四葉の影騎士と呼ばれたい男   作:DEAK

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つらいよ~







熊熊しくて(熊熊しくて)ゆうゆうしくて(ゆうゆうしくて)

「久しぶりだな和人!元気してたか?」

 

「ディックさんお久しぶりです!もう元気バリバリですよ~!」

 

俺が家に帰ったタイミングを見計らったかのように電話が鳴りたまたま近くにいた俺が出ると電話相手はしばらくぶりに会う人だった。

 

金城ディックさん。前は沖縄軍の一人だったが今や超人気バンドの売れっ子ボーカルであり、同時にレフトブラッドに地位向上に努める活動家でもある色々ととんでもない人だ。(それを穂波さんに言ったら「あなたもとんでもないですよ」と言われてしまった。解せぬ)

 

「色々と忙しくて会いに行けずすまないな」

 

「いや気にしないでくださいよ~。あ、昨日のテレビ見ましたよ!新曲良かったですぜ!」

 

俺の言葉にディックさんが照れたように笑う。ディックさん率いるゴールデンキャッスルの新曲『熊熊しくて(ゆうゆうしくて)』は熊のキグルミを着ているが故に人間には恐れられ、かといって熊の集団にも入れずどっちつかずの狭間の存在の儚さとそれでも前向きに生きて行く強さを謳った曲でポップな曲調と重い歌詞のギャップに老若男女問わず大人気だとか

 

因みにそれを聴いた達也君が

 

「いやキグルミ脱げばいいだけの話だろう」

 

とうっかり言ってしまい

 

「達也さん、この情緒が分からないとはがっかりですわ」

 

実はゴールデンキャッスルの大ファンである亜夜子ちゃんから冷めた目で言われ

 

「達也兄さん……空気読んで下さい」

 

実は達也君と同じ事を思っていたが空気を読んで言わなかった文弥くんから責めるような口調で言われ

 

「お兄様、それは流石に鈍感過ぎるかと」

 

トドメにみゆきちから憐れむような目で言われorzと地に沈んだ達也君を慰めたのは記憶に新しい。

 

「俺は、絶対に間違ってない筈なのに……っ!」

 

地面を拳で叩きながら言った達也君の言葉が何故か心に非常に突き刺さるのでしたまる

 

 

 

「まぁみんなに興味を持って貰うのは悪くないけどな、そうだ和人、九校戦って知ってるか?」

 

「知ってますよ~。達也君とみゆきちが出場するらしいっす」

 

「そうなのか?まぁあの二人なら順当か」

 

ディックさんが画面の向こうであの二人を思い出しているのか視線が右上をさまよう。

 

「それで九校戦がなにか?」

 

「おう、そこの懇親会で特別ライブをすることになってな」

 

え?特別ライブ?超人気バンドを仮にも高校生の行事に呼ぶなんてお金あんだね~

 

「で、そのライブに良ければ招待しようと思ってるんだ」

 

「マジッすか!?」

 

おぉ!これは願ってもない話ですよ。

 

「超暇なんで行けますよ!てか行きたいです!」

 

「そうか!それは良かった。じゃあ二日後までに何人来るか言ってくれれば人数分のチケットは用意するよ」

 

しかも何人呼んでもいいらしい。これは大奮発って奴じゃないですかい?え~とまずは亜夜子ちゃんと文弥くんでしょ?あとヒデノリ達も呼んどくか

 

と人数を勘定していると

 

「コンドルさん、夕飯のしたくg……」

 

水波ちゃんが夕飯の準備が出来た事を知らせにやってきてディックさんの姿を見て固まる。もうコンドル呼びには慣れました(血涙)

 

「ん?なんだ和人お前も隅に置けねぇな~」

 

そして水波ちゃんをどう勘違いしたのかディックさんが実に嫌なニヤニヤ笑いを此方に向けてくる。

 

「え?」

 

「いやいや!お前も高校生だしな!青春の一つくらいは、な?」

 

いや、同意を求められてもこっちなんのこっちゃかさっぱりわからんのですが、いやディックさん、それは絶対ないと思うよ?自分で言ってて切なくなってくるけど

 

「……」

 

かくいう水波ちゃんはまだ固まってるし、一体どうしたのか?

 

「えと、多分今の段階だと人数は」

 

「あ、あの!」

 

とか思っていると意識が戻ったのか水波ちゃんが画面の向こうの金城さんに俺を押しのけながら声をかける。その声は若干熱に浮かされているように感じた。

 

「ん?」

 

「新曲聴きました!だ、大ファンなんです!」

 

「おぉそうだったのか!ありがとな!」

 

「い、いえ!これからも頑張って下さい!」

 

ディックさんは慣れたものなのかにこやかな笑顔で水波ちゃんと会話している。ていうか彼女もファンだったのね、気付かなかったわ。

 

「和人とはよくやってるかい?」

 

「えぇ、仲良くさせて貰っています」

 

「いや人の事コンドル扱痛いですしっ!?」

 

ディックさんの死角で思いっきり足踏みおったよこの子、ありえないですし!?

 

「そうかそうか、和人には恩があるからな、ちゃんとやってるか心配だったんだが、これなら安心だな」

 

「恩ですか?」

 

「あぁ、それがなければ今の俺はなかったと言ってもいいな」

 

ディックさんの思わぬ言葉に水波ちゃんだけでなく俺の目も丸くなる。いや俺正直なんもしてない気がするんだけど、ディックさんが自分でどうにかしただけだよね

 

水波ちゃんがめっちゃ俺の事睨んでくるし、どういう事か説明しろこの野郎という事ですね?分かります。

 

「いや、そんな恩だなんて」

 

「なぁに俺が勝手に思っているだけだ。お前さんはドンと構えていればいいんだよ」

 

「ドンとって……」

 

ディックさんの言葉になんか照れくさくなり頬を搔く。

 

「……」

 

さっきから水波ちゃんの睨みつける攻撃が止まないんだが、もう俺の防御力はゼロよ!

 

 

「おっと、そろそろ取材の時間か、人数決まったら連絡くれよ?」

 

「は~い、頑張って下さいね~」

 

ディックさんは笑いながら手を振ると最期に水波ちゃんに何か囁くように言うとそのまま通信を切った。俺にはよくわからんノイズにしか聞こえなかったので何を言っているか分からなかったが水波ちゃんの紅潮した頬を見るにきっとディックさんのファンサービスだろうと当たりをつけた。

 

「そういや夕飯だっけ?」

 

「え?あ、あぁはいそうです」

 

珍しく慌てた様子の水波ちゃんにディックさんファンサービスしすぎですと思いながらリビングに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけなんだけど、文弥くん達も来る?」

 

「いいね。姉さんも喜びそうだ」

 

夕食後、早速文弥くんに電話して事の顛末を伝えると二つ返事で了承が返ってきた。

 

「あれ?亜夜子ちゃんは?」

 

「今ランニング中で外出てるよ」

 

ランニング?訓練かな?不思議な顔しているのが分かったのか文弥くんが苦笑しながら

 

 

「いや前にそっち行ったときに食べすぎで体重が、ね?」

 

と補足してくれた。

 

「あ~、そりゃ悪い事しちゃったなあ。文弥くんは大丈夫なん?」

 

「僕はそんな気にしないし、体質的に太らないみたいでさ」

 

姉さんに恨めしげな眼で見られたよ。という文弥くんはとても苦労しているようで同情を禁じ得ない。

 

「じゃあ亜夜子ちゃんに伝えといてくれると」

 

「あ、姉さん帰ってきたね」

 

ありがたいですと言って通信を切ろうとしたがちょうど本人が帰ってきたようで、ジャストタイミングってやつだ。

 

 

 

 

 

 

「行きますわ!むしろ連れてかないなんて在り得ませんわ!」

 

動きやすいジャージ姿の亜夜子ちゃんにかくかくしかじかと説明した結果、予想通りめっちゃ喰いついてきた。文弥くんが地味に引いてるし

 

「あなたも偶には役に立ちますのね。褒めて差し上げても良くってよ」

 

ない胸を張りながらふんぞり返る姿は威圧感よりほほえましさが上回るのは彼女の美徳なのかどうかは判断が分かれるところだろう。

 

「へへ~ありがたき幸せ~。いや前回は少し申し訳ない事をしてしまったんでね」

 

前回と聞き亜夜子ちゃんはまなじりが少し下がる。

 

「まぁ、あれは調子に乗って食べ過ぎた私のせいでもありますし」

 

「いやこれのせいでグラップラーから横綱になったらどうしようかと」

 

「なりません!」

 

国宝『鬼丸国綱』とか言われてる亜夜子ちゃんを想像してしまった。俺的にはバチバチと並んで今の相撲ブームを作っていると思うね、うん

 

「そもそもグラップラーでもありませんし!」

 

「いやあの剛体術はどう考えても」

 

「だから違います!」

 

亜夜子ちゃんは画面を壊しかねない勢いで(文弥くんに止められている)抗議してくるが被害を被ったこちらとしては正直彼女の背中に鬼の顔が見えたし、トラウマ必至である。

 

「とりま、今回は前のお詫びと言う事でお願いします」

 

「まぁ、そういう事でしたら……」

 

一部納得いっていないようだがやはり自分の好きなバンドの特別コンサートが効いたのか渋々引きさがってくれた。

なんだかんだいつも許してくれる亜夜子ちゃんの優しさには頭が下がる。ここは感謝の念を込めておこう。

 

「亜夜子ちゃん」

 

「はい?」

 

「ごっつあんですの」

 

「ぶっとばしますわよ」

 

結果、亜夜子ちゃんの額に青筋を浮かばせることに成功したのだった。

 

 

あれ?

 

「……っ」

 

「文弥?何笑ってますの?」

 

「い、いや……っ、別に」

 

「ごっつあんでしたの~(裏声)」

 

「ぶはっ!?」

 

俺のトドメの一言に決壊したダムのようにせき込みながら笑う文弥くんを能面のような笑顔で見る亜夜子ちゃんが凄く怖いです。

 

「文弥、次の九校戦はずっとヤミちゃん」

 

「う”えぇっ!?」

 

ようやく許しを得たと思った矢先の女装継続に文弥の目の前は真っ暗になる。

 

「じゃあ、チケットは後で送るから」

 

「ちょっと!?こんだけ引っ掻き回しといて丸投げ!?」

 

文弥くんの悲鳴にも似た叫び声が聞こえるが断腸の思い(白目)で通信を切る。

 

「よし、後はヒデノリ達にも連絡だな!」

 

鳴り響くコール音にあえて気付かない振りをして俺は夜空を見上げた。

 

今日は雲がないのか星が良く見える。その中でひときわ激しく光る星があった、てかあれ光り過ぎじゃね?めっちゃ眩しいんだけど星じゃないのかな?

 

とか思ってたら水をかけられた火のようにその星?は消えて行ってしまった。

 

 

 

 

何だったんだあれ?

 

 

 

 

 


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