可思議な黒点が現れたかと思うと、ぐわっと広がり、ランスとジルを包むように呑み込んだのだ…。

 

 

 

 

 

 「ランス様っ!!」

 

 ランスの叫びにシィルが一目散に駆けつけた。だが既にそこにランスの姿はなく、ぽっかり空間が切り取られたかのような穴が空いているだけだった。恐らくランスはあれに飲み込まれたのだろう。

 

 「これは…、ジルの奴め! 時空の狭間に逃げおったか!!」

 

 「シィルちゃんダメよ!! もう無理だわ!!」

 

 「ランス様ぁああ!! いやぁあああああああああああああああ!! 離してぇええええっ!!!」

 

 ランスを追って穴に飛び込もうとするシィルを志津香が抑えこむ。魔王の魔法に捉えられたのだ。ランスの命は既にないものと考えた方がいい。シィルを無駄死にさせるわけにはいかない。

 

 「おい何しとるんじゃ。はよ行かんと閉まってまうぞ。」

 

 と、唐突にベットの下から謎の物体が飛び出してきた。この見覚えのある怪奇物体はカスタムにいたククル!? 何故か知らないが顔が真っ赤である。そもそも何故ここにいるのだ。

 

 「えっ!? あんた生首!! どうしてここにっ!? あっ、シィルちゃん!!」

 

 ククルに驚く志津香の隙をついて、シィルは拘束を無理やり解くと、躊躇なく穴に飛び込んでいった。シィルがランスをどれだけ思っているかが伺える行動である。

 

 「そんじゃわしもっと。皆の衆、またなのじゃっ!」

 

 シィルに続いて、意気揚々とククルは穴に飛び込んでいった。次第に穴は小さくなり、完全に掻き消える。

 

 かくして、英雄と魔王が行方不明になるという結末を持って、リーザスを襲った未曾有の大事件は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「サテラサマ ドウシマシタ?」

 

 ここは魔人領が魔王城。サテラがホーネットの元に戻り、日がな土いじりを再開して数ヶ月が経とうとしていた。

 

 「ん? いや、サテラが暫く前に感じた魔王の気配はなんだったんだろうと思って。気配は微かだったけど、リトルプリンセスが覚醒したわけじゃなかった。」

 

 こねこねと手を休めずにサテラは続ける。工房にはサテラが用いるための多種多様な土がこんもりと盛られた樽が乱立し、シーザーは身動きが取れないほどである。

 

 「ヤハリ キニナリマスカ。」

 

 「サテラとしてはどうでもいいけどホーネット様が心配してる。ノスも連絡取れなくなったし何かあったのかもな…。」

 

 ジルの覚醒は、全く魔人達には知られていなかった。覚醒した魔王の血はたった5%。どうにも得体のしれない何かが起こったとだけが魔人領でわかっていることだった。

 

 「? シーザー今何かしたか?」

 

 「ナンノ コトデショウ?」

 

 「あれ、気のせいか。でもなんかビリビリするぞ…? 魔王…にしてもちょっと変だぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「クックックック………。アーッハッハッハッハッハッハゲホッゲホッ……。」

 

 「ちょっとは落ち着きなさい…。」

 

 「はぁ………よし! わし、完全復活なのじゃあああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

 

 




 次回は裏話っぽい回になります。活動報告でも記載しましたが、今回の内容に関する質問は次回のネタバレになる可能性が高いので、どうしてもという方は個人メッセージで質問して下さい。ご協力お願いします。

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