問題児達と一緒に虚刀流もやって来るようですよ?   作:徒釘梨

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徒釘梨です。更新できずにすいません。
現実がかなり慌ただしく、時間があまり取れない中投稿したので、ミスがあるかもしれません。
その時はよろしくおねがいします。


第二十一話 虚刀流、舞台へと躍り出る

錆との闘いを終えて黒ウサギ達の援護に向かう最中、七花の耳に大通りで妖しい音色が聞こえてきた。芸術に関心の無い七花でも僅かに闘争心を収めるほど甘美な音色で、何より故郷を想起させる温かく悲しげ音色に魅了されていた。不承島やとがめとの穏やかな日々を思い出して、奥底に沈めていた人間らしさ《カンジョウ》が浮かび上がってきた。

七花を鈍らせるのはいつだって過去の穏やかな日々なのだ。

 

足を止めることはしなかったが威圧感の薄くなった七花は、金属の巨兵の手に乗る飛鳥と幻想的な音楽を奏でたラッテンが見えた。声が聞こえそうな距離にまで近づいた時、ラッテンの姿が薄れていき消えてしまった。

近付いた事に気付いた飛鳥は軽く驚いたように七花に話しかけた。

 

「あら七花さん、あなたでも手傷を負う事ってあるのね。ちょっと見てみたいわ」

「人を何だと思ってるんだ?それに姉ちゃんだったら俺を倒すなんて余裕でできちまうぜ」

「へえお姉さんがいたの。今度聞かせてもらおうかしら───あら、まだあの木偶、まだ残ってたの」

「まあ今度な───木偶って、あの白いのか?弱そうだな。それじゃあ飛鳥は左半分頼むな」

 

ラッテンが引き連れていたのとは別に、後方に待機していたらしい陶器質の姿をしたシュトロムが二人の方に向かっていた。数は、十体前後であったが七花はレティシアから聞いていた。一人でも恐らく全て倒すことは出来るだろうが、今は時間が惜しかった。だからこそ協力を頼んだのだが、飛鳥は意外だったのか少し呆けていた。

 

「……………意外だったわ。七花さんの方から協力を頼むなんて」

「今まで誰かと協力して闘うなんてことなかったから慣れていないだけだ。じゃあ行くぞ」

「ええ。期待に沿えるようにするわ」

 

無刀の剣士と巨人を連れた少女は陶磁の人形に向かって進行し始めた。

 

 

 

二人がシュトロムと戦闘を始める少し前、黒ウサギとサンドラはペストに突破口を見出せないでいた。

 

「サンドラ様!前後で挟み撃ちにします!」

「わかった!」

 

黒ウサギの帝釈天の雷とサンドラの”龍角”の劫炎が空中を漂うペストに左右から襲いかかる。衝突と同時に大きな爆発を起こしたが、ペストの黒い風を貫通してはいなかった。

白熱しているかのようにも見えるが、二人の攻撃が防がれるのは既に十や二十ではなかった。

 

「いい加減無意味なことに気付かないの?」

 

ペストが呆れた声を上げてしまうのも当然だった。そんな余裕の表情にサンドラは焦り始めていたが、黒ウサギは冷静だった。

黒ウサギはペストの霊格に思い当たることがあり、自身の心当たりが本当かをペストに問た。

 

「”黒死斑の魔王”。貴女の正体は……神霊の類ですね?」

「そうよ」

「やはり………。十六夜さんから聞いた時、よもやとは思いました。あなたの霊格は”ハーメルンの笛引き”による功績ではなく、十四世紀から十七世紀にかけて吹き荒れた黒死病の死者──八千万もの死の功績を持つ悪魔ではないか、と」

「八千万の死の功績……!?それだけあれば、神霊に転生する事も可能」

「「無理よ(です)」」

 

同時に否定されて少しションボリしたサンドラに黒ウサギは諭すように言った。

 

「最強種以外が神霊と成るために必要な功績は”一定以上の信仰”でございます。如何に規格外の数の死を収集しようと、神霊に至ることは不可能ですよサンドラ様」

「そ、そっか」

「ですが信仰の形は様々です。恐怖によって奉られる神霊も少なくありません。後の医学が黒死病に対抗する手段を得ることで、貴女は神霊に成り上がり切れなかったのです。だからこそ自分と似通った、恐怖の対象として完成されている形骸を求めたのです。それが斑模様の死神。違いますか?」

 

黒ウサギは絶対の自信を持ってペストへと告げた。黒ウサギの表情は少しドヤ顔気味だったが、それは十六夜が箱庭に来てから披露されなかった自身の知識を示すことが出来たからかもしれない。

ペストはそんな黒ウサギを見て、憂鬱そうに毛先を弄りながら言った。

 

「残念ながら、所々違うわ」

 

ポカーンと口を開けて黒ウサギは動かなくなった。自信があっただけに黒ウサギが受けたダメージは相当だった。穴があったら入りたいといったところだろう。

そんなことは気にした様子も見せずに、ペストは続けた。

 

「まあいいわ。時間稼ぎ程度に教えてあげる。私は自分で箱庭に来たわけじゃない。私を召喚したのは”幻想魔導書郡《グリム・グリモワール》”を率いた魔王よ。

きっと私を手駒に加えたかったのね。八千万の悪霊群である私を死神に据えれば神霊として開花させられると思ったのよ」

「という事は………貴女は黒死病が神霊化したのではなく、黒死病の死者の霊群ですと?」

「ええ。その代表が私。私達の持つ功績は私達が……いえ、死の時代に生きた全ての人の怨嗟を叶える特殊なルールを敷ける権利があった。

黒死病を世界に蔓延させ、飢餓や貧困を呼んだ諸悪の根源───怠惰な太陽に復讐する権限が………!!!!」

 

今までの淡白な様子から一変して、胸の内の激情を吐き出すペスト。八千万の怨念に応える彼女の決意は、黒い風を唸らせていく。

先程までより更に状況が厳しくなっていることを肌で感じ取った黒ウサギは流石に余裕ではいられず、焦り始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「太陽に復讐かぁ、そいつはまた大きく出たな」

 

 

戦場である事を忘れるような普段と変わらない声。

ハッとしてペストは後ろを見るが、遅い。

 

 

「そんなあんたに俺は惚れていたかもしれないな」

 

なんとか黒い風の防壁を間にあわせたが、それを難なく打ち砕いて戦斧を思わせるかかと落としがペストを襲った。その一撃を放った男は不敵な笑みを浮かべていた。

ペストは自分を地に叩きつけた和服の男を睨みつけた。七花はその視線を真っ正面から受け止めて更に笑みを深めて言った。

 

「でも残念だったな。今もこれからも俺の所有者はとがめただ一人だ」

 

黒ウサギはその笑みに哀しみが多く混ざっているように思えてならなかった。

 

 

そんな懸念を置き去りにして、戦場は加速していく。


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