問題児達と一緒に虚刀流もやって来るようですよ?   作:徒釘梨

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遅くなって申し訳ございませんっ!!

言い訳は、………………………まあ無いわけでは無いんですがそれは脇にでも置いといて、

本編スタートです。
あとあけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。


第四十二話 虚刀流、奇襲を受ける

殿下は戸惑っていた。

 

 

生まれてこの方周りからは持ち上げられ、敵対する者には慄かれていた。勿論、全てが思いのままというわけでは無かったが、一定の予測の上で周囲は動いていた。

だからこそ、捕虜として捕まった時には拷問も死も覚悟した。目的を果たせない事は無念であったが、してきた事の報いだと悟り、それを享受しようと考えていた。

 

 

だが───

 

 

「だが、…………コレは一体どういう事だッ!!?」

「いや、着せ替え人形wにしてるだけじゃが?」

「……………白夜叉、これは俺でも流石に文句を言うぞ」

 

溜め込んでいたものを吐き出すような殿下は、よだれかけやおしゃぶりといったいわゆる『赤ちゃん』の格好をしていた。七花は平然と、白夜叉は腕を組んで応えた。内心は、腹を抱えて爆笑していたが。

殿下達は現在、手足の治療も施され、鎖も解かれていた。しかし白夜叉達の安全のため、手首にギフトを無効化するアクセサリーを付けられていた。殿下にはそれも破壊することができたが、鎖を砕けばリンをペストの《死そのものを与えるギフト》によって殺害する仕掛けがかかっていることを説明され、殿下は真偽は別として迂闊に動けずにいた。

 

閑話休題

 

そもそもこの状況は、一つに襲いかかった彼等への嫌がらせとして始めたものだったが、彼の知性的な普段の雰囲気とのミスマッチが更に白夜叉のツボを捉えていた。

それが憎たらしいと感じた殿下は歯ぎしりしたが、隣から殿下を諌める声がした。

 

「………殿下ぁ〜〜〜。もう反応するのやめときましょうよ、リアクションが面白くなっちゃうだけですって」

「リン!お前もそんなふざけた格好のままでいたいとは思わないだろう!?」

「でも、血を見るような事にならなそうだから良くないですか?あと私的には利益もありますし」

 

そう言って、ミニスカメイドに扮したリンは首を横へと向けた。彼女の視線の先には、顔尾を赤くした見覚えのある幼女がいた。言わずもがな、彼女は黒死斑の御子《ブラック・パーチャー》ことペストであった。しかしその格好は以前のゴスロリ風の衣装ではなかった。

 

「リン………ッ!!あんたねぇ………見てないであの駄神をなんとかしなさいよッ!!!」

「いやあ?私こうして制限されてるし、それにペストちゃんのコスプレも中々可愛くて面白いし」

「………アンタ後半のほうが本音でしょう。ッ、どうして私がこんな格好を」

「いや結構いいと思うんだよね?そのバニー姿。何かこう………イケナイ事してる娘みたいで」

 

そう。今の彼女はバニーガール姿であった。

まだ十分に成長しきっていない体に対してその冷めた表情と羞恥を顕す頬はどこか庇護欲をそそるものであり、大きく開いた背中はうなじから腰にかけて僅かに汗ばんでいて妖艶ですらあった。網タイツを履いた足もタイツの黒色が足の白さを際立たせていた。

はっきりと言ってしまうと、ペストのバニーガールはそれはもう似合いすぎるほど似合っていた。

 

「私は恐ろしいものを作り上げてしまったのではないか………?のう七花?」

「…………黙秘権を行使する」

「殿下はどう思いますか♪?」

「リン…………ハァ、まあいいか。ペストの服装に関しては、いいんじゃないか?似合ってると思うぞ」

「ココは公開処刑場だっただったのかしら!?自分のされてるコスプレを目の前で評価されるなんてもう嫌がらせの域を超えてるわよね!!?」

 

ラッテンの方がまだマシだったわね………と絞り出すように呟いたペストは、ツッコミに疲れてへたり込んでしまった。彼女の心境を表すようにして折れたウサ耳はご愛嬌だ。

 

七花も疲れたペストを慮ってか声をかけようとした時だった。ペストの体から黒と白の入り混じった、斑な光が出始め、ペストは七花達の目の前から消え去った。

それを見て白夜叉は顎に手を当て考えるような仕草をした。そして先程までの緩んだ空気を一切含まず七花に声をかけた。

 

「どうやらジン殿がペストの奴を使ったようじゃな。七花おんしもこやつらの件を片付け次第すぐに南側へ向かうが良い」

「了解。だけどこいつら一体どうすんだよ?拠点とか聞き出せてないんだろ?」

「その心配は不要だな。なにせ今から私が連れ去るのだからな」

 

七花の疑問に答えたのは、唐突に現れたマントを羽織った白ずくめの男だった。

突然姿を見せた侵入者は、殿下とリンを抱えるとニヤリと笑って白夜叉に言い放つ。

 

「警備がざるで助かったよ。私達としても殿下には死なれては困るのでねぇ」

「貴様ッ、一体何処から!!」

「フン、貴様にそれを言う必要があると思っているのか、元魔王殿?……ああ道中ハエが一匹よってきたが貴様に変わって始末しておいたぞ。むしろ感謝して欲しいくらいだな、ッ!!!?」

 

白マントの男が「それでは失礼する」と慇懃な態度で去ろうとしたその時だった。

身体の奥底から警報が鳴り響き、それに続いて皮膚が粟立った。それを恐怖だと認識する前に男は本能に従ってその空間から忽然と消えた。

後に残ったのは、脱ぎ残された衣装と憤怒に駆られた白夜叉、右腕を振り下ろした格好の七花があった。

七花は《右腕に付いた血》を振り払いながら白夜叉に尋ねた。

 

「悪い。白マントのやつ逃がしちまった。ところで、あのリンって女の仕掛けはもう動いているのか?」

「あ、ああ。消えたのとほぼ同時だったから恐らくはもう絶命しておるだろうよ。それも死を拒絶するようなギフトを有しておる者がいなければじゃが」

「その場合は仕方がないさ。生死は次会った時にでも分かるさ。それよりもあの女店員は無事かどうか確かめねえとな」

「………ああそうじゃな。急ぐとしようかの」

 

七花は急ぎ足で和室を出て女性店員の元へと向かった。

道中、白夜叉は胸中に言い知れぬ不安を抱えつつ、七花を見据えていた。あるいは見定めていたのかもしれない。

 

 

 

 

一方その頃殿下達はと言うと、

 

「ハッ、ハァッ……ハァッ、グッ………ハッハッ」

「おい、マクスウェルッ!!早くリンの治療をッッ!!」

 

白夜叉の用意した枷が作動し、リンは胸元を掻き毟って苦しんでいた。既に呼吸が怪しくなっており、目も虚ろで焦点も合っていない事が見て取れた。そんなリンを憐れに思い、殿下は近くにいたマクスウェルに声を荒らげた指示を出した。

その命令をマクスウェルは嘲笑で吐いて捨てた。

 

「ハッ、今となってはその女に用などない。在庫にユニコーンの角もあるにはあるが、助かるかは望み薄だからな。使うような事はしない。軍師《メイカー》としては面白そうではあるが、ここで生かすほどのものでもないしな。よって、ここでこの女《軍師殿》にはご退場願おうか」

 

瞬間、殿下は呼吸を止めた。

 

コイツハナニヲイッテイルンダ?

 

思考は纏まらず、解け、千切れていった。

手足は鉛のように重く、動こうとする気さえ起こさせないと言わんばかりだった。

早く動かなければならないと鼓動する心臓とは裏腹に、心と体は停滞を選択し続けていた。

仲間を見捨てると言った目の前の男を殴りとばすわけでもなく、かと言って家臣を救うために駆ける事も無く、かくして殿下は木偶と成った。

 

 

 

 

 

代わりの駒がどうのと言っているマクスウェルの言葉が殿下にはシェルター越しに聞こえてくるようだった。既にマクスウェルの意識は一人と一つから離れていた。

 

 

リンの熱は冷えて、柔肌は焦がしすぎた肉のように固く、忙しなく動いていた胸はその機能を完全に停止させていた。

 

リンこと綾里鈴は殿下の腕の中で絶命していた。

 

 




急展開きたーって思った方、これあかんわ〜って方、感想欄にてお待ちしてます。

何気に久しぶりの三千文字代だった

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