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ただ屋敷の中を歩いただけなのに無駄な疲労感にさいなまされた深夜は、穂波を扉の前で控えさせると、ドアを開け室内に入った。
そこには
「久しぶり……かしらね?姉さん」
「えぇ、そうね。真夜」
四葉の当主、そして深夜のたった一人の妹である。四葉真夜が椅子に座り柔らかく微笑んでいた。
実に数年ぶりとなる姉妹の二人きりの対面であった。
「沖縄では大変だったわね」
「えぇ、おかげさまで」
真夜がどんな意図を持って大変だと言ったのか良くわかっている深夜は皮肉たっぷりに答えるが真夜の笑顔を崩すことは出来なかった。
「彼のおかげで大変な目に遭ったわよ」
朝から酒盛りする羽目になるわ、そのせいで盛大に船酔いするわ、おおよそ普段なら絶対に見せられない痴態ばっかさらしている気がする。
深夜がその事を恨めしげに言うと
「でも姉さん、彼に助けられたんでしょう?」
真夜に痛いとこを突かれ顔を顰める。
確かに助けられた事実はあるが、それを以上にあの少年に振り回されてきてばかりだ。
「そういえばあの子は?」
話題に出てふと気になり深夜が尋ねる。彼がもしここにいるなら、あの壺の件についてお話ししなければならない。具体的に暴力に訴えるのもやむを得ないと思っている。
「あの子ならかーどしょっぷ?とかいうのに行ってるけど」
「何それ?」
「さぁ?ただ大会やってらしくて
『俺のヴィーナス・ルキエで世界を制してやるおwww』
とか言ってたわね」
相変わらず自由な奴ね、と深夜は沖縄以来なかった気疲れによる頭痛がしてきた。それをごまかすため葉山が用意したお茶受けに手を伸ばす。
葉山が用意したのはバタークッキーだった。
「くるみ入りじゃないのね」
「当然よ。私くるみ嫌いだもの」
姉さんだって知ってるでしょ?といわんばかりの態度で真夜が言うが、深夜の聞いた話と違う気がする。
「くるみ嫌い克服したって聞いたけど?」
「してないわよ。わざわざするほどのものでもないしね」
「……」
「姉さん?」
騙したわね……!あんにゃろぉ!
深夜は次あったら手加減一切なしでぶん殴る事を決意した。
「はっ!?」
「どうした?」
「いや、なんか今家帰ったら死亡フラグな気がする……ッ!」
「何をわけわからん事を、おっと、グレード3出たからダイカイザーのスキルでその完全ガード貫通ね」
「アイエエエエエ!?」
一方その頃、カードキャピ〇ルと書かれた看板が書かれた建物内でこんな会話があったとかなかったとか
「ところで」
一通り世間話に花を咲かせた所で、真夜がティーカップを置きながら本題を切りだした。
「世間話をしに来たわけではないでしょう?」
真夜の言葉に、深夜の動きがしばし止まり視線が顔毎、天井を仰ぎ見るように上を向く。
「そうね」
覚悟は決めてきた。何を言われても仕方ないと思っていた。だが、それでも、こんなにも勇気がいるとは思ってもいなかった。
しかし、言わなければならない。言わなければ、始める事も出来ない。
「あのね真夜……」
ごめんなさい、私を許してくれるかしら、と言うつもりだった深夜の言葉は暴力的な騒音と甲高く不愉快なブレーキ音に飲み込まれた。
何事かと二人して窓の目をやると、窓にはいつもの庭の風景は写らず、深夜が乗ってきた車がこの部屋に突っ込んでくるのが見えた。
刹那、轟音と爆発が室内で吹き荒れる。その凄まじさは、血と硝煙が吹き荒れる地獄を作るに充分なものであったが
「奥様!御当主様!御無事ですか?」
危険を直前で察知し、室内に駆け込んできた穂波の対物障壁によって車の爆発は屋敷の外壁を黒焦げにするに留まり、室内には全く影響を与えなかった。
四葉によって造られた魔法師『桜』シリーズの特徴は卓越した対物・耐熱障壁魔法
かの十文字家の『ファランクス』のように多種多様の障壁魔法は展開できないが、ある一方面での防御力は日本でもトップクラスだ。
「穂波!状況は!?」
車であったものの残骸が煙と炎を上げながら庭に落下したのをちらりと見た後、深夜は己のガーディアンに叫ぶように、いや騒音に負けないよう実際に叫ぶ。
「……」
だが、穂波は不気味なまでに何も喋らない。表情も無表情というか無機質と言っていい
「穂波?」
「四葉……深夜だな?」
声質自体は穂波のそれだが、紡がれた言葉、声の雰囲気は明らかに彼女の物とはかけ離れている。
深夜が危険を感じ一歩退くのをじろりと見て穂波?はニヤリと笑う。その表情は幼げながらも大人の魅力に溢れた美しい顔立ちからは想像も出来ないほど醜悪な笑みだった。
「姉さん、離れて」
真夜が深夜に声をかけるのと同時に部屋が一気に暗くなる。室内の筈であるのに闇の中に燦然と輝く星が瞬く『夜』に部屋が塗りつぶされる。
「真夜!」
穂波に対して真夜が発動としている魔法の兆候を見て深夜は思わず真夜に咎めるような声を出してしまう。
それに対し、真夜はちらりと深夜を見るだけだった。
分かっている。穂波は所詮四葉に買われた魔法師にすぎない。四葉に仇成そうと言うなら殺されても立場上文句も言えない。
だが自分の妹が自らのガーディアンを殺すなど皮肉もいい所だ。
そんな深夜の葛藤に答えが出るのを待たず真夜の魔法が発動した。
魔法名は『
効果範囲内の光の分布状況を極端に偏らせる収束系魔法の一種
闇に瞬く星は室内の収束した光であり対象を貫く処刑道具でもある。対象は光が通り抜けられる状態に改変され、収束された光はあらゆる魔法障壁を穿ち抜く。
ファランクスでも『桜』シリーズの強靭なる物理障壁でも防げない絶対無敵の無慈悲なる矛、四葉真夜を世界最強の魔法師の一人と、『極東の魔王』と謂わしめた魔法
それが数十を超える星となって穂波を、穂波らしき人物を貫きとおす。
筈だった。
「!?」
が実際、光の線は穂波に触れようとした瞬間、理屈では考えられない起動でねじ曲がり逸らされた。
「ほう、これが四葉真夜の流星軌道、いや流星群といったか?聞いた通りだな」
穂波は再び醜悪な笑みを浮かべると体ごと真夜に向き直る。
「これは……」
真夜は今の理不尽な現象に思い当たる節があった。
そう、危害を加えようとすると理屈なく一切の魔法が通用しなくなる現象に
(あの子と同じ……?)
真夜が思い浮かべたのは二年前いきなりこちらにやってきて今もここに住んでいる少年の姿
敵対されたら厄介だからこそ彼を引き取ったのにまさか同じ系統の力を持つ存在が現れようとは、真夜は人知れず歯噛みするが、今はそんな事すらしている状況ではない。
「さて、命を貰うぞ四葉ァァァァァ!」
穂波が一歩で真夜の近くまで間合いを詰め、素手で彼女の命を刈り取ろうと迫る。
「真夜!」
深夜が魔法を発動しようとするのと、部屋の外から魔法の兆候を感じ取ったのはほぼ同時だった。
「くそう、あそこでトリガーさえ」
二年間ですっかり慣れてしまった道を歩きながら、俺は今日の大会の反省をしていた。
といっても対してする事はないんだけども、一言でいうとダイカイザー正義の味方の癖に殺意高すぎません?
「次は負けん!まずは文弥君のかげろうデッキで練習しよ」
決意を新たに顔を上げると、いつもの屋敷の雰囲気と違う。詳しく言うと、火の手が上がり、人々の怒号に近い声がこの距離からでも聞こえてくる。
「な、なんだ?」
いつもはもっと静かな筈だ。騒がしくするのは俺の仕事の筈だ!と四葉の人間が聞いたら「誰も頼んでねぇよ!」とツッコミを受ける事確実な事を思いながら彼は歩みを進める。
屋敷が近づくごとに喧騒は大きくなっていく。この人々が生き急いでいる感覚に覚えがあった。
それは沖縄の恩納基地での一幕、侵略軍による基地侵攻、明らかな戦と敵意の気配を感じ取り知らずの内に足取りが重くなる。
それでもなんとか家の前までたどり着くと、堅牢な門が無理やり車にぶち破られたかのように破壊されてしまっている。
「い、嫌な予感しかしないんだが」
いよいよ洒落にならない状況に歩みが今度こそ止まる。思い出すのは、あの銃で撃たれた時の、理不尽に命が流れ出ていきそれを止める事も出来ない恐怖
「……っ!」
喉が干上がるのを感じごくりと唾を飲み込む。
「帰って来たのか」
「うおあっ!?」
とそこに後ろから声をかけられ心臓が飛び出しそうになる。振り向くとそこにいたのは葉山さんだった。
「葉山さんですか。こりゃ一体」
「君が気にする事ではない」
「はい?いやでもこれ」
どう考えてもこの状況を気にするなって無茶があると抗議しようとすると葉山さんは話を逸らすように数枚の紙を渡してきた。その内の一枚を見ると
名前:四方坂 和人
年齢:13歳
本籍地:山梨県~
他にも色々な個人情報が記載されている。
「これは、戸籍謄本?」
「四葉の方でとっておいた。持っておくといい」
いやいやこれどう考えたってそっちで持ってた方がいいでしょ?家に保管しておけばいいと思うんだけど、けど葉山さんは質問も許さずどんどん話を進めていく
「ここに書いてあるのは君の事を引き取ってくれる家だ。事情は説明してあるし悪いようにはしないだろう」
は?
「裏には地図もある。迷う事はないだろう。それとこれはそこに行くまでの交通費だ。変なモノに使うなよ?」
いや……え?
「学校にはこちらから連絡を入れておこう。急な転校になってしまうが君なら直ぐに向こうでも上手くやって行けるだろう」
「ちょちょちょ!待って待って!」
全く状況についていけず薄い笑いを浮かべながら勘弁してくれと言うが、対する葉山さんの真剣な顔を見てかろうじて浮かべた笑みも消え去る。
「出て行けって……ことですか?」
「わかるだろう?」
「わかりませんよ!」
我ながら子供っぽいと思いながらも俺は駄々をこねるように叫んだ。
「見ろ」
そんな俺に葉山さんはあくまで冷淡に俺の後ろ、火の手の上がる屋敷を指さす。
「あれが我らの日常」
近くに来るまでわからなかったが血と硝煙が蔓延している。
「あれが我らの生きる世界」
火の手と怒号は今も鳴りやまない。
「あの世界で君は生きる事が出来るか?」
葉山さんの目線が俺を射抜く、ウソ偽りを許さぬと言いたげに
「あの世界を知った上で君は笑う事が出来るか?」
ふと葉山さんはさみしげに口元を緩ませながら自身の後ろを親指でしゃくる。
「君には君の生きるべき世界があるだろう。だから、君はそこで生きていけ。死を恐れ立ちすくむ君には、そんな普通で正常な君には平穏な世界こそふさわしい」
「っ!」
びしりと本心を暴かれ、二の句が継げなくなる。
恐れていた。確かに死に、戦争に震えていた。何も出来なかった。抵抗なんて考えもしなかった。達也のように戦場に立つなんて逆立ちしたって出来やしない。
自身の後ろは死と恐怖が蔓延する戦場、だがきっとあそこには真夜さんや今まで自分に良くしてくれた人がいる。
自身の前は平穏な世界、だがそこには今まで出会った人々は誰一人としていない孤独な世界
「何、あの程度なら直ぐに鎮圧出来る。君に出来る事なんて何もない。だから行け」
「ぅ」
「行くんだ!」
「ぅうあああああああああ!」
初めて聞く葉山の怒鳴り声に少年は弾かれたように走り出す。
前に向かって
「それでいい」
徐々に小さくなっていく少年の、四方坂和人の姿を見て葉山は小さく微笑んだ。
「君との日々、悪くはなかったよ」
逃げる事を覚えたって