「あ~」
ある事情から今回非常にテンションが低い俺、四方坂和人が学校からの帰路に着いていると、ふとカフェテラスの奥のカウンターに見覚えのある背中が見えた。
「よっす~」
「ん?あぁ、あんたか」
声をかけられ振り向いたのは珍しく一人でいるエリカちゃん、じゃなくてエリリン氏だった。
最初はエリカちゃんと言っていたのだが、私のキャラじゃないから止めろと言われた結果、エリカ氏orエリリン氏に落ち着いたのだ。
「一人?珍しいね~」
「それはあんたもでしょ」
まぁ確かにとエリリン氏の隣に許可もなく座るが、特に文句も出なかったので気にはしない、出ても気にしないけど
「あ、マスター!コーヒーブラック頂戴」
「ブラック?珍しいわね」
俺の注文を聞いてエリリン氏、てわかりにくいからエリカちゃんでいいか、が軽く目を見張る。確かにいつも砂糖とミルクありありで頼んでるからね
「ふふふ、まぁ諸事情ありまして」
「?」
「まぁこれを食えばわかるよ」
頭に盛大に疑問符を浮かべているエリカちゃんに今日有無を言わさぬ笑顔で渡された弁当箱を見せる。
それを渡すと訝しげな顔のままエリカちゃんが渡した弁当箱を開ける。
「うわ、もったいな~、一口も食べてないじゃない」
するとそこには、卵焼きや肉団子と言ったおかずのとりどりが並んだ弁当が完全な状態、つまり全く手つかずの状態で鎮座していた。
「罰が当たるわよ」
「ははは……まぁ食ってみ、エリリン氏」
咎める視線を乾いた笑いでかわしカフェテラスにある備え付きの箸を渡す。当然カフェのマスターに謝罪も忘れない、笑ってすましてくれるマスターは本当にいい人だと思う。
「ふ~ん、んじゃまぁこの肉団子から」
エリカちゃんが肉団子を箸で摘み手を皿替わりにして口に運ぶ。ていうか彼女ってところどころお嬢様っぽい所あるよね。なんかこう上品というかさ
とか考えているうちにエリカちゃんが肉団子を口に含む所なので
「それ、肉団子に見せかけた水羊羹」
「んぐっ!?」
ぼそっと教えてあげると、予想外の甘みに襲われたエリカちゃんが噴き出しそうになる。
が、そこは上流階級の意地かどうにかこらえた。俺が水を渡してあげると一気に飲み干し、ようやく落ち着き一言
「アホか!」
ごもっともだと思う。
「ん?珍しい組み合わせじゃねぇか」
「やぁレオ君、部活帰りかい?」
「おう!そんなとこだ」
エリカちゃんが肉団子(水羊羹)の予期せぬ甘さからようやく回復した頃、レオ君が白い歯を見せて笑いながらこちらにやってきた。すげ~爽やかだよね、因みに俺がやったらみゆきちに
「凄く気持ち悪いし、何か企んでいるように見えるから止めなさい。気持ち悪いし」
と言われたのは記憶に新しい。何故気持ち悪い二回言ったしwww
「達也達はまだか?」
「まだだね、てか今日来るんだ」
「来るって言ってたぜ?」
「レオ」
レオ君と軽く雑談しているとエリカちゃんが彼に何かを突き付けるように渡す。それ、俺の弁当じゃん
「これ、弁当だよな?」
「えぇ、和人のなんだけど調理実習があって食べきれなかったんだって、もったいないからあんたも食いなさい。腹減ってるでしょ?」
「まぁな」
え?調理実習なんてやってないけど?と思ったがエリカちゃんの笑みを見て気付く。
あ、この子巻き込む気満々や、と
「貰えるならありがたく貰うぜ~」
「どうぞ~」
彼女の企みに気付いた俺だがあえて気付かないふりをしておく、正直この弁当をどうにかして処理したかった所なので、捨てるのもなんか悪いしね
「んじゃ、この卵焼きを貰うかな」
レオ君はエリカちゃんとは対照的に手づかみで卵焼きを口に放り込む。ここら辺は色々人間が見えてきて面白いと思う。
「それ、卵焼きに見せかけたゆず羊羹」
「んごっ!?」
俺の言葉にレオ君が噴き出しそうになるのをこれまたなんとか堪え、今度はエリカちゃんが水を差し出す。その顔は悪戯が成功した子供のようだった。
そして、エリカちゃんと同じように水を一気に飲み干し一言
「何考えてんだ!?でも美味かった!ありがとう!」
どういたしまして
「あれ?今日は三人なの?」
「あ、美月こっちこっち~」
続いてきたのは今時眼鏡をかけたおっとり系少女である美月ちゃんだ。もともとエリカちゃんは彼女と待ち合わせをしていたらしく、そこに俺とレオ君が紛れ込んだという感じだ。
「あ~、ブラックがこんな美味いとは思わなかった」
「因みに何日目だ?」
「四日目、まぁ折り返し地点には来た感じかな」
「うえ……」
俺がしみじみと出されたブラックコーヒーを啜っていると、レオ君が顔を軽く引きつらせながら聞いてきたので答えてあげると、エリカちゃんが吐く真似なのか舌を出す。
「えと、何の話ですか?」
来たばかりの美月ちゃんにとってはこれは当然の疑問だろうが、これは飢える獣に肉を放り込むような迂闊な真似だったと言わざるを得ない。その証拠にエリカちゃんとレオ君の顔が待ってましたとばかりに輝く。君たちなんだかんだ言って息ぴったりだよね。
「知りたければこれを食べなさい」
「え?」
「そうだな、食えばすべてわかる」
「えぇ!?」
ここにきて美月ちゃんも地雷を踏んだらしい事に気付いたが、残念ながらもう遅い。結局、美月ちゃんはエリカちゃんが笑顔で差し出す弁当を食べるしかないのだ。
「じゃあ、この煮物を」
と美月ちゃんは煮物の里芋を箸でつまみ口に運ぶ。
「それ、里芋に見せかけた白羊羹」
「んんっ!?」
前の二人に比べれば大人しいがそれでも吐き出しそうになるのを差し出された水(もう慣れたものである)でどうにか流し込み一言
「酷いです……」
いや、俺のせいじゃないからね?
結局、事象を知る達也君とみゆきちが来るまでこの羊羹テロは続いたのだった。
因みにほのかちゃんが放った
「あぁ、ばれちゃったんだ」
の一言が妙に胸に突き刺さった。
もうこれ、司一さん家に招待したほうがいいんじゃないかと思う今日この頃なのでした。
書いてから気付く、あれ?どうやって幹比古と絡ませればいいんだ?とwww
多分次々回くらいに出てくると思います。
最近、布教?の結果かヴァンガードネタが感想で出てきて嬉しい限りです。これではやりませんが別にヴァンガード小説でも書こうかなと思ってみたり