あと、今回は難産でした。内容が薄いです。でも投稿します。(^-^)⊃⌒Ο
ご了承の上で読んでください-д-))ペコリン
サンドラは混乱していた。
七花がいくら”刀”だと言っていっても、実態は精錬された格闘技である。故に、距離を離されてしまったらそれを詰めなければならないし、飛べない人間では空へと逃げられてしまえば文字どうり手も足も届かない。制空権のある自分が圧倒的に有利のはずだ。負け筋が全く見えない程に。
だが、どうしてだろうか?そんな理屈だらけの想定を軽々と打ち砕きそうな予感が目の前にあった。
七花は地面に向けて手刀を振るっているだけだ。しかし、振るう手刀が鋭くなっているのは気のせいだろうか?返し、再び振るう速度が短くなっているように感じるのは杞憂だろうか?既に手刀が霞んで見えるのは極度の緊張によるからだろうか?
七花の佇まいは隙だらけどころか、サンドラを意識していないとしか思えない様子だ。ひょっとしたら奇襲をかけられるのでは、あるいは、あわよくば勝てるのではとも思わせる程無防備だった。
奇襲を仕掛けた後に成功する気が全くしないという事を考慮しなければ、攻勢に出ていたかもしれない。
その奇妙な感覚に、戦闘中にも関わらず長い葛藤を続けるサンドラだった。
一方、七花はこれまで抱えていた問題の解決の糸口を見つけかけていた。
その問題とは、自分の攻撃パターンの少なさである。あるいは戦術の狭さと言い換えても良い。
七花は箱庭に来て以来、毎日欠かさず鍛錬を重ねていた。その中で相手を意識した訓練において勝てる想像が乏しかった。意外に思うかもしれないが、七花の攻撃方法を鑑みれば頷ける話だった。
実際のところ十六夜が全く接近しようとせずに第三宇宙速度で物体を飛ばし続ければ、処理が追いつかなくなり負けるだろうと七花は考えていた。彼の矜持に限ってこんなことは恐らく実行しないだろうが。
詰まるところ、接近しなければ闘えない。勿論、距離の詰め方などは既に知っているし十全に習得している。
だが、悪鬼羅刹の住む箱庭ではそんなものだけでは勝てないとも七花は理解していた。そのきっかけは白夜叉とのギフトゲームだった。
自身の知り得る範囲の法則を凌駕しているこの世界で、七花は成長と挫折の両方の可能性を感じ取った。
恩恵という進化の可能性と最強の刀《虚刀流》のとしてのアイデンティティの消失という挫折。
進化の実顕のためのまず一歩。
距離を詰めずに相手を制する方法。答えは過去にあった。
即ち──
サンドラは警鐘を鳴らし続ける本能を抑えつけて劫炎を放った。表面を突き刺すような雰囲気を我慢するのが限界だったのだ。極限まで緊張した状態で放ったにしては最高と言えるだけの炎だった。だがサンドラは全く安堵できなかった。
そしてその不安は的中した。
放たれた劫炎は二つに縦に斬られて少し左を風が吹いていった。もし触れていたら………と想像してブルりと体を震わせた。冷や汗が止まらないサンドラが向けた視線の先にはやはり七花が五体満足で右手を振りおろした格好で立っていた。
「さて、もう俺の刀はそこまで届く訳だが、どうする?まだ続けるか?」
「……………いいえご遠慮しておきます」
どこか達成感さえ浮かんだ七花の問いに力なくサンドラは応えた。
近距離でさえ手を焼いた七花が離れていても攻撃する術を手に入れたのだ。勝てるわけが無かった。サンドラは気付いていなかったが、以前の彼女ならムキになって挑戦していただろう。しかし今の彼女は戦力を正確に把握して、潔く負けを認められていた。
サンドラは七花との数少ない闘いで確実に成長していた。
サンドラに喝を入れられ再び立ち上がったマンドラ達の足音を聞きながら、七花は歓喜に湧いていた。
戦国時代に考案されたとあって近接格闘として確立された虚刀流だったが、これを無視した存在《バケモノ》がいた。七花の姉にあたる鑢七実だった。生物としての格も核も違うような人外のような刀《バケモノ》。そんな彼女のぶっ飛び具合は挙げ始めればキリがないが、その一端を一つ。
護剣寺で七花と闘った際に風の刃を作り出し、十メートル以上の距離を越え、奇策士の長髪を見事なおかっぱに仕立て上げた。今回の七花の一閃もこれを元にしたものだ。
これを期に奇策士が幼女体型だのと囁かれるようになるのだが。
それは別の話。
閑話休題
要は何が言いたいかというと、一度も自力で勝てず、背中すら見えず、目標にするのも馬鹿らしい程にかけ離れた姉の影が見えた気がして嬉しくなっていたのだ。
(俺も姉ちゃんと同じ完成度《バケモノ》の入口位には来れたのか?……まあ、こっちはまだまだひよっこってとこだけどな)
七花は”箱庭”で四季崎記紀の計画以上に優れた刀に成っていっていた。