西方海域より侵攻
宣戦布告はなし
潜水ミサイル艦を主兵力とする潜水艦隊による奇襲
現在は半浮上状態で慶良間諸島を攻撃中
丁度朝食を終えた時、テレビの情報端末から緊急警報が流れる。発信元は国防軍、情報の洪水でパニックになりそうだが、つまり外国から侵略されているという事だ。
深雪の脳裏には先日のクルージングの最中に襲ってきた潜水艦の事、あれはこれの前触れだったのだろうか?
一同に緊張が走るなか
「ん?」
「おや?」
達也と少年の通信端末から電話が入る。二人とも顔を見合わせた後、同時に電話に出た。
「もしもし?」
「はい、司波です」
二人ともしばらく相手と会話していたが先に会話が終了したのは達也の方だった。達也は深夜に一礼しながら
「奥様、恩納空軍基地の風間大尉から、基地内のシェルターに避難してはどうか、との御申出を頂きました」
と言った。
「え!?」
深雪が驚いた声をあげるのも無理はない。二回、実質話したのは基地に赴いた一回だけの相手に何故そんな事を言うのだろう。
「えぇ、ちょっと待ってくださいなっと、深夜さん」
深雪が風間大尉の真意を考える暇も与えず、今度は少年が達也よりだいぶ砕けた表情と口調で深夜に話しかける。
「真夜さんからですよ」
国防軍の軍人から申し出があったと思ったら、今度は四葉の当主からだ。めまぐるしく変化する状況に深雪は付いて行くのがやっとだった。
深夜は少し間を開け、少年の端末の方をとった。
「もしもし、真夜?」
「あなた達は完全に包囲されて」
「それ、今じゃ洒落にならないわよ」
初日の事を思い出し、深夜はげんなりとする。取り巻く状況は180度違うが
「それもそうね、じゃあ早速だけど国防軍から連絡があったでしょう?」
「えぇ」
真夜が前置きもなく本題を始めたのは、間違いなく国防軍から連絡があると確信していたからだろう。
「シェルターにかくまって貰えるよう話を通しておいたわ」
「そう、ありがとう」
これだけで深夜は状況を理解した。今までならこれで会話を打ち切っている所だが
「それじゃあ」
「待って」
「?」
今は違う。ここ沖縄で大切な事に気付いた今は
「ねぇ真夜、沖縄から帰ってきたら少し話がしたいのだけど」
「話?それなら今聞くけど?」
「いえ、直接話したいのよ」
そう、これは直接話さないとならない。今更と言われるかもしれない。でも今だからこそ気付けた。
今からでもやり直せるだろうか?
「ふ~ん?」
「何よ」
「い~え?わかったわ。沖縄から帰ってきたらまた連絡を頂戴」
何かを面白がるような真夜の口調に釈然としないものを感じたがどうにか言質をとれたようだ。
「にしても、あの子になんか言われた?」
「どうしてそう思うの?」
「なんか雰囲気が変わったわ。なんというかふっきれた感じ?」
「何よそれは」
軽く図星を突かれ深夜は面白くなさそうに眉をひそめる。確かにあの少年が来てから、自分だけでなく、深雪や達也も変わっているような気がする。だがそれを少年のおかげと言うのは認めたくなかった。なんか腹立つので
「まぁ、いいわ。それじゃあ」
「えぇ」
深夜は電話を切り端末を少年に返すと達也を呼んだ。
「達也」
「はい」
「大尉さんにお申し出を受けますと連絡して、それと迎えをよこして頂戴」
「かしこまりました」
「それと」
あぁ、やっぱり自分は少しおかしくなっているようだ。深夜は今から自分が何をしようとしているのか明確に自覚しつつそう思わずにはいられなかった。
「それが終わったら部屋に来なさい。話があるから」
「……かしこまりました」
感情の薄い達也がここまで明確に驚愕を示すのは、深雪相手以外では相当珍しい。だが無理からぬことだ。深夜自身が、自分がこれからする事に何より驚いているのだから
結局、達也が深夜の部屋で何を話していたのかはわからなかったが、深夜も達也も憑き物がとれたかのようにすっきりとした顔をしていたのが印象的だった。
「達也、またせたな!」
10分後、迎えに来たのは、やはりというか桧垣ジョセフ上等兵だった。
「ジョー、わざわざありがとうございます」
「よせやい、他人行儀な挨拶は、おう!お前さんも大丈夫か?グラウンド500周は効いたろう」
「足が棒になるかと思いました。二度とこんな事はしないよ(キリッ」
「などと意味不明な証言をしており」
「達也氏wwwそれは酷いwww」
桧垣上等兵も達也も少年も随分打ち解けた、友人のような気軽さで話している。家族といるより、知り合ったばかりの他人の方が、兄の色々な表情を引き出している事実に深雪はもやっとした感覚を覚える。
だが、敵国が攻めてきているのだ、状況はそんな暖かな雰囲気を許容してくれるほど甘くはない。
「っと、失礼しました。風間大尉の命令により皆様をお迎えにあがりました!」
桧垣上等兵は直ちに姿勢をただし敬礼しながら、軍人らしいハキハキした口調で言った。
「御苦労さまです。案内をお願いします」
「はっ!車にどうぞ」
穂波の言葉に桧垣上等兵は私たちを車に案内する。
道中、車が渋滞し阿鼻叫喚の様相を呈していると思っていたが、そんなことはなく、軍用車両が行き交う道路を彼等は検問も敵の攻撃もなく無事に基地まで着く事が出来た。
基地に着いて、まず意外だったのは軍のシェルターに避難しようとしていたのは自分達だけじゃなかったという事だ。他にも数組の民間人が地下シェルターに案内されるのを待っている。
緊迫した状況の中、穂波はいつでも深夜を守れるよう彼女の傍に付き、達也は深雪のそばにいた。少年は民間人の子供と何やら話している。緊張と恐怖で泣きそうだった子供だが、少年が何やら吹き込むとぎこちなくはあるが笑顔になった。
どうやら緊張を解してあげているようだ。
深雪は達也が二機のCADをいつでも使えるようにして静かに座っているのを時折ちらちらと見ていた。
何故か、兄を見ると少しだけ気分が安らぐような気がする。
そう思い、もう一度達也を見ると
(え?)
達也とバッチリと目が合ってしまった。そんなつもりはつもりはなかったのに盛大にパニックになる深雪の心情も知らず達也は唯静かに、それでも優しく
「大丈夫だよ、深雪」
約束した通りに『深雪』と呼びながら
「俺がついてる」
力強い意思が滲む声でそう言った。
(それ、反則……っ!)
顔が真っ赤になるのを止められない。笑えばいいのか、怒ればいいのか、はたまた泣けばいいのか全く分からない。深雪は自分の感情をどう処理していいか分からず、結果達也を睨んでしまう。
「エンダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァぁァァァァァァァァァァ(小声」
「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ(小声」
「……」
「アイタッ!」
「……」
「いだいっ!?なんで俺だけ!?」
当然だ。民間人の子供を巻き込むんじゃない。達也と深雪は、少年と一緒に小声で叫ぶという器用な真似をして見せた民間人の子供を見る。歳は7歳ぐらいだろうか?女の子は状況が飲み込めていないのかニコニコしながらこちらを見ている。
「はぁ」
「全く仕方ないですね」
その笑顔になんとなくこれ以上怒るのが憚られ、二人は顔を見合わせて苦笑した。(深雪はすぐに顔を赤くして逸らしてしまったが)
和やかな空気が部屋を満たすが、逼迫した事態はそんな空気を許さなかった。
銃声が鳴り響く、まるで今の状況を無理やり思い出させるように……
申し訳ない、最近スランプのようで、全く筆が乗りません……
今回ももっと進めたかったのですが、これ以上文章が思いつかず中途半端な形になってしまいました。
次の更新は少し間が空いてしまうかもしれません