問題児達と一緒に虚刀流もやって来るようですよ?   作:徒釘梨

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お待たせしました、今回はかなり手こずりました。

いつもどおり感想、批評、御指摘待ってます。
それでは本編スタートです。


第四十一話 虚刀流、南の開戦を知る。

逆廻十六夜は返り血で染まる女剣士を見た時、想起していた。

 

久遠飛鳥も同様に、その存在感から。

 

春日部耀も同じく、その剣技の冴えようから。

 

 

 

その姿ははまるで────

 

 

 

 

「ふぁくしみりっ!───……………うーん風邪かな?」

 

件の鑢七花は、丁度少女から情報を聞き出し終わっていたところであった。

七花は鼻を指でこすり、首をひねった。リンは突然七花がくしゃみをしたのでびくりとしたがやがて溜息と共に不満げな声を出した。

 

「ねえ、貴方の体調は割とどうでもいいんだけど、そろそろ解放してもらえないですか?私の知ってる事は喋ったし、そろそろ殿下の様子も見たいんですけど」

「あんたも大概図太いよな。さっきまで元気無かったのによ」

「もう色々諦めたんですよ。………まともにやっても意表を突いても対応されるなんて軍師《メイカー》として最悪ですよ…………」

 

呆れを孕んだ溜息に七花は『とがめの方がもっとえげつない策士だった』という言葉を飲み込んだ。何故だか彼女から色が抜けていくように見えたからだ。勿論錯覚だが。

 

だが、リンはここで一つ小さなミスをした。常の彼女であれば犯さないであろう自身の組織での役割を露見するという重大なミスを。

 

七花はそろそろかと腰を上げた時、丁度白夜叉の声がした。

 

「おお七花、時間稼ぎお疲れじゃ」

「言われた通り喋って時間潰したり軽く威圧してたりしたんだけど、首尾はどうだった?」

「さらりと、恐ろしい事を言っておるが………まあ良いじゃろ。──南がどうやらごたついておるようじゃからおんしもレティシアを連れて同志の元へ往くがよい」

 

白夜叉は硬い声音で口を開いた。仲間の危機を知らせる言葉に七花も苦手な思考を始めた。七花の目算では余程の敵──それこそつい先程戦ったリンのような強敵──が現れない限り勝算がある。それ程の実力を各方面で彼等は持っていた。

一方、南という言葉にリンの肩はピクリと反応した。すんでのところで鎖を鳴らすような事は無く、内心ホッとした。僅かな動揺ですら七花には見抜かれてしまうような漠然とした確信があった。

 

「うーーーーん、でもこいつらの件が片付くまで東側にいるよ。そもそもこいつら俺が連れてきたんだし」

「………そうか。おんしがそう言うならここは頼らせてもらおうかの」

「ああ任せとけ。それに南の一件もこいつら何か知ってそうだしな」

「────ッ!?」

 

──だがリンは重大な部分を理解していなかった。鑢七花という刀の性能の高さを。七花の悪意や敵意に対する察知度は箱庭世界に訪れる前から彼女の演技など看破出来るほどに高く、また箱庭で更に研磨された直感のような儚い感覚を五感と大差ない段階にまで感知出来るようにまで引き上げられていた事を。

見抜かれたリンもこの結果を受け入れていた。バレた気配はしなかったがどこかこの結果となるであろうと予測していた自分がいるのをリンは感じていた。

リンは自身の策が崩れていくであろう未来を特にどうとも感じることは無かった。ただ殿下に会う機会が更に遠のいた事がだけが残念だった。

 

 

 

 

アンダーウッド地下街の一角にて、軽薄な笑みを浮かべた少年と全く取り合わない仮面の騎士が歩いていた。その奇妙な組み合わせに周りの観衆も一歩引いて眺めていた。

 

「ヤハハ、やっぱアンタ凄いな。切れたところを見たが、綺麗に一刀両断だった。かなり強いんだろだから一丁遊ぼうぜ」

「先ほどから断っているのですが聞き分けがありませんね……。それにしてもこれをあなたがやったと言うなら一考しても良いかもしれません」

 

そう言って仮面の騎士は辺りを見渡した。

そこには壊された家屋の破片や藻屑、柱等で貫かれた歪な磔がざっと百体程並んでいた。一投一殺と言っても足りなかった。

仮面の騎士の漏らした声には少しの呆れと多大な賞賛があった。彼の功績によってアンダーウッドの地下街は敵戦力の割に、少ない被害で済んだのだ。また投擲された家屋も廃屋や建て替えが必要なもの等が大半で、むしろ再開発の費用が浮いたとサラは言っていた。

その賞賛を感じ取り、十六夜も軽薄で飾った笑い声をあげた。騎士を射抜く瞳は爛々と獰猛であったが。

 

「ヤハハッ、お褒めに預かり光栄だな。だが俺としてはこんな木偶よりもアンタと闘りたいんだがな」

「女性に対してのエスコートもなっていませんか。………しかしその真っ直ぐな闘気は久方ぶりですね。収穫祭のギフトゲームで雌雄を決しましょう」

「コイツはいい返事が聞けたモンだ!!コレは七花に礼を言っとかないとな」

 

ケラケラと笑っていた十六夜をまじまじと仮面の騎士は見ていた。彼の言葉には感謝の意思は薄く、むしろ敵愾心すら滲んでいた。

この才能あふれる新参者《ルーキー》を嫉妬させる彼の仲間に熟練の仮面の騎士も胸を僅かに踊らせた。

 

 

 

 

 

「のう七花、此奴らの他にもあと一人弄りがいのありそうな者がおるんじゃがどうするかのう」

「そんな楽しそうな顔しても俺にそういうの期待するだけ無駄だぜ?」

「ふむ………ではおんしはアイディアだけでも出してくれんか?後はこちらでいいように編集するから、の?」

「面倒だ…………」


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