問題児達と一緒に虚刀流もやって来るようですよ?   作:徒釘梨

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第四十三話 魔王連盟、動く

マクスウェルは上機嫌だった。

 

転移を使ってかの白夜王の不意を突き、殿下達の奪還に成功し、手間を取らされたストレスを白夜叉の歯軋りする顔で晴らす事ができた。

 

 

 

 

ここまでは、であったが。

 

(問題なのはその後だ。私が転移する寸前、私を切りつけたあの男……一体何者だ。私はこれから婚儀を控える身であるというのにッ!!!………この礼は五体の髄まできっちりと返してやろう!それはそうと、あのゴミクズ一体何処の逸話のものであろうか?あれ程の技量だ、只者ではなかろうが。それさえ分かれば有効な駒の一つや二つ打てるというのに」

 

マクスウェルは転移する寸前、七花の手刀によって二の腕を深く斬られていた。傷自体は彼の保有するギフトで処置が成されていたが、それは問題ではなかった。マクスウェルの転移を攻略した者は過去何人か存在する。

しかし七花は転移そのものを攻略したのではなく、類まれなる技量によって転移する寸前のマクスウェルを討ったのだ。ただ転移を攻略された事以上に七花を警戒していた。

そんな彼の状況からか後半思考が漏れていたが、殿下の精神は停止していて聞き取られることはなかった。その事に一先ず安心していたが、問題は解決した訳ではなかった。

 

そんな時、軽快な声がした。

 

「やあやあ、マクスウェルサン。無事殿下を回収してくれてありがとうございます」

「遊興屋《ストリートテラー》か………。フン、片腕を切り落とされかけて無事なものか。それよりも貴様の弟子はそこで死んでいるが声を掛けてやらんのか?」

「ここでくたばってるようならそれまでのヤツだったって事デスヨ。一々気にしてちゃ弟子にした意味もないですし」

 

もうちょっと使える奴にはなるかと思ってたんですけどねぇ、などと顔を上に向けて呟いていた遊興屋を見てマクスウェルは、しかしその顔に全く死者を憐れむ想いが浮かんでいない事を見抜いた。せいぜい、自分の駒が減って楽が出来なくなったといった所だろう。

そんなことを考えていたマクスウェルに遊興屋はぐるりと顔を向け尋ねた。

 

「それよりもあのマクスウェルサン片腕に傷を負ったにしては意外と冷静じゃないすか?コウメイにやられた時はヒドイ荒れ用だったってのに?」

「………………………それは相手がそれだけの者だったということだろう。それよりも私の前でその名を出すな。──殺すぞ?」

 

マクスウェルの低く不思議とよく通る声と共に放たれた殺気はその場を呑み込まんとする勢いだった。殺気と同時に顕れた凍気は空間の温度を一気に下げていた。それは暗く重く、遊興屋の傍で控えていた吸血鬼の侍女が思わず主の目の前まで守護に向かおうほどに鋭かった。

しかし当の遊興屋はそんな殺気を何でも無いかのように流し、軽薄に笑った。

 

「カーラ、お前は出て来なくていい。それにしても、ククッ、名前一つでここまではの反応とは。実際に再会した時には果たしてどうなる事やら」

「………遊興屋、いい加減にしろ。私の堪忍袋もそう長くもつ物でもない。お前は私とここで一戦交える気か?」

「おお怖い怖い。一戦を交えるというか、命のやり取りになりそうですけどねぇ。閑話休題《それは兎も角》。最近本部の方で面白い話を耳にしましてネ、要は一口乗りませんか?というお誘いデス」

 

ニヤニヤとした笑みを浮かべ手を差し出してくる遊興屋の姿はどこか人を唆した蛇を思わせた。マクスウェルはいかにも嫌そうな顔で続きを促した。元々本部からとの始まりから興味を引かれていたのだ、ここで終わる筈も無かった。

 

「何でも戦力増強で外界から魔王を降ろすそうで」

「ふん、何かと思えば貴様が以前やっていた事と同じではないか」

「俺の真似事くらいだったら良かったんですが…………なんでもいわく付きのもんを降ろすそうでしてネ、万が一のために力のあって割と時間のある連中を集めているそうですヨ」

「……只事ではないな。しかしなぜそこまでしてその魔王を降ろす?戦力なら今のままでも充分であろう?」

「イエ、問題なのはその下ろす魔王、どうやら最強種や幻獣の類ではないそうでして」

「………ふむ」

 

マクスウェルは不思議であった。ウロボロスは同盟関係でこそあれ、共闘するような仲である訳ではない。それこそ勢力としては箱庭を制することも可能であろうが、我の強い魔王ばかりで統率が取りづらいというのが今のウロボロスの現状であった。

そんな魔王達を一堂に会するのだ。不審に思わない筈がない。思う所はあったのか遊興屋も苦笑いして頬をかき、「他の魔王も面子やら威厳やらを気にしてるんデスヨ」と言った。

その顔がやたら老けて見えたのはマクスウェルの見間違いではなかった。

 

「……こちらの事情は話しましたよ。さて如何程で?」

「無論乗るに決まっておろう。上に目を付けられては面倒であるし、それに何より───」

 

マクスウェルは一度言葉を切り、その顔に三日月を作って言い放った。五桁の魔王に相応しく、荘厳で喜悦を含んだ声色で。

 

「───面白そうだ」

 

 

 

 

 

マクスウェルと遊興屋が話をしていた頃、此方も一つの物語が起こっていた。

 

 

 

「ねえ、貴方今どんな気持ち?」

 

唐突に物言わぬ木偶へと成り下がった殿下に向かって一言かけられた。

 

声の主は先程主である遊興屋の元に向かおうとしたカーラであった。殿下は答えず、ただ腕の中の死体だけを見ていた。

カーラは彼の反応など分かりきっていたかのように、答えを待つに次の言葉を放つ。

 

「仲間を殺させて《・・・・》、仲間に裏切られたと思い込んで、どんな気持ち?」

 

殿下は動かない。

カーラは続ける。

 

「生まれたばかりと言い訳して、ガキだからって甘え続けて、憐れなくらいに無知を演じて、信頼を裏切らない事と勘違いして、ねえ、貴方今どんな気持ち?」

 

殿下は………動かない。

カーラは構わない。平坦な声でさらに続ける。

 

「牙があるのに抗わず、準備を進めようとして先送りにして、反抗の意思は内通者で筒抜けで、想定はただただ甘くて───」

 

殿下は……………………………………動けない。

カーラは淡々と次の言葉《ヤイバ》を振り落ろす。

 

「───自分の無能で部下を無駄に捨て駒にしてどんな気持ち?」

 

「あ、あ、…………─────あああああああああああああ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁぁァァァァァァaaaaaaaaa!!!!」

 

殿下は遂に吠えた。しかしそれは、理性あってのものではなく、知性なき獣の断末魔と言って差し支え無かった。

殿下が壊れてナニカに成ったことに気づいた遊興屋はカーラに少し慌てて声をかけた。

 

「オイオイ、ある程度ならと許可もしたが、………いくら次善策が有るからってホイホイ使い潰されてちゃ困るんだけど、大丈夫だよなアレ?」

「ご心配には及ばないですよ♪仮にも”原点候補者”なんですし。それに────」

 

カーラは呼びかけた主人の元へ行くと花がほころぶような、美しい笑顔で続きを言った。

 

「死体の作った重石と生き残っている仲間《クサリ》はコレを狂わしてはくれないでしょう?」

 

 

それはこの世のものとは思えない程美しく、虫の儚さを見守る女神のような残酷さを兼ね備えていた。

 

 

 

 




更新遅れてすみませんでした。

バイト始めて感覚が掴めなかったのと急にシフト組まれて体調崩しました。


一週間前に更新する筈だったのに…………

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