元魔王ククルさん大復活!   作:香りひろがるお茶

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第十七話    リーザス奪還編 第八幕

 

 「えっ!? いつの間に!?」

 

 魔人ノスはくノ一であるかなみの警戒を掻い潜り、ランス達の前に唐突に現れた。ノスの巨体が音もなく出現した様子は、まるで空間を裂いて現れたように感じられた。

 

 「どわああああああああ!? なんだこのむさくさいじじいは、どっから現れやがった。」

 

 「ノス…、御主何故ここに…。」

 

 ノスはしげしげと興味深げにかなみの頭に乗ったククルを観察している。何故サテラではなくノスがここにいるのか。本来であれば、ジル復活のために様々な暗躍に勤しんでいる筈なのだ。リス洞窟という弱く、規模の小さい洞窟に居ること事態がおかしい。だいたいサテラはどこに行ったというのだ。

 

 「やはりここに来たようだな…。これはこれは、随分と貧弱な姿になっているが、ククルククル殿とお見受けしよう。」

 

 どうやらノスはククルの存在に気付いていたようだ。元の姿とは似ても似てつかない現状だが、それでも判断できるとは。余りにもククルを認めてくれる人がいないからか、ちょっと嬉しくなってしまったのはククルだけの秘密である。ついつられてテンションが上がる。

 

 「た、他人の空似なのじゃ。わしはククルククルのように凄まじいカリスマも威厳もないのじゃ! それにほれククルククルはこんな小さくないし、わしには美しい造形の触手もないのじゃ!! 新しく覚えた魔法が楽しくて地竜の巣を撲滅したりなんてとても出来ないのじゃ!!!」

 

 事情を知らないシィルもこれには察する。

 

 「よくわからないけど、ククルちゃんそれ本人って言ってるようなものじゃ…。」

 

 「なんと!? しまったのじゃ!!」

 

 おかしいな。我らドラゴンに辛酸を嘗めさせたあの魔王はこんな知恵遅れな奴だったのだろうか。ここに来て人違いだったかとノスが不安に成る程ククルの言動は酷かった。

 

 「これに見覚えはあるだろう。」

 

 そう言って取り出したるは、何かの歯を用いたネックレスだった。鉤爪のような突起が幾つかある円状の不思議な歯だ。

 

 「あっ! お前さんわしの大事な吸盤引きちぎったあの地竜か!! あの時は痛かったぞ!!」

 

 その歯は当時蛸のような外見だった頃の吸盤の歯だった。当然この事実を知っているのは当時を生きた極々一部だけである。

 

 「やはりな。」

 

 「あっ。」

 

 どうやら本当に、この阿呆がククルククル本人のようだ。

 

 「…お前に聞きたいことが幾つかある。俺についてきて貰おうか。何、素直についてくれば手荒な真似はしないと約束しよう。」

 

 どうやらノスはククルに会いに来るためだけにこのリス洞窟に来たようだ。ノスは地竜の魔人。嘗てククルが魔王として在任だった頃の敵である。ヘタすれば当時ククルはノスの知人や友人を殺しているかもしれないのだ。この誘いはククルに利があるとはとても思えない。

 

 「さ、誘いは嬉しいのじゃが、出来れば遠慮したいの…。」

 

 さてどうすればこの状況を切り抜けることが出来るのか。呑気な雰囲気を纏って入るが、今の状況はかなり窮地に陥っていると言っても過言ではない。ノスは魔人の中でも別格の強さを誇る強者だ。とてもククルを含む今いる面子で打倒できる相手ではない。墨爆弾をしようにも未だに身体は再生していない。小細工をしようにもこの狭い洞窟ではそもそも逃げ出すこと事態難しいものだ。

 

 しかし、ノスの情報を知っているのはククルだけである。ノスが魔人であることも何も知らないランスはいつも通り果敢に跳びかかった。

 

 「このランス様を放置して話を進めるとはどういうことだ! これでも喰らえ!!」

 

 対するノスは微動だにせず、ククルの返答に眉を潜めているだけ。ランスの上段振り下ろしがノスの肩にガツンと当たる。常人なら身体を縦半分に裂かれるほどの威力である。

 

 「それは困った。こちらとしても出来れば手荒な真似はしたくなかったのだが。」

 

 だがそれは常人であればの話。相手は地竜であり、魔人のノス。全くに意に返さず、むしろ腕が痺れるほどの衝撃がランスに襲いかかった。まるで鋼でも叩いたかのようだ。

 

 「んなっ!? 俺様の攻撃が効かないだと!?」

 

 ランスの斬撃によってローブだけが切れ、ノスの肉体が顕になる。その姿、正しく鉄塊。鎧のような皮膚に覆われたその身体は、ノスがどれ程尋常ならざる存在かを主張しているかのようだった。

 

 

 

 「ランス! 危ない!!」

 

 

 

 自らに絶対の自信を持つランスは驚きの余り、敵が目の前にいるにも関わらず呆けてしまった。ノスは目の前に飛んでいる羽虫を払うように、無手でランスに振りかぶる。それだけで、ランスの剣は砕け散り、洞穴全体が振動するほどの轟音を上げ壁に叩きつけられた。衝撃に、パラパラと洞穴の天上から砂埃が降る。

 

 「ランス様ぁああああ!!!」

 

 ランスは痛みに声を上げる暇すら与えられず、そのままずるずると倒れこみ意識を失った。

 

 

 

 突如現れた暴風にククル達は窮地に落とされた。かなみは余りの恐怖に身動きを取れず、シィルは顔面を鼻水と涙でぐしゃぐしゃにして主人の名を叫び、その主人たるランスはノスのたった一払いでいとも簡単に伸されてしまった。よもやこうまで一方的に追い詰められるとは。サテラとアイゼルから逃げ延びたことで慢心していたのだろうか。相手は他と一線を超えた存在であることは理解していたというのに。例え今うまく魔法を使って逃げようにもランス達を見殺しにすることとなってしまう。だが、このままでは全滅は避けられない。

 

 

 

 「ふむ、初代魔王の付き人は如何程かと思ったが、全く面白味も何もないな。」

 

 ランスがここで殺されるのはかなりまずい。ランスはククルの不本意ながらルドラサウムに対する唯一かもしれない突破口だ。

 

 「なんにせよ。ククルククル殿、選択肢が与えられていないことは理解してもらえたかな?」

 

 

 

 ククルは黙って肯定するしかなかった。

 

 むんずと頭を捕まれ、無造作に袋に入れられ、ククルの視界はまた闇に落ちた。


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