魔王。それは大陸最強の生物。上辺でも肩書でもない。真実敵に値するものがいないものが魔王というシステムである。
魔王には特徴がいくつかある。
まずは強靭すぎる肉体と無敵結界*。魔王を傷つけることが出来るのは、この世に二本しか無い伝説の剣2つだけ。
※ 言葉通り無敵の結界 十二話にて詳しく後述
次に不死。絶対に死なない。消滅もしない。これと無敵結界は三代目魔王によって手に入れた能力である。しかしながら三代目以降寿命は存在する。きっかり1000年。肉体が不死の力に耐えられなくなる。
最後に破壊衝動である。魔王となったものはメインプレイヤーと確実に敵対することを義務付けられているのだ。
初代魔王として君臨し、そして魔王の力を奪われたククルは不死ではなかった。ゆうに6000年近く生きたククルが死んだ時、体長4.7kmにもなる巨体は丸い者本来の魂の形である小さな球体へと戻り、野へと捨て去られた。しかし最強の魔王たるその肉体は、死後何千もの間その形を保ち続けていたのである。それが偶然ランスの皇帝液を浴びる機会を得てしまったのだ。ここにククルククルは目覚めた。肉体が丸い物ではなく、生前の自慢だった触手の一本の形をとっているが、恐らくランスの影響だろう。そう考えてしまうほどランスという男は特別であった。
「なんじゃ?わしの知らぬ間に妙な記憶がいっぱいあるのぉ。アリスソフト…ランス…ふむぅ。」
何故かはルドラサウムすら知らないだろう。彼女には1人の男の記憶が張り付いていた。その男は日夜ランスシリーズというPCゲームを行い、つい先日最新作のランスクエスト・マグナムをクリアした、という記憶までがククルが持っていたものだった。
ククルにとってその知識は驚くべき内容ばかりだった。今が何暦何年かは分からないが、最も衝撃的だったのはなんと全世界を支配していた丸い者が殆ど滅んでしまったということだった。超神によって魔王に選ばれたとはいえ、ククルは丸い物の王である。ドラゴンに敗れたことは頭で理解しつつも、当然この事実にククルは嘆いた。長きに渡る貝、そしてドラゴンとの戦争で得たものが結局のところ種の退廃だったとは。因みに彼女はゲームというものを知らなかったために、その男を未来視が出来るルドラサウム関係者と考えたとか。
「ふぐ…。わしはここに丸い物復興を掲げんとするのじゃ!」
すっかり日も落ちた草原で、天に向かって半泣きでガッツポーズをする全裸の少女がここにいた。
「ねーねーあそこに変な女の子がいるよ。」
「これは新しい萌えだね!きっとアホの子全裸萌えだよ!」
「あいやー。僕たちは新たな時代の幕開けを見てしまったのかもしれない。」
いつの間にかククルの周りを囲むように三体のハニーが現れた。ククルにとっては初めて見るハニーである。このハニーという生き物は、見た目もその肉体も土製のハニワ。それじゃ生物じゃあないじゃないか、と憤慨してしまう気持ちもわかるが生命体である。割れると死ぬ。
「おお…。本当に時代が変わってしまったのじゃな…。それにしても陶器の生命体とは末恐ろしいものじゃ。」
丸い者も人間からしてみれば訳の分からない不可思議生命体である。なにせ、30cm程の丸い物体が中を浮き、更には人間と同じように恋愛や社会生活を送っていたのだから。といっても彼女が生きた時代はそれこそドラゴンと丸い物と貝しか存在しなかったのだから彼女からしてみれば人間の方が余程不思議だろう。
「どれ。絶対魔法防御とは如何様なものか見てやろう。ゼットン!………あれ?」
両手を前に突き出し唱えるは最強の火炎呪文。しかしながら何も起こらない様子である。どうしてじゃどうしてじゃと慌てふためくククル。残念ながら、ククルのレベルは長い年月を経て、Lv1*になってしまっていたのであった。ついでに完全に継承されてしまったために魔王の力すらなかった。今の彼女は肉体的に只の丸い物である。その間にもはにはにとハニー達はどんどんと集まってくる。
※ この世界にはレベルという概念が存在する
勝てない。知識の中では雑魚モンスターである筈のハニーに追い込まれている事実にククルは大層傷ついたようであった。
「う…お…。覚えとれー!」
捨て台詞と共に走り去る赤面した少女ククルはハニー達からしても、とても初代最強の魔王には見えなかったそうな。