問題児達と一緒に虚刀流もやって来るようですよ?   作:徒釘梨

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どうも徒釘梨です。

今回はオリジナルな展開であったのと時間が取れたから割と早く更新できました。
いつも更新不安定ですいません。更新できるのは読んでくださる方のおかげです。ありがとうございます。

それではどうぞ


第二十話 虚刀流、同類との決着の時

瓦礫と化したハーメルンの家の一つを眺めながら七花は油断なく敵を見据えていた。

 

だらりと両腕を下ろしてはいるが隙は毛程も無く、迂闊に飛び込めば勝負は決まってしまうだろう。錆は現在の七花と自分の戦力の比我をしたが結果は明らかだった。

 

(箱庭の強者を斬るため参加したのでござるが、ここを死に場所にするつもりはござらん。どうにかして逃げたいでござるが………今の鑢七花からどのようにして逃げられるのでござるか)

 

胸を抉られた痛みも砕かれた肋骨もまるで他人事の様に思考を進める錆だった。四季崎記紀の失敗作とは言え完了形変体刀に最も近い一族で流石の状況判断力ではあったが、今この場においては惡手でしかなかった。

 

「虚刀流、紅葉」

 

立ちこめる土煙を掻き分けて七花は弾丸のような速さで錆に迫って来た。

七花にとって硬直状態は望ましいものではなかった。下手に時間をかけて逃げられてしまうと錆の現在の状態でも追いつくのは面倒であった。どうにかしてきっかけを作りたかった七花だったが、錆が思考を始めた事を直感して攻撃を仕掛けた。隙とも言えない戦闘から思考への移り変わりを感覚的に七花は捉えていた。

 

 

虚刀流、紅葉。

前進した分の勢いを乗せた空中での回転踵落としである。奥義の一つ”落花狼藉”の簡易版で、威力に重きを置いた落花狼藉とは異なり、高い跳躍を必要とせず杜若の足捌きからの連続攻撃として使われる。

 

 

つまり、思わぬタイミングで攻勢に出られて動揺した錆に致命傷となる一撃を与えるには十分だった。わずかに体を逸らした為即死にはならなかったが肩から腹にかけて大きく切り裂かれていた。錆は一旦大きく距離をとった。とは言えば聞こえはいいが、足は震え、顔は蒼くなっていて血が足りていないのは明らかだった。それでも表情だけは見たことも無い程輝いていた。

 

「此処まで差ができてござるとはな。予想外も甚だしいでござるぞ、鑢七花!」

「なんでそんな愉しそうなんだよ。訳がわからん」

 

まあいいか、と言いながら七花は歩いて間空いを詰め始めた。

 

──三歩

 

錆は薄刀”針”を鞘に収めて左足を一歩下げて抜刀術の構えをとった。

 

─二歩

 

震えを抑え、脚と腕にだけ心血を注ぐ。

生涯最後の一太刀に恥じないように、全力で目の前の境地に挑む。

 

一歩

 

轟ッッ!!!

 

「一揆刀銭!!!」

 

先程の七花の速度以上を以て斬り込む錆だったがしかし、七花は杜若の残像を斬らせて本体は手刀を構えていた。

だが錆もこれは予想の範囲内だった。今の七花は掛け値無しに化物と言ってよかった。その化物を相手取るには、皮肉にも奇策が必要だった。

唸るような抜刀術の一撃も次の為の布石。普通では踏まない抜刀直後の二歩目を錆は跳躍する為に使った。無理な駆動で錆の体は崩壊を早めてはいるが意識下に浮上してくる事はなかった。

唯一撃、その為に振るわれる身体は限界を超えていた。

 

「薄刀限定奥義”薄刀開眼 ”!!」

 

抜刀術の返す刀で振り降ろされた空からのその一撃は会心の一撃だった。相対する七花にも誇りや魂が込められていることは肌で伝わってきた。

 

「だけどそんだけだ」

 

七花はこう言って顔の前に手を出し、錆の一太刀を折って返した。

虚刀流、女郎花《おみなえし》。

この技は相手の刀を折ってその刃で相手に突き刺すものである。

本来なら虚刀流の使い手は武器は使えない呪い《ギフト》を有しているが、この技は敵との一瞬の交差の際に使われるもので虚刀流の技の中で数少ない武器を使った攻撃である。元々は剣士への意趣返しのつもりで四季崎記紀が開発したものだが、七花にはそんな感情は無かった。

 

ただ単純を殺す為に、容赦無くこの技を選んだ。

 

七花は刀を喉へと返し錆白兵を絶命させた。

錆の表情は満足さなどは見られず、虚ろとなった瞳が生気の無さを際立たせていた。

七花はかつて死戦を繰り広げた宿敵に一瞥をくれること無く次の戦場に足を向けた。

 

「さて、援護しに行くか。嗚呼面倒だな」

 

 

七花を収める鞘はもう無い。

 

 

 

 


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