「リア様…。マリスさん…。必ず、必ず助け出します………。」
喧騒渦巻くリーザス城から闇夜に紛れ、1人の少女が闇夜に紛れ逃げ出した。彼女の服装は大陸では珍しいJAPANのものであった。リーザス王女リア直属のくノ一、見当かなみである。
ヘルマン軍は突如としてリーザス城地下に現れた。一体どのような方法を使ったのか、国を守護するリーザス軍には一切気付かれずにリーザス城へと流れで たヘルマン軍は、安々とリーザス城もとい大国リーザスを占領することに成功したのだ。リーザス王女リア・パラパラ・リーザスはかなみからの情報により、 既に事態が看破できないほどまで進んでしまったことに気付き、最後の望みをかなみに託した。
かなみに託されたもの、聖盾。それをカスタム救出の英雄であり、リーザスと特異な関係性を持つ男、ランスの元へと届けること…。かなみとしてはあんな男に頼ることそれ自体が許せないことであったが、彼以外にいないのも事実。逆に言えば、ランスは国一つ救ってみせてくれるという希望が持てる程の男だった。
「どこだ!? 確かに王室から逃げ出した奴がいたぞ!」
「街に逃げた! 必ずひっ捕らえろ!!」
市街の中を松明を片手にヘルマン兵達がかなみを逃すまいと追い立てる。何を隠そうかなみが背負ったその聖盾こそが彼らヘルマン軍、いや、その背後にいる魔人ノスが欲しているものだった。魔人ノスの悲願、魔王ジル復活のキーの一つである。
「夜遅くにガチャガチャガチャガチャうるさい連中じゃのー。」
と、そんなヘルマン兵の目の前に路地からすっと気だるそうな顔をした和服の少女が現れた。筋骨隆々な兵士相手に啖呵を切るとはなかなか豪胆である。
「おい邪魔だガキ!」
兵士達にとっては一先ず逃げ出した忍が問題である。戦闘を走る血気盛んな新兵にとっては子供なんぞ炉端に転がる石と同じ。邪魔なものが前に現れたら、力で退かす。
「ふん。いきなり殴るとはあんまりじゃな。して、お主らがヘルマン軍で相違ないな?」
しかしながら力で退かせない障害も存在する。己よりも巨大な力を持った者だった時だ。掴まれた右腕がギリギリと悲鳴を上げる。苦悶する兵士の様子に周りも只のガキではないと、少女を再認識し警戒する。
「逃げた女も大陸の服じゃあ無かった…。てめぇもリーザス軍のもんだな? ガキだろうが構うこたねぇ! やっちまえ!」
ヘルマン兵は総勢10人、新兵も混じっているが、今回の進軍において先方を務めた若きエリート達だ。
「ガキガキやまかしいわ。年の功ってのを見せてやるかいの。」
対するは元魔王ククルククル。カスタムでのぷちハニー修行を終え、気力漲る丸い物。
「貴様ら全員まとめて伸してくれるわ。ファイアレーザー!!」
時を同じくしてリーザス城高欄、そこには闇に溶けるように巨体を黒色のローブに包んだ男と黒鎧を着込んだ美青年がいた。
「アイゼル…。お前の部下の洗脳に掛からなかったものが幾人かおるぞ。」
「…あの洗脳が効かないとなると………耐性を持つほどの高レベルのものか、それとも誰かによって高位の洗脳を既に受けているもの…でしょうな。」
この二人こそが人間では傷ひとつけることすら出来ないとされる魔人ノスとアイゼルである。
「前者だとすればリーザス軍には思わぬ懐刀がいたということか。しかし後者ならば…、何者か我らの戦に乗じるつもりらしい。どちらにせよ、お前の小道具ではどうにも出来ない使い手がいるのは間違いない。」
「とはいえこちらにはサテラ含めて魔人が3人。そう訝ることもないでしょう。」
シワを寄せるノスに対し、アイゼルは自らの勝利が揺らぐことはないとうつつを抜かしていた。
「甘いな。いずれその思考はお前を殺すぞ。」
これだから堅物は困る。もう少し美しく生きることに務めた方がいいとホーネット様に口添えしたほうがいいかしれないな。とノスにあまりいい感情を浮かべられないアイゼル。
「我らは魔人ですぞ? ご冗談を。」
これだから若造は。復活の暁にはジル様に魔血魂を回収するよう進言したほうが良いかもしれんな。こちらもアイゼルには仲間という意識すら無かったノスであった。そもそも、魔王がいない環境で魔人が共闘すること事態が珍しいくらいなのだが。
「そんな怖い顔しないで下され。では分かりました、私とサテラで様子を調べて参ります。」
リーザスを無事陥落させたとはいえ、今ここで仲違いをするのはまずい。ここは素直に従っておこうと考えるアイゼルは、元人間の魔人だけあって多少妥協出来る性格であった。軽く礼をとると、踵を返してアイゼルは場内へと戻っていった。
「まぁ、他の連中はどうかはわからんが、私に勝てる人間がいるとはとても思えんがね…。」
「それにはサテラも同感。勿論。サテラに勝てる人間もいないって意味だけど。」
柱に身を潜ませた緑髪の少女がアイゼルに語る。が、その少女の目線が異様に高い。驚くべきことに彼女は巨大なゴーレムの肩に乗っていたのだ。彼女こそが、ゴーレム使いの魔人サテラである。
「サテラ、お前はヘルマン側を索敵しろ。私は正面に出る。」
この場合洗脳に掛からなかったものが、敵国であるヘルマンに行くとは考えにくい。どう考えてもサテラが出る意味が無い。
「何? 見栄でもはりたいのか?」
「……単純に私自身のものではないとはいえ、あの術が効かなかったものに多少興味が出ただけだ。」
「ふうん。それじゃあ辛くなったら呼ぶんだな。助けてサテラ様―ってね。そしたら助けてやらないこともないね。」
小馬鹿にしたようにサテラが両手を口に添えて叫ぶ仕草をする。
「口の減らない小娘だ。ホーネット*様はいつもお前のことで頭を悩ませているのだぞ。」
※ 二代魔人派閥の筆頭の一人 もうひとりはケイブリス
「ホーネット様がそんなこと言うわけ無い!! サテラはいつだってホーネット様の役に立っているんだ!!!」
「そういうところが困らせているというんだ…。全く。」
アイゼルは堅物で扱いづらいノス、幼くプライドの高いサテラと共にまだまだ共闘しなければならない事実に、一つため息を吐いた。