四葉の影騎士と呼ばれたい男   作:DEAK

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とりあえず九校戦のサブタイトルパターンが決まりました


最大の苦境(胃袋)~前編~

「全く、何で俺まで……」

 

「愛しの妹の為と思って、ね?ていうかみゆきちも我が家の羊羹テロに一役買っているんですが?」

 

「それは素直にすまん」

 

ある日の昼下がり、我が家の一室でこんな会話がされていた。部屋の中にいるのは部屋の主である俺、四方坂和人、もう一人が今回は部屋にお邪魔している達也君だ。

司波家と四方坂家は互いの家で共に夕食をとるくらいには交流があり、達也君が俺の部屋にいるのも違和感はない。

 

その証拠に今回も四方坂家での夕食会と言う事で司波兄妹は穂波さんと水波ちゃんから招待を受けた。(当然のように俺の意見はなしだ。まぁ断る気もないが)のだが、今回は少し状況が違う。

 

「本当に司一を呼んだのか?」

 

「もう白黒つけた方がいいと思ってさ、流石に俺も限界だし」

 

第一次筑前煮大恐慌からはじまり第二次カレーピラフの乱、第三次スーパーホイコーロー大戦Z、そして第四次羊羹テロが我が家の食卓に吹き荒れている今、食卓の平穏を取り戻すには司一さんを呼び食戟でも何でもして貰い白黒はっきりつけるしかないと考え今回の晩餐会に特別ゲストとして招待したのだ。

 

「おかげで深雪も火が点いてしまったな」

 

「まぁ三人とも料理自体は上手いから味は大丈夫だろうけど」

 

「味はな」

 

はぁ、とここで二人揃ってため息を吐く。確かに美味しいんだけど、一週間ぶっとおしは流石に飽きる。だがそれを言うと

 

「ふ~ん、あの人のは食べれるのに私のは駄目ですかそうですか」

 

てな感じで穂波さんが拗ねるのだ。(水波ちゃんは言わずもがなである)いい歳こいて拗ねないでくれと言いたいが妙に似合っているのでいかんともしがたい。

 

とここで来客を告げるインターホンが鳴った。

 

「あ、来たかな?」

 

「俺も行こう」

 

出迎えようとすると達也君が着いてきてくれた。女性陣は今台所で戦争中だろうから必然的に暇してる俺らが迎える事になる。

 

「やぁ、今日は招いてくれてありがとう。司波君も久しぶりだね」

 

「よくぞ来てくれました、一さん」

 

玄関を開けると、いつもと同じメガネをかけた司一さんが笑顔で立っていた。伊達眼鏡って言っていたけどメガネがお気に入りなのだろうか?

 

達也君は無言で頭を下げている。無愛想とも受け取られかねないがこれが達也君だし一さんも分かっているのか特に気にしてないようだ。

 

「君の家に来るのは初めてだが、いい所じゃないか」

 

「一さん、先に言っときます」

 

一さんの社交辞令を軽く流し本題を切りだす、正直このタイミングしかないので

 

「なんだい?」

 

「家の人が本当にすいませんでした」

 

「もしかして招待受けたの間違いだったかい?」

 

一さんが少し顔をひきつらせているがもう遅い、こうなったらとことん巻き込まれて貰おう。

と思った矢先、物音が聞えたのだろう家の中からバタバタと音がした。

 

「和人君?御客様を立たせたままなんて失礼でしょう?」

 

「そうですね、早く上がって下さい」

 

おおう、おいでなすったか……玄関で迎えてくれた穂波さんも水波ちゃんも表面上は笑顔だけど目がギラギラしてるよ。めっちゃ一さん戸惑ってるし

 

「ようこそおいで下さいました。靴はこちらへ」

 

「え、えぇどうもはじめまして司一です」

 

表面上はにこやかに応対する水波ちゃんに一さんは自己紹介してなかったと思いなおしたのか靴を並べた後、頭を下げる。

 

「話は和人君からよく聞いていますよ。とても料理が御上手だとか」

 

「ははは、僕もまだまだ修行中でして」

 

「ウフフ、これは御謙遜を、家でもとっても評判なんですよ?そう、とってもね」

 

穂波さん、その魔王モードの真夜さんみたいな怖い笑顔止めて下さい。

 

「あ、ははは……それはありがたいですね~」

 

「ウフフフ」

 

「あははは……」

 

(達也君、助けて!一さんが可哀想!)

 

「司さん、荷物は和人の部屋に置いて貰うので御案内します。行くぞ和人」

 

俺の必死の目線に気付いたのか、達也君が絶妙なタイミングでフォローを入れてくれる。

 

「そうですね、では私達は準備してますので」

 

と穂波さんが水波ちゃんと共にリビングに引っ込む。背中を向けた途端、一さんがホッと息をついたのは内緒にしておこう。

 

 

 

「君の言葉の意味がわかったよ」

 

「ホントすいません」

 

階段を上がりながら一さんが疲れて声を上げるのを俺は謝る事しか出来なかった。正直あそこまで暴走するとは思ってもなかったんです。

 

「そもそも、どうしてこんな事に?」

 

「あ~それはですね~」

 

一さんのまっとうな質問に俺はかくかくしかじか~と事情を説明する。

 

「あ~……なんというか、すまなかったね」

 

「いえ、一さんは全く悪くないですし」

 

事情を聴いて微妙な顔をしている一さんには本当に申し訳ないと思っています。

 

「司波君がここにいるという事はもしかして……」

 

「えぇ、妹が少し対抗心を燃やしてしまいまして」

 

「あ~」

 

遂に空を仰ぎ見てしまった一さん、まぁ俺の部屋だから天井しかないんだけど

 

(やっぱ一さん呼ぶのやめた方が良かったかな?)

 

(ならあと数日は羊羹地獄だがいいのか?)

 

「わかった」

 

それは無理だなと達也君とアイコンタクトで会話していると一さんが急にこちらに向き直る。

 

「つまり、和人君の家族と司波君の妹さんが僕の料理に対して対抗心を燃やしていると、そして今回僕に勝負を挑んでくると考えていいんだね?」

 

「えぇ、恥ずかしながら」

 

「それ、完膚なきまでに叩きのめしてもいいのかい?」

 

え?

 

一さんのまさかの好戦的なセリフに達也君も目を丸くしてしちゃってるし、かくいう俺もめっちゃ驚いている。

てっきり普通に負けた振りしてくれるもんだと思ってたぶん予想外だ。

 

「まぁ、別にいいですけど」

 

こっちとしては勝ち負けより我が家の食卓の平和が一番であり、達也君としても今はいいがいつ飛び火するともわからないので今のうちにどうにかしておきたいのが本音だ。

 

「ふふふ、世界征服を目指す以上、勝負から逃げるわけにはいかんのでな」

 

いやこれ世界征服と関係ないでしょ

 

「む?世界征服とは関係ないだろって言いたいのかな?」

 

なぬ!?なんでわかったし

 

「お前は顔に出やすいんだ」

 

マジか~気をつけよう。

 

「世界を征服するに当たって、世界中の人々の胃袋を掴むことから始めようと思ってね」

 

あ~だからあんなに料理上手なんだね

 

「ん?深雪が来たな、恐らく俺達を呼びに来たのだろう」

 

とここで達也君の妹レーダーに反応があったようで、相変わらずよくわかるもんだと感心する。一さんも驚いたように目を見開いているし

 

事実、本当に俺達を呼びに来たみゆきちに案内され(死へのいざないに見えたのは気のせいだろうか?)三人は食卓と書いて戦場と読むに放り出される事になる。

 

 

 

 

 

「どうしたんです?コン、和人さん。早く座って下さい」

 

「そうですよお兄様、せっかくのお料理が冷めてしまいます」

 

君たちが笑顔で勧める椅子は俺達には電気椅子に見えるんですよ。てか水波ちゃん今コンドル言いかけたね?

 

「覚悟を決めるか」

 

「だなぁ」

 

耐えてくれよ~俺の胃袋と念じながら俺達が椅子に座った事で夕食会がスタートする。因みに一さんは迷いもなく普通に席に着いた、流石です。

 

「美味いなぁ相変わらず!」

 

「どうも」

 

俺の最大級の賛辞を一言で流す水波ちゃんのクールさに泣きたくなりながらもこのまま終わる事を祈りたい。

 

「うん、美味しいよ」

 

「ありがとうございます。お兄様」

 

達也君もきっと同じ気持ちだろう。みゆきちは顔を赤くしながら微笑んでおり彼等の周りだけ空気が甘い、いつもならうんざりするが今回はむしろ清涼剤だ。

 

「そういえば」

 

と穂波さんがあくまでさりげない口調で切り出す。

 

「司さんはお料理がとても達者なんですよね?」

 

が事情を知る者から見ればうわ、来たよ。という心境が一番近い、ていうか俺の心境がそうだ。

 

「えぇまぁ、よろしければ一品御作りしましょうか?」

 

と一さんの言葉に穂波さんと水波ちゃんとみゆきちの眉がピクリと動き部屋の温度も一気に下がる。分かってはいたがいざそうなってみるとぶっちゃけ自室に逃げたい。

 

穂波さん?なんでこっち見るの?なんか余計な事言った!?みたいな射殺せそうな視線止めて下さい、ちびります。

 

みゆきちも表面上は笑顔だが内面ではブリザードが吹き荒れているのだろう、その証拠に達也君の顔色が非常に悪い。

 

水波ちゃんは全くこのコンドルはみたいな目をしているがいつもの事なのでスルー

 

「いたいっ!?なんで蹴んの!?」

 

「なんか雑に扱われた気がするので」

 

それだけで人の脛思いっきり蹴る!?いやまぁ間違っちゃないんだけどさぁ!

 

つ~んとそっぽを向いてしまった水波ちゃんを涙目で睨むが効果はなし、防御力も下がらないというね。

 

「そんなそんな、御客様にそんな真似はさせられませんよ」

 

穂波さんは至極まっとうな言葉で一さんの提案を断ろうとする。がこれは恐らく言葉だけだ。本心では手間が省けたとか思ってるかもしれない。

まぁ一さんもそこは多分わかっているんだろうけど

 

「はははは、お気遣いは無用ですよ。そうですね~」

 

と一さんは食卓をぐるりと見回し

 

「ではコロッケを作りましょうか」

 

「ほう」

 

ついに穂波さんの笑みが崩れる。食卓にはローストビーフやら蒸し魚等色とりどりの料理が並びその中にコロッケがあるのを見て一さんは決めたのだろうが、それは穂波さんの自信作で何を隠そうここに来た最初の晩がコロッケであり、ここでは特別な日にはコロッケを食べるという習慣があったりする。

 

因みにコロッケは最初に俺がリクエストした品でもある。いやコロッケ凄い好きなんだよ。

 

「このホクホクのジャガイモがたまらんのですよ」

 

「おい、現実逃避するな」

 

仕方ないだろ!二階に逃げてないだけ上等だよ!俺は穂波さん作のコロッケを食べる。うん、凄く美味い。これが一週間ぶっとおしとかじゃなければなぁ……

 

「では、作って頂きましょうか?」

 

「わかりました。御台所、お借りします」

 

一さんはあくまで柔和な笑顔を浮かべたまま台所に向かって行った。あれ?となると俺達でこの魔王達の相手しないといけないの!?

 

「た、達也君、これは救援が必要では?」

 

「エリカやレオは羊羹で散々だとさ」

 

くそう!あの程度でダウンとは一高ってエリート集団の集まりじゃないのかよ!

 

「お前の友人はどうした?」

 

「一人残らず第三次スーパーホイコーロー大戦Zで戦死しちまったよ」

 

「……八方塞がりか?」

 

止めてくれ達也君!そんな絶望的な事言わんでくれ!

 

「お兄様?」

 

「コンドルさん?」

 

「「はい」」

 

「「まだまだありますよ?」」

 

「「……はい」」

 

も、もう一さんだけが頼りだ、頼む一さん!俺達の食卓に平和を!

 

 

 

 





こんなわけわからん話にまさかの前後編という二部構成を敢行した作者は間違いなく馬鹿ですwww

本来はもっとささっと終わらせる予定だったんですが文字数が多くなる+更新期間が空きすぎるのでここいらで投稿させて下さい

自炊もしない一人暮らしだとおふくろの味ってやつが恋しくなります。最近食べ物関連の話が多いのは多分そのせいです。


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