夕映に憑依したダレカの物語   作:ポコ

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 仕事が忙しくてまた間が空いてしまいました。
 今日はメインで書いてる“電子の妖精”の方を更新する予定だったけど、執筆時間が無さそうなので、3時間くらいで書けるこっちを更新。前も書いた気がするけど、この作品本当に書きやすいんです。まぁ、戦闘するようになったら別ですが。
 今言う事じゃ無いかもだけど、呪文詠唱は日本語のみになりそうです。一応ラテン語辞書で少し調べてみたけど、“魔法の射手・水の一矢”ですらルビが分かんなかったです。原作で出てる“連弾・闇の29矢”(セリエス・オブスクーリー)“氷の17矢”(セリエス・グラキアーリス)すら辞書で調べられなかったので。オリジナル呪文にちゃんとルビを振れてる、他の作者さんは凄いと再認識。


第5話 原作知識の使い道

「はぁ……」

「おや、どうしましたか夕映さん?」

「小学生も色々と楽じゃないのですよ師匠(マスター)

 

 桜子さん親子とプールへ行ってから数日。今日も今日とて師匠の元で魔法の修行です。

 プールへ行った本来の理由である、水の精霊と体で触れ合うという目的は多少は効果があったと言うべきか、水の魔力は以前よりも巧くイメージ出来ていると思うです。あくまで私自身の印象としては、ですが。

 その進歩した筈の魔法制御も今日は中々巧く出来ず、さっきからビー玉大の水球を創っては溜息を吐きの繰り返しです。原因が私の精神的疲労にあるのは明らかなのですが、どうしたものやら。

 

「ふむ……学園生活を楽じゃなくしている要因の半分は、夕映さんの自業自得のようですが。察するに、先日出来た桜子さんという御友人絡みの悩みでしょうかね?」

「……当たらずとも遠からずと言ったところです」

「では、桜子さん以外の御学友……あぁ、明日菜さんですか」

「何なんですかそのニヤニヤ笑いは! その通りですけど!」

 

 全く、何でこの変態師匠は明日菜さん絡みの話になった途端、嬉しそうになるですか!

 原作通りにしたいのなら、私が明日菜さんに近付きすぎるのは避けるべきという考えになるはずですが、師匠の反応を見る限り、むしろ私と明日菜さんが仲良くなるのを喜ばしく思っているとしか思えないです! ……もしかして、原作通りに進まない方が、師匠にとって都合が良いのでしょうか? いえ、原作以上のハッピーエンド案があるのなら、原作でも何かしらの形でもっと動いている筈……せめて高畑先生に自分の存在を明かすくらいはしている筈です。

 となると……うむむ、もう数か月の付き合いになりますが、未だに師匠の方針がさっぱり分かりません。原作通りに進めるでもなく、かと言って原作乖離させようという訳でもなく、なるようになれという感じで……あれ、これもしかして正解ですか? いえ、だとしても、何故そのような方針にしたのか。ただの快楽主義というわけでも無いでしょうし……多分。いえ、ですが“他者の人生の収集”なんて、変態じみた趣味が生きがいの師匠の事です。私が慌てふためいている姿を面白がっているだけの可能性もあるです!? だとすれば、私の人生は師匠に全てバラした時点で詰みという事に……!

 

「面白い顔で考え込んでいるところ申し訳ありませんが、明日菜さんと何があったのかお聞きしても?」

「あ……。え、ええ師匠。お話するです」

 

 ……またやってしまったです。この長考癖はなんとかしたいと思っているのですが、一向に改善する気配が無いです……思考速度が速くなっているのは、改善と言えるかもですが。やはりこれも肉体の性質に引っ張られているのでしょうか。集中力が高いと言えば聞こえは良いですし、実際修行の時には有難い性質なのですが、こと日常生活においてはデメリットが多いです。上手くオン・オフが切り替える事が出来れば良いのですが。その辺りは年月で何とかなる事を祈るしかないんでしょうか。

 

「明日菜さんとまた喧嘩なさったのですか?」

「いえ、今回は喧嘩ではないのですが、その……一方的に怒られているというか」

「一方的にですか。夕映さん、もしくは他者が何かをしたわけではなく?」

「その筈……です。月曜に私が桜子と話していたら、突然明日菜さんが立ち上がり、私を信じられない物を見るような目で見てきまして。それからは一方的に避けられてしまい、水曜日の今日になっても避けられっぱなしです。明日菜さんの気に障るような会話の内容ではなかったと思うのですが」

 

 ええ。桜子とは挨拶をしていただけですし……後は軽くプールの話をしたくらいでしょうか? やはり、何度思い直しても明日菜さんを怒らせる理由が分かりません。私を避けるのですから、原因が私にあるという事は明白なのですが……先週の時点で原因があった? いえ、金曜日は普通に挨拶をしましたし、そもそもその時点で機嫌が悪くなっていたのなら、プールに明日菜さんを誘おうとは思いませんし。

 原因となったであろう出来事を思い返していると、師匠が何やら生暖かい目で私を見ていました。何ですかその微笑ましいものを見る目は。

 

「やれやれ。夕映さんは、明日菜さんが小学生という事を忘れていませんか?」

「!? し、師匠は明日菜さんが不機嫌になった理由が分かったのですか!?」

「ええ、勿論。というか、大抵の方が分かると思いますよ?」

「な……っ」

 

 そんな……私がこの数日間悩んでいた事が、誰にでも分かるような簡単な問題だったなんて……く、屈辱です! 人間関係に疎い師匠でさえすぐに分かってしまうような事に悩んでいたとは! い、いえ。まだ師匠の出した結論が出したとは限らないです……ですが、取り敢えずは師匠の意見を聞いてみるです。

 

「私は確かに親密な関係を築いている相手は少ないですが、人間関係や感情の機微には聡いですよ? なんせ趣味が趣味ですから」

「またナチュラルに人の心を読んで……。それで、師匠は何故明日菜さんが怒ったと思うのですか?」

「そうですねぇ……これがキティ相手なら、何かしらの対価を頂くところなのですが。愛弟子に対価を頂くのもあれですし、何よりこのような簡単な事で対価云々を持ちだすのも大人気ないですし」

「……遠まわしに私をバカにしてませんか?」

「いえいえまさか♪」

 

 ほ、本当にこの鬼畜師匠は……! い、今は我慢です。怒るのは答えを聞いてからでも遅くないです! ……怒っても喜ばせるだけなのは分かってますが。

 

「そ、それで師匠。答えは何なのですか?」

「嫉妬ですよ」

「……はい?」

「ですから。夕映さんに自分より親しい友人が出来た事への嫉妬です。実に子供らしく、微笑ましい理由だと思いますよ♪」

「…………本当に、そう思うのですか?」

「はい。確信が欲しいのでしたら、夕映さんの御祖父様にも聞いてみては?」 

「……いえ、師匠がそこまで断言するのであれば、信じるです」

 

 嫉妬、ですか……。まさかそのような、予想の斜め上の理由だったとは……確かにそう考えると、色々と辻褄は合うのですが。

 しかし、この仮説が正しいとなると、明日菜さんは私を友人と思っているという事になるのですが……いえ、私は明日菜さんの事は嫌いではないですし、むしろ好感を抱いてるですが。明日菜さんが私に好意を抱いてるようには……いえ、好敵手と書いて“とも”と呼ぶ世界もありますし、明日菜さんが私に少し複雑な友情を抱いていても不思議ではないのでしょう。子供というものは、得てして独占欲が強いものですから、私が明日菜さんから離れて行くような気がして不安になったというのが妥当な線……なのでしょうか? 桜子が初めての友人である、小学生レベル1の私には、少し難しすぎる問題です。一体、どうやってこの問題を解決すれば良いのか。

 

「師匠。どうすれば明日菜さんは機嫌を直してくれるでしょうか?」

「そうですねぇ……ところで先程から気になっていたのですが、何故桜子さんは呼び捨てなのに対して、明日菜さんは敬称で呼んでいるのですか?」

「何でと言われても。桜子にはそう呼んで欲しいと言われたからで、明日菜さんには言われていまいからですが」

「成程……なら話は簡単です。明日菜さんも呼び捨てで呼んで差し上げれば良いんですよ♪」

「それだけ……ですか?」

「はい、それだけです。そうすれば明日菜さんも夕映さんに友達と思われていると実感し、仲直りどころか今までより一層仲よくなれると思いますよ」

「仲よく、ですか……」

 

 個人的感情で言うなら、明日菜さんと仲よく……友達になるのは吝かではないです。むしろ、こちらからお願いしたいのですが、やはり原作の事を考えると、原作開始前に明日菜さんと仲よくなりすぎるべきではないと思うのですが。むしろこのまま嫌われたままの方が……いえ、険悪になりすぎるのも問題ですね。やはり、最初の出会いからして失敗です。

 しかし、さっきも少し考えた事ですが、師匠は原作知識を活用する気があるのでしょうか? あと1年もしないうちに、ネギ先生の村への襲撃もあるはずなのに、対策を練るどころか悩む気配も無いですし。いえ、原作通りに進めようと思っているのなら、それが正しい対応ではあるのですが。それにしては私と明日菜さんを友人関係にしようとしてますし、原作通りにしようとしているなら、行動が矛盾しているです。私と明日菜さんが仲良くなっても、原作への影響は少ないと思っているという線もありますが……そろそろ一度、師匠とこれからの行動方針について詳しく話す必要がありますね。

 

「あの、師匠?」

「どうかしましたか? 夕映さん。まだ何か悩みがありそうですが」

「……師匠は、原作知識についてどう考えているですか?」

「どう、とは?」

「師匠の行動は矛盾してるです。ネギ先生の村への襲撃に対して私に何も言わないので原作通りにしようとしているのかと思いましたが、最近の私と明日菜さんが友人関係になる事を推奨する発言を考えると、そうとは思えないのです……。一体、師匠はどういう方針で動くつもりですか?」

「ふむ……私の方針ですか。そうですねぇ」

 

 私が確信を付いても、師匠はいつも通りの素知らぬ顔で悩んでるのかどうか分からない顔です。もしかして、考えていなかったと言う事は……いえ、流石の師匠でもそれは無い筈です。

 

「なるようになれば良いと思っていますよ」

「……は?」

「より正確に言えば、夕映さんのなさりたいようにすれば良いと思っていますね」

「ちょ、ちょっと待つです!!」

「ええ、いくらでもお待ちしますよ」

 

 ニコニコと笑みを浮かべる師匠をよそに、私の頭は崩壊寸前です! どういう思考回路でそういう結論になったのですか!?

 

「……師匠は“完全なる世界”(コズモ・エンテレケイア)の計画に賛成なのですか?」

「まさか。それなら“紅き翼”(アラ・ルブラ)の一員になっていませんよ」

「いえ、紅き翼の目的は“戦争を止める”だった筈です。対して、今の完全なる世界の目的は“魔法世界人の精神の救済”です。人外である師匠なら、その目的に賛同してもおかしくないです」

「有り得ませんね。自分の妄想で一生過ごすなど、想像だけでも遠慮したいですから」

「だったら何故、私のしたいようにすればいいなどというふざけた結論になるのです!! 師匠は原作通りの結末にする気があるのですか!?」

 

 師匠の発言に対し思わず叫んでしまった私を見て、流石に師匠も少し驚いたようですが、今はどうでも良いです。もうこれ以上、師匠に振り回されるのは御免です!

 

「私の今までやらかしてしまった事を覚えてないのですか!? 初対面の師匠に対して、勢いとうっかりで隠すべき原作知識を全て暴露した馬鹿なのですよ! 普通ならいずれ全てを話すにしても、初対面なら信用の為にも渡す情報を厳選すべき場面でです! あまつさえ、最重要人物の1人である明日菜さんにもうっかり接してしまう愚か者です! 私が師匠の立場なら、弟子になどせずに即行で原作知識ごと記憶を封印しています! こんな原作を全て台無しにしかねない愚者にすべて任せるなどと、頭が沸いているとしか思えない発言ですッッ!!」

「おやおや。まさかここまで自分を卑下なさっていたとは……流石に予想外ですね」

「茶化すのは止めて下さい! いったい師匠は原作を……いえ、この世界にどうなって欲しいのですか!?」

 

 肩で息をしながら問う私に対し、ようやく師匠は微笑みを消しました。

 

「それは勿論、完全無欠で文句なしのハッピーエンドになって欲しいと思っていますよ」

「その師匠の言うハッピーエンドが分からないから聞いているのです! 原作の結末は師匠にはハッピーエンドでは無いのですか!? ナギさんが助かり、魔法世界も助かり、完全なる世界は壊滅し、ネギ先生は“立派な魔法使い”(マギステル・マギ)になる! それでは不満なのですか!?」

「それこそまさかですね。欲を言えばガトウやゼクトにも助かって欲しかったですが、そればかりは不可能ですし。文句のつけようがないハッピーエンドでしょう」

「なら、原作とのズレを減らすために私と明日菜さんは引き離すべきです! ちょっとした事でどんな影響があるか……未来がどれほど不安定か、分からない師匠ではないでしょう!?」

「ええ。ですから、もう原作知識はあまり当てにならないのですよ」

「な……何故ですか! 今ならまだ私が明日菜さんから離れれば、原作とそこまで変わらない筈です!」

「何故と言われても……」

 

 必死に師匠を説得しようとしましたが、既に原作通りにはならないと言われてしまいました。それでは私がこうして幼少から修行している意味が無くなってしまうです! 魔法世界編で原作知識を活用する為に、こうして力をつけようとしているというのに!

 そう思い師匠に今からならまだ間に合うと言いましたが、続く師匠の言葉に対して、私は何も言う事が出来ませんでした。

 

「主要人物の一人が別人なのですから、既に原作からは乖離しているも同然でしょう」

 

「……え?」

「ですから。私と夕映さんが出会ってしまった時点で……いえ、夕映さんが別人としてこの世界に産まれた時点で、この世界は夕映さんの言う“魔法先生ネギま!”の歴史では無くなっているのですよ」

「た、確かにそうですが……で、でも! 私が極力“夕映”として行動すれば、本来の歴史と大きく離れはしない筈です!」

「どうやってですか? 原作の主人公はネギ君です。原作の“夕映”が物語の外でどのように行動していたか、全て知っているわけでは無いでしょう?」

「そ、それは……そのような些事は、物語に大きく影響しないから問題無いです!」

「そうですか? 些細な事で友人が仲違いするなど、よくある話です。本来の“夕映”でない貴女が、宮崎さんや早乙女さんと原作開始まで友人で居続けれるという確信があると?」

「…………ッ!」

「貴女の半生の書で原作を拝見したところ、貴女と宮崎さんとの友人関係は物語にそれなりの影響があるようです。となれば、既に原作通りにいく保証は全くないでしょう。

 ……私の意見を言えば、貴女と宮崎さんが親友になれる可能性はかなり低いと思っています。友人にはなれるでしょうが。宮崎さんが“夕映”と友人になった切欠は、“夕映”が本好である事と、“夕映”の祖父が亡くなった事です。前者はともかく、後者はもう無理でしょう。何せ、生活環境からして原作と違うのですから」

「あ……あ…………」

「麻帆良で過ごす以上、むしろ原作が始まる次期になっても貴女の御爺様は御存命の可能性が高いです。ここは医療設備も充実していますし、何より魔力に満ちて空気が澄んでいますから。一般人でも、麻帆良に長い期間住めば身体は多少なりとも丈夫になると思いますよ。私が麻帆良で療養しているのも、それが理由の一つですから。

 ……断言しましょう。たとえ貴女の原作知識を封印したとしても、既に原作通りに進むことは有り得ません」

「……そう、ですか……」

 

 断言までしますか……師匠は本当に容赦がないです。

 ……いえ、本当のところは、きっと自分でもうすうす気づいていたです。私が原作通りにしようとすればするほど、原作からは遠くなっていくと。私という存在は、物語にとっては害悪にしかならないと。それを認めたくないが故に、必死に力をつけて、少しでも自分が物語に参加する理由を作ろうと……我ながら滑稽です。

 所詮、私は“夕映”という配役を横から掻っ攫った異端者。下手な役者がどれだけ頑張ろうが、劇が滅茶苦茶になるのは当たり前です。かと言って、本来の役者に交代する事も出来ず……私はどうすれば良いのでしょうか。記憶を封印して貰っても原作には戻れないとまで言われては、私は……。

 

 

「ですから、原作など気にせずに夕映さんの好きにすれば良いのですよ。この世界は“綾瀬夕映”としての物語ではなく、“貴女”としての物語でもあるのですから♪」

「……は?」

 

 

 ……今、また何か変な事を言いませんでしたか?

 

 

「すいません師匠。今、なんと?」

「ですから、最初に言った通りですよ。原作など気にせず、貴女の思うままに過ごせば良いのです。明日菜さんと仲よくするのも、桜子さんと仲よくするのも、御爺様に孝行して長生きして頂くのも、全て貴女の自由なのですから」

「で、ですが! それで原作からもっと離れては……!」

「ですから、貴女が産まれた時から原作など参考書程度の価値しかないのですよ。貴女は参考書を読んだだけで、テストで必ず満点が取れると? ありきたりの言葉ですが、思い通りに行かないのが人生というものです」

「そ、それはそうですが……!」

 

 ここにきて正論で返されるとは……! 確かにその通りです。いくら原作知識があろうが、全てをその通りにしようなんていうのは傲慢以外の何物でもないでしょう。

 ですが! それでも私のせいで上手くいくはずの物語が台無しになる可能性がある以上、出来るだけ原作通りを目指すのが当然というものです……!

 そう考え込んでいると、師匠が不意に頭を撫でてきました。……何のつもりでしょうか。

 

「……何ですかこの手は」

「いえ、夕映さんがまた難しく考え込んでいるようなので。落ち着かせて差し上げようと」

「…………一応、お礼は言っておくです」

「落ち込む弟子を元気づけるのも、師匠の役目ですからね。

 ……夕映さん。すぐには難しいでしょうが、貴女は物語の“夕映”ではなく、ここに生きる“夕映”なのです。自分の未来を1から10まで全て計画書の通りに生きている人間……いえ、人間に限らず、全ての意思ある存在はいません。自分の未来を決めるのは、いつだって自分なのですよ。

 原作がハッピーエンドである以上、その通りにしたいというのは当然です。ですが、そればかりに縛られては、間違いなくその未来は訪れないでしょう」

「……何度も言わなくても分かってるです」

「ええ。貴女は単純ですが聡いですからね。私が言わなくても、自分のすべき事は分かっているでしょう。

 ですが、最後にもう1度だけ。……夕映さん。貴女は貴女のまま、好きに生きるべきです。未だ見ぬ友人達の為に必死になれる貴女なら、原作知識ばかりに頼らずとも、必ずネギ君達の力になれますから」

「……ぅ…………ッ!」

 

 そこまで聞いた瞬間、思わず師匠に抱き着いてしまいました。

 ……ズルいです。唯一自分の状況を知ってる師匠にそんな優しい事を言われたら、縋り付くなという方が無理な話です……っ!

 

「やれやれ。夕映さんは前世の知識がある割には甘えん坊ですねぇ」

「煩いです。前も言いましたが、私には前世の知識はあっても記憶は無いんですから、精神年齢はそんなに高くないのです……!」

 

 だから、こうやって大人に甘えるのも当然です。私はまだ6歳児なんですから。

 

「ふふ……こうやって普通に可愛がるのも良いですね。なんならお父さんと呼んで下さっても構いませんよ?」

「…………お父さん」

「…………ただのフリのつもりだったのですが。いえ、ですが……はぁ。まぁ、偶には柄ではない事をするのも良いでしょう。好きな呼び方で良いですよ」

「……変態行為さえ無ければ、また呼ばせてもらうです」

「それは無理です♪」

「……この変態師匠!」

 

 師匠の大きな手で頭を撫でて貰いながら、これからの事に思いを馳せました。

 原作知識は参考書程度に思え、ですか。すぐには難しいですが、それが一番という事は分かっています。

 

 

 ……取り敢えず、明日菜さんを呼び捨てにするところから始める事にするです。




中々の難産でしたが、何とか書けました。
これからどんどん原作との人間関係からは離れて行く予定です。はたして、図書館組との関係はどうなることやら。

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