纏まった時間が中々出来ずに困りました。多分一番進んだのは電車の中だったと思います。(笑)
色々他の作品のアイディアもできつつあるんですが、まずはこの作品からしっかりしたものにしていきたいです。
それでは気が向いたら感想をください。
白夜叉とノーネームの煩悩入り混じった作戦会議を終えて一夜、”ノーネーム”一同はサンドラが用意したバルコニーで決勝の開幕を待っていた。
『長らくお待たせ致しました!火龍誕生祭のメインゲーム”造物主達の決闘”の決勝を始めたいと思います!進行及び審判は”サウザンドアイズ”の専属ジャッジでお馴染み、黒ウサギがお務めさせていただきます♪』
黒ウサギが満面の笑みでそう言うと、会場からは熱狂的な歓声と言うには生温い奇声が起った。
「うおおおおおおおおお月の兎が本当にきたあああああああ!!!」
「黒ウサギいいいいいいいい!お前に会うために此処まできたぞおおおおおおおお!!!」
「今日こそスカートの中を見せるぞおおおおおおおおおおお!!!」
あまりの歓声に黒ウサギはうさ耳を折って怯んでしまった。ついでにバルコニーの飛鳥の手の中にいたとんがり帽子の精霊も怯えてしまった。飛鳥は内に秘めた情熱を全開にして歓声を上げる観客と、一際異彩を放つ『L・O・V・E黒ウサギ♥』の文字にゴミを見るような目で見ていた。
すると十六夜が思い出したかのように白夜叉の方を見た。
「そう言えば白夜叉。黒ウサギのスカートの中が見えそうで見えないってのはどういう了見だ。チラリズムなんて趣味が古すぎるだろ」
十六夜は昨日、黒ウサギと壮絶な鬼ごっこを繰り広げたが、その中で黒ウサギに勝利する事が出来ず、またスカートの中も見れずとあって若干だが内心は荒んでいた。白夜叉とは昨夜同好の友として認め合っていただけに、落胆の表情を顕していた。
しかし、白夜叉もそれは同様だったようで十六夜に失望の色が見え隠れしていた。
「おんしもその程度の漢じゃったか。おんしは真の芸術を理解を解するものだと思っておったんだがのう」
白夜叉は大きく凄んでみせて続けた。
「考えてもみよ、おんしら人類の最も大きな動力源はなんじゃ?それはズバリ想像力ッ!未知への期待!何物にも勝る芸術とは即ち──己の宇宙の中にあるッ!!」
「なにッ…………己の宇宙の中に、だと…………!?」
白夜叉の背後に巨大な迫力を感じた十六夜は硬直してしまった。それが十六夜が受けた衝撃の大きさを物語っていた。
「そうだ!!見えてしまえば只の下品な下着達も見えなければ芸術だッ!!!」
「見えなければ、芸術かッ!!」
「今こそ確かめようぞ、その奇跡の一瞬を」
二人は幾星霜の時を共にしたかのように呼吸を合わせて双眼鏡を手に取った。二人はの様子は真剣そのもので余人が入り込むことなど不可能であった。
飛鳥はそんな二人を空気のように思うことにし、隣にいた七花へ視線を移した。理解できないことには外野から見ていることも必要なことだと心から割り切ったのだ。
「七花さんはあの二人のようにおかしくなったりしないのね」
「まあ俺にそんなことを期待されても無駄だぜ。俺は刀だからな。それよりも俺としてはあっちの方が気になるな」
「それもそうね」
二人は決闘場の方へと自然に向いていった。
白夜叉は耀の勝率は皆無だと言っていたことが飛鳥の不安を募らせた。
『それでは入場していただきましょう!第1ゲームのプレイヤー、”ノーネーム”の春日部耀と”ウィル・オ・ウィスプ”のアーシャ=イグニファトゥスです!』
黒ウサギが入場口から迎え入れるように両手を広げると、耀はその舞台に続く道に出た。その時、耀の目の前に高速で駆ける火の玉が現れた。耀が驚いて尻餅をついたのを嘲笑する人影があった。
「あっははははははははは!見て見てジャック?”ノーネーム”の女が無様に尻餅ついている!」
「YAFUFUFUUUUUUUuuuuuu!!」
この舞台にノーネームが立つことに不満を持つものもいたのか、会場の一部からドッと笑い声が起きた。
これには七花もピクリと反応したが、結果は舞台で示せばいいと抑えた。
第1ゲームの会場が”アンダーウッド”のものと決まると、白夜叉は柏手を皆に促し、観客達がそれに合わせて応えた。
その柏手で世界が変わった。
耀は無重力空間に放り込まれたような感覚に身を委ねていると、樹木の上に音を立てて落ちた。
そこは上下左右のどこを見てもすべてが巨大な植物でできた空洞だった。耀は持ち前の鋭い嗅覚で土の匂いを感じ、自分がここが根に当たる部分であることに気付いた。
「この樹………ううん、地面だけじゃない。此処、樹の根に囲まれた場所?」
「あらあらそりゃあどうも教えてくれてありがとよ。そっか、ここは根の中なのねー」
独り言を聞き逃さずにアーシャは明らかに馬鹿にした態度で耀に言ったが、ふいと視線を背け無視した。それが逆に挑発行為と取られたのか、アーシャは苛立たしそうに舌打ちした。
二人は距離を取りつつ初手を探すが、お互いに明確な指針が欲しかったのだろう。小馬鹿にした笑みでアーシャが言った。
「睨み合っても進まねえし先手は譲るぜ」
「……………?」
「ま、さっきの一件があるしね。後でいちゃもん付けられるのも面倒だし?」
相変わらずの余裕の表情に耀は試合開始前から気になっていた事を尋ねた。
「貴女は………”ウィル・オ・ウィスプ”のリーダー?」
「あ、そう見える?なら嬉しいんだけどなあ♪けど残念なことにアーシャ様は」
「そう。わかった」
「って、え?………ちょ、ちょっと…………!?」
アーシャはリーダーと間違われたのが嬉しかったのか満面の笑みで答えていたが、耀はそんな彼女を放置して背後の通路を疾走していった。
アーシャが無駄に喋っている間に、耀は優れた五感を駆使して正しい通路を探すことをしていた。その為、耀にとってこのゲームは迷路としては機能していないも同然だった。アーシャがリーダーでないこともわかったのでさっさとゲームをクリアするつもりで耀は走っていた。
そのアーシャを完全に勘定に入れていない行動は、アーシャの堪忍袋を炎上させるには十分過ぎた。現に、彼女のツインテールは重力を無視して天へと反り上がっていた。
「オ…………オゥゥゥウウケェェェェイ!とことん馬鹿にしてくれるって訳だ!行くぞジャック!樹の根の迷路で人間狩りだ!!」
「YAッFUFUUUUUUUUUuuuu!!」
アーシャとジャックは怒りながらも決して油断なく炎を木の根に走らせるが、耀はグリフォンの風のギフトを使って華麗に躱した。
続いて三連続で火球を放つアーシャ達だったが、耀はギフトを使うこと無くくぐり抜けた。
「な…………!?」
ギフトを使って回避したと言うのならまだよかった。しかし自分が蔑んでいたノーネームの女がギフトを使うことすらせずに自分の攻撃に対応したということは、アーシャのこれまでの自尊心に傷を付けた。ヤケになって攻撃を続けそうにもなったが、このゲームの賞品を獲得することが果たせなくなる可能性が大きかった。
自分の力では勝利する事が難しいと判断して、頼れる相棒に助けを求めた。
カボチャ頭のマスコットこと、ジャック・オー・ランタンは素直に自分に助けを求めてきたアーシャの成長を理解し、同時にそれを結果的に促した対戦相手の耀に感謝していた。だからこそ一切の手加減を捨て、全力と誇りを以て相手をしよう。
「いざ来たれ、己が系統樹を持つ少女よ!聖人ペテロに烙印を押されし不死の怪物───このジャック・オー・ランタンがお相手しましょう!」
アーシャがジャックに助けを求めてからは劇的だった。
圧倒的な熱量とそれを生み出す気迫に耀は終始後手に回され続けていた。しかもその後手もほぼ何も出来ずにいた事が、耀の胸の内の悔しさを大きくしていた。
空を仰いでいるのは悔しさを抑えるためだろうかなどと考えていた、七花が一番早くにそれに気付いた。
次いで十六夜が上空のそれに気が付いた。
「白夜叉。………アレはなんだ?」
「何?」
観客の中からも異変を感じ取った者達がいたのだろう。席のざわめきが加速度的に広がっていた。同時に”ノーネーム”や”サラマンドラ”の要人達も気付いたのか怪訝そうな表情をしていた。
黒い封書に、笛を吹く道化の烙印を押された”契約書類《ギアスロール》”。
ギフトゲーム名"The PIED PIPER of HAMELIN"
プレイヤー一覧、現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇
〇〇〇外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の
全コミュニティ。
プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター、太陽の運行
者・星霊、白夜叉。
ホストマスター側勝利条件、全プレイヤーの屈服・及び殺
害。
プレイヤー側勝利条件、一、ゲームマスターを打倒。二、
偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。
宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の
下、ギフトゲームを開催します。
"グリムグリモワール・ハーメルン"印
災害とも言える魔王が来たことに不安と恐怖が交錯し、行き場を無くした末に弾けた。
「魔王が…………魔王が現れたぞおおおォォォォ───!!!」
誤字脱字がありましたら教えてください。
それと錆の活躍を期待していた方々、すいません。おそらく次回には出てくると思います。
追記
訂正なんかの時は詳しく書いて下さると嬉しいです。