導入部分くらいしか主人公が出れる所がないのが原因かwww
「ふぁぁ~」
「よく眠れたみたいだな、服部」
「桐原か」
九校戦用にと一時的に開放している軍の宿泊施設に辿りついた一行は自分達の手荷物を運ぶもの、今後の懇親会とその他のイベントについて心躍らせる者、多種多様な人間模様を形成していた(バスは自爆攻撃などなく滞りなく辿りついた)
「最近、眠そうにしてるが頼むぜ主戦力」
桐原の言うとおり、服部は本戦のバトルボードとモノリスコードに出場する予定であり二年生でありながら一高最強と謳われるその実力をいかんなく発揮してもらわなければならない。因みに去年の新人戦は服部の独壇場であったと追記しておく
「すまん、ここのところ夜遅くてな」
「何してんだ?魔法の練習か?」
「いや、昨日はリア充爆破装置を解体したな」
「は?」
桐原は服部の言葉に目が点になるが、かの服部はそれに気づいているのかいないのか眠そうな目をこすりながら割り当てられた部屋へと向かう。
(相変わらず意味わからん事してんな~)
桐原は心の中でそうひとりごちながら服部の後に続いた。なんだかんだ言ってこの友といるのは結構面白いのだ。
「あら、エリカ随分早いのね」
「まぁね~」
一方、別のエリアでは達也と深雪が色々な意味で周りの視線を集めながらソファに深く座る赤髪の少女、エリカに声をかけていた。
「エリカだけか?」
「私だけじゃないよ。美月もあの体力馬鹿も来てるわ」
体力馬鹿=レオの事なのだがここに文句を言う本人はいないし、達也も深雪もある意味でいい性格をしているので体力馬鹿に言及する者はいなかった。
「にしても達也君、私達全員分のチケットなんてどこから手に入れたの?」
「なに、ちょっと伝手が合ってな」
本来、ここは軍の施設と言うだけあって一般の人間では入る事が出来ない(『千葉』家のようにコネがあるなら話は別だが)
だが、今回は懇親会のイベントの一つとして人気バンド『ゴールデンキャッスル』のライブがある。なのでライブに来た客に一時的に今回だけ施設を解放しているのである。ただあくまで懇親会の余興の一つなのでチケット自体そう多く配布されていないので九校戦参加者以外の姿はまばらである。
「伝手って軍の?」
「軍、ではないな」
達也のあえて濁したような言い方にエリカはさらに追及しようとするが
「あ、達也さん、深雪さん」
部屋のカギを持ってきたのだろう。右手に銀色に輝くカギを持ちながら今の時代珍しいメガネをかけた少女、柴田美月が声をかけてきた事によってエリカの追撃はひとまず終わる。
「ごきげんよう、美月」
朗らかに笑いながら深雪は美月に挨拶するが、途中でその笑顔は若干堅くなり変わりにマジマジと見つめるものに変わる。
「あ、あの……何か?」
「なんというか、派手ね……」
居心地悪そうに身をひねる美月を更に見ながら深雪は遠慮がちに言葉を選びながらそう告げた。
「そ、そうでしょうか?」
深雪にそう言われ羞恥に頬を赤く染めながら美月は自分の格好を見る。その格好はこの時代の常識から照らし合わせてみれば多少肌の露出が多い気がしなくもない。
「こんぐらい、普通じゃな~い?」
すると、間違いなく美月を煽った犯人であろうエリカがあっけらかんと言い放つ。彼女の格好も肌の露出が多くなかなか扇情的だ。
「エリカ……」
深雪がじとっと見つめてくるのをさりげなく視線を逸らしながらエリカは逃げる。自分でも自覚はあったようだ。
「あ、ところで和人もくるんでしょ?まだなの?」
「友人の所に一泊してから来ると言ってはいたがまだのようだな」
明らかに話を逸らそうとしているエリカに更に深雪の視線の温度が更にぬるくなるが、達也としては気にはなっていたので変わりにエリカとの会話を引き継いだ。
「おいコラ、自分の荷物ぐらい持ちやがれ」
とここで、二人分の荷物を両脇に抱えた背の高い少年がエリカに喰ってかかるように現れた。
「あれ?ミキはいないの?」
「今もフロントだよ。ってかシカトすんな!」
「久しぶりだな。レオ」
このままだと微笑ましい喧嘩に発展しそうだと思った達也が多少強引に会話に割って入る。するとそれに見事に誘導されたレオがこちらを向き笑顔を見せる。
「おう達也。一週間ぶりくらいか?」
「そうだな。思えばあっという間だったな」
「頑張れよ。応援してるぜ」
技術スタッフの何を応援するつもりなのか分からないが気持ちは素直に受け取っておくかと達也は邪推なツッコミを心のうちにしまう。
「エリカ、そう言えばミキってどなたなのかしら?」
深雪はその顛末を笑顔で見守っていたが、先ほどから気になる事があったので会話が途切れた時を見計らってエリカに問いかける。
「そういえば深雪はまだ会った事なかったっけ?ミキってのは」
「あ、みんな~久しぶり~」
エリカが目線をフロントに向けた刹那、眠そうな気の抜けた声が聞こえ目線がそちらに移る。
「あ、和人」
「やっほ~」
エリリン氏が手を振ってくるのに寝ぼけ眼をこすりながら応える。ちょっと夜遅くまでゲームしすぎたね。隣にいる亜夜子ちゃん、水波ちゃん、文弥くん(ヤミ)も眠そうだ。穂波さんは部屋に先に行っているので今はいない。
「なんか眠そうね」
「流石にスマブラ100機サドンデスはやりすぎだった」
「前にそれやってたろ」
「今回はアイテムをボム兵オンリーにしてみた。まるで残機がごみのようだ!」
「あの~」
俺と司波兄妹がいつもの調子で話していると美月ちゃんが遠慮がちに声をかけてくる。
「?」
「すいません。そちらの方々は……?」
あ、そういや文弥君(ヤミちゃん)達とまだ会ったことなかったね。見るとエリリンもレオ君も気になってはいたようだ。
「エリリン達にも紹介するよ。こちらが黒羽ふ、じゃなく弥美ちゃん」
結局女装する羽目になった文弥くん(ヤミちゃん)が無言で頭を下げる。あれ?これ文弥くんの時に会ったらなんて説明すればいいの?
「で、姉の黒羽亜夜子ちゃん」
「宜しくお願いしますわ」
こちらは優雅に一礼し、その所作に一同感心している。こんな所までみゆきちに対抗心燃やさなくても、みゆきちもなんか悔しそうだし
「そして、彼女が三波春夫でございます」
「桜井水波です。宜しくお願いします」
痛い痛い痛い痛い!悪かったからヘッドロックは止めて!
眠そうに半開きだった目を見開き音速で俺をノックアウトした水波ちゃんはいろんな意味で視線を集めながらもそれを気にせず軽く一礼した。
「水波、腕を上げたな」
いや、感心している場合じゃないよ達也君
(これでよし、和人達はまだフロントでしょうか)
一足先に部屋に入っていた穂波は軽く荷ほどきをし一息ついた所だった。貢は仕事が入ったとかでここには来ていない。
恐らくフロントで話しこんでいるのだろう子供たちを迎えに行くため、部屋のドアを開け廊下に出る。
「おや?穂波さんじゃないですか」
「え?」
と聞き覚えのある声が聞こえ穂波が思わずそちらを振り返ると(ドクンと高鳴った心臓には全力で気付かない振りをした)
「こんな所で会うとは奇遇ですね」
「え、えぇ本当に」
今日は仕事で来ているのか薄緑色の制服に身を包んだ司一が軽く笑いながら此方に向かってくるところだった。
「司波君達の応援ですか?」
「はい、あとライブがあるので一さんはどうしてここに?」
「ありがたいことに今夜の懇親会で私の考案したディナーが振る舞われる事になりましてね、そちらの準備ですよ」
なんか彼が何しても驚かなくなってきている自分が怖いと思いながらも穂波は笑顔を崩さない。それは鍛え上げられた使用人スキルのたまものかそれ以外の要因か
「相変わらず、お忙しいのですね」
「なに、忙しいのはいいことです。社員を路頭に迷わせなくて済みますから」
司一自身は気付いてないだろうが、彼は自分の中で『良い事言った!』と思うとメガネを上げる癖がある。似合ってはいるのだがそのドヤ顔と子供のように輝かせた目のせいで背伸びをしている子供のような印象を与えるのだ。
穂波は彼のそういう所に愛おしさを感じ……
(って落ち着け私!何考えてるの!?)
在らぬ所にトリップしそうだった思考を頭を振って現実に戻すが紅潮した頬は戻らなかったようで
「穂波さん風邪ですか?」
「へ?」
それを司一がそう勘違いするのも無理ない事のように感じる。
「風邪なら薬が確か……」
「いえいえ!大丈夫です!大丈夫なんです!」
「え?ならいいんですが」
必死の形相で否定する穂波に気圧される形で一はポケットに入れた手を戻す。更に穂波の顔の紅潮が酷くなっているのを見て本当に風邪じゃないんだろうか?とずれた事を考えている一は間違いなく鈍感というレッテルを張られるだろう。
「それにしても、穂波さんには頭が下がる思いです」
「は、はい?」
そのかわりと言ってはなんだが一から投下された話題に穂波は話の意図が読めず疑問符を頭に浮かべる。
「いえ御若いのに一人で一家を切り盛りして、並大抵の苦労ではなかったでしょう」
「い、いえあなたほどでは」
「それでも笑顔を絶やさない。うん、私にもあなたのような人がいれば相当助かるんですが」
「…………ぇ」
穂波の思考が停止する。
(穂波さんが秘書としていてくれればなぁ、吉田君はあんなんだし。そもそも昨日もあの服部半蔵に兵器破壊されたばかりだし、おかげでまた資金集めからやり直しだし、あとそろそろ夏季賞与の時期だから、あぁぁぁ!人手も時間も足りん!今もちょっと穂波さんに手伝って貰ってるし本格的に秘書として働いてくれないかな~)
と一はこんな考えがあってポツリと漏らしてしまった一言なのだが、穂波にとっては戦略級魔法レベルの破壊力があった。
(そ、そそそそそそれってつまりそういうことですか!?いやまだ心の準備が……ってそうじゃなくてそうなったら家の事が色々大変になりますし水波に負担が)
私は大丈夫ですよ~叔母様
そうそう、YOUいっちゃいなよ~
(水波!?そんなところで気を利かせなくても!あと和人は殴る。で、でも私は四葉に買われた身ですし)
あらあら、そこは問題ないって貢さんが言ってたでしょう?往生際が悪いわよ
(真夜様まで!?し、しかしですね)
四葉の技術は世界一ィィィィィィィィッ!!出来ん事はないぃぃぃぃぃ!!
(帰ってきて紅林さん!)
と穂波が幻聴と大格闘しているとも知らず自分の思考から帰ってきた一がなにやら百面相している彼女に近づくと
「穂波さん?」
「ひゃい!?」
軽く肩に触れただけなのに面白いように反応する穂波に若干ビビる一であった。
「すいません、少し相談したい事があるのですが」
「相談、ですか?」
「えぇですがここではあれなので、九校戦初日の午前に下のカフェテリアで会えませんか?」
「は、はいわかりました」
あれの部分で若干恥ずかしそうに目を伏せた一だがそれでも笑顔で言い切ったが穂波にとってはそれどころではない。
(よし、恥ずかしい話だが秘書として働いて貰えないか交渉してみよう)
(あれ?これってもしかしてデートの約束!?どどどどうしましょう!?勢いでOKしちゃいましたよ!?)
「そうですか!それは良かった!ではそろそろ時間ですので私はこれで」
「え、えぇそれではまた」
色々あり過ぎて放心状態になってしまった穂波を尻目に嬉しそうに笑いながら一は踵を返して去って行った。
「…………どうしましょう」
顔の紅潮は戻る気配もないし、心臓の鼓動も高鳴ったままだ。果てには肩に置かれた手の熱に若干のなごり惜しさを感じてしまう始末。
(これは、重症ですね)
どこか他人事のように考えながらとりあえず顔でも洗おうとふと視線を上げると
「アツいね」
「アツいですね」
「こ、これが大人の恋愛ですのね」
「その……なんて言っていいのか」
「」
自分が引率してきた子供たちの他に司波兄妹と彼等の友人だろう男女が廊下の突き当たりの角から遠巻きに自分を見ていた。
「い、いつから?」
「司一と会った所からですね」
「」
壊れた機械のように口をパクパクさせる穂波に和人達理解のある子供たちは慈愛に満ちた目を向けながら静かに穂波とは反対方向に歩きだすのだった。
「せめて何か言って下さいよぉぉぉぉぉぉぉ!?」
いや、なんかもう胸がいっぱいなんですよ。
幹比古君どのタイミングで出せばいいんだ?
一応彼にはやって貰わねばならない事があるんで次回ぐらいには出したいんだよな~