夕映に憑依したダレカの物語   作:ポコ

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お久しぶりです。アンケート取りすぎという声があったので、もうトーニャの扱いは投げました。あやかしびとのキャラは原作前は稀に出てくるかもですが、原作に入ってからはリクエストが無い限りは名前しか出しません。

ちなみにこれの投稿前に電子の妖精の方も投稿してるので、そちらも読んでくれてる方はどうぞ。これからは2週間以内に3作品のどれか1つは更新します。


第9話 帰省早々大ピンチ

「はぁ……」

 

 どうも。綾瀬夕映です。いきなり溜息というのはどうかとも思いますが、出てしまうものは仕方ないです。というか、以前も似たような事をした覚えがあるです。

 あのトーニャさん監修による地獄の日々が終わり、ようやく麻帆良に帰ってきたのですが、あの日々を思い出すとどうにも溜息が止まらないです。ええ。トーニャさんは期待を裏切らない程にドSでした……!

 何なのですかあれは! 森の中でキキーモラにゆっくり襲わせるから察知しろとか、無理ゲーにも程があります! ゆっくりと聞いた時は手加減してくれるのかもと思ったですが、むしろ難易度が跳ね上がっていました。音も立てずに蛇のように滲み寄ってくる紐を、どうやって察知しろと! たまに態とキキーモラの先端で音を立てるのが、猶更タチが悪いです! しかも察知に失敗して捕まる度に、私の額にで、で、デコピンを………ッ! おかげであちらにいる間中、額がずっと赤かったのですよ!? そのせいで虎太郎さんと格闘術の訓練をする度に笑われて、食事の度に小太郎さんに笑われて、時々冷やかしがてら見に来るすずさんに爆笑されて……ッ! 絶ッッッ対にあの狐狸コンビには、いつか目に物を見せてやるです! ……何年先になるか分かりませんが。原作が始まるまでにはトーニャさんに一撃くらいは入れれるでしょうか?

 

 まぁ、あの特訓と言う名の嫌がらせのせいで、気配察知や探知のレベルが格段に上がった事は確かですが。今の私なら、長瀬さんが本気で隠密をしていても察知できる自信があるです! ……理由が理由だけに、あまり嬉しくないですね。

 格闘術のレベルも、かなり上がりました。今なら魔力での身体強化無しでも、麻帆良武闘会の豪徳寺さん達レベルなら、普通に勝てるくらいにはなっていると思うです。残念ながら【八咫雷天流】の技は人間には難しいという事で教えて貰えませんでしたが、代わりに【九鬼流】という、虎太郎さんが昔戦った鬼のように強い人間の流派を、少しだけ教えて貰えたです。

 何で別流派の技を知ってるのかと疑問に思いましたが、虎太郎さんの弟子の一人に九鬼流の使い手がいるそうで。機会があれば、その方にもあってみたいですね。

 あ、そう言えば小太郎さんは少しだけ八咫雷天流を師事出来たらしいです。良いですねー狗族の身体能力。ネギ先生のように人外になりたいとは思わないですが、あの身体能力は純粋に羨ましいです。それにしても……。

 

「面倒くさい事になってしまったです」

「何が面倒なんや? 夕映ねーちゃん」

「……貴方の事ですよ。小太郎さん」

 

 ええ。溜息の理由はトーニャさんのせいだけでは無かったのです。この何故か私に着いてきた、小太郎さんのせいもあるです。むしろ、こちらの方が比率が多いですね。

 

「へ? 何で俺が面倒くさいんや」

「私にも色々あるのですよ。小太郎さん」

「あ、また小太郎ゆーとるし。虎太郎のおっちゃんと判りにくいから、適当な呼び方に変えてくれゆーとるやん!」

「適当な略称ですか……」

 

 うーん。普通に考えたら“コタ”なのでしょうが、那波さんや村上さんと同じ呼び方というのも何だか面白くないです。と、なると……後ろ半分を取って“ロウ”? ……無いですね。どこのジャンク屋ですか。似合わないにも程があるです。だったら……。

 

「“タロ”と“コウ”のどっちが良いですか?」

「……ねーちゃん、名前のセンスあらへんなぁ」

「自覚はあるです」

 

 どうにも私は、周りと比べて随分センスが変わってるようです。味覚に限らず、こういう名前付けや美的センスも。御爺様の影響でしょうか?

 

「で、どっちにしますか?」

「う~ん……その2つなら、まだ“コウ”の方がええわ」

「はい。それじゃあこれから宜しくお願いするです。コウ」

「おう!」

 

 私に愛称を付けられた小太郎――――コウは、嬉しそうに笑いました。今まで愛称なんて付けられた事が無いからでしょうか。原作でも那波さんに可愛がられている時は、なんやかんや言いながらも嬉しそうでしたし。原作より4年も前だと、大分素直ですね。

 

「ところでコウ」

「ん? なんや?」

「改めて聞きますが……私に着いてきて良かったのですか? 強くなりたいのなら、虎太郎さんや鴉さんのところに居た方が近道だったと思うのですが」

 

 そう。何故か分かりませんが、私が麻帆良へ帰る時、コウも付いてきたのです。理由を訊いても何でもえーやんとはぐらかされるばかりで。押しに負けてしまいましたし、もう麻帆良に来てしまったので追い返すつもりも無いですが、やはり理由は気になるです。

 

「あー……んー……あー、俺が夕映ねーちゃんにくっついてきた理由なぁ……言うても怒らへん?」

「……怒られるような理由なのですか?」

 

 私に着いてくる理由に、私を怒らせるようなものがあるとは思えませんが。鴉さん達に後ろめたい事をして逃げてきた、とかでしょうか? 屋敷の壺や掛け軸をダメにしてしまったとか。

 

「怒らないので、言ってみて下さい」

「ほ、ほんまやな? 絶対に怒らへんな?」

「ええ、本当です」

「…………あんな、夕映ねーちゃんが心配やってん」

「……は?」

 

 私を心配して着いてきた? コウの好感度を上げるような事をした覚えは無いですが。

 

「やって夕映ねーちゃん。トーニャの姉ちゃんや虎太郎のおっちゃんにいっつもボコボコにされとんやもん。最後の方は大分強うなっとったけど……」

「うっ……痛いところを」

「夕映ねーちゃんが何で強くなろうとしとんか知らんけど、なんやあるんやろ? せやなかったら、ねーちゃんみたいな人間が俺等みたいな妖怪に頼ってまで、あないに頑張る筈あらへんし」

 

 ……鋭いです。ハッピーエンドを壊さないという自分本位な理由ですが、私にとっては譲れない理由ですから。そうでなければ、鴉さんの修行なんか初日でボイコットしてるです……出来たかどうかは別として、ですが。

 

「せやけど、夕映ねーちゃんまだまだ弱いやろ? 魔法使うたらどれくらい強いんか知らんけど、俺よりちょっと強いくらいやと思うし」

「え、私コウより強いですか?」

「俺の見た感じやとな」

 

 おぉ。まさか原作キャラからのお墨付きが貰えるとは……頑張って来たかいがあったです!

 しかしコウ。原作と比べて本当に素直ですね。原作なら私が自分より強いだなんて、戦いもせずには認めないでしょうに。

 

「せやから、俺も一緒に強うなって、俺が夕映ねーちゃんを護ったるんや!」

「ちょっと待つです」

「ん?」

「何でそこで私に着いてくる事になったですか?」

「やって、傍におらな護れへんやん」

「……怒られるかも思ったのは?」

「そら、自分より弱いヤツに弱い言われたら、普通腹立つやん」

「…………」

 

 な、なんですかこの良い子は!!? 可愛すぎです! 健気すぎです!

 

「ゆ、夕映ねーちゃん? やっぱり怒ったんか?」

「はっ! い、いえ! そんな事は無いです! コウがそこまで私を心配してくれて、嬉しかったです!」

「そか? なら良かったわー」

 

 あ、もう無理です。少し原作の心配とかしてしまいましたが、もう関係ないです。原作何て知った事じゃないです。こんな可愛い子を、あんな面倒くさいツンデレにしてたまるかです! これから4年間、私が責任を持って育て…………あ。

 

「そう言えばコウ。住むところはどうするつもりだったのですか?」

「ん? 住処くらい、適当に造るで。こんだけ広い街やったら、洞穴くらいどっかにあるやろうし」

「え゛……」

 

 ほ、洞穴に住むつもりだったのですか!? いくら狗族と言っても、野生が過ぎるです! それに麻帆良で狗族が野良生活なんかしてたら、下手をすれば刀子先生とかに退治されて…………え、え、え、えらい事になるですーっ!?

 

「ダメですコウ。ここで野良生活は危険です。狗族のコウが野良生活なんてしていたら悪い妖怪と間違えられて、ここに住んでいる魔法使い達に襲われてしまうかもしれません」

「そ、そない物騒な街なんか!?」

「ええ。ここは人外に優しくない街です。ですから、コウもここの学園長と話が付くまでは、狗族という事を隠しておいてください」

「わ、分かったわ。せやけど困ったなぁ……どこに住めばええんやろ」

 

 はぁ……ここで何で私に頼るという選択肢が無いのでしょうか。もしかすると、誰かに頼った事が無い……のでしょうか? これは、猶更私が甘やかさなければ!

 と、一応私の家以外にも、師匠(マスター)のとこもありますね。聞くだけ聞いてみるです。

 

「コウ。住むなら私の家か、変態師匠の家がありますけど、どちらが良いですか?」

「はぁっ!? な、なんやその2択! つか、夕映ねーちゃんの師匠って変態なんか!?」

「はい。遺憾ながら変態です。しかも私やコウくらいの幼い少年少女が大好きという、とんでもない変態です。あ、直接的には何もしてこないので実害はありませんから、安心してください」

「安心できるかーっ!! その2つやったら、絶対に夕映ねーちゃんの家がええわ!」

「ですよね。なら、私の家に案内するです」

「へ? あ……もしかして俺、ハメられたんか!?」

「いえいえ、まさか」

 

 ハメただなんて心外な。普通に誘ったら遠慮しそうなので、師匠の変態っぷりをダシにしただけです。嘘は言ってませんし。

 というわけで、さっさと私の家に行きましょう。御爺様なら事情をある程度話せば、喜んで住ませてくれるでしょうし。田舎から武者修行の為に麻帆良に来たけど、住む場所を考えてなかったとかで良いでしょう。多分。これも嘘じゃないですし。

 

「では。コウの言質も取った事ですし、私の家に行くですよ」

「はぁ……言うてもたもんはしゃーないか。せやけど、ホンマにええんか?」

「勿論です。私もコウが一緒に居てくれた方が嬉しいですし」

「そ、そか……! よっしゃ! ほな早う連れてってか!」

 

 そう言うと安心したのか、私の手を引っ張って早く早くと引っ張ってきたです。ふふ、本当に可愛らしいです。これで修行相手にも困らないですし、この調子なら原作まで順調に強く――――。

 

 

「――――おい」

「「っ!?」」

 

 

 な、なんですかこの殺気は!?

 コウも感じたみたいですが、とんでもないです!

 麻帆良にここまでの殺気を、ましてや私たちのような子供に向けてくる人なんて……!

 

 

「聞こえているのだろう? さっさとこちらを向け。餓鬼共」

 

 

 背後から聞こえてくる、底冷えにのするような声。

 本能が逃げろと警鐘を鳴らしていますが、逃げれるわけがありません。

 いつの間にか人払いの結界を張られたのか、周囲には誰もいませんし……とにかく、今は言われた通りに振り向くしかありません……!

 

 そして、振り向いた先にいたのは。

 

 

「結界が反応したから来てみれば……そこの男の餓鬼は狗族だな。気配からして、半妖か?」

 

 

 私が原作キャラの中で、最も出会いたくないと思っていた。

 

 

「そっちの女の餓鬼が連れ込んだようだが……何者だ貴様? この麻帆良の魔法生徒ではないだろう。貴様の面は見た事がない」

 

 

 

 『闇の福音』『真祖の吸血鬼』『人形遣い』

 

 

 

「おい、さっさと吐け。さもなくば――――実力行使だ」

 

 

 

 

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルその人でした。

 

 

 

 

 ……どうしましょう?




ちょっと短めですが、キリが良かったのでここまで。
そりゃカモの侵入にも気付くんだから、小太郎にも気付きます。学園結界の事を完全に忘れていた夕映のミスです。最弱エヴァとは言え、合気鉄扇や操糸術の事を考えると、2人に勝てる相手じゃないです。さて、どうなるやら。

小太郎が妙に夕映に懐いてるのは、初めて優しくしてくれた人だからです。所謂鳥の雛の刷り込みに近いかな。そりゃ辛い目にあってた5歳児が優しさに触れたら、こうもなりますという事で。

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