「虚刀流、”雛罌粟”から”沈丁花”まで、打撃技混成接続」
その呟きと同時に風が吹いた。
ペストは既に呼吸する事もままならない。
「この技であんたは272回殺し尽くす」
まあ死にはしないと思うけど、頑丈だし、と七花は内心呟く。しかしペストの方はそう落ち着いてなどいられなかった。
不敵な笑みを浮かばれる訳でもなく冷静に告げる七花を見てペストは足元が崩れるような気がした。ペストは七花を法螺を吹くような器用な真似が出来る男ではな事をなんとなく理解していた
七花は殺人的な打撃技の全てに鎧通しを付与した。溜めが必要になる鎧通しだが、関節の捻りで加速させる事で七割程度を内部に貫通するようにした。ペストの反撃を嫌って充分な溜めが無く加速のみの荒っぽい技ではあったが、効果は絶大だった。いつもならばこんな応用は効かないが今回は”一対一”でも事情が違った。
ペストを構成する霊格《ソンザイ》とは、八千万の黒死病による死霊群である。彼女は”個にして群”である典型的なタイプだった。
普段ならば己を鼓舞し力となる彼らの存在も今回は災いした。何故なら”群である事”が七花の恩恵であり彼の功績の一つが起動したからだ。
”一城落とし”
尾張城を攻略した際の畏怖と賞賛から生まれた恩恵の一つだが、それは相手が多ければ多い程、相手が強ければ強い程、七花が研ぎ澄まされていくというギフトだった。余談だが、七花はこの恩恵の事をうっすらとしか理解しておらず、せいぜい「なんか調子いいな」位のものである。
閑話休題。
神霊の表皮をくぐり抜け四肢を駆け抜ける衝撃でペストは意識を手放しそうになった。だがそれは未遂に終わる。神霊の持ち前の強靱さで耐え切ってしまう。ペストは初めて自分の強さを呪った。無力で死んでしまった前回の場合とは異なり、今回は皮肉な事に強いが故に苦しんでしまう。
これでは前回のように衰弱しした方が、そこまで考えてペストは我に返った。あの時の死に様がまだマシだった?冗談じゃない!この恨みきっちり返す。太陽に復讐するためにもこんなところで──
「負けて、たまるかッッ!!!!」
搾り出すように吐き出された黒い風は今までの比ではなく”死”を纏っていた。これには生命の危機を感じたのか、七花は退いた。ペストもすぐに追撃を仕掛けたかったが、体は鉛の如く重く、いうことを聞かなかった。膝に手をつき、立っているのがやっとだった。死を運ぶ風は自分の周囲に撒くのぐらいしか生産できず、既に放った黒い風の制御可能なものは半分程度と言ったところだろう。だが、負けられないという気力を振り絞り七花へ歩みを進める。
一方七花はペロリと唇を舐めてペストの変化を注意深く伺っていた。濃密な黒い風は体を覆うにとどまっているが、密度が異常だ。
死ぬ気で特攻を掛ければあるいはと言ったところだろうが、どうにもそこまで気持ちが揚がって来ない。自分一人では荷が重いと理解し、遠慮なく横槍を入れる事にした。
そもそもこれは決闘でも決死の復讐劇という訳でも無いのだから。
「それじゃああとはよろしく、十六夜」
「美味しい所全部持っていきやがって。残り物しかねぇじゃねえか」
まあいいかいつかこの借りは返してもらうからな、と十六夜は呟いて一緒に近くまで来ていた黒ウサギに目を向けた。黒ウサギも決意の籠った表情で頷いて答え、一枚のギフトカードを掲げた。
何も彼らも呆然としていた訳ではない。策を練り、機会を伺っていたのだ。
「それでは皆様を纏めて月までご招待します♪」
直後、彼らは言葉通り月にいた。
”月界神殿”。
かつて月の兎達が招かれた神殿だが今は廃墟となっている。この過酷な環境ではペストの黒い風も十全には機能し上に、味方を気にしせず派手に戦える。
更に黒ウサギはボロボロの羊皮紙から黄金の鎧を呼び起こす。黒ウサギの鎧の太陽の光がペストの纏う黒い風を霧散させる。
「そんな!?」
悲痛な声を出すが、ペストの恩恵は目覚めた太陽の輝きに勝つことはできなかった。そして十六夜達の策は佳境に入る。
敵の恩恵は封じた。息つく暇など与えずに後は、此方の強烈な一撃で終幕させるのみである。
「撃ちなさい、ディーン!」
「DEEEEEEEeeeeeEEEEEN!!!」
真紅の鋼鉄の巨人は唸りを上げてインドラの槍を放つ。幾千の雷轟がペストを貫き、彼女を宇宙空間へと連れていく。必勝の槍は次第に速度を上げて月面にいる七花達から離れていく。
雷光が爆ぜて消滅する前にペストが何か言っていたようだったが、七花には聞き取れなかった。しかし、野望を果たせなかった無念の言葉であろうことは伝わってきた。
「太陽に復讐か…………箱庭は何でもスケールがデカイな」
誰にも聞こえない大きさで言った七花の声は僅かではあるが羨望の色を含んでいた。
次回出演させるつもりなんですが、ペルセウスの副リーダーの方の名前ってなんて言うんですか?
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