四葉の影騎士と呼ばれたい男   作:DEAK

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長らく更新できず申し訳ありません。

つい最近まで長期沖縄出張行っておりまして、全くPCに触れなかったのです。

一応恩納瀬良垣に行って、リアル追憶編だヒャッハー!とかくだらない事はしてたのですが

沖縄で色々見てきまして、これ追憶編でやればよかった!というネタがガンガン閃いてしまいましたね(汗)残念ながら追憶編もう終盤なので日も目見れないのが残念です。

追憶編書く前に出張行っておけば……っ

今後はもう少し頻繁に更新できればと思います


追憶編⑰

深雪はただ走っていた。戦いに行こうとする兄を止める為、ようやく気付いた自分の心の為。

 

自分は兄を、お兄様を大切に思っている。否、誰よりも尊敬しているし、敬愛している。だがそれでも止めなければならない。私のそばにいて欲しい。

 

そんな事を思いながら走っていたので迷ってしまわないか不安だったが、幸いにしてそこまで遠くに行ってなかったのか直ぐに達也の姿を見つける事が出来た。

 

「お兄様!」

 

深雪が叫ぶと、達也は真田中尉に何か一言告げると、振り向きこちらに駆け寄ってくれる。

 

「深雪、どうしたんだ?」

 

「あの……」

 

行かないで下さい。と口に出しかけて気づく。

 

これじゃまるで、戦場に赴く恋人を引きとめるヒロインのようではないかと

 

「?」

 

「う……」

 

とてつもなく恥ずかしい事に気づき、言葉に詰まる深雪を達也が訝しげに見る。諸事情により人の機微に疎い達也は深雪のそんな心情に気づく事は出来なかった。

 

「い。行かないで下さい」

 

それでも、言わなくてはならないと思いなおした深雪は顔を真っ赤にしながらも思いのたけを言葉にする。

 

「敵の軍隊と戦うなんて危険な事しないで下さい。お兄様がそんな事をする必要はない筈です」

 

噛まないようにゆっくり噛み締めるように言い切った深雪の胸にはある種の達成感のようなものがあった。

 

これで大丈夫だと、お兄様はきっと私の言う事を聞いて下さると彼女は信じていた。

 

「そうだな、確かに必要はない。だけど、これは必要だからじゃなく、俺自身がやりたいから戦いに行くんだ」

 

だからこそ、達也の拒否の言葉は深雪に少なくないショックを与えた。

 

「俺はお前を傷つけられた報復に行く。お前の為にじゃなく、自分自身の意思の為に」

 

それでも強い光と石を宿す達也の目から深雪は視線を逸らす事が出来なかった。

 

「俺が大切だと思えるものはお前だけだから」

 

「お兄様っ」

 

「わがままな兄貴でごめんな」

 

達也は微笑みながら、深雪の頭をひと撫ですると、そのまま戦場に向かおうと踵を返す。

 

「大切だと……思える?」

 

が深雪の思わず出てしまった言葉にふと足を止める。

 

「そうか……そうだな、もう知るべきかもしれないな」

 

再び振り向いた達也の眼には意思だけでなく、虚無とほんの少しの悲しみが宿っていたような気がする。

 

「今は時間がないし、俺から聞かせるようなものでもない。だから深雪、母さんから教えてもらうといい。お前自身の疑問の答えを」

 

「お母様に?」

 

「あぁ」

 

最後に達也は深雪にもう一度微笑みかけると今度こそ達也は戦場へと向かって行った。深雪はそれをただただ見送った、見送る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

(防空指令室ってどこにあるのかしら?)

 

しばらく茫然としていた深雪がふと冷静になると、自らの避難先の場所が全く分からないという事に気づく。我ながら後先考えずに行動してしまったと後悔するが、後悔先に立たずとは良く言ったものだ。途方にくれた深雪は結局、自分が最後にいたあの部屋に戻る事にした。

 

「俺、ようやく参上」

 

「いいからさっさと案内しろ」

 

「こちらになりま~す」

 

部屋に戻ると、兵隊さんと一緒にいた少年がビシッとこちらを指をさしながらなんかのたまってきたが、残念ながら付き合っている時間はないので早急に案内するようお願いする。口調が若干悪くなったのは仕方ない事だと思う。

 

それにしても……

 

「なんかキレがないですね」

 

「え?そりゃ最近リアルで沖縄出張行ったりしてたから感覚がつかめず」

 

「そっちじゃなくぅぅっ!!メタな話はこっちがダメージ負うだけだからやめません!?」

 

長らく更新滞ってしまいすいません

 

はぁ、と溜息をつきながらも深雪はなんというかいつもの少年にしては歯切れが悪いというか、一歩引いてるというかそんな気がしたのだが、これ以上追及しても変な風にまぜっかえされるだけだと思い黙って兵隊の後に付いていくことにした。

 

 

 

 

防空指令室は五枚の装甲扉を潜り抜けた先にあった。

部屋は幾つかに分かれており、オペレーターがコンソールを操作する小ホールと防衛省幹部の査察用であろうホールを一瞥できる個室が八つほどある。深雪達はその中の一つに通された。

 

「遅くなりまして申し訳ありません」

 

「謝る必要はありませんよ」

 

まず勝手に抜け出した事を深雪は先に部屋にいた深夜に謝罪するが彼女は対して気にしてないようだ。その奥では穂波が盗聴の可能性を警戒しているのだろう部屋をくまなく調べていた。

 

とりあえずは深夜が怒っている様子がなくてホッとする深雪だったがこれで会話を終わらせるわけにはいかない。深雪にはどうしても聞かなければならない事があった。

 

「あの、お母様。お一つお伺いしたい事があります」

 

深雪の言葉に深夜は無言で視線を向けた。

 

「お兄様が先ほど、大切だと思えるものは私だけだと仰ったのですが、何故『大切なもの』でなく『大切だと思えるもの』なのかお伺いしたところ、お母様に教えて頂くようにと」

 

「……そう」

 

深雪の疑問に深夜は永らく溜っていたナニカを吐き出すかのように長く息を吐くとふと眼を伏せた。

 

「そうね、あなたもそろそろ知っておいていい時期ね」

 

深夜は伏せていた目をそっと少年に向けた。目を向けられた少年は視線に気づく事もなく小ホールのモニターを見ている。

 

聞かれてはまずい話なのだろうか?

 

深雪はそう思ったが、直ぐに深夜は視線をこちらに向けた。問題ないと判断したのだろう。

 

「まずは何から話そうかしら」

 

と、深夜は空から降下する達也とクマを映したモニターを目に映した。目に映しただけで深夜の瞳はモニターを見てはいなかった。

 

「達也は、魔法師としては欠陥を持って生まれてきました」

 

「欠陥?」

 

深雪は自分と少年を救った達也の魔法を思い浮かべ思わず深夜の言葉を反芻してしまった。あの奇跡にも等しい魔法を使える兄が欠陥品とはとても思えなかったのだ。

 

「あの子をそういう風にしか産んであげられなかった事に責任を感じなくはないけど。それでもあの子が魔法師として重大な欠陥を持っているのは事実」

 

深夜は深雪の言葉を黙殺し滔々と言葉を繋げる。

 

「達也は二種類の魔法しか使えません。情報体(エイドス)の分解と再構築、この二つの概念の範疇なら、色々と小技が使えるようですけど、彼に出来るのは何処まで行ってもこの二つだけで、魔法師への本領である情報体の改変は出来ないのです」

 

深夜の瞳は虚空を、この三十年の歳月に潜む彼女自身の闇を見ていたように感じた。

 

「魔法とは、情報体を改変し、事象を改変する技術の事、だけど達也にはそれが出来ない。達也に出来るのは情報体を分解する事と、再構成する事だけ、それは厳密に言えば魔法ではなく。本来の意味での魔法が使えない達也は間違いなく欠陥品です」

 

最も、その再構成の力のおかげであなたは助かったのだけどと深夜は言いたし、深雪の方を見た。深雪は絶句していた。告げられたあまりの事実に、反論の言葉すら出なかった。

 

深夜は彼女の顔を見てしっかり話を聞いていたようだと思ったのか話を続ける。

 

「でも、四葉は十師族に名を連ねる日本最高峰の魔法師集団です。達也に魔法を使う才能がない以上、四葉で生きていく事は出来ない。だから七年前、あの子にとある手術を施す事にしました」

 

手術という不穏な響きに深雪の表情が意図せずこわばる。

 

「それは、人造魔法師計画。非魔法師の人間に、魔法演算領域を植え付け魔法師を人工的に造り出すプロジェクトです」

 

更に不吉になって行く雰囲気に深雪は表情を抑えるのに非常に苦労した。

 

「その精神改造手術を達也に行った結果、あの子の感情、いえ衝動と言った方がいいかしらね。強い怒り、深い悲しみ、激しい嫉妬や憎悪など『我を忘れる』ような衝動をある一つを除いて失ってしまったのです」

 

「そ、そんな……」

 

よく耐えた方だろう、深雪がついに耐えきれず言葉を漏らしてしまう。それだけ深夜が告げた真実が衝撃的だったのだ。

 

「ようやく、達也は魔法を操る力を得ました。しかしその力は先天的な魔法師の性能に著しく劣っていた為、結局ガーディアンとしてでしか使えませんでしたが」

 

深夜はここで話を一区切りとしたのだろう。ふぅと一つ息をつき深雪の方を再び見た。その目には先ほどの闇は写っていない。

 

「その手術は……」

 

「私以外にはできないでしょう?」

 

お母様がなさったのですか?という疑問にかぶせる形で深夜が深雪の言葉に応える。魔法演算領域とは精神機能の一つ、それを植え付けるという事は、精神の構造を改変するという事、それは深夜の精神構造干渉魔法がなければ不可能である。理論としては当然の帰結であるが

 

「どうして……?」

 

それで片づけられないのが人間の感情というものだ。そして達也にはその感情がないのだと気付き深雪は更に深い悲しみに落とされる。

 

「どうして……そうね、どうしてだったのかしらね?」

 

ここで深夜の瞳が初めて憂いを帯びる。

 

はじめはそれが四葉の為だったと信じていた。だが今思えばそれは自身の贖罪の為だったのかもしれない。となれば深夜は自身の罪滅ぼしに息子を巻き込んだ事になる。

 

(そんな事で動揺する心は持っていなかったつもりなのだけど)

 

あの少年のせいで自分の精神が随分と脆弱だったと気づかされてしまった。

 

「あの子が、達也がね、言ったのよ」

 

「お母様?」

 

他人にというより自分に言い聞かせるといった風に呟いた深夜に深雪が訝しげな声を上げるが深夜は聞こえていないのだろう頭を押さえながら言い募る。

 

「私はあの子にこう言ったわ。感情を取り戻したくないか?って」

 

深雪が大きく目を見開く。深夜が言っているのは、シェルター避難前に達也と二人で話した時だろうか?

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

「感情を……ですか?」

 

避難前の恩納瀬良垣の別荘の一室で深夜の向かいに座る(最初は立ったままだったが深夜に席を勧められた為席に付いている)達也が言われた事を理解しきれていないかのように問い返す。

 

「そう、人造魔法師計画で失われた感情は直ぐ戻すことは出来ないけど、あなたが望むなら感情を戻してもいいわ」

 

丁度あてもいるしね。と深夜は下にいるであろう少年の顔を思い浮かべる。これはしばらく共にいて気づいた事なのだが、沖縄に来てから、というより少年が来てから深夜は体調を崩す頻度が格段に減ってきている事に気づいていた。

 

どうやら彼には消耗した精神を回復させる能力も持っているようだ。彼の力を持ってすれば達也の失われた感情も取り戻す事が出来るかもしれない。

 

深夜は達也が必ず頷くと思っていた。普通なら人間として生きたいなら感情を取り戻したいと思う筈だと当然考えていた。

 

「それは、ご命令でしょうか?」

 

「いいえ、違うわ」

 

「でしたら、せっかくの御提案ですが、お断りさせていただきたく思います」

 

「え……?」

 

だからこそ、達也の拒絶の意思は全く深夜の想定外の回答だった。

 

「私の再生には痛みが伴います。それは感情を持つ身では耐えられないほどの苦痛です」

 

達也が使えるたった二つの魔の力の一つ再生は情報体を読み取り外傷を受ける前の情報体をフルコピーし上書きする能力だ。情報体を読み取る際、その外傷の痛みを伴い更に情報体を圧縮して読み取る為、通常の何倍の痛みが使用者を襲うのだ。

 

感情を持つ人間なら気が狂ってしまってもおかしくない。だが達也には強い衝動を感じる心がない。多大なる苦痛を感知する事が出来ないのだ。これならばデメリットが殆どない状態で再生を行使することが出来る。

 

「感情を取り戻してしまえば私はもう再生を行使出来ません。そうなっては深雪を護ることは出来ても救う事は出来ない」

 

「だから、感情はいらないと言うの?その深雪さんを守りたいという意思だって感情よ?」

 

「えぇ、私にはそれだけで十分です」

 

深雪を護ること、それが達也に残されたたった一つの衝動だ。達也はその一つの為なら他の感情などいらないと言いきった。

 

「それに、私は分解は嫌いですがこの再生という力は嫌いではありません」

 

いつになく今日の達也は饒舌だった。

 

「私が唯一持っている誰かを助ける為の力ですからね、それに私は最近こうも考えるのです。再生という力を使えるようにする為に感情を再生に昇華させた。と」

 

達也らしくない、恐らく自身も思っているだろう事を深夜も感じていた。こんな非現実的な事を語るような子ではなかった筈だ。深夜は驚きを顔に出さないようにしていたが

 

「ですから」

 

突如として頭を下げた達也が告げた言葉に

 

 

 

「私が再生で誰かを助ける事が出来るのはあなたのおかげです」

 

 

 

 

深夜は今度こそ絶句した。ありえない、というのが深夜の率直な感想だ。

 

「何を……言っているの?」

 

深夜は本気で達也が何を言っているのか理解出来なかった。恨み事を言うでもなく、涙を流すでもなく、ただ当然のように頭を下げた達也から深夜は無意識に椅子を引き距離をとる。

 

これ以上彼の言葉を聞いてはいけない、と深夜は一種の恐怖すら覚えていた。

 

だが達也は頭を上げるともう一度、今度はさらにはっきりした口調で

 

「私はあなたから感情を奪われたとは思っていません。むしろ再生という力を与えられたと思っています。だから」

 

深夜は達也から目を離さない。否、離せない。

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

それは深夜の願望だったのかもしれない。だがそれでも、達也は確かに微笑んだ気がしたのだ。

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

「お兄様が、そんな事を……っ?」

 

「そうよ。あの子から全てを奪いつくしたのに、あの子はありがとうと言ったのよ……っ!」

 

時は今に戻り、目を潤ませながら口に手を当てる深雪を視界の端にとらえながら深夜はギリと歯ぎしりする。

 

「私はあの子を利用したのよ?それに気付かないあの子ではないでしょうに、本当に愚かよ。やっぱりあの子は欠陥品だわ」

 

もしかしたら深夜は嘲笑いたかったのかもしれない。だがそんな悲痛に歪んだ顔では、そんな悔恨に彩られた瞳では、嘲笑など出来ないのは自明の理であろう。

 

結果、乾いた泣いてるような笑い声が虚しく響くだけだった。

 

(そうか)

 

深雪は唐突に理解した。彼女は深夜から視線を外し、モニター上で今も戦っている兄に目を向けた。

 

確かにお兄様は『大切だと思えるもの』は私だけだと言って下さった。だけどお兄様はきっと、他の人も『大切に思いたい』のではないかと、たとえば、お母様であったり、桜井さんであったり、例の少年であったり、そんなお兄様の人生で出会った縁を大切にしたいのではないのだろうか?

 

 

深雪は自分でも無意識に兄に向かって祈っていた。

 

どうか、私の兄に、誰よりも優しい自慢の兄に『大切だと思いたい』ものがたくさん出来ますようにと

 

そして願わくば、いつかそれが兄の『大切なもの』になりますようにと





というわけで達也と深夜が二人で話していた内容を書かせて頂きました。

やばい、主人公の出番全くない……い、一応この後出番ちゃんとありますんで勘弁して下しあ

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