四葉の影騎士と呼ばれたい男   作:DEAK

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ついにあの人が大暴れしますよ!


魔法科高校生と普通科高校生の……

茜色に染め上げられた夕焼けの世界の中、大型オフロード車が閉鎖された工場の門を盛大に突き破る。

 

門は無残にひしゃげ御覧のあり様と言った感じだが、オフロード車には傷一つない。

 

「レオ、御苦労さん」

 

達也は車に激突のタイミングで硬化魔法をかけるという離れ業をやってのけたレオにねぎらいの言葉をかける。

 

「なんの、ちょろいぜ……」

 

「疲れてる疲れてる」

 

多大な集中力の消費にへばりながらもなんとかレオは強がりを返すがエリカにすげなくあしらわれてしまう。

 

「司波、お前が考えた作戦だ。お前が指示を出せ」

 

「はい、レオとエリカは逃げる敵の排除と俺達の退路の確保を頼む。十文字先輩と桐原先輩は裏口に回って下さい。俺と深雪は正面から行きます」

 

克人からいきなり言われた言葉に間もなく頷き達也は的確に指示を出す。

 

「了解した」

 

「よっしゃやるぜ」

 

「深雪、気をつけてね」

 

「あなたもね、エリカ」

 

思い思いに言葉を発し、皆で頷き合うと一斉に駆けだした。全てはまたここに欠ける事なく集まる為に

 

 

 

 

 

達也と深雪は正面から堂々と侵入するとまず気になる事があった。

 

(BB弾?)

 

何故かあちらこちらにBB弾が転がっているのだ。達也の『眼』で見てもバイオプラスチックで出来たBB弾であること以外の情報はなかった。つまり本当にただのBB弾だという事だ。

 

危険でないのなら放っておけばよいかと床に散らばる橙色の弾から視線を逸らすと正面に大きなフロアにつながる扉があった。それを開けると

 

 

「よくぞ来てくれた!ようこそようこそだ!」

 

両手を広げなが笑みを浮かべる眼鏡をかけた男がいた。歳の程は三十歳前後、体系はやせ形で武闘派と言った感じではない。

 

「お前がリーダーか?」

 

「いかにも!私が司一であ~る!」

 

達也の冷ややかな問いにも笑みを崩さず大仰な仕草で自己紹介する男に深雪が眉をひそめる。

 

(肩にごぼうがない?ロココ調もないわね)

 

もし達也に読心能力があったらきっと泣いていただろう。

 

「そうか、一応投降の勧告をしておく、全員銃を捨て両手を後ろで組め」

 

だがそんな事は知らない達也は彼に合わせず、あくまで冷淡に事を進める。すると向こうの方から変化があった。

 

「リーダー、凄く本格的にやってきますね」

 

「流石、彼の友人ですね」

 

「うむ、此方としてもしっかり応えてやらねばな」

 

(本格的?何を言っているんだ?)

 

何故か向こうが近くの部下と思わしき人間とひそひそ話(と本人達は思っている)を始めた。何か早急に事を済ませなければいけない気がして、達也はさっさとCADを構える。

 

 

「む?それはCADだね?ならば此方も魔法で対抗しよう」

 

達也のCADを見て司一の周りにいた人間の目が変わる。それにつられるように深雪も身構える。敵がいかなる魔法を用いようと兄を打倒できる者など存在しないと深雪は知っているが、それでも目の前の男は何をしでかすかわからない不気味な雰囲気があった。

 

「むむむむむ~~~!」

 

司一が珍妙な唸り声を上げた後、繰り出した魔法は

 

 

 

 

 

 

 

「や~い、や~い、この雪女~」

 

「……」

 

ものすごく低俗な罵倒だった。

 

 

「やってしまったか……!」

 

「あぁ、なんてことだ!」

 

周りの部下らしき人物達はこの世の終わりともいうべき絶望と嘆きに満ちた表情をしていたが、達也としてはこの状況で何言ってんだこのアホという感想しか出てこない。

 

「深雪……深雪?」

 

正直、そろそろめんどくさくなってきた達也は自分より広範囲殲滅に優れている深雪に任せようと声をかけるがいつもある筈の反応がないことを疑問に思い隣に目を向けると

 

「雪女……雪……女……」

 

「え?深雪……さん?」

 

膝を折り地につけ、顔を両手で覆う妹の姿

 

 

言ってしまうと、司一の罵倒にめっちゃ凹んでいる深雪の姿がそこにはあった。

 

 

 

「何があった!?」

 

「うぅ……」

 

達也が目の前の敵全てを放り、深雪に視線(手で覆われているので勘だが)を合わせるが深雪は嗚咽するだけだった。

達也が知る深雪は確かに不安定な所もあるが、基本的には文武両道、才色兼備を地でいく才女だ。少なくともこんな小学生レベルの罵倒で傷つくようなやわな精神は持っていない筈なのだが

 

「またやってしまったか」

 

「貴様!深雪に何をした!?」

 

片手で眼鏡を直しながら「また、つまらぬ物を切ってしまった」とでも言いたげな雰囲気の司一に達也はほぼ反射でCADを向けながら問い詰める。

当然、彼必殺の魔法『分解』も準備済みだ

 

「何って、雪女って言っただけだが」

 

「また雪女って言ったぁ……」

 

「っ、そうじゃない!それ以外にだ」

 

深雪の今にも泣き出しそうな涙声に意識と関心の八割を持っていかれながらも達也はCADの狙いをぶらさず再度司一に、今度は怒気を強めて言い募る。

 

「ふふふ、知りたいのかい?」

 

「……」

 

「知りたいのか~い?」

 

「茶番に付き合っている暇は」

 

「教えないよ~あっかんべ~!」

 

 

このクソ眼鏡……絶対楽には死なさん!

 

達也は目の前で舌を出す馬鹿を便乗してお尻ペンペンしている部下と纏めて葬り去る事を決定し、CADの引き金を引く。手加減は一切なしだ、その馬鹿面を吹き飛ばしてやる。

 

筈だったのだが

 

 

「お兄様ぁぁぁ!あのメガネが深雪をいじめますぅぅぅ!!」

 

「うお!?深雪ぃ!?」

 

隣で凹んでいた深雪に力いっぱい抱きつかれる(タックルと言い換えてもいい)という

予想外の出来事により標準と集中が思いっきり逸れ、魔法は不発に終わってしまう。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁん!お兄様!お兄様ぁぁぁ!」

 

「ちょ、深雪!すまんが離してくれ!」

 

しゃにむに抱きついてくる深雪をどうにか振りほどこうとするが

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁl!」

 

まるで達也の言葉が耳に入っていないのか深雪が離れる気配は全くない。

 

「君、実の妹に『お兄様』と呼ばせるとは、なかなかいい趣味をしているな」

 

「やかましい!はったおすぞこのメガネ!」

 

達也は、この兄妹はメガネに恨みでもあるのかと邪推する罵倒をのほほんとこちらを見ている司一にぶつけるが当然彼はどこ吹く風と言った有様だ。

 

(くそ、一体何が起きているというんだ!?)

 

達也は未だ痛いくらいの力で抱きついてくる深雪を何とかあやしながら必死で頭を巡らせる。

 

まずおかしいのが深雪の今の状況、幼児退行しているのかもう達也でも押さえがきかなくなりつつある。二度目になるが深雪はこんな罵倒にもならない低レベルで陳腐な言葉に心動かされるほど弱い人間ではない。

 

 

そう、『精神的に弱い』人間ではないはずだ。

 

 

 

(精神的?)

 

達也は自分の思考にこの状況の答えの一片を見た気がした。思えば自分も司一の煽りというか挑発に簡単にのってしまっているような気がする。

 

「まさか、精神に干渉している?」

 

「おぉ!凄いね、正解だよ!」

 

達也がぼそりと呟いた言葉に司一は眼を輝かせる。まさか一番可能性が低いと思っていたものが当たりとは、と達也は舌打ちしたい気分になる。

 

「僕の魔法は邪眼(イビルアイ)とあとひとつ

 

 

『精神極散』

 

 

この二つだけだ。一流どころか三流にも程遠い魔法師さ」

 

「精神極散?」

 

「魔法と言うより異能かな」

 

達也はインデックスにも載っていない聞きなれない魔法名に思考を巡らせるが直ぐに思い当たる節に辿りつく。

 

(確か二年前四葉の屋敷を襲撃した魔法師の異能が『精神憑依』そしてあいつの力が『精神安定』)

 

この符号の奇妙な一致は果たして偶然だろうか?

 

「この精神極散の前では意志の強さなど無意味だよ。それを全て無に平均化してしまうからだ

 

まぁ要は精神的に異常に撃たれ弱くするってことで構わないよ」

 

(なるほど、それで深雪はこの有様というわけだ)

 

魔法師としては一流、いや超一流とも言える深雪を一手で無力化するとは、三流などとは謙遜にも程がある。

 

 

司一、この男もまた一つの組織を統べるに相応しい実力を持った男と言うわけだ。

 

「なるほど」

 

「ん?雰囲気が変わったね」

 

「あぁ、本気でやらせてもらおう」

 

もう目の前の男をたかがテロリストの親玉とは思うまい、全力で戦わなければならない存在だと達也は認識した。

 

「ふむ、ならば君たちは下がっていたまえ」

 

司一は部下を下がらせると、自分は一歩前に立ち達也と正面から向き合う。どのような魔法を用いようと問題はない、そう思っているのだろう。

 

それは、驕りではなく自信、いや自信ですらなく事実だった。

 

達也も司一と同じく正面から一件無防備に彼と向き合う、彼もまたいかなる困難もその手で持って無効化出来る自信と事実を持っていた。

 

 

 

お互いに近すぎず、遠すぎずの距離を持って立ち会うその姿はまさに龍虎の激突と言うになんの異論もない。

 

「ふ、妹さんがしがみついたままだが?」

 

「それはもう諦めた」

 

いや龍とカンガルーの激突だろうか?まぁとりあえず緊迫した空気が流れる。

 

 

 

 

数瞬後、空気を打ち破ったのはどちらでもなかった。

 

気配は達也の後ろから生じた。達也が入ってきたドアから数人の気配を感じ、達也は司一に目を向けたまま後ろに『眼』を向ける。

 

「お、エンゲージ!」

 

(ん?)

 

なんか聞き覚えのある声が聞こえ、思わず振り返ると

 

「あれ?達也君と……みゆきち何してんの?」

 

「……和人?何故ここに?」

 

何故か、ミリタリールックで武装した和人と良く見たら彼の友人達が皆同じ恰好で立っていた。

 

「な!予想よりずっと早い!?」

 

達也が何事か言う前に、何故か司一の方が慌てた声を出す。

 

「よっしゃ!みんな撃てぇぇぇ!」

 

「え?」

 

和人の号令で周りが突撃銃を構え、引き金をためらいなく引いた。

轟音?と共に銃の中に入った弾丸が吐き出される。

 

 

 

 

 

オレンジのBB弾が

 

 

「あだっ!ヒットー!」

 

「ヒットで~す」

 

「くそ!やられた!」

 

BB弾は司一達を襲い、ぺちっという間の抜けた音を立て彼等に当たる。彼等は悔しがりながらもその場に座りだす。

 

「よし!一さんを倒したぞ!」

 

「あとはフラッグをとるだけだ!」

 

そして和人達はというと、仲間達とハイタッチし喜びを分かち合いそのまま入ってきた入口から出て行こうとする。

 

「ちょ、ちょっと待て!」

 

このまま行かせては色々まずい気がすると達也は和人を呼び止める。

 

「ん?」

 

「お前達、一体何してるんだ?」

 

さっきまでの空気が完全に破壊され状況に取り残されている感じがしてならない達也だったが

 

「何って」

 

「サバゲーだけど」

 

「サバ……ゲー?」

 

彼らの発言で自分が取り残されているのではなく向こうが次元のかなたへ逝ってしまったのだろうと思う事にした。

 

じゃないと挫けそうだったから

 

「おや?もしかして君達は参加者じゃないのかい?」

 

様子がおかしい事を察したのだろう、床に胡坐をかいて座る司一が言う。

 

「参加者?」

 

「うむ、『司一のチキチキ★サバゲー大会!』だ

 

一応、ここの管理者に許可も取っているんだが」

 

「え?」

 

つまり、達也達は決死の覚悟でテロ組織の根城ではなく、普通に集まって遊んでいる集団に空気を読まず突っ込んだという事になってしまう。

 

「なん……だと?」

 

達也は気が遠くなるのを感じたが、意識は気合いで失わない事に成功した。

 

 

 

 

 

「いつからここがブランシュの根城だと錯覚していた?」

 

「やかましい」

 

やっぱこいつ殴る。そう心に決める達也なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その頃~

 

「あ」

 

紗耶香を何とかなだめ、真由美と摩利の微妙な視線を受けながら退出した遥が見ていたのは達也に送った地図データであった。

 

 

 

「座標データ……間違っちゃった♪」

 

遥が鬼と化したシスコン兄貴と遭遇するまであと少し……

 

 

 

 




原作キャラ強化計画第三段

司一

能力:精神極散

ブランシュのリーダー?らしき人物

精神極散は精神の抵抗力を無にする力、言ってしまうと人を豆腐メンタルにする能力、下手したら人をうつ病一直線に追い込むとんでもない力
司一は邪眼を相手にかけやすくする為に使う事が殆ど、この状態なら達也ですら一瞬ではあるが邪眼の餌食になる。

魔法は精神状態に深く依存する能力であるが故、精神極散で抵抗力がない状態で魔法行使すると暴走もしくは不発し魔法への不信から魔法師からドロップアウトしてしまう可能性もある。

対魔法師戦では一回魔法を使わせるだけで一生魔法を使えなくさせる事が出来るという恐ろしい能力だが彼の性格上その方法で精神極散を使う事はほぼない


因みに深雪の幼児退行は彼にとっても予想外だった。



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