・間違えてまだ書いている途中のものが公開されててすみません。いや、私も驚いた。
・ザンジバーランド初代大統領『ビッグボス』の演説。
・ミハイル隊長の奥さん生きてた。
風呂から上がり、報道特集が始まる時刻に食堂のテレビをつけた。
ザンジバーランドの初代大統領の就任の様子と演説が始まった。……とはいえ、実況中継ではない。
この中南米では、アメリカとは違ってスタッフが映像を収めたテープを国に持ち帰るまで報道など出来ないらしい。まぁ、故に本当の就任は数日前で、これは録画である。
食堂には多くの社員達が集まっている。
夕食を食べに来た者もいれば、ザンジバーランドの初代大統領に就任した『ジョン・ジャック・シアーズ』、つまり『ビッグボス』その人の姿を観るために集まった者もいる。主に傭兵達であるが。
今まで、伝説の傭兵『ビッグボス』の姿を見た者は軍関係者や傭兵達の中でも多くないと言う。
ベクターが言うには『ビッグボス』は潜入のプロフェッショナルであり、見られる事なく痕跡も残さずミッションをコンプリートさせてきたからだと言う。
「つうかベクター、なんか滅茶苦茶興奮してねーか?」
「そりゃあしますよ!だって伝説の男ですよ?!」
「ベクター、テレビの音が聞こえない。黙れ」
ルポが言い、ベクターがシュン、となった。
そして、カメラがアップになった。
イブニングスーツにバラの造花を胸に付けた、堂々とした初老の男。眼帯と髭を蓄えた、しかしその目は確かに歴戦の戦士を思わせる。
「……私が、ジョン・ジャック・シアーズだ」
渋い声で、名乗る。すると群衆が、
「「「ビッグボス!!ビッグボス!!ヴィックボス!!」」」
と大声で叫び、拳を挙げ、会場が歓声で埋め尽くされる。
その声に退くことなく『ビッグボス』は眉を動かすことなくやや目を薄く閉じ、しかし周りを見回す。
そして手をやや持ち上げ、群衆に掌を向けて言う。
「本音で語ろう。私は……いや、俺は大統領になろうとは思わなかった」
ざわ、ざわざわざわざわ……。
シアーズの言葉に、群衆がざわめく。
「誤解をしないでくれ。私は今、ここにいる。答えはもう出ている。だが、俺の話を聞いてくれ」
シアーズは深く息を吸い、そしてまた語り出した。
「我が友、外務省大臣『マクドネル・ミラー』。いやいつものように『カズ』と呼ぼう。奴や『アダムスカ大統領補佐』いや『オセロット』、いつの間にか私の妻になっていた二人の女『パス』『エヴァ』。『パラメディック』『シギント』。多くの連中が俺を大統領に推薦していた事が判明した。選挙の後で、だ」
深く溜め息を吐くシアーズ。ものすごく、やれやれという感じで首をゆっくりと横に往復させて振る。
……なんか聞いた事のある人物名が出てきたな。
無論、明後日ここに来る、ミラー外務大臣とエヴァ第二夫人だ。というかいつの間にか妻になってたって言ったか、この人。
思わずナスターシャの顔を見てしまったが、ナスターシャはテレビに集中している。
俺はなんとなく、なんとなくだが『ビッグボス』に共感を覚えた。そう、おそらくだが『ビッグボス』は彼の仲間にいつも日常的にさんざん振り回されているんじゃ無かろうか。
「首謀者は『カズ』と『エヴァ』だ。奴らは俺を大統領候補に推薦するだけしやがって、俺にバレる前に国外に外交に行くとか言って逃げやがった!つうか俺が怒るのがわかってて奴らはやりやがった!奴らはほとぼりを冷ましてから帰る気だろうが、必ず叱ってやる!」
わはははははは!と、群衆の中から笑い声が聞こえて来た。「ナイスカズ!」とか「エヴァ夫人万歳!」とか言う声も聞こえる。
おそらく、『ビッグボス』と彼らのそういうドタバタは国民達によく知られているのだろう。まるで仲間内でのバカ話や愚痴を言っているかのように自然な口調でシアーズ初代大統領は話を続ける。
「そして、オセロット、そこのシギントもだ。お前らもわかってて放置しただろ?笑うなよ、おい」
カメラが長髪のロシア風の顔立ちをした初老の男とそして黒人と思われる男を映した。二人ともまるで悪戯をした子供のように、わははははと笑っている。
「ああ、そうだカメラマン!この二人も俺を推薦した下手人だ。しっかり映してくれよ。こいつが大統領補佐官、そしてウチの科学省大臣だ。まったく、ひどい友人達だろう?」
しかしビッグボスも笑っていた。
「で、その隣に座るはずだったクラーク博士!厚生省大臣なのに彼女は研究所に籠もって出てこないときた。だが後でこっぴどく叱りつけてやるからな『パラメディック』、逃げられんぞ!」
そうして、シアーズ大統領はザンジバーランドの要職に就任した各大臣や責任者達を糾弾しつつ面白可笑しく紹介していく。しかし、糾弾しつつも信頼しているのがありありとわかる。
そうして、一通り閣僚達の紹介が終わって、再び集まった民衆へと語り始めた。
「そして、君達だ。君達が最大の下手人だ。君達が私を大統領に押し上げた。……全く、信じられないことに、私のような元余所者を大統領にしようとは。だが君達は私を信じて投票してくれた。得体の知れない傭兵崩れの俺を。みんなも知る通り、ザンジバーランドはツェルヤノスクから始まった。あの核に汚染されたあの地からだ。我々はそこから始めた。今日の味方は明日の敵、見知った顔の奴と銃を撃ち合う、そんな日々を越えて俺達はこうして手に手を取り合った。仲間を増やし、憎しみ合うことをやめ、内紛、民族間紛争、戦争経済、核戦争危機。俺達は俺達が否定すべき多くをこのザンジバーランドから、この連合国から追い払った。お互いに手を握り、結び合い、今ここに俺達はいる。ザンジバーランドよ、友よ、我が家族達よ、ザンジバーランドの全ての者達、この国にいる者達よ、俺はここにいる!聞こえるか!俺達はここにいる!外にいる奴らにも宣言しよう!俺達はもう友を撃つことはない!俺達は一つの家族だ!!」
おおーっ!!と歓声が沸き起こる。多くの紛争地帯を含んだザンジバーランドの領内、しかしシアーズ初代大統領は、宣言する。
「もはやザンジバーランド民主主義連合国に紛争は無い!俺は初代ザンジバーランド民主主義連合国初代大統領として宣言する。俺達は平和を勝ち取った!!」
うぉおおおおおおおおおおおおっ!!
「「「ビッグボス!ビッグボス!!ビッグボス!!!」」」
割れんばかりの歓声。そしてビッグボスコールと拍手。盛況の中で初代大統領ジョン・ジャック・シアーズの『ビッグボス』の演説は終わった。
「これが……ビッグボスか……」
振り向くとベクターがなんか涙を流していた。いや、ミハイル隊長もだ。
カリスマ?いいや、そんなものでは言い表せない何かがあった。これがテレビ映像だという事を忘れて誰もが見入っていた。
テレビの画面が変わり、誰もがはっ!と我に返った。
テレビの女キャスターが地図でザンジバーランドの場所を説明し始めるが、その事務的な口調に、俺は白昼夢から覚まされたような感覚を覚えた。
この時間のいつもの人気美人キャスター、しかしビッグボスのあの演説の後ではまるで役者不足に映る。
『ザンジバーランド民主主義連合国樹立に伴って、この……中央アジア、カザフスタン、キルギス、南下して……」
テレビの地図を見てナスターシャが声を上げた。
「……私の、故郷も独立ってか、ザンジバーランドになったの?!」
ナスターシャが目を丸くして言う。彼女の故郷もその地図上に入っていたらしい。ミハイル隊長の様子を見れば、彼の奥さんの故郷も同様だったようだ。
「……ナスターシャ博士。我々の国は解放されたらしい。まさか、ビッグボス、いやあの伝説のMSFが解放したとは!」
ミハイル隊長が涙を拭うこともせず、画面をじっと見る。
女キャスターのバックの地図がザンジバーランドの各要職に就く人物達が並んだ画像に差し代わり、大統領から一人一人を説明していくと、なんかミハイル隊長の表情が変わった。
『アーニャ・ヴィクトール福祉大臣。彼女は長らく少数民族の解放を掲げて活動していた人物で……』
「アーニャ?!」
福祉行政大臣はミハイル隊長の奥さんだった。ミハイル隊長は最愛の奥さんや仲間達の命を救う為にアンブレラの傭兵として戦わねばならなかったのだが、その奥さんがザンジバーランドの大臣職についていた。
『少数民族出身の彼女を起用する事でのリスク等は無いのでしょうか?』
と、女キャスターがゲストの中南米大の政治学者に話を振る。
『おそらく、どの地域のどの民族出身であっても能力があれば誰でもどのような職にも就くことが出来る、つまり平等主義と民主主義をアピールする……』
なんか、あのシアーズ初代大統領の演説を聞いた後では白けるような解説だよなぁ、と思わなくも無いことを政治学者は延々と語っているが、ミハイル隊長にとって、そら生き別れになった奥さんが生きていると言うのは嬉しい一大事である。
「ミハイル隊長、後でザンジバーランドのミラー外相に無線で繋いで、話を……」
「いえ、生きていた事がわかったなら、わざわざ連絡をする必要はありません。彼女も大臣となったなら多忙の日々を送る事になるでしょう。私の事で煩わせる事も……」
涙を拭い、顔を引き締めてミハイル隊長はそう言い、
「では、私はこれで」
敬礼をして、食堂を出て行ってしまった。
「……ふむ。ナスターシャ、どう思う?」
「家族の事は、煩わしい事じゃ無いと思うなー私」
「だよなぁ」
「ただの兵士なら国に忠を尽くして戦い、己をも殺さねばならないが私達は傭兵でただのここの警備員だ。そうだな、社長?」
ルポが珍しく、にんまりと笑う。
「その通りだ。ここは会社で君達は警備員だ。忠誠じゃなくて持って欲しいのは愛着だな。つーか、仕事と家族は両立して欲しいからね」
なー?とナスターシャと凡太郎と目配せして笑う。
「……はぁ、お節介ね。とりあえずそう言う話はミラー外相よりエヴァ第二夫人の方が良いと思うわ」
エイダも呆れ顔だが、なんだかんだでコイツもお節介な人間のようだ。じゃぁ、と短く言って席を立って食堂を出て行ったが、おそらく連絡しに行ったのだろう事は間違いない。
「……しかし、ナス、お前の国が独立したってのになんか反応が薄いな?」
「ん~?まぁ、為政者が変わってこれからどうなるかを見ないと判断出来ない……からかな。旧ソ連のおかげで疑いやすくなってんのよね、私」
「なるほど。まぁ、俺は悪く無い気はするんだがな」
「そんな気はするけど、大統領がそうでも、なかなか人の意識って変えられないものだから」
ナスターシャはこういう時は非常に現実主義な考え方をするようだ。特に政治的な事になればシビアに物事を考える。
いや、少数民族の対立や多数派の弾圧などは国際的に人権問題として根深いということなのかも知れない。
その辺が日本人の俺にはなかなか理解出来辛い問題ではあるのだが、まぁ、学んでいくしか無いのだろうなぁ。
つーか、やっぱりアンブレラをぶっ潰したら一緒に日本で暮らすのが一番面倒が無い気がすると考えたりするわけだがなぁ。
なんせ、日本じゃナスターシャを見ようがエイダを見ようが、ぶっちゃけ、外人のねーちゃんとしか思わない、良くも悪くも国際的な感情よりも人間を見る国だからなぁ。よほど悪いことをしさえしなければ、あそこん家の外人の人、ってその程度にしか思わないからな。
「ま、私の家は今、ここで、もしアナタが日本に帰るなら私の国も日本。どこに行こうがアナタの居るところが私の家よ」
俺の考えを読んだのか、ウチの嫁(確定)はあっけらかんと言ったものだ。
・犯人はカズ。
・ビッグボスは、やはりイメージ的にMGS3のビッグボスをMGS4のビッグボスに近くした感じですね。オールバックに白髪が混じる、多少まだワイルドさを残した感じですかねぇ。
・ミハイル隊長の奥さん出世してた。