問題児達と一緒に虚刀流もやって来るようですよ?   作:徒釘梨

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どうも、徒釘梨です。

更新できずにすいません。まあ色々ハプニングがありまして……
流石に投稿予定のモノが消えてしまった時は呆然としました。

それとしばらく携帯が使えなくなりそうなので更新が再び(いつもどうり?)遅くなりそうです。
待っていて下さる方には本当に申し訳ないです。
この場で深く謝罪します。すいません。m(_ _)m


第二十二話 虚刀流、黒死病を本気にさせる

「ねー殿下ー。あの人面白そうじゃないですか?」

 

腰を巻くベルトにこれでもかとナイフを提げている少女は、白髪の少年に声を弾ませて問うた。その視線の先にはペストの背後を取り、地面へ叩きつける七花の姿があった。

その二人はどこからかちぐはぐだった。容姿は幼くありながら、佇まいや身動きひとつひとつが実力者のソレだった。特に殿下と呼ばれた彼は、その愛称に相応しいだけのカリスマ性が感じられた。

 

「そうだな。奴には俺の傘下に加えるだけの力がある」

「でしょ〜。ペストちゃんの観戦に来るつもりだけだったけど思いのほかいい人材が見つかったんじゃないかな?」

 

掘り出し物を見つけてテンションの上がっている少女を脇目に少年は内心「だが」と付け加えていた。

 

(奴には得体の知れない部分がある。………交渉は難航するかもしれんな)

 

そんな不安すら面白いと言うように彼はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

ハーメルンの街

 

「………私に惚れていたかもって、アナタそういう趣味が?」

 

冗談めかして告げたペストではあったがしかし、ポーカーフェイスを取り繕うことに全力を注いでいた。余裕を見せる事で時間を稼ぎ状況整理したかった。

平静であるように見せてはいるが、脂汗を抑えなければならない程先程の七花の攻撃は大きなダメージを与えていた。

 

(なんなのよあの無茶苦茶な一撃は!!?この人こんなに強かったの!?最初に会った時は冴えない感じの人だったのに………)

 

黒死斑の魔王は現状の打開に向けて策を全力で巡らせていた。

 

「俺はそんな趣味は全くないから安心しろ」

「私は貴方が幼女趣味であろうと無かろうとどうでもいいのだけど」

「だから違うて言ってるだろ………ってそんなことは今はいいか」

 

ペストは七花の言葉など話半分でしか聞いていなかった。策を巡らし、それに嵌めるだけの時間が欲しかった。

 

だから七花の語調が変わっていったことに気付かなかった。

 

直後、七花の表情が無くなった。

 

ペストは全身に悪寒を感じた。

余裕を見せて、大物ぶって、死を与える神霊であっても意味などなかった。少なくともこの時のペストにはそう思えた。ただ表情が無くなっただけ、それだけだと心の中で自己暗示じみた事をしなければ目を俯かせていたかもしれない。

太陽に復讐する。この野望を為すために引く事は論外だ。

 

「うああああああぁぁぁぁァァァァァアアアアアア」

 

黒死斑の魔王は策無く覚悟のみで戦闘を再開した。

 

 

 

 

一方の七花は初めての試みが成功した事に闘いの最中であることも忘れて無邪気に喜んでいた。

 

(足で放つ鎧通しは初めてだったけど、思ったより上手くいくもんだな。昔とは違って今じゃ決まったかどうかの感覚もわかるし。やっぱ箱庭に来てから俺の能力がかなり上がってきてる気がするなあ。前にあんなに苦労した錆も楽勝だったし)

 

ペストの服に損傷無くダメージを与えたのはこのためだった。初めての技だったため成功すれば良し、失敗したところで”落花狼藉”の七割程度の威力はあったので奇襲としては十分に効果を発した。

 

だが先手を取れたのは良かったが、ペストは時間を稼ごうとしている事がなんとなく分かった段階で意識を切り換えた。

感情を沈める。このイメージは七花に合っていた。自身が研がれていく感覚がわかる。この感覚はどこまで深くなるかわからない。だからこそ更なる高みを目指して神経を尖らせていく。

存在感を増していく七花に恐慌を起こしたのかペストは七花に向かって来る。

傍から見れば特攻にしか見えないだろうが七花には関係ない。

 

ただ研鑽あるのみ、だ。

糧として相手を認め、見栄を切る。

 

 

「虚刀流七代目当主、鑢七花。推して参る!」

 

一の構え”鈴蘭”の構えでペストを迎え討とうと七花は走り出した。

 

 

黒い風と無刀の斬撃は最終幕の狼煙を上げた。

 

 

 

 

 

 

”サラマンドラ”の頭主であるサンドラは目の前の闘いに圧倒され続けていた。

 

制空権を得ようと空を目指すペストを威圧で怯ませ、出来た隙で建物を使った三角跳びで回り込み地面へ叩きつける七花。

一撃を喰らう度に機動力が削がれているペストは、間合いに踏み込んできた七花に咄嗟の防御壁を展開するが、七花が両手で掌底を放ったかと思うと、黒い風は急に流れが悪くなってしまった。これには驚いたのか、目を見開いて驚きを現していた。淀んだ風を貫いて七花はペストの襟首を掴んで拳を腹部に深くめり込ませた。強烈な一撃のように見えたが衝撃で距離を作る事は無く、七花は連激を繰り出した。

否、正確には繰り出そうとした。

突然七花は大きく引いた。

直後、ペストの周囲から先程までとは質の異なる風が巻き起こった。それと同時にペストも体を起こした。

 

「………ホント嫌になるわね、なんで今のがマズイって分かったのかしら?参考までに教えてくれないかしら?」

「なんとなくお前の雰囲気が変わったのが分かったからだ」

「そう。………野生のカンってやつかしら、貴方を配下に加えるのは半ば諦めたからこその攻撃だったのだけれど……全く面倒、ねッ!!」

「おっと!」

 

七花がペストから離れてようやく私は正気に戻った。私は今まで目の前の戦闘に魅せられていた。ただ見ているしか出来なかった事が私の胸中を覆った。

なんと情けなく、不甲斐ない事か!

客人である”ノーネーム”が身をやつしてしているのに、自分達は本拠すら碌に自衛出来ていない。私は思わず歯を食いしばっていた。今日程己の無力を感じた事は無かった。

先代から火龍を受け次いでから幼いという事で頭主としての自覚が足りなかった。だがそれをこれから先も続けていく訳には行かない。

サンドラは改めて頭主の責任の重さを胸に刻んだ。このことがサンドラに変化をもたらすがそれはまた別の話。

 

 

 

一方でペストは配下の二人が消滅した事を感じ取った。そのおかげか先程の七花に圧倒されていた感情は幾分和らいだ。

時間いっぱいまで守り切ろうと時間稼ぎに徹した結果、戦況を悪くしてしまった。初めから纏まって圧殺を行っていたら、と自身のゲームメイクの甘さを省みて後悔した。

 

(残りのステンドグラスは52枚………潮時かな)

 

自分の甘さで忠を尽くした初めての仲間を失った。その上、このゲームに負けるような事があれば彼等に面目が立てられない。

だから諦めた。

 

 

「──────………止めた」

「おい黒ウサギ、下がるぞ」

「え、ど、どうしたんですか、七花さん?」

「白夜叉だけを手に入れて──皆殺しよ」

 

 

ペストがその言葉を言うやいなや、七花に向けた死の風をハーメルンの街に振りまいた。

ペストが指先を動かす、その動作だけで死の風は無差別に参加者を襲い始める。

 

「や、やはり死を与える恩恵!”与える側”の神霊の御業ですか………!!」

「まずい!このままじゃ他の参加者達がっ!!」

 

容赦を捨てた無差別の死の風を前に為す術無く退いていく二人。だが、彼女らは躱すだけの力があった。

スタンドグラスを探す役割でいち早く危険に気付き、避難を促していた”サラマンドラ”のメンバー達が死んだのを見て、サンドラは激昂した。

だが死者を嘆く暇も無く、黒ウサギの視界に黒い風の前に木霊の少年が見えた。飛び込んで助けたいが、間に合わない。

新たな犠牲者が生まれるを見ている事しかできないのか。そう思った時、

 

「DEEEEEEEEEEeeeEEEEN!!!」

 

鋼鉄の豪腕によって阻まれた。

命の無いこの人形は黒い風を遮断して少年を守った。

行方不明だった飛鳥がその人形に乗っているのを見て黒ウサギは声をあげた。

 

「飛鳥さん!よくぞご無事で!!」

「感動の再開は後よ!前を見なさい!!」

「え?」

 

言われた通りに振り返るとペストの放った死の風が目の前に迫っていた。そんな彼女を一喝するように鋭い声が聞こえてきた。

 

「ぼさっとしてんじゃねぇぞ駄ウサギ!!」

 

ヴェーザーを打ち倒した十六夜が死の風を側面から蹴り、粉砕させた。そのことは一瞬ペストを唖然とさせたが十六夜は懐に潜り込み、ペストを蹴りあげた。

ペストはいくつかの家を貫いて吹き飛んだ。

あまりのデタラメさにサンドラと黒ウサギは呆然として、もしかしたら決着がついたかとも思ったが、ペストは衝撃破と共に瓦礫を吹き飛ばした。そうしてペストは十六夜に微笑みかけたが、そこには七花の時のようなぎこちなさは皆無だった。

 

「…………所詮は人間ね、この程度なら死の風が効かなくても警戒するに値しない」

「何だとッ?」

「星も砕けぬ分際では、魔王は倒せないという事よ。真に警戒すべきは………」

「ヒトガタ壊すのに星を壊す力ほどの力はいらねぇよ」

 

七花は先程十六夜が踏み込んだ以上にペストに近接していた。

なぜ七花だけがペストに接近していたかは七花に容赦がない事にほかならない。とがめとの旅では女であっても必要なら斬り殺していた。そして箱庭に来て、錆を倒したことで、感情のオンオフがさらに極まった。

これらの事から七花は戦闘時、必要なら誰だって斬り殺すし、それを完遂するための確認を忘れるような事をしないようになっていた。

 

 

 

「ぐふッ……」

 

七花は手刀を水平にしてペストの喉へと繰り出し、ペストはたまらず息を詰らせた。

この隙を突いて手刀を引き戻し両手を上に掲げてX字のように振り下ろした。この時、両手共肩を強く叩いており、ペストは一時的にだが両腕の自由を失った。この間およそ一秒半。

あまりの急展開に十六夜でさえも唖然としていた。しかし、本当に驚くのはここからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

七花は目の前のペストにだけ聞こえるように言った。

 

「神霊だからって殺し続けて死なない訳じゃないだろ?」

 

 

 

 


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