今回は風邪も会ったんですが、それに重なり、季節はずれのインフルエンザにかかりまして、寝込んでいました。ホントすいません。私は何だか時期外れのものにかかりやすいそうです。
それでは近況報告はこのくらいにして、ベッドの上から更新します。
ゆっくりしていってくださいね。
第十一話 虚刀流、鬼ごっこは突然に
それはある穏やかな日の昼下がりのことだった。一通の手紙が騒動の発端となった。
『黒ウサギへ
北側の4000000外門と東側の3999999外門で開催される”火龍誕生祭”に参加してきます。
私達に祭りの事を意図的に黙っていた罰として、今日中に私達を捕まえられなかった場合、三人ともコミュニティを脱退します。死ぬ気で探してね。
PS,ジン君は道案内に連れて行きます』
黒ウサギはたっぷりと読み込んで、悲鳴のように叫び声を上げた。
「な──……何を言っちゃってんですかあの問題児様方ああああ───!!!」
ここ最近のおとなしさから失念していたが、彼ら三人は箱庭屈指の問題児達だった。
一方その頃。
黒ウサギ達からはさほど問題児扱いされていない七花は、”サウザンドアイズ”の白夜叉を訪ねていた。
「ほいよ。これで依頼通りだろ」
「ふむ。コカトリス50匹にそれを食い荒らすオークの群れの抑制、確かに依頼通りだの。じゃが……」
七花は白夜叉に頼んでギフトゲームの他にもサウザンドアイズの依頼の報酬、と言う形でコミュニティに貢献していた。
そんな訳で、いつものように依頼達成の確認に来た訳なのだが、七花は白夜叉の様子がおかしいことに気づいた。
「お主、何故闘った相手から仇討ではなく手合わせの連絡がくるのじゃ?しかも物凄く丁寧に」
「ああ、そのことか………。それならウチの本拠にも手紙が引っ切り無しだよ。困ったもんだぜ」
そう言って溜息をつく七花。
実際の所、あのペルセウスからも連絡が来ていて、その時は流石にかなり驚いていた。都合のいい時でいいと書面にはあったが、ギフトゲームでのわだかまりもあると思って返事をしていないのが現状だった。
それを相談しようと来たわけでもあったのだが
「やっぱ行った方がいいよな。後の事を考えると」
「そうじゃろうな………まあなにかあれば私からも助けをしてやろうかの」
「助かるぜ、白夜叉。それじゃあ俺帰るわ」
「そうか。たまには店のモノも買っていってくれ。ウチの店員もうるさくての」
「それもそうだな。礼代わりに何か買ってくよ」
七花はそう言って部屋を出て少しすると、Uターンして和室に戻って来た。
「悪い白夜叉、なんかウチの連中が店員と揉めてんだけど止めてくんない?」
「で、なんで七花がここにいるんだ?」
「ああそれは、かくかくしかじかで」
「かくかくしかじかだけじゃわからないわよ……」
〜虚刀流、説明中〜
「つーわけで、北側まで連れてけやコラ」
「いきなり脅迫とは礼儀を知らんのう、小僧。まあ良い」
そう言われ、言われた通りにする十六夜。
白夜叉は煙管を軽く叩いて灰を落とし、話を進めた。
「招待者として、それくらいのことは考えておった」
「おお、話が早い」
「だがその前に一つ問いたい。おんしらが魔王に関するトラブルを引き受けるとの噂があるが、真か?」
白夜叉は少し鋭くなった目で”ノーネーム”一同を見た。飛鳥は臆する所なく答えた。
「ええ、それなら本当よ」
「それはコミュニティのトップとしての方針か?」
「はい 。名も旗印も奪われた僕たちにはこれが最善であろうと考えました」
「ふむ……ではその打倒魔王を掲げたコミュニティに東のフロアマスターとして正式に頼みたいことがある。よろしいかな、ジン殿」
「は、はい!謹んで承ります!」
ジンは白夜叉のコミュニティの長としての話し合いの申請に、上擦りながらもしっかりと応えた。
「おんしらは”サラマンドラ”の頭主が世代交代したことを知っておるかの?」
「サラマンドラが!?まさか頭主が変わっていたなんて知りませんでした。それで今はどなたが頭主を?」
「頭主は末の娘、サンドラが火龍を襲名した」
「サ、サンドラが!?彼女はまだ十一歳ですよ!?」
「あら、ジン君だって十一歳で私達のコミュニティのリーダーじゃない」
「今回の誕生祭だが北の次代マスターであるサンドラのお披露目も兼ねておる。しかしその幼さ故、東のマスターである私に共同のホストを依頼してきたのだ」
「あらそれはおかしな話ね。北には他にもマスター達がいるのでしょう?ならそのコミュニティに頼むのがスジではないかしら?」
「…………うむ。まあ、そうなのだがの」
「幼い権力者をよく思わない組織がある、とかな」
「まあ………そんな所だ」
まさかこの箱庭で低俗な話をフロアマスターに言われるとは思わなかったのか、飛鳥は顔を不機嫌そうに歪め、吐き捨てた。
「呆れた。箱庭の長達でも、思考回路は人間並なのね」
「手厳しいのう。だが全くもってその通りだ。共同祭典の話を持ちかけてきたのも様々な事情があってのことなのだ」
少し憂いた顔で顔を俯かせる白夜叉。
すると、耀はハッとした表情で白夜叉に尋ねた。
「ちょっと待って。その話長くなる?」
「ん?そうだな、短くとも後一時間程度はかかるかの?」
「白夜叉!今すぐ北側に向かってくれ!!」
「別に構わんが、依頼は受諾ということで良いかの。」
「構わねえから早く!事情はおいおい話すし何より──その方が面白い!」
十六夜の深めた笑みを見て白夜叉は瞳を丸くし、笑った。
「そうか、面白いか。いやいやそれは大事だ!娯楽こそ我々神仏の生きる糧なのだからな。ジンには悪いが、面白いならば仕方ないのぅ?」
白夜叉は悪戯っぽい笑みを浮かべて柏手を二つ打って
「──ふむ。ほれ、北側に着いたぞ」
「「「「は?」」」」
今まで空気だった七花を含め、素っ頓狂な声を上げた。
外に出ると高台にあった”サウザンドアイズ”の支店からは、街が一望できた。
「赤壁と炎と………ガラスの街………!?」
街全体が紅く配色されていて、遠目でも分かる程煌びやかな通りの輝きに、”ノーネーム”の一同は心揺さぶられていた。
「へえ………!980000kmも離れているだけあって、東とは随分文化形式が違うんだな。東側より面白そうだ」
「聞き捨てならんのう、小僧。東側にもいいものは沢山あるっ。おんしらの住んでいる所が特別寂れておるだけじゃわいっ。……ところで七花よ、何をそんなに顔を青くしておる?」
「………いや、ちょっと悪寒が止まらなくてな………。悪いけど白夜叉……少し歩いてからまた来るわ」
そう言うが早いか、七花は近くの林へと駆けていった。
七花はこの街に来てから悪寒を感じていて、なんとなくあの場所にいたくなかった。七花は自分の知識の無さを完全に理解しているので、こういった勘や直感を信じていた。
そして今回は結果的に功を奏した。
「七花さん尋常じゃなかったわね。………それはそうと、私達も今すぐ下りましょう!あのガラスの歩廊に行ってみたいわ!いいでしょう白夜叉?」
「構わぬよ。続きは夜にでもしよう」
そう言って白夜叉が促した矢先だった。
「見ィつけた──のですよおおおおおおおおおおおおおお」
ズドォン!!!と着地した紅く染まった髪の主は言わずと知れた、ノーネームの黒ウサギである。彼女の怒りのエネルギーを現すかのように、彼女の紅い髪は揺らめいていた。
「ふ、ふふ、フフフフ………!よおぉぉぉやく見つけたのですよ、問題児様方!!───どうやら七花さんもいらっしゃったご様子………。七花さん……貴方も………………ドウザイデスヨ?」
ゾクゥゥッ!!
かなり離れていたのにも関わらず、黒ウサギの威圧を感じた七花は、ジョギング程だったペースを一気に引き上げ、全力で駆け出した。
黒ウサギの威圧は普段のものぐささを吹き飛ばすには十分なものだった。
即ち、『黒ウサギからガチで逃げなきゃ殺される』ということを強く感じた。
「嗚呼、面倒だ……って言いたいけど、今度のは理不尽すぎだろ!!」
七花の叫びは聞かれることなく消えていった。
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