M県S市杜王町在宅のとあるスタンド使いの日記 作:BサインからCサイン
「なんの話だよ仗助~?こんなうすらさびしい所に呼び出してよォ~」
治一、康一、億泰は仗助に呼び出され××××の町外れにまでやってきていた。
億泰は体質なのか、先ほどから虫に刺されかゆそうに体をポリポリとかきむしっている。
「ここに呼び出したのはよー、オレじゃあねェーぜ。承太郎さんだ…」
「……………?承太郎さんが……?何の用かな?」
周囲をキョロキョロと見渡しながら億泰の質問に答える仗助、自分たちをめったに呼び出したりしなかった承太郎さんが今、自分たちを呼び出したことに康一は疑問を持った。
それに治一が俯きながら自分の推測を話した。
「…〈チリ・ペッパー〉のことだろ?仗助……」
「ああ」
「 え!? 〈チリ・ペッパー〉ってあの〈レッド・ホット・チリ・ペッパー〉のこと!?」
バギィッ
「ハッ!」
「………………」
後ろから響いた木が折れた音、康一と仗助が目を向ける方には折れた枝を憎しみのこもった眼で睨みつける億泰がいた。
「…………
「ああ!あらわれた……。おとといの夜、おれんとこになあー」
「 ! なんで野郎のことをオレに黙ってたあ――――ッ!?」
「……………」
億泰は怒りの形相で仗助に掴みかかった。
当然の反応だろう。親父がバケモノになってしまった億泰にとって、唯一頼れる存在だった彼の兄・虹村形兆を襲い”弓”と”矢”を奪ったのが〈レッド・ホット・チリ・ペッパー〉だった。
自業自得とはいえ、形兆はやつに”現在進行形”で命を狙われているのだ。
そいつが自分の家に現れたことを仗助が黙っていたことに彼が怒るのは至極当然なのである。
「やめろ億泰。仗助に怒るのはお門違いってやつだ」
しかし、その手を横から治一が掴んだ。
「治一ッ」
「億泰、〈チリ・ペッパー〉には俺だってかなり頭にきている。お前とおんなじだ……だけどな、今それに怒ったってなんも変わりはしない」
「それに、仗助が俺たちにすぐ伝えなかったのには少なからず訳があるはずだ………」
「その通りだ。電気の通っている街中じゃあ~~~……ヤツの話をするのは危険だ…オレが仗助に黙ってろと言ったのだ……こんな野原に集めたのもヤツに話しを聞かれないためだ…」
「あっ!」
「「「承太郎さんッ!」」」
ザッザッと足音をたてて四人に声をかけた空条承太郎。
〈チリ・ペッパー〉は電気あるとこならどこでも移動することができるスタンド。
仗助はヤツがそれを利用して他人の家から物や金を盗んでいると推測、治一も〈チリ・ペッパー〉ならその気になれば電話線やコンセントから自分たちを電気の中に引きずり込み、殺すことができると考えていた……。
「承太郎さんの言う通りだ億泰…それにな、
「____!ああ」
億泰は見た。自分の手を掴んでいる治一の手が”怒りで震えている”ことに。
治一は我慢しているのだ、破裂寸前の風船のように膨らんでいる怒りをこらえているのだ。
「おとといの夜でわかった。ヤツは力を付けているのをオレは実感した!早いとこヤツの『本体』を見つけ出さなきゃあなあ―――っ!!」
「で、でも…どうやって『本体』を見つけ出すの?仗助くん……?」
意気込んで声をあげる仗助に康一が問うた。
仗助は承太郎に向き直った。
「その方法を考えるために集まったんだろ?承太郎さん…」
「…………
「え~~~~~っ!!」
「見つけ出せる―――?〈レッド・ホット・チリ・ペッパー〉の『本体』を探し出せる人物だと!!」
「スタンド使いかよそいつ!!?」
三人が驚愕し声をあげる中、治一だけが静かに自分の拳を握りしめていた。
その眼はさきほどの億泰のそれとは違っていた。
さきほどの億泰の怒りが”自分のナワバリを荒らす敵を見つけた動物”のようなものだとすれば、治一の怒りは”自分の領土を踏み荒した野獣が罠にかかった瞬間を睨みつける狩人"。
承太郎はその瞳に”凄み”を感じていた。
(大した我慢強さだ……こいつにとって虹村形兆は特別な存在だったとSPW財団からは聞いているが…なかなかに強い精神を持っているじゃねえか……)
(〈チリ・ペッパー〉!いよいよてめえをぶっ倒す時がきたようだ……今度は負けねえ!!)
『見つけ出すことのできる人物』のスタンド名は〈
しかしその本体の男は年をとりすぎており、とても闘えるような体力とスタンド力をもっていない。
承太郎の知り合いであり、外国人の老人のスタンド使い。
その名をジョセフ・ジョースター。東方仗助の生みの親である。
「________確かに…聞いたぞ……」
しかし、その話を聞いている者がいた。承太郎でも仗助でも億泰でもない、康一でも治一でもない。では今の声の正体は何か?
その正体の名は_______
「「「「「〈レッド・ホット・チリ・ペッパー〉!!?」」」」」
「バカな!……なぜこの『野原』にやつが?」
「な、なぜェ~~?ここには電線なんかないのになぜ!?」
「 ! バイクだ!…バイクのバッテリーに?まさか、最初から!」
「おれのバイクに!?」
「マジかよ…聞かれたぜェ~~」
突如現れた〈チリ・ペッパー〉に驚きを隠せない五人!
なんと〈チリ・ペッパー〉はッ、億泰が乗っていたバイクのバッテリー内に忍び込んでいたのだ!
しかもそれだけではないッ、今ここで行われた会話が全て聞かれてしまっていたのだ!!
「『正午』に…『港』だとォ? このオレを探し出せる老いたスタンド使いだとぉ~~~っ!」
「その老いぼれは―――ッ!港に到着と同時に必ず殺すッ!」
「『ジジイ』のことを知られてしまった……つまり…仗助の父親のことを…!!」
焦る五人、〈チリ・ペッパー〉はバイクに乗って五人からどんどん離れていく。
「こいつはまずいな…このまま逃げられたら『ジジイ』のところに先に行かれてしまう」
「仗助くん!岩をブツけてあのバイクを破壊するんだよ―――ッ」
「俺に任せろッ!一人で追うだけなら俺の方が速いッ!!」
「いや待ちなあ――――っ」
スタンドを出現させバイクを追おうとする治一、しかし彼の前に億泰が飛び出した。
「億泰!」
「悪いな治一、あの野郎はよォ―――ッ。因縁的によォ――ッ!!この虹村億泰が仕留めるッ!」
億泰の〈ザ・ハンド〉!その右手で自分とバイクの空間を削り取った。すると~~
パッ
「!! ゲッ!何ィ~~~~!?」
「てめーは……おれの相手だ!」
空間が閉じ、億泰は〈チリ・ペッパー〉のバイクの上に瞬間移動したのだッ!
さらに、億泰はバイクの前輪を削り取り〈チリ・ペッパー〉の逃走を防いだのだ!
形勢逆転!〈チリ・ペッパー〉はバイクのバッテリーから離れることはできないッ
しかも、あと100mは電線が存在しない、つまり〈チリ・ペッパー〉は完全に逃げられなくなったのだ!
四人は億泰のもとに向かう。やつはバッテリーを守るため、必死で億泰を殺さなくてはならない。
しかも、バッテリーから動けないとはいえ追う者がいなければ奴は、バッテリーを担いで電線のある位置まで逃げることができるのだ!
〈チリ・ペッパー〉と億泰の戦闘が始まる。
億泰の〈ザ・ハンド〉の攻撃はやつになんなくかわされてしまう。
しかし、それも億泰の作戦の内。空振りに思えた攻撃は〈チリ・ペッパー〉と自分との空間を削り取り、完全に油断していた〈チリ・ペッパー〉の背後に回り連続蹴りをくらわせた!
蹴りはくらえど”削り取られる”ことだけは回避する〈チリ・ペッパー〉。しかし戦闘が進んでいくにつれ次第にやつは弱っていった、〈レッド・ホット・チリ・ペッパー〉の電気の輝きはなくなり錆びた鉄クズのように変色した!
「弱っているんだッ!スタンドパワーが無力になってきているんだッ!」
「こいつは億泰の勝利かぁ~~~っ!!」
完全に〈チリ・ペッパー〉を追い詰めた億泰。弱っている〈チリ・ペッパー〉にトドメを刺そうと距離を詰めていく!
しかし、承太郎と治一がそれを静止した!
「億泰ッ!トドメは刺すなッ!焦ることはないッ!奴は確実に弱っているが反撃がないとは考えられない、無理にトドメを刺しにいくことはないッ!」
「おれたちがそこに行くまで待て!おまえの勝ちだッ!そいつからは”弓”と”矢”がどこにあるのか聞きださなくてはならんッ!」
立ち止まる億泰、後ろを見れば四人が急いでここに向かってきている。
そうだ、焦ることはない。自分は勝ったのだ、それは変わらない、あとは捕まえて情報を聞き出すだけ。なにも先走ってトドメを刺す必要はないのだ……
しかしッこの土壇場にきて〈チリ・ペッパー〉は最後の抵抗を見せたッ!
「フフフ………言うとおりだ…オレは弱っている…。おめーの『スタンド』の右手、スピードはねえが恐ろしい右手だぜ………」
「しかしよ―――……本当にとどめを刺しにこなくてもいいのかい?本当は……このオレ、ワザと弱っている
「………………」
「弱ってるフリをして承太郎をひきつけておいて…やつの首をカッ切ってやると考えているかもなあ億泰~~~ッ。オレの「スピード」、承太郎さえ「時」を止めなければ…勝つ自信がある……そー考えているかもしれねーなぁ―――」
「…何言ってんだ?てめー」
「別にィ……。本当は
揺さぶり!〈チリ・ペッパー〉はこの状況で揺さぶりをかけ億泰の判断力を遅らせようとしていた。
〈チリ・ペッパー〉が本当に弱っているのなら!このまま四人がここへくるのを待ち、確実に完全に追い詰めるべき。
〈チリ・ペッパー〉が本当は弱っていないのなら!ここでとどめを刺し、仲間の危険を阻止するべきなのだ!
「来るのかよ……来ないのかよ…」
「トドメを刺すな!億泰ッ!」
「…………」
億泰の…決断は_______!
「ウオオオオオウダラァ――ッ!もうどっちか考えるのは面倒くせえぇぇッ!チクショォォォ―――ッ」
「やめろッ!攻撃してはダメだ、億泰――ッ!!」
「おれを止めるな治一ゥ――ッ!兄貴はおめーに助けられた、だがなあ!”こいつは兄貴を殺そうとした”んだ!”おれがケリをつけてやる”!」
「真実は”それひとつ”だッ!オレの心の中のよぉ~~~~っくたばりやがれーッダボがァ!」
〈ザ・ハンド〉の右手が〈チリ・ペッパー〉の肉体を
しかし、それは悪手だった。
〈チリ・ペッパー〉は本当に弱っていた。〈チリ・ペッパー〉は狙っていた。
億泰が自分の真下に存在する『電気ケーブル』を削り取ることを!!!
地面を抉りほってしまったことでケーブルが剥き出しとなり、〈チリ・ペッパー〉は復活した!しかも、町中の電気がやつの力となってしまっている!
圧倒的な力を見せつける〈チリ・ペッパー〉。〈ザ・ハンド〉の攻撃を小指防いだうえに、右腕を叩ききったのだ!
形勢逆転!〈チリ・ペッパー〉は億泰の首を掴みとり、電気の中に引きずり込んでいく!!
「おれの勝利だッ!バイバイだッ!承太郎!仗助!」
「うおおおおおお~~~~~ッ」
「ああ~~~~ッ億泰くんがぁ―――ッ」
億泰は完全に電気の中に引きずり込まれた……康一は涙を流し、仗助たちは億泰が引きずり込まれていった電気ケーブルを見つめ、治一は無造作に転がった億泰の右手を掴み上げた。
「……億泰のやつ…だからトドメは刺すなと言ったのによお……」
「やれやれだ。逃げられたか……あそこまで追い詰めて切り抜けられるとは…」
「かなりヤバい『スタンド』っスねェ~、遠隔操作ができて…しかもパワーじゃ電力会社全てを利用できる無限大!」
「……何を!?何を言ってるんだあんたたちッ!億泰くんがこ…殺されたって時に…何を言っているんだその言いぐさはッ!敵の能力の分析なんかッ!」
「………」
「治一くんッ!君は悲しくないのッ!?億泰くんは君の大切の『友達』じゃないのか!?なんであんたたちは…そんな冷静でいられるんだッ!」
「ン!そうだったな、そろそろ億泰の心配をするか…不幸中の幸いってやつだ…億泰には強運が付いているようだな…」
「そおーっすね、億泰のやつは、『右腕』を切断されたのが幸運だったっスね!」
「え!?…………?」
はっと治一の持った億泰の『右腕』を見る康一、治一は仗助に右腕を渡してからゆっくりと口を開いた。
「康一、仗助の『スタンド能力』…覚えているか?」
「あっ!」
「〈クレイジー・ダイヤモンド〉!この『腕』を治すっつーことはよぉ―――康一~~~っ、体が戻ってくるっつーことよ…」
右腕を殴りつける〈クレイジー・ダイヤモンド〉!するとまるで磁石のように億泰の”体”が電気の中から戻ってきた!〈クレイジー・ダイヤモンド〉の能力は『治す』こと、ほんのひとかけらでも手元に残っていれば全体の修復が可能なのだ!!
「 ! …………」
「やったあ~~~~いッ!億泰くんが戻ったあ―――っ」
歓喜する康一。しかし億泰はその裏腹に、膝をつき悔しんでいた。
完全に負けたのだ……力でも、精神力でも億泰は負けたのだ。
自分の精神力が未熟だったゆえに、勝てるはずだったモノを負けにしてしまったのだ。
「おい……億泰…」
「………治一…すまねえ…おれのせいで」
「…気にするな、お前のせいじゃあない。おれだったあの状況で冷静に動けるなんて自信はねえんだからな……だがな、次は無茶するな。形兆のためにお前が死んだら意味ねえんだからな……」
治一は億泰の手をとり立ち上がらせた。その眼の奥に込められた思いは彼にしかわからない…治一は遠い港を睨んでいた。
ジョセフ・ジョースターが港に到着するまであと、20分。
日記モノなのに戦闘シーン。しかも前後編に分かれています、次回はいよいよお待ちかね。なにが、とはいいませんが。
批判、感想、ここはこうした方がいい。などの意見がありましたら遠慮なく教えてもらえると嬉しいです。
賞賛などの意見が多かったら、チリ・ペッパー戦以降にもまたやるかもしれません。