更新が不安定ですいません。今後もこんなことが続くと思います。読んでくださる方、本当にすいません。
それではどうぞ
七花は治療を受け一人部屋に連れていかれてもまだ考えるのを止めていなかった。
過去を想起して浮かんできたものは、とがめとの旅の中で得た喜怒哀楽と、彼女を守りきれなかった不甲斐なさ、姉との不承島での生活、そして幼少期の父の日教えだった。
『刀はよく切れなければ意味はない』
父六枝はいつもこう言って虚刀流の修行を始めた。虚刀流に雑味、つまり感情は不要であり、六枝の意味することは”気持ちを持つな、考えるな、感じるな”ということだった。
だがしかし、今七花は様々な感情を抱えていた。
だから、とりあえずその感情《サビ》を捨ててみた。
サンドラの命を受けてとある火蜥蜴の兵士は”ノーネーム”客分の一人の七花の元に向かっていた。命令の内容は魔王との交渉で幾つかルールに変更が生じたことを伝えるように、というものだった。
この火蜥蜴は”ノーネーム”の七花に会うことの出来る機会を得られたことに舞い上がっていた。彼は七花のことを馴染みの”ペルセウス”の兵士から聞いていたからだ。
その兵士曰く、『一人で小隊一つが壊滅させられた』『”ペルセウス”の一般兵が何人でかかっても敵わない』だそうだ。眉唾物だがその兵士の人となりから嘘をつくとも思えなかった。
真実であるなら一体どのような人物なのだろうか、と兵士としての興味からそんなことを考えていると七花の部屋の側まで来ていた。ドアノブに手をかけて───
思わず地面に膝をつき、自然と顔を伏せてしまっていた。
この火蜥蜴の兵士は、”サラマンドラ”の中でも指折りの猛者と言ってもよかった。しかし何かをされた訳でもないのに膝を屈していたことに気付くまでにかなりの時間を要した。
のろのろと立ち上がって震える手でドアノブを再び握った時に、先程までより随分と楽になっていることが分かった。理由は分からなかったがまずは仕事を終えようとドアを開け、中の二十歳位の男に連絡しさっさと出ていった。
彼の脳裏には、先程までの脂汗や喉元にまで這い上がってくる嘔吐感がこびりついていた。部屋に近づく前までの浮ついた雰囲気はそこに無く、ただただ憔悴しきった表情が兵士の顔にあった。
七花は火蜥蜴の兵士の話を聞きながら、”感情を捨てる”ことについて考えていた。第一印象としては、『楽だな』と言ったところだった。
しかし効果は大きかった。元々鋭かった感覚が更に鋭くなっていた。七花はざっと考えを纏めると立ち上がり、あてもなく歩き出した。
自身のギフトカードの変化に気付くことなく。
刀剣のように鈍く輝くギフトカードはこう記していた。
『虚刀 鑢』
・系統樹外進化 『鞘無き刀』
『一城落し』
そして一週間後、開戦の時。
七花の役割はシンプルだ。
七花が錆白兵を打倒し次第、魔王ペストの応援へ駆けつけるといった作戦だ。七花は戦闘に備えて感覚を尖らせていった。
そこに黒ウサギを一喝した十六夜がやってきた。その表情は軽薄そうなものだったが、その瞳は獰猛さが顔を出していた。
「よう七花、体はもういいのかよ?」
「ああ、今度は錆に斬られるような事はないだろうさ」
「ヤハハ、そいつは結構だ」
十六夜は内心は肩透かしを喰らった気分だった。十六夜はある疑問を持っていた。
それは”なぜ七花は呪いのギフトの影響を受けていない”のか、という事だ。
七花と耀の基礎体力が違うからと言ってしまえばそれまでだが、七花の呪いのギフトは魔王直々のものだった。そんな簡単に耐えられるとは思っておらず、むしろ今回のゲームでは戦線復帰は厳しいものだと思っていた。しかし七花は耀以上に動けていた。否、通常の七花と変わらない威圧感を出していた。
(オイオイ、黒死病罹っててコレだ。万全の状態だったらどうなってんだ?………この数日間でコイツに一体何があったんだ!?)
十六夜は万全の七花を想定して武者震いした。十六夜はそんな高陽を抑えられずゲーム再開を今か今と待ち望んでいた。
十六夜とは逆に残りの参加者達も不安や恐怖が募っていく中で、七花だけが変わらず冷めていた。浮き足立つ周りとは正反対に自分の役目以外を少しずつ削ぎ落とし、刀身を鋭くしていった。
ゲーム再開は激しい光と地鳴りが告げた。
硝子で彩られた街並みや高くそびえる境界壁は消え、代わりに見たことのない木造の街が広がっていた。
ジンは顔を蒼白に変えて叫んでいた。
「まさか、ハーメルンの魔導書の力………ハーメルンの街が舞台に!?」
「何ッ!?」
その一言を皮切りに動揺が広がるが、それら全てを七花は完全に無視して駆け出した。
七花には”共感覚”があり、鋭くなった感覚が錆の居場所を突き止めていた。
「…………錆」
駆け出した七花に投げかけるような言葉が上がったが、彼の意識に反映されることなく消えた。
ハーメルンの街の一角。
「………決着を着けるぞ、錆」
「そっちから来るとは予想外だったでござるな。しかし、その威圧感は一週間前とは比べ物にならないでござるな。ふむ、やはり前回で勝負が決まらず「いいからさっさと始めようぜ」……言葉は不要でござるか………。では」
二人の目にはもう互いの姿しか映っていない。
錆は刀を下ろして力みのない自然体。
七花は構えすら取らない棒立ちと言ってもいいような振る舞い 。
刀としての本文を自覚し、錆白兵との命の懸かった戦闘を経た七花は、限定的ではあるがとある奥義にたどり着いていた。
虚刀流零の構え『無花果』─鑢七実の構えである。彼女も何の因果か錆黒鍵との闘いで習得した物だった。
七花の脳裏には、闘う前のとがめの合図が浮かんだ。
いざ尋常に────始めッ!!
「爆縮地!!」
七花は先手は初めから相手に譲るつもりだった。”杜若”や”鬼灯”の足捌きを持ってしても錆の”爆縮地”の動きに付いて行くことは出来ない。
だから、譲った。
先手必勝を旨として先行してきた錆に対して七花がとった行動は──
「飛花落葉」
機動力を落として差を無くすということだった。いくら速くとも今の七花には見切ることは出来るため当てること自体は容易かった。
虚刀流五の奥義”飛花落葉”は両掌底で表面への鎧崩しの技である。それを応用して表面の皮膚全体への衝撃を与えてたのだった。
その影響で錆は一時的に行動不能に陥った。そしてその隙を七花は抜け目なく追撃した。
「虚刀流、蒲公英」
七花は襟元を手繰り寄せ貫手を繰り出した。七花はこれで止めのつもりでいたが胸を僅かに抉るだけに留まった。大方得意の関節駆動でよけたのだろうと当たりをつけ、動揺を微塵も見せず最初からそうするつもりだったかのように更に右足で回し蹴りを放った。
「虚刀流、牡丹」
威力を十全に出せるだけの間空いでは無かったが、肋骨が軋み、折れる手応えを七花は感じ取っていた。蹴られた方の錆は、血を吐きながら木造の家に向かって受け身も取れずに飛んでいった。
七花はその様子を無感情な瞳で見つつ、思い出したようにこう言った。
「そういや言ってなかったな、いつもの口癖。まあいいか。錆、あんたを今から八つ裂きにしてやるよ」
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