本来ならしているはずだったんですが、中々時間が取れませんでした。
まあ、そういう訳で本編スタートです。
七花が殿下との闘いに挑んでいた頃、十六夜達はアンダーウッドの大瀑布を一望出来る丘に立っていた。吹き抜ける風は水気を含んでいて照りつける日の光を和らげていた。だが、日が照っていようが関係なかったかもしれないそれ程に、眼前の景色は壮大だった。
「す……凄い!なんて巨大な水樹!?」
「ヤハハ、まさに絶景だな!!」
「飛鳥、十六夜下見て!滝の先に水晶の通路がある!」
大樹の根が地下都市を覆うように縦横無尽に伸びていてその隙間にある水路と上手く調和していた。
そんな南側特有の景色に魅入られていると、大きな鳥の大群が空を飛んでいった。しかも珍しい事に鹿の角を生やしており、耀は期待に胸を踊らせた。すると旋風と共に、見覚えのある鷲獅子が現れた。『サウザンドアイズ』での試練の際に立ち会ったグリフォンの”グリー”だった。
『ここから街まで距離がある。南側では野生区画というものが設けられていて道中は気を付けねばならん。もしよければ私の背で送っていこう』
「本当でございますか!?」
「どうやら乗せてくれるみたいだぜ、お嬢様」
「大丈夫…よね……?」
十六夜は黒ウサギたちの会話を察して楽しげに飛鳥に話を降ったが、当人は試練の時のグリーの旋回を思い起こしたのかかなり腰が引けていた。
「私は自分で飛んでいくよ。それよりあの鹿の角を生やした鳥は幻獣なの?」
『鹿の角を生やした?まさかペリュドンの奴等か?………収穫祭の間は近づくなと警告しておいたが』
グリーは忌々しげに空を睨んで唸った。ペリュドンの名を聞き、黒ウサギも少し高揚が下火になった。幻獣と言えなくもないが、耀の期待を裏切る事実を伝えなくてはならなかったからだ。
「ペリュドンは殺人種なのでございます」
「殺人種?人間を食べるの?」
「いや、確か呪いを受けてて、それの解除方法が”人を殺す”って事じゃなかったか?」
「YES!概ねその通りなのデスヨ」
「さすが十六夜君、博識ね」
「まあ、それほどだ。それよりもサッサと行こうぜ」
「それもそうね」
一行はグリーの背に乗り、大樹の根本までの空の旅を味わった。………グリーの飛行能力の高さのせいで、楽しめていたのは黒ウサギや十六夜だけだったが。
閑話休題。
空の旅を終え、収穫祭の会場近くまで来るとまだ会場の外にいるのにも関わらず、祭りの盛り上がりが伝わってきた。問題児一行のテンションも徐々に高まってきていた。
そんな彼等に知った声が聞こえてきた。
「誰かと思ったらお前耀じゃん!何何お前らも収穫祭に出るのか?」
「アーシャ。そんな言葉遣いを教えたつもりはありませんよ」
「アーシャにジャック………二人とも来てたんだ」
「まあねー。こっちにも事情があってね」
そこには北の火龍誕生祭で出会ったやや高飛車な態度のツインテール少女と、陽気なかぼちゃ頭がいた。そこで好敵手として認め合ったのだが、そんな彼女は青いツインテールを揺らし、ニヤリと笑って尋ねた。
「ところで、耀は出場するギフトゲームはもう決めてんの?」
「ううん、今来た所だから全然」
「なら”ヒッポカンプの騎手”には必ず出場しろよ。私も出るしね」
「………ひっぽ………?黒ウサギ、知ってる?」
「コホン、ヒッポカンプとは別名”海馬《シーホース》”と呼ばれる幻獣で、たてがみの代わりに背びれを持ち、蹄に水かきを持つ馬だ。水中や水上を駆ける彼らの背に乗って行われるレースが”ヒッポカンプの騎手”ということかと思われます」
「……水の上を駆ける馬までいるんだ」
「ヤハハ、やっぱり南側側に来て正解だったな春日部」
「うん!」
目の前に広がる大自然とまだ見ぬ幻獣の気配に耀は勿論のこと、他の問題児達も好奇心を湧かせていた。
「ところで、黒ウサギ殿。あの背の高い和服を着ていた男性は今日はいらっしゃっていないのですか?」
「………YES。招待された人数の都合と本人に少々ありまして………でもどうしてそれを?」
そっと黒ウサギに近寄ってきて尋ねたジャックに彼女はやや戸惑った顔で返した。
「いえ、以前の魔王襲来の際、強烈な印象を受けまして。………それに」
黒ウサギは思わずゴクリと喉を鳴らした。暖かな光を灯すランタンの奥から溢れたように炎が漏れ出たからだ。
「彼からは尋常ならざるものを感じましたので。…………場合によってはYAッFUFUFU」
「ま、全く笑えないのですヨ………」
黒ウサギは冷や汗を流しながら内心七花に問い掛けていた。普段温厚なジャックの激情を引き出すなんて一体何やってくれちゃってんですかッ!?、と。
実際はジャックが七花の佇まいから人を殺したことがあるかもしれないと考え、自身の持つ信念に触れないか警戒して、黒ウサギはその煽りを受けただけなのだが。
そんなことは露知らず退屈しのぎと言ったように十六夜は切り出した。
「そういや俺たちは誰に招待されたんだ?」
「そ、それは”龍角を持つ鷲獅子《ドラコ・グライフ》”という連盟からなのでございますよ」
ジャックの威圧感に耐えかねていた黒ウサギはこれ幸いとばかりに十六夜に乗っかった。その答えに疑問を持った飛鳥が加えて問うた。
「連盟……幾つかのコミュニティが同盟を組んでいるのかしら?いえ、そもそも何の為に連盟を組むのかしら?」
「連盟とは三つ以上のコミュニティが共に在る為の証として作ることが出来ます。連盟の目的は様々です。…………ですが一番の目的は魔王に対抗することでしょう」
「なるほど、魔王にちょっかいかけられたとしても連盟のコミュニティがゲームに介入出来るってことか」
「……それなら商業系のコミュニティでも安心出来そう」
「まあ、それは各連盟の自己判断でもありますし、あまりにも分が悪い時には助太刀しない事も多いです。ちょっとした気休めですね」
そうこうしているうちに”龍角を持つ鷲獅子”の本陣に入って受付に入場届けを出していた。
「”ノーネーム”のジン=ラッセルです」
「”ウィル・オ・ウィスプ”のジャックアーシャです」
「確かに、………それでは一本角の新頭主にして本連盟の議長のサラ=ドルトレイク様がお待ちです」
「ドルトレイク………っていや……」
「まさか”サラマンドラ”の………?」
「そういえばサンドラには姉がいるって、白夜叉が」
「え、ええ、その姉に当たる方が長女のサラ様です。でもまさか、南側に来ていたなんて……」
その時、熱風がその場の全員を包んだ。熱の発生源は空に浮かんだ女性の持つ紅蓮の炎の翼であった。翼同様に燃えるような赤い長髪と瞳。亜龍としてその力量を物語っている立派な龍角。踊り子を思わせる程軽装ではあったが、確かに長としての気位が視線に現れていた。
「さて、積もる話も、事務的な話も色々とあるが、まずは座ってお茶でも飲もうか」
そう言って彼女、サラ=ドルトレイクは薄く笑って切り出した。
ここだけの話〜
何気なくランキングを漁っていた時自分のものがあって、更新ボタンを連打してしまった(笑)