問題児達と一緒に虚刀流もやって来るようですよ?   作:徒釘梨

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第三十一話 虚刀流、合宿の終わりと収穫祭の始まり

「全く箱庭に来てから水難続きだぜ」

 

トリトニスの滝の主とのギフトゲームを終えてノーネーム本拠へと帰ってきた逆廻十六夜は、服の裾を手際よく絞って水気をなくしていた。

 

「あらそれは日頃の行いのせいではなくって?」

 

地鳴りとともに赤いドレスを纏ってこれまた紅い鉄人形を引き連れて、久遠飛鳥は逆廻十六夜に声をかけた。そしてその発言に合わせてか、空からふわりと表情の起伏の乏しい少女が、春日部耀が現れた。

 

「……多分十六夜は嫌われてるんじゃない、水神様とかに」

「修羅神仏の集まるこの箱庭だ。あながち否定できなさそうだな。そんで今回の競争の役者が一人足りないんだが、七花の奴はどこなんだよ?」

「黒ウサギに聞いた話じゃ、七花さんはどうやら白夜叉の所にいるらしいわ。だから呼びに行こうと思って」

「……競争期間の間ずっと本拠にいなかったからどれだけ戦果を挙げたか楽しみ」

「へぇ、随分余裕そうだな春日部」

「……勿論。今回はかなりの手応え」

「ヤハハ、楽しみだな。それじゃ俺も『サウザンドアイズ』に戦果を取りに行くていう用があったからちょうどいい。主要メンバー集めて全員で行くか」

 

十六夜の言葉に首を傾げつつもノーネームの主要メンバー達はサウザンドアイズの支店へ向けて支度を始めた。

 

 

 

 

 

 

『サウザンドアイズ』の支店の前にはいつかと同じように、静かに箒で玄関の前を掃除する女性店員がいた。十六夜達に気が付いたのか顔を上げると、いつもとは異なり溜息一つで大して嫌そうな顔を浮かべてはいなかった。それだけでも多少なり驚く所ではあったが、その後の行動は十六夜達を驚愕させるのに十分過ぎるものだった。

 

「いらっしゃいませ。今日はどんな御用で御座いますか?」

 

あの名無し毛嫌いの店員がまともな接客をしている、だとッ!?という言葉が浮かんできたノーネーム一同だったが、耀が一番に復帰して応えた。

 

「………驚いた。まさか真面目に私達ノーネームに対応するなんて」

「オイオイオイ一体どうしたんだよ、らしくないぜ」

「これはオーナーである白夜叉様の意向でもありますが、今回は我々の不手際もありましたので」

「あら、『サウザンドアイズ』ともあろう大手コミュニティが一体どんな不手際をしたのかしら?」

 

飛鳥は挑発的に店員に言ったが、オーナーが話すと奥へ進められるだけで肩透かしとなってしまった。

白夜叉の私室の前の障子を開いてみると、常の気さくでふざけている雰囲気はなく瞳は真剣だった。その空気に当てられてか黒ウサギもいつも以上に肩に力がかかっていた。

 

「ふむ、来たか小僧。まずはおんしに白雪の隷属の契約と報酬を与えなくてはな」

「まあ蛇の方は完全におまけだったんだけどな。だが、”水源となるギフトを手に入れて来い”って条件は成立したぜ。さあこれで契約成立。例のものを渡してもらおうか」

「ふふ分かっておるわ。『ノーネーム』に与えるのはおそらく初めてであろうな。それジン殿」

「これは……!?」

 

そう言って白夜叉は虚空から出した羊皮紙にサインし、ジンへと渡した。ジンは思わず衝撃で声を上げてしまった。それを訝しんだ黒ウサギは後ろからその羊皮紙を覗き込んだが彼女も驚愕に身を固めた。

その羊皮紙は『フォレスガロ』解体後『サウザンドアイズ』が保持していた外門利権書、またの名を”地域支配者(レギオンマスター)”と言った。それは、その地域において最も力のあるコミュニティに与えられる証明という意味合いがあった。

 

「オイオイ、いきなり黙りこくらないでくれよ。こっちもどうリアクションとればいいか困るだろ。不満だったんなら話は聞くが?」

 

思っていた反応と異なったのか、少し眉を寄せて訝しげに二人を見た。そんな十六夜の杞憂を吹き飛ばす様に、黒ウサギは十六夜に勢い良く飛び付いた。

 

「凄いのです、凄いのですよ十六夜さん!!たった二ヶ月で利権書まで取り戻していただけるなんて!本当にありがとうございます!!」

 

普段以上にオーバーな黒ウサギに抱きしめられた十六夜は当たっている胸の感触にただただ浸っていた。しかし外野の問題児二人はそうではなかった。ある意味一番気になる人物の結果が発表されていないのだ。

 

「……十六夜も黒ウサギも七花の事忘れてる」

「そうね。面倒がりながらも参加していた七花さんだもの、結構な戦果を期待してもいいんじゃないかしら?」

 

ことここに至ってようやく自分が十六夜にしていた事に気づいた黒ウサギは一瞬で居住まいを正し赤い顔で話に乗った。

 

「そ、そそ、そうでしたっ!!七花さんは一体どんな戦果を上げたんですかァァ!?黒ウサギは非常に気になりますっ!!」

「ヤハハ、残念。もう少し役得な気分を味わっていたかったんだが………んで、その七花は今どこにいるんだ?」

 

十六夜の発言を境に部屋の緊張雨が一気に高まったようだった。しかし、白夜叉は落ち着いて話を始めた。合宿でのこと。武御雷という男の事。そして彼らの決闘の事。

 

「各々言いたい事はあるじゃろうが七花から伝言がある。『そういう訳で俺は脱落だ。治療にも完治までもうしばらくかかるらしいんで収穫祭はお前らで楽しんでくるといい。面倒がってた奴なんか気にせず行ってこい』だそうだ」

「へぇそいつはまた……」

「ええ随分と……」

「……上から目線」

 

『ノーネーム』が誇る箱庭屈指の問題児達は表情こそ青筋が立つ程度で抑えていたが、内心は完全に怒っていた。

白夜叉は扇子で笑った口元を隠して返答を待った。

 

「七花が次目が覚めたら伝えてくれ、白夜叉」

「なんじゃ?」

「「「舐めんのも大概にしろ!!」」てな。邪魔したな白夜叉」

「ま、待つのですよ!!全くこの問題児様方は〜!?」

 

言うや否や、障子をピシャリと閉じて三人は店の外へ出ていき、黒ウサギはこれを追っていった。残ったのは笑っている白夜叉と呆然としているジン、そして頭を抱えたレティシアだった。

 

「おんしらは追わんのか?」

「私は戦果をジャッジする為についてきたのだからな。七花の成したことを聞くまでは帰らんよ。たとえそれが、本人の参加がなかったとしても、だ」

「僕もコミュニティの長として、仲間として彼の成果には興味がありました」

「そうか、なれば明かそうかの。七花は合宿において獲得した物はサラマンドラから火鼠の織物20機(はた)、ペルセウスから神珍鉄の大塊、武御雷からは『豊穣の御社お墨付きの腐葉土だ。そして私からはささやかだが詫びの金じゃ。これならコミュニティの幼い子にも使えると思うての」

「……白夜叉、七花は面倒だから十六夜達にある意味勝ちを譲ってやったんじゃないんだよな?」

「白夜叉!?この金額は『ノーネーム』なら三年はやっていけますよ!こんな大金よろしいんですか!?」

「ああもちろんじゃ。私が参加を許可した者のせいで七花も負傷したのだしな。それにそれは私のポケットマネーだ案ずるでない」

 

白夜叉はどうか受け取ってくれと頭を下げて報酬の入った七花のギフトカードを渡した。ジンは白夜叉の真摯な対応に精一杯応えて受け取った。

 

こうして鑢七花のリタイアで収穫祭参加の競争は幕を閉じた。

 

 

 




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