元魔王ククルさん大復活!   作:香りひろがるお茶

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第十一話    リーザス奪還編 第三幕

 

 リーザスとヘルマン、雌雄の決したリーザス城。ヘルマン国旗が棚引く敗者の城に男が一人、古今奮闘我武者羅に猛る。

 

 

 「将軍首だ! 取った奴には地位も名誉ももらい放題だぞっ!!」

 

 アイザックが兵士に一喝。はっとしたヘルマン兵達は己の職務を思い出し、慌てて武器をその手にコルドバに襲いかかろうとした。相手はあの青の軍将軍。アイザックの言葉通り、討ち取れば確実に昇進は間違いない。この状況ではいくら猛将と言えど、一方的に蹂躙出来る。

 

 しかしそこに、待て___と静止の声が掛かる。その一言は思いがけない餌に興奮したアイザック含むヘルマン兵全員をピタリと止める凄みを含んでいた。

 

 「ふむ。後者だったか。何者かの洗脳に掛かっているようだな。」

 

 ゆらりと城門から現れたるは魔人アイゼル。妖艶な金色の髪を棚引かせ、人間とは隔絶した存在であることを感じさせるその立ち振舞に、味方である筈にも関わらずヘルマン兵は皆、死を感じ取った。本当にパットン様は彼らを使役しているのだろうかと疑問を抱かずにはいられない。

 

 「貴様、誰の手の者だ。言え。」

 

 優雅に一歩一歩しっかりと踏みしめ、城門前の階段を降りた。背汗がぶわっと流れる。命捨つ覚悟で勇んだコルドバですら、その存在そのものに恐怖を覚え、震える。これが、魔人か。

 

 「やっぱりてめぇらが何かしやがったな…狡い手を使いやがって。」

 

 何もコルドバは最初から犬死にするつもりではなかった。道中リーザス軍駐屯所に寄り、リーザス城を直に、国王ウェンズディング・リーザスを直ぐにでも救出するために持てる戦力を整えようとした。しかしそこには誰一人としていなかったのだ。

 

 「狡い? 何を言う。無駄な喧騒を避けるための賢く美しい遣り方だ。何より、この私に仕えたほうが幸福、というものだ。」

 

 「幸福だと…? ふざけやがって…!」

 

 強張った筋肉に電撃が走る。潜在的恐怖より、怒りが勝った。

 

 「軍人の幸せってのはなぁ! 国の安寧と! 帰りを待つ家族なんだぜっ!!」

 

 コルドバは両手で巨大な槌を両手で振りかぶり、アイゼルに振りかぶった。

 

 「ふん、つまらん生き方だな。人間は何かに縛られてこそ、幸福を得るというものだ。」

 

 …見えなかった。コルドバにはアイゼルの動きが皆目見えなかった。振り抜けば、いつの間にか背後を取られていた。まるで最初からそこにいたかのように。

 

 「べ、べらべら喋ってんじゃねぇ!!」

 

 返す勢いで今度は大きく踏み込み、横に一線。いくらなんでもこれは当たる。当ててみせる。

 

 「喋る余裕が私にはあるのだ。さて、私はお前の操者を探さねばならん。誰がお前をここに駆り立てたのか…、その体に直接聞かせてもらうぞ!」

 

 確かに、コルドバの攻撃はアイゼルに届いた。しかしそのコルドバ全身全霊の一撃はアイゼルの左手一本で動きを封じられ、ピクリとも動かない。コルドバの力は、まるで届いていなかった。呆然とするコルドバに構わず、アイゼルはいつの間にか右手に剣を持ち、構えもなしに只軽くスナップさせた。

 

 「かッ!? う…ぉ………。」

 

 一振り。たった一振りでコルドバの左肩から右足まで鎧ごと一直線に鮮血迸った。両手を手放し、あまりの激痛に地面に膝をつく。

 

 「それだけのガタイをしているだけはある。切りにくいな。」

 

 魔人に情などあるわけもない。アイゼルの言葉には憐憫も嗟嘆もない。血飛沫を上げるコルドバに特に感じる様子もなく、左手に持ったコルドバの槌を投げ、無抵抗のコルドバにトドメを刺さんと再び斬りかかった。

 

 

 

 しかし、突如として、アイゼルがヘルマン兵達の視界から消える。と共に、城壁から破城槌のような爆音が響いた。

 

 「ぐっ…! 何事…っ!?」

 

 アイゼル自身も何が起こったのか不明であった。ただ、驚くべきことに何者かに殴り飛ばされたらしい。城壁に叩きつけられるとは、思わぬ衝撃にアイゼルはただ驚いた。あの人間が何かやったのか?それとも他の人間か?何にしても、アイゼルはこの時、殴り飛ばした相手がいるという事実を意識していなかった。魔人故に、自らを脅かす存在がいないという過信の下の行動であった。

 

 

 

 「少々退いてもらうぞ。魔人よ。」

 

 

 

 思考の海に沈んでいたアイゼルの目の前に、土埃に紛れいつの間にか少女が立っている。そう認識した瞬間、彼の視界は真っ白に染まった。

 

 

 

 

 

 リーザス上空に一筋の光が灯る。至近距離で直撃したファイアレーザーは、アイゼルの体を吹き飛ばし、その余波を持ってヘルマン軍前衛を無力化させる程の威力だった。

 

 「まさか…ククルなのか………うぐっ!」

 

 コルドバの目の前に映る少女は、見覚えのある白髪、黄眼、そして和服。間違いない。つい数時間ほど前に酒場で牛飲馬食を共にしたいけ好かない少女、ククルであった。衝撃に、痛みも忘れて立ち上がろうとする。しかしコルドバの傷は余りにも厳しすぎるものだった。とても立ち上がることなど出来ない。

 

 「コルドバ…。貴様わしになんと言った? リーザスの青い壁じゃと、大切なモノを守ってみせると決意をわしに見せたのではなかったのかっ! この大馬鹿者がっ!!」

 

 ククルの発言には怒気を隠す様子もなかった。彼女はこの状況でコルドバに対し、明確な怒りを感じていた。

 

 「なっ…。突然出てきて何言ってんだ。そもそもお前なんでこんなところに…。」

 

 「何故じゃ! 何故お前こそここに来た! フルルは、フルルはどうしたのじゃっ!?」

 

 ククルはコルドバの話を聞くつもりはないらしい。ここまで焦っている彼女を見るのは初めてであった。

 

 「フルルはカスタムに送った…。 俺がここにいるのは、俺がリーザスの青い壁だから…。」

 

 

 

 ククルのファイアレーザーに慄くヘルマン兵の慌ただしいざわめきの中に、ゴン、と音が響いた。

 

 「いってぇ………何しやがんだ!!」

 

 「青二才がっ! 物事の分別もつかぬ愚か者めっ!!!」

 

 ククルの一方的な物言いに、コルドバも黙っては入られない。

 

 「リーザス軍ならリーザスを助ける! 当然だろうが! 国王様が…リア王女が死んじまったらこの国は終いだ! 俺以外に戦える奴はいなかった!!! なら例え行きて帰れぬとしても行くしかねぇだろう!!!」

 

 

 「あれ? アイゼルがサテラを呼んだのかと思ったけど、アイゼルはどこ? それにあんた達何?」

 

 

 ククルよりも少し幼い緑髪の少女が首をこてんと傾げた。魔人はアイゼルだけではない。先ほどの爆音で反対側に展開していた筈の魔人サテラが現れてしまったのだ。更には既に彼女を守る強力なゴーレム、イシスとシーザーがククル達を囲むように鎮座している。

 

 「コルドバ…貴様に説教したいのは山々だがそんな余裕はない。奴一人ならわしがなんとかする。よいか、まずこの世色癌を食え。そして喋るな、考えるな、戦うな、逃げろ。良いな。さもなくば………。」

 

 「ふざけんな、ここで尻尾を巻いて逃げれるか!」

 

 

 「………全く、こちらの台詞だ。よくもふざけた真似をしてくれたな小娘。」

 

 

 魔人が二人、その使徒同等のゴーレムが二体。こちらは重傷者が一人に丸い者が一匹。

 

 

 

 「さもなくば………わしも、わしも死んでしまうのじゃ………。」

 

 


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