資格試験や課題に手がいっぱいでこうしんできませんでした。
今回は恐らく今までで一番長く空いてしまい、若干どう書けばいいか悩みました。こんな時に皆さんの感想を読んでやる気を取り戻していました。
読んで下さる方に心から感謝します。
では、ゆっくりしていってくださいね。
飛鳥を探していたレティシアが七花に気がついたのは、七花ととある奇妙な少女と別れてしばらくたった頃だった。
七花は少女の雰囲気がどことなく姉を感じさせるものであったことから、恐らく猛者であろうことに気付いていた。しかし街中で戦闘を行うのが面倒だったため、座っていたベンチから離れることなく空を仰いでいた。
そんな格好の七花に気付いて、レティシアは高度を下げて地面へと向かった。
「ちょうどいい所にいたな、七花。七花は飛鳥を見なかったか?少しはぐれてしまってな」
「…………ああ、レティシアか。………ええと飛鳥だっけ、………………見てないな」
「そうか。ならば他を当たるよ」
「なあそんなに慌てることか?飛鳥だって子供じゃねえし、そこまで面倒見る必要があるのか?」
七花が若干呆れを含んだ声色でレティシアに問うた。
ノーネームの本拠で目覚めてからレティシアがはコミュニティのメンバーにあれこれ世話を焼いていた。
生来の性分といえばそれまでだが、七花には何か強迫観念をかかえているように思えて仕方なかった。
七花にとっては、今回もレティシアの取り越し苦労であるようにしか思えず、思わず尋ねていた。
レティシアはこの七花のある意味仲間の心配をしない発言に、不愉快さと僅かな怒りを覚えた。
「………北側の土地では、夜になると魔性の者達の活動が活発になるのだぞ?ここまで聞いてまだ飛鳥の安全を案じないのならば今ここで貴様を斬るぞ、七花」
レティシアの内心は穏やかなものではなかった。レティシアも七花のものぐさな性格は理解していたが、仲間や同士を案じないような輩は別であった。
もちろん力の全てを取り戻した訳では無い自分が白夜叉と激闘を繰り広げた七花に勝てるとはあまり思っていなかった。しかしここはレティシアにとっては譲れない一線だった。
レティシアのいつもの柔らかさから一変した鋭い視線に七花は、
「面倒だな。そうカリカリするなよ。なんでそうみんな好戦的なんだよ。」
大して普段と変わらなかった。
七花はノーネームの者達を見捨てるつもりなど元から無かった。
七花から見れば、直接的な強さは十六夜が抜きん出ているが、それも今は、だ。箱庭には星の数ほどの数多の猛者が存在する。そんな場所にいるのなら、大きな恩恵《ちから》を持つ問題児の彼等は研磨され、切磋琢磨し、そうしてかつての"ノーネーム"をも超える『箱庭の強者』になりうると、七花は割と本気で考えていた。また少しずつ強くなっていく彼等が楽しみでもあった。
『気概は充分、後は実力を付けるのみ』というのが七花の問題児達に対しての評価だった。そのためには多少の試練も必要かなぁとも考えていたが。
七花が他人の成長を楽しむようになったのには理由があるのだが、それはまた別の話である。
「飛鳥の居場所は知らんが探すのぐらいは手伝ってやるよ。お前もそれでいいだろ」
「あ、ああ。それはありがたいが………」
私のあの真剣な雰囲気は一体何だったんだ……と考えてしまうレティシアだった。
七花はそんなレティシアの葛藤を完全に気付かずに歩みを進めた。
もしレティシアが飲み込んだ言葉をを口に出していれば七花は溜息混じりにこう答えたかもしれない。
「刀の俺に空気を読むなんて難しいこと要求するなよ」
閑話休題。
飛鳥を探して出会ったレティシアと七花の二人だったが、
「七花、これはどうだ」
「何だこれ?見たことない食べ物だな」
「クレープというものだ。ふふ、七花はクレープは知らないのにたい焼きは知っているのか」
「まあたい焼きは前の世界での連れが知ってたからな」
「七花のいた世界か………行ってみたいものだな」
「ここよりもずっと技術は発達してないぞ?」
「七花のような者達が住まう世界だ。この箱庭とはまた違った面白さがあると思ったのだ」
「俺は世間知らずだから、なんとも言えないなぁ」
食べ歩きしながら和んでいた。
始めは七花を怪しんだ視線で見ていたレティシアだが、七花の抜けている場面を多く見て毒気も抜かれてしまっていた。
このような経過を経て今に至る。
そうして歩いていると境界壁を彫り込んで作られた洞窟の前に来ていた。ここは、火龍誕生祭に参加している工芸系のコミュニティなどが開いていた展示会場だった。
「七花、ここは──」
「ぎ、ぎゃあああああああああああああああ!」
「なんかあったみたいだな」
「そのようだな。しかし何か忘れているような………」
「え?飛鳥がいるかもしれないからここまで来たんじゃないのか?」
「あ、あす?───ッ!そうだな!!その通りだ!おそらく飛鳥はこの洞窟の中にいるだろうな!!!」
ゑ?ナニこの動揺しちゃっている感じ?まさかほんとに忘れて───なんてことを七花が考えてしまうほどに、今のレティシアは狼狽えていた。
しかしさすがは箱庭の騎士と言うべきか、すぐに立ち直ると洞窟から出てくる中の一人を捕まえ事情を聞き出し、飛鳥らしき人がまだ中にいることを突き止めた。
そのことが分かると、七花は持ち前の脚力で、レティシアは黒い影の翼で洞窟の中へと急いだ。
洞窟の奥へ進む中でレティシアが驚いていたのは、七花の速さだった。始めは置いていくことも考えていたがすぐにそのことが杞憂であったと悟った。レティシアは障害物の無い空中を進んでいたのに対して、七花は人の波を上手くよけながらレティシアに併走してきたのだ。
(白夜叉に一矢報いたという事はあながち間違いではなさそうだな。しかし………本当に別人のようだな)
先程までの抜けている様子を微塵も感じさせない七花の表情と体捌きに頼もしさを感じつつ、レティシアは飛鳥の元へ急ぐため、更に翼に力を込めた。
その頃一方の飛鳥は地面をうねるようして追いかけてくるネズミの大群から三角帽子のはぐれ精霊を守っていた。赤く光る目をして無数に蠢くネズミ達に生理的嫌悪感が体の芯まで走ったが、それを無理矢理抑えつけた。
既にここまでの逃走で自身のギフトによる命令に効果がないことを理解していたため、飛鳥はギフトカードからガルドとの闘いで得た銀の十字剣を取り出した。周りのネズミを薙ぎ払うが数匹切り裂いただけだった。
(ギフトカードを確認した限り支配するギフトが無くなった訳じゃない……!どういう事なの………!?こんな時に七花さんのように……いいえ、出来ない事をどうこう考えていても仕方が無いわね)
「服の中に入っていなさい。落ちては駄目よ!!」
露出した肌を僅かに血で染め、飛鳥は出口に向かって走った。やけに統率の取れたネズミ達はスピードを緩めることなく彼女を追い続ける。
次の刹那、影の刃と一陣の風が飛鳥の傍を過ぎ去った。
影は斬撃の竜巻のように洞穴の中でうねり狂い、ネズミの群れを塵芥となるまで切り刻まんとする勢いだった。
「──鼠風情が、我が同胞に牙を向けるとは何事か!?この畜生共がッ!!」
影の刃が起こす風に髪を押さえて目を凝らした飛鳥は再び驚いた。レティシアが近く来ていたことには声で分かっていたが、その姿が普段目にするものとは大きく異なっていたからだ。
凛とした佇まいで鋭い気迫をした彼女はまさに”箱庭の騎士”の名に相応しい女性だった。
そんなレティシアに飛鳥が僅かに見惚れていると、
「それじゃ俺は先に行くからな」
「ああ。頼むぞ、七花」
「お前は飛鳥の方をよろしくな」
自分の傍を通り抜けるまで気づかなかったことに飛鳥は三度驚いた。
声の主の七花はレティシアのように張り詰めたものでは無かったが、だからといって緩みを感じさせるものでも無かった。
七花はレティシアの放った影の後ろを離れることなく走って、洞窟内を覆う影の隙間に潜り込んで、壁を蹴って奥へと進んだ。
これにはギフトを行使したレティシアも冷や汗を流した。
飛鳥に出会う前に七花とレティシアは事前に話し合いをしていた。その時にはレティシアが辺りの雑魚を片付け、本命は七花が叩くという内容だった。
理由はいくつかあるが、最大の要因は七花には多数の敵を同時に何体も屠るような殲滅する力がレティシアよりも劣っていることであった。またレティシアは自身の霊格が以前の十分の一程に落ちているため戦力としての不安もあった。
とはいえ襲っていたのが鼠だったので大したことにはならなかったのでホッと安心していたレティシアだった。飛鳥を見て激昂しそうになるレティシアだったが、七花が奥に向かったことで怒気を収めた。
「貴女………レティシアなの?」
「ああ。それよりも飛鳥、何があったんだ?多少数がいたとはいえ、鼠如きに後れを取るなんてらしくないぞ」
普段と変わらぬ調子で答えたが、飛鳥は先程までの影の奔流に衝撃を抱いていて、顔を俯かせて呟いた。
「………。貴女こんなに凄かったのね」
「…………あのな主殿。褒められるのは嬉しいがその反応は流石に失礼だぞ。元魔王であり、吸血鬼の純血、さらに”箱庭の騎士”でもある!あの程度の畜生ならば神格を失っていようとも幾千万相手にしても問題はない!!」
拗ねたように主張をしながらリボンを結び、少女の姿に戻ったレティシアは普段の可愛らしい彼女のままだった。しかし飛鳥は、先程まで自分が置かれていた状況を回想して、唇を噛み、悔しさを滲ませていた。
「けれど、私は──」
「あすかっ!あすかっ!あすかぁ……」
「ちょ、ちょっと」
ピョコン!と飛鳥の服の胸元から出てきたとんがり帽子の精霊は、半泣きになりつつも首筋に抱きついてい た。
レティシアはその様子に呆れつつも微笑ましさを感じて微笑していた。
「やれやれ、すっかり懐かれたな。こちらは目標を達成したし、後は七花に任せるとするか。さあ宿へ向かおう」
「そ、そうね。ところで七花さんはどうして奥へ向かったのかしら?」
「少し奥まで行って敵がいないかを確認しに行ったよ。せっかく助かったのだ。私達が捕まっては元も子もあるまい」
これ以上の襲撃が入る前に二人と一匹?は”サウザンドアイズ”の店舗へと戻るのだった。
洞窟の奥地にて、とある二人組がいた。
一人は布地の少ない白装束を纏った若い女で片手でフルートを弄んでいる様子だった。
もう一人は白い和服を来ていたが、右肩の方には掛けること無く、腰に一振りの刀を提げた長い白髪の青年だった。
「マスターも騒ぎ一つ起こすのに付けさせるだなんて、心配症ですねぇ」
「確かに俺は不要だったようだな。目的も達成したのだろう?さっさとここから去るとしよう」
「あらぁ、アナタから提案だなんて珍しいですねぇ?何かあったんですかぁ?」
「何かが近づいてきているような気がしてな。後で派手に暴れるのだ、今から見つかってやる必要もあるまい」
青年は女性の言うことに対して終始冷静で表情一つ変えずに受け答えしていた。女性はそんな弄り甲斐の無い様子に内心拗ねていたが、声に出すことはしなかった。
青年がこう言うと、女性も了承したのかそこから直ぐに立ち去った。
キンッと鞘に刀を収める音がすると、二人が背を向けた方の壁が上と左右から崩れ、洞窟を塞いでしまった。
揺れを感じた七花が急いで向かうと先を塞ぐ瓦礫の山と微かに見えた岩肌の刀傷があった。
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