問題児達と一緒に虚刀流もやって来るようですよ?   作:徒釘梨

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予定どおりできてホッとしている徒釘梨です。

今回は錆さんは出てきません。あと説明回のようになっています、すいません。
ではゆっくりしていってください。


第十五話 虚刀流、宿敵の跡を視る

火龍誕生祭、闘技場。

 

ギフトゲーム”造物者達の決闘”にて耀は破竹の勢いで勝ち上がっていた。

人の身でありながら亜龍やゴーレムを倒していくその姿に観客は熱い声援を送っていた。それこそノーネームであることを忘れて応援をする程に。

 

「最後の勝者は”ノーネーム”出身の春日部耀に決定した。これにて最後の決勝枠が用意されたかの。決勝のゲームは────」

 

決着がついて尚鳴り止まぬ歓声と白夜叉の明日の予定を話す中、耀は確かな手応えを感じていた。

 

(このギフトゲーム、いつもよりも動物たちの恩恵の切り替えがスムーズだった気がする。これなら七花や十六夜にも………ってまだまだだね)

 

七花が問題児達に期待を寄せている様に、他の者たちも七花に対してそれぞれの思いを抱えていた。

十六夜は好敵手であり挑戦すべき相手として敵愾心を。

飛鳥は自分に無い身体能力を持つ者としての羨望を。

耀は他の種族からではなく、人間としての能力の高さによる感心を 。

方向性は違えど三人に共通して言えるのは、『負けたくない』という事だった。

 

 

そんな思いを受けているとは僅かも感じにいる七花は、進んだ先の洞窟で冷や汗が頬を伝うのを感じていた。目の前に広がる瓦礫の山と洞窟の天井と側面に見て取れる刀傷にある男を想像させていた。

 

(おいおい箱庭ってのはびっくり箱かなんかなのか?もしこれが錆がやった事だったら………正直闘いたくないな。巌流島の時みたいに周りの被害が心配だし)

 

こう七花が思うのも無理はない。以前、元の世界での決闘で彼等は巌流島の面積が半分になるほどの死闘を繰り広げたのだ。そう何度も顔を合わせたい相手ではない。しかし七花は万が一の為にも己の覚悟を決めていた。

 

「あの時は刀を壊せなかったことも、とがめの奇策が使えなかったのもあるけど、もし闘いになったら全力で闘うぞ、錆」

 

 

 

 

 

 

サウザンドアイズ支店。

 

「遅かったのう七花。して何故厳しい表情をしておるのか聞かせてはくれぬか?」

「ああ。でも何回も話すのは面倒だから他が集まってる時にでも話すよ」

「ふむそうか。………まあよい。湯殿は極上じゃ、ゆっくりしていくがよい」

「ああ。そうさせてもらうぜ」

 

店に入ってすぐの広間で待っていた白夜叉と少しばかり緊迫した挨拶を交わして温泉へと向かう七花。

暖簾を潜り、扉を潜ると、空の見える露天風呂にとがめと過ごした薩摩での夜を思い出した。少しだけ口角をつり上げ風呂に入ると体の奥から温まるような絶妙な温度に、大きく息を吹き出した。

一日で只者ではない少女に、日本最強の座をかけて闘った錆白兵。

いかに七花と言えども、精神的な疲労が溜まっていた。

精神的疲労と遅い時間であったことも合わさって結構大きな溜息となっていた。その為、隣からでも十分に聞こえる程だった。

 

「そこにいるのは七花だな?こんな時間までかかっていたとは驚いたぞ」

「レティシアか。まあ気になることもあって考え事してたら遅くなった」

「そうか。明日は魔王の襲来も予知されているようだ。気をつけるのだぞ」

 

レティシアは七花の懸念に触れること無く明日のことへと向けて話を逸らした。七花はレティシアが例え追及してこようとも言うつもりは無かった。理由はいつもどおり面倒だったからだ。

 

「もう俺上がるからな。のぼせんなよ〜」

「もう上がるのか、早いな」

「じゃあな」

 

星空を眺めながらの露天風呂で疲れも取れた七花は、どのように白夜叉に説明したものかと考え始めた。

 

 

応接間に着いた七花は頭を抱えたくなった。

十六夜と白夜叉は互いに明日の黒ウサギの服装について論争を熱くさせ、耀は次々と注文をして割烹着の店員の目を回させ、飛鳥は小さな精霊と楽しげに談笑していて、ジンは収拾がつかないと頭を抱えていた。頼りの黒ウサギはツッコミに忙しくフォローは期待できないので尚更だった。

 

「嗚呼、面倒だ。もう俺寝ようかな」

 

などと呟く程には七花は呆れていた。

そこでようやくジンと白夜叉が気付き、収めていったが、七花の顔は依然として呆れ顔のままだった。

 

 

閑話休題。

 

「ふむ、敵側には凄腕の剣士がおって、そやつが七花の世界におった者である可能性がある、という事じゃな」

 

白夜叉は七花の説明を聞いて少し唸っていた。

逆に十六夜は強敵であると聞いて目を輝かせて軽薄かつ獰猛な笑みを貼り付けていた。

 

「オイ七花。そいつはどれぐらい強いんだよ」

「前闘った時と同じ位の強さだとすれば、今の俺なら7:3で俺が勝つな。だけど、余波でこの街の三分の一が瓦礫になるな」

 

淡々と七花が告げた為に場の雰囲気が一段と重くなった。飛鳥や耀ですら僅かに顔を青くしていた。黒ウサギやレティシアは白夜叉をも追い詰める七花をここまで言わせる剣士に恐怖半分、興味半分といったところだった。

白夜叉は重い雰囲気を払拭するように告げた。

 

「まあどのような者が来ようとも東の階層支配者たるこの白夜叉に任せておけばよい」

「ああそれからもう一つ。かなり強い子供を見たんだけどあれが魔王でいいのか?」

「七花ッ!見栄切りの邪魔をするで──魔王にあったとな!?」

「その話詳しくお願いします!!」

「ああ。これくらいの身長の女の子だったぞ」

 

七花はそう言って胸の辺りで水平に手を切った。十六夜は僅かにがっかりしたようにも見せた。魔王と聞いて巨大な人物でも想像したのか、しかし白夜叉とレティシアを交互に見てケラケラと笑った。

黒ウサギはその視線から察したのか苦笑して言った。

 

「白夜叉様のような格好の方でも魔王と呼ばれていらっしゃったのですし、箱庭では姿形に囚われるのは無意味だと思いいます」

「普段はあんなに巫山戯けているのに元魔王なのよね、白夜叉って」

「……まさに残念魔王」

「おんしら、………また私に喧嘩を売っておるのか?」

「し、白夜叉様ッ!!抑えてください!それよりも七花さんはどうしてその子が魔王であると断定できたんですか!?」

 

ジンは白夜叉を諌めながら、話を逸らす為に七花に質問した。箱庭では姿格好はあまり基準にならない。そんな箱庭で的確に魔王であると断定できたのか。

 

「ああそれなら、あいつの中?から以上な数の悪意とは違う怨念みたいなのを感じ取ったからな」

「ほう。七花おんし本当に面白いのう。やはりウチに来ぬか?」

「却下だ。お前は絶対に倒すって決めたからな。同じコミュニティにいても意味が無い」

「ふむ、残念じゃのう」

 

呵呵と白夜叉は笑っていたが他はそれどころではなかった。魔王であると断定したがその根拠は直感のようなものだったのだ。しかしノーネームの面々も七花の野生の獣以上の勘の良さは知っているので口を噤んでしまった。

こうして少し長くなった作戦会議のようなものは解散となったが、飛鳥の表情は浮かなかった膝の上で静かに寝ているとんがり帽子の精霊と魔王との関係について結局不安は拭えなかった。しかし、邪悪な者であるようには思えなかった。

悶々とした様子に気付いたのは一番最後まで残っていた七花だけだった。かけるべき言葉が見つからずに、七花は特に追求すること無く自室へと向かった。

それぞれの想いを抱えて夜は更けていった。




気が向いたら感想を書いてます待ってます。

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