問題児達と一緒に虚刀流もやって来るようですよ?   作:徒釘梨

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久しぶりだったので、ミスタイプが多かったのはここだけの話。


第四十九話 道化、憤怒を示す

「オイオイ、こいつらの菌核は鉄塊みてえに硬くなってる筈なんだが………嬢ちゃんホントに人間か?」

 

そう言ってしまったガロロの目の前には叩き潰された寄生種──冬獣夏草だったものがあった。

襲いかかって来たこれらは決して強いわけではない。が、一概に雑魚と言えるほど弱くはない。人間という脆弱な種族にとっては尚更、だ。それを一方的に勝利した細身の少女に尋ねてしまうのも無理からぬことだった。

 

「うん、DNA的には人間」

 

淡々と返してみせた耀だったが、しかし疑問だったのは耀も同じ事だった。冬獣夏草の強さは箱庭で初めて出会った敵のガルド=ガスパーに相当するほどの強さだった。あれから強くなったとはいえ、一人でそう何体も倒せるものなのか?

 

(知らない内に強い幻獣の恩恵でも貰ってたのかな?それとも七花の強さの欠片でも盗めたのかな?もしかしたら昨日の試合は何か意図が…………まあいいか。それは後で考えればいいや)

 

ここから脱出できたら七花に尋ねてみるのも良いかもしれない。因みに七花が躱し続けたのは単に面倒だったからである。耀の成長を促そうなどとは微塵も考えていなかったのだが──。

閑話休題。

耀はそう考えると、思考を脱出の方に切り替えた。それとほぼ同時に、ベチャベチャと独特の音を立てて再び冬獣夏草が近寄って来ていた。

それも、かなりの数で。

 

(音からわかるだけでも軽く30はいる。………子供達を庇いながらこの数は無理。かと言って私が囮になるっていうのは、あんまりいい手じゃない。どうする?)

 

追いかけっこにもそろそろ限界を迎えつつある現状に思わず歯噛みした。子供達にも疲れが目に見えるようになってきている。決断に迫られていると、聞き覚えのある道化の声が前方の子供達から聞こえてきた。

業火から伝う熱が、確かに先にいる者を示す。

 

「YAFUFUUUUUUッ!!!呼ばれてはいませんが助けに参りましたよ、お子様達!」

「全員建物の陰に隠れてな!!派手に行くからな!!」

 

炎を滾らせるカボチャの幽鬼、ジャック・オー・ランタンと青く揺れるツインテールが特徴のアーシャがそこに居た。二人は困惑する子供達を手際良く先導し、迎撃の構えを整えていた。そして子供達が廃屋に入りきったのを見計らうと、普段の陽気な気配をガラリと変え、重く暗い憤怒を顕した。

この時に耀は直感的に普段の道化は消えたのだと理解した。

 

「”ウィル・オ・ウィスプ”の御旗の前で幼子を食らおうとは、何と無知ッ!何たる冒涜!我らが掲げる御旗の大義を知らぬというのか……………!!!それならば、せめて業火の中で知りなさい。蒼き御旗の───”ウィル・オ・ウィスプ”の旗印は、決して幼子を見捨てたりはしないとッ!!!」

「応さ、やっちまおうぜ。ジャックさん!!」

 

パチンとアーシャが指を鳴らすのと同じくして、ジャックの頭上に七つの炎が灯った。灯ったと言っても、荒々しく敵を屠るという激情の籠った悪夢の炎だった。

それにいち早く気付いたガロロは隣の耀に顔を青くして叫ぶ。

 

「地獄の炎をそのまま引っ張ってくるなんてそんじゅそこらの悪魔にできる芸当じゃねえ………!下手すりゃ城下街何か吹き飛んじまうぞ!?耀嬢ちゃん、さっさとここから逃げるぞ!!」

 

言い終わるかどうかのところで群れていた冬獣夏草に灼熱の嵐が吹き荒れた。地獄の淵から掬ってきた業火は冬獣夏草を雑草の様に燃やし、それだけでは飽き足らず、大地を燃やし、大気を燃やし、焦土をただただ作っていく。跡など残る訳も無かった。

 

「ヤホホホホホッ!!大・炎・上ッッ!!」

 

間一髪のところで上空に逃げ、難を逃れた耀達の耳に届いたのはいつもの陽気な声の道化だった。

こっちはその炎で生きた心地がしなかったぜ、と呟いたガロロに心の中で激しく同意した耀だった。

 

 

 

 

二人が”ウィル・オ・ウィスプ”の道化師達に合流していた頃、アンダーウッドの会議室ではうっすらとした緊迫感が漂っていた。

小さな少女のわずかなプライドが壊れるか否かの瀬戸際にあった。

 

「盗まれたバロールの死眼がもし悪用されるようであれば、黒ウサギ殿の帝釈天の槍で貫いて欲しい、っふ」

「無論使われることなく回収できた場合は、こちらでいたふぁ、頂いてもよろしいんですよね。………くっ」

「ああ、もちろんだ。んんっ」

「そ、それじゃあ張り切って行きましょうか。──ぷふっ。ねぇ、黒ウサギ?」

「………ええ、そうですね。黒うさぎも精一杯頑張るのですよーー」

「そーだなー。俺も面倒だけど頑張んなきゃなー」

「くくくっ、ハハハッ!!もーだめだ我慢できねえ、”黒死斑の御子《ブラック・パーチャー》”ともあろう元魔王がなんて格好だァ、オイ!?」

 

元々、バロールの死の恩恵に対する次善策の一つとして呼ばれたペストだったが、急な事で着替えられずそのまま《・・・・》の格好で会議室に入ることとなった。そうして今に至る。

そんな緊張感──ペストのバニー姿を見て笑わないようにするという事なのだが──を十六夜は大爆笑でぶっ壊した。それに釣られて飛鳥立ちも堪らず吹き出した。事情を知っている七花は明後日の方向を向き、経験したことのある黒ウサギは同情を全開にしてペストを見ていた。ちなみにジンは顔を赤くしてチラチラと伺っては顔を伏せ、と一番マシな反応だったが、ペストは気づかなかった。同志であったラッテンにも似た様な反応をされていた為、耐性はあると思っていたが、甘かったと言わざるを得ないだろう。今の彼女にあるのは、羞恥と怒りと、白夜叉に対する恨みであった。それでなんとか暴れ出そうとする衝動を抑えていた。

 

「いやーしかし、マジでどうやって引っかかってんだろうな。だってこんなまな板じゃバニーなんて着れないだろ。まさに箱庭の”神秘”だな」

「やめなさいよ十六夜くん。あんまりいじめちゃ可愛そうよ。それにいくらお子様体型だからってこういう格好にも興味があったんでしょうし、ふふっ」

「───殺す」

 

十六夜と飛鳥が意地の悪い顔で、かつての怨敵をいじる。顔を俯かせブルブルと肩を震わせるペスト。しかし問題児達はまだ追及の手を緩めない。

 

「前回のゴスロリもよっぽどだったけど今回のこれは一段と笑えるな」

「ええ、それになんだかこの服彼女も好きそうじゃないかしら?一周回ってにあっているというか」

「お二人とも人のコンプレックスを弄り倒すのはお辞め下さい!!それに女性の価値は胸で決まるものではございませんっ!」

 

我慢できないとばかりに割ってきた黒ウサギの一言が、ダメ押しだった。流石”箱庭の貴族(笑)”である。

ペストの中で何かが切れた。

ペストは涙目になって、体から黒い靄を出して叫んだ。

 

「ぐすっ、…………殺してやるうううううううぅぅぅぅぅぅぅっっ!!!!」

 

 

会議室は一時騒然となった。

※ペストは二時間の説得の末、会議は無事行われたそうな。




悔しがる女の子ってイイデスヨネ?

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