元魔王ククルさん大復活!   作:香りひろがるお茶

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 「激襲!? ミネバ・マーガレット!!」みたいなテロップが流れそうな回です。



第二十四話   リーザス奪還編 第十五幕

 「おわっ!? なんだなんだ!?」

 

風と音の暴力がランス達後方から駆け抜ける。

 

 「出口が…!?」

 

 爆発が起こったのはランス達の後方。排水路の出入口となる方角だった。既に排水路は瓦礫の山となり、完全に退路が絶たれてしまった。想定外の出来事に、ランス達はパニックになる。特に最後尾のレイラには吹き飛んできた瓦礫が襲いかかり、かなり危険な状態だ。

 

 「それと、もう一つ。」

 

 焦り慌てるランス達と対極的に、ミネバはあくまで散歩にでも出かけに来たかのように自然に振る舞う。再びミネバがベルトの巾着から取り出したのはまたしても別のスイッチだ。

 

 「そうは行くかっ!」

 

 いくら楽観的思考のランスであっても、あのスイッチを押させる訳にはいかないと直に理解した。突然の襲撃に何が何だか分からないが、こんな所で死ぬわけにはいかないのだ。

 

 「動くんじゃないよっ!」

 

 「ランスっ! ダメよ!!」

 

 だが、もう遅い。既にランス達は完全にミネバの罠にかかってしまっているのだ。そのままの勢いでミネバにとっかかるランスをかなみが止める。

 

 「いいかい、ぼーや。人の話を聞くときは大人しくしてるんだ。このスイッチは丁度お前たちの上に設置されたぷちハニーの爆破スイッチだよ。どういう意味がわかるかい?」

 

 「人質ってこと…? いったい何が目的なの?」

 

 解せない。全員皆殺しにするなら最初から全て爆発させてしまえばいい。そもそも相手が一人だけなのも理解できない。万が一にも考えたバレス達本隊に対する保険だろうか。

 

 ミネバはそんな志津香の疑問の声を全く意に介さず話を続けた。どうやらランス以外は眼中にないようだ。

 

 「ぼーや、あんたがトーマ・リプトンを倒したってのは本当かい?」

 

 「そうだ。俺様こそ真の最強、ランス様だ。糞ババア風情が俺様と会話ができることを光栄に思え。」

 

 ランスの答えにミネバは満足そうに頷くと、指の関節を押さえポキリと鳴らす。

 

 「そうかいそうかい。それじゃあ一つ、人類最強を賭けて仕合でもしてみないかい?」

 

 「断る! 俺様は今忙しいんだ。ババアに構っている暇など無い。」

 

 相変わらずミネバはランスにのみ興味を示しているようだ。ここは一つ不意打ちで魔法を撃つか…。悪いけど、こっちも相手に情をかけてる余裕はない。

 

 「下手な小細工はやめな雌餓鬼! 一歩でもそこから動いてみな。一瞬で全員お陀仏だよ!」

 

 志津香が魔法をぼそぼそと最小限の声量で唱え始めた瞬間、ミネバの纏う空気が一変。その気迫に呼吸が止まりそうになる。

 

 「志津香さん、ここは素直に聞いたほうが…。」

 

 「でもレイラさん…。その傷を放置するのはマズイわ…。」

 

 「私は大丈夫。これでも親衛隊隊長なんですから。」

 

 レイラの傷は暗闇でよく見えないが、生々しい鉄臭さが鼻に届いている。相当な出血をしているのは確かだ。肝心の傷を治すための世色癌を入れた小袋は爆風でどこかに飛んでいってしまったようだ。

 

 「無事にここを通りたければ、あたしを倒していくんだね。ぼーや。それとも何かい。あたしを倒せる自信がないのかい?」

 

 いったい何が目的かと思いきや、この状況で一対一とは…。益々持って分からない。

 

 「ムカっ。俺様に喧嘩を売ったことを後悔しろっ!」

 

 売られた喧嘩は絶対に買う。相手が誰だろうとこの俺様に立ち向かった奴は倒す。そう意気込んでランスは腰のリーザス聖剣を力いっぱい振り上げる。が、瞬間ガキンと甲高い金属音と共に、思わず剣を落としてしまいかねない程の衝撃が腕を襲った。その衝撃の正体はなんてことはない只の壁だ。ここは人一人通れる程度の排水路。端から長剣など振るうことが出来るはずもなかったのだ。

 

 「げっ、ここじゃ狭すぎて剣が振れん!」

 

 「おや、どうしたんだい。ぼーや。来ないならこっちから行くよ!」

 

 対するミネバの両手には既に短剣が構えてある。どうやら爆破といい相当な計画性を持って行われた襲撃のようだ。ランスの武器を封じ、完膚なきままに叩き潰す気か。攻撃手段を失って焦るランスに、遂にミネバが動き出した。

 

 「そらそらそら! 防御してるだけかい!?」

 

 「むぐっ、このババアなんて馬鹿力だ。」

 

 巧みな双短剣がランスを襲う。まともに振ることも出来ない長剣で出来るのは防御くらいなものだ。ミネバの豪腕から繰り出される一方的な攻撃の嵐には流石のランスも耐えかねる。

 

 「それなら突きだ突き! くらえっ!」

 

 「甘いね、そんなデカイ剣で突きだなんて無意味だよ!」

 

 細剣と違い、長剣では突きの動作がどうしても大振りになる。破れかぶれのランスの一撃は、左手の短剣で剣の腹を弾かれ、脇腹を無防備に晒す。

 

 「ぐわっ、やりやがったな!」

 

 爆発的な瞬発力でランスは身体を捻り隙を隠そうとするが、そこで好機を見逃すミネバではない。右手の短剣の抉るような一閃に、遂にランスに深々と傷をつけた。

 

 

 

 

 

 「だいぶ息が上がってるようだね。人類最強ってのは眉唾もんかい? トーマならこの狭い通路でも、もう少しは戦えただろうさ。」

 

 既にランスには身体のあちこちに生傷が刻まれていた。どうしてもランスが攻撃に移ろうとすると、狭い通路が邪魔をする。元来ランスは大振りの攻撃を中心としたスタイルの戦士。この状況では圧倒的不利なのだ。

 

 「畜生。長いのがいけねぇんだ長いのが………んっ!?」

 

 しかし若くして幾度もの視線をくぐり抜けてきたランスはそれで終わるようなヤワな男ではなかった。そう、短ければいいのだ。長くて使いにくいものがあるならば短くすればいいのだ。

 

 「わかったぞ! どりゃああああ!!!」

 

 唐突にランスは左手の長剣を壁に押し付け、右足で思い切り剣の腹を蹴った。

 

 「焼きが回ったかい。目の前に敵がいるってのに関心しないねぇ。」

 

 「そいつはどうかな!?」

 

 本来想定されていない圧力を掛けられ、リーザス聖剣はバキンと半分に割れた。

 

 「ぎゃあああああああああああああああああす!?」

 

 国宝たるリーザス聖剣を自らへし折るなんて! 己の状況も忘れてレイラは叫ぶ___。

 

 「流石俺様。知的でクールな作戦で勝利だ! おりゃおりゃおりゃああああ!!!」

 

 今まで溜め込んだランスの怒号が一気に爆発した。剣先が見えないほどの早さで、縦横無尽の軌跡がミネバに降り注ぐ。

 

 「やるね! だけどこれで同じ条件になったってだけ、まだ勝負は決まっちゃいないよ!」

 

 とは言えミネバはそれだけで倒せる相手ではない。むしろ、これからがランスとミネバの勝負である。

 

 

 

 

 

 「す、凄い…。」

 

 かなみはあまりに苛烈な戦いに驚嘆した。ラジールで戦ったトーマ・リプトンは凄まじい強敵だった。圧倒的な力にその技術、何を持ってしても上回る事な ど出来ないという無言の圧力。そして数々の戰場を乗り越えたという風格が彼にはあった。だがこのミネバ・マーガレットは違う。彼女とランスではその力も 技術も素人目でもそこまで差が無いように思える。トーマにさえ勝てたランスだ。対等くらいにしか感じられないミネバにはきっと簡単に勝てるだろうと、そ う考えていた。しかし、その実ミネバはあのランスに拮抗している。目だ。目が今までの相手とはまるで違う。勝利への執念、いや妄執と言ったほうがいいかも知れないほどの貪欲な渇望がその目に渦巻いているのだ。ランスが斬りつけてミネバに傷を負わせれば、またミネバもランスに一太刀入れる。これこそが、人類最強を決める壮絶な闘いなのだ。

 

 「ちっ、思ったよりも守りがうまいね。ならこれでどうだい!」

 

 お互いに決め手を失い、苛立つミネバはここで仕掛けた。排水路の空間限界まで大きく右手を下から振り上げ、強烈な切り上げを放った。定石ならば、こんな大振りの技は避けて反撃されるのが関の山だ。しかしこの排水路内ではそうもいかない。防御してやり過ごすしか無いのだ。さらに、ランスの剣は中間で折れた状態である。洋剣にはその重厚さに見合った重さがある。それ故に下段からの攻撃を防ぐ場合、いなすのではなく剣の重みを利用して食い止めるのだ。相手が軽量の短剣ならばそれは尚更。ランスも定石通り弾き返そうと防御するだろう。しかしその手に握る剣の刀身は半分しかない。普段よりも軽量なその半剣では経験との不一致から、否しきれる筈もない。ミネバはそこを狙った。

 

 だが、このタイミングにチャンスを見出したのはミネバだけではなかった。ミネバが防御に廻ると考えた切り上げに対して、ランスは驚くべきことに全力で攻勢に転じたのだ。完全に防御を捨てている。

 

 このままだとあたしの攻撃も通るけどぼーやの攻撃も避けられない! こいつ!? 本気で相打ちにでもなるつもりか!? 

 

 「くっ! あたしはこんなところで死ぬわけにはいかないんだっ!」

 

 その判断が勝負の明暗を分けた。急遽刃先を防御に転じたミネバの短剣は、全力で振り下ろされたランスの攻撃を防ぎきれなかった。ランスのその一撃はミネバの肩に深々と切り口を刻み、ドクドクと排水路の汚水が鮮やかな朱色に染まる。そのままミネバはがくりと膝を突き、水音が響いた。

 

 ここに雌雄は決した。ミネバの傷は戦闘を継続できるようなものではない。だが負けず劣らずランスの傷もかなり酷い。まさに全身傷だらけ、肩で息をし全身から血が止めどなく流れている。

 

 「ランス! トドメを刺して!!」

 

 「待ちな…っ! まだ爆破スイッチがこっちにはあるんだよ!!」

 

 死ねない! あたしはまだ死ねないんだよ!! ミネバはここで生を放棄するほど弱くない。まだミネバの手には爆破スイッチという保険があるのだ。

 

 「げ、なんて卑怯なババアだ…。」

 

 「はっ、はっ。あたしに勝ったご褒美だ…。リーザス城の地下へはあっちのほうさ。まだ動くんじゃないよ。あたしの視界からぼーや達が消えたら行くんだね…。」

 

 ミネバは後方の分かれ道の片方を指さす。それが本当か嘘なのかはランス達には分かりようがない。最初からわかっていないのだから関係ないかもしれないが…。

 

 「爆破しないなんて保証がどこにあるのよ!」

 

 ミネバの瞳には未だ闘志がみなぎっていた。かなみの目には傷が癒えでもしたら直に襲いかかってきそうに思えた。信用できるわけがない。

 

 「信用しようがしまいがぼーや達に選択肢は無いんだよ。…ぼーや、あんたは爆破なんかじゃ殺さない。いつか、確実にこのあたしの手で打ち破ってやるよ。人類最強の女として…ね。」

 

 ミネバは只、一心にランスを見つめた。

 

 「何度やろうが、俺様が全て勝つ。」

 

 「ふっ、それじゃあ精々頑張るんだね…。」

 

 そう言い残し、暴風ミネバは肩を抑えながら指を差した通路とは別の道へとゆっくり去って行った。落ち着いた今思えば爆破自体ハッタリだったかもしれない。狙った地下道の通路の上に爆発物を仕掛けるということが可能なのだろうか。

 

 

 

 ミネバが見えなくなると、ランスは直にずんずんとミネバが示した通路へと歩き出した。あれだけの戦闘をして疲労感もなにもないのだろうか。

 

 「ちょっとランス酷い怪我よ! 今日は出直したほうが…。それにあの女がいたってことはヘルマン軍にばれてるかもしれないのよ!」

 

 「志津香のアホンダラ! リーザス城には俺様に助けられるのを今か今かと待ちかねてる女の子たちがいるんだぞっ!? 戻ってる時間なんざない!!」

 

 「志津香さん。リーザス城には医務室もあります。ヘルマン軍が接収してなければ世色癌もあるかと。それに出口は…。」

 

 そう、退路は既に絶たれた。かなみの記憶が確かならば、世色癌がある。かなみの記憶だが…。レイラとランスの傷を癒やすためにも、今ランス達には進む以外に道はない。

 

 

 

 

 

 「くそっ、こんな時シィルがいれば回復魔法で一発だってのに…。俺様の奴隷の癖して魔人なんかに捕まってるんじゃねぇ…。」

 

 

 

 

 

 




 以上ミネバ回でした。今回はミネバの生き汚さを逆に弱点として書いてみました。楽しんでもらえたら幸いです。

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