四葉の影騎士と呼ばれたい男   作:DEAK

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達也と深雪サイド
ちょっと3人称に挑戦


追憶編⑪

 

ある少年が、何やら企んでいる頃、達也と深雪の二人は恩納空挺隊の訓練場で組み手を見ていた。正確に言うと、見ていたのは深雪だけで、達也は風間大尉に誘われ実際に組み手を行っている。

 

ちょうど、達也の右肘が相手、南風原伍長のわき腹に突き刺さり、相手を昏倒させた。達也の呼吸には一糸の乱れもない。

 

「見事だ。南風原伍長にまで勝利するとはな」

 

南風原は恩納基地では指折りの実力者だ。それを歯牙にもかけず倒して見せた達也の戦闘力に風間も隣で見ていた真田も目をみはるばかりだ。

 

「何か特殊な訓練でも?」

 

「実家に道場がありまして、そこで稽古をつけてもらいました」

 

「あのフェイントにごまかされぬ集中力が特に素晴らしいですね。あれも実家の道場とやらで?」

 

「……えぇ、まぁ」

 

真田の問いに達也はよどみなく応えるが、どう考えても納得できる理由ではない。証拠に風間は訝しげな眼をしている、だがここでそれを問いただすつもりはないらしい。

 

だが、二人は知らない。達也の集中力は、或る少年が練習中しょっちゅうちょっかいを出してくるため、それを極力無視しようとして身につけたものだと。

ただ認めるのは癪なので絶対に言わないが

 

「しかしこのままでは恩納空挺隊の面目は丸つぶれですな。よろしければもう一手お付き合い願いませんか?」

 

詮索しないかわりなのか風間は達也にこんな事を言い出した。達也にそれを受けなければいけない理由もないが

 

「わかりました」

 

達也は無表情に頷いた。達也の了承の意を受け取り風間は辺りを見回す。

 

「誰かいないか?」

 

「自分にやらせて下さい!」

 

風間の言葉に勢いよく立ちあがりながら立候補したのは先日に達也、深雪の両名と諍いを起こした人物だ。

 

「桧垣上等兵。報復のつもりなら許可できないぞ」

 

「報復ではありません!雪辱であります!」

 

その人物、桧垣ジョセフ上等兵は直立不動のまま風間の言葉に応える。深雪には違いがわからなかったが、本人にとっては重要らしい。

 

「達也君。本人はあぁ言っているんだが、付き合って貰えないだろうか?彼もまたこの基地を代表する猛者だ」

 

「わかりました。お相手致します」

 

達也がコクリと頷いた事で達也と桧垣の組み手が行われる事となった。

 

 

 

 

組み手が始まると、桧垣は腰を落とし初動を悟られない為か、右に左にゆっくりと移動しながら相手の隙をうかがっている。

対する達也は、相手に合わせて軸足を変えるだけで、唯静かに佇んでいた。

 

最高潮に達した静寂が支配する緊迫感を打ち破ったのは、桧垣の方だった。彼の巨体が一切の予備動作なく一つの砲弾となって達也に襲いかかる。

達也はそれを大きく跳んでかわすが、桧垣はトップスピードのまま方向転換し再び達也を刈り取ろうとする。

 

「・・・・・・っ!」

 

達也の表情が初めて歪んだ、ように見えた。彼は転がるようにタックルを交わす。

 

「魔法を使うなんて卑怯です!」

 

それを見て、今まで静寂を守っていた深雪が風間に喰ってかかる。桧垣の予備動作なしでの急加速および急制動、これは間違いなく自己加速術式と呼ばれるれっきとした魔法である。CADの操作を上手く隠した技量は流石だが、あの非常識な軌道を見せられれば誰の目にも明らかだ。

 

深雪は更に言葉を重ねようとしたが

 

「止せ、深雪!」

 

「!」

 

兄、達也に『命令』されたことで、言葉は胸の奥へと消えていく。兄と言えど、深雪の護衛役、つまり道具でしかない達也に主人である深雪が命令された。それも深雪と呼び捨てで

 

これは、深雪と達也が四葉の縁者だという事を隠すために深夜から命令されたことだ。

 

兄として接する事

 

お嬢様でなく、深雪と呼ぶ事

 

だが、深夜からのお達しとはいえ深雪の心中は穏やかではなかった。

 

(これは怒り?いえ……これは)

 

不快ではない奇妙な感覚を覚え深雪はしばし思考が停止する。

 

しかし、現状は深雪の事情も鑑みず進行していく

 

桧垣が再び自己加速術式を行使し、三度タックルを敢行しようとする。

達也はそれに対し、相手に向かって右手を開いて伸ばすだけ、桧垣を含め、事情を知らぬ者には意図のつかめない行動だっただろう。

 

刹那、達也の右手から莫大なサイオンの奔流が迸った。サイオンが視認できる者がいればまるで万物をのみこむ竜の顎のように桧垣に向かってサイオン波が食らいつく光景を見れただろう。

 

無系統魔法、グラム・デモリッション。大量のサイオンで相手の魔法式を無理やり剥がす魔法無効化魔法だ。

 

結果、桧垣の自己加速術式は魔法式そのものを打ち消され彼は予期せぬ急ブレーキを強いられる羽目になる。

 

隙だらけになった桧垣の懐に入り込み、相手の殺しきれないスピードを利用して柔道でいう大外刈りで桧垣を投げる。彼は受け身も取れず、したたかに床に全身を打ちつける。

 

 

 

「つっ……」

 

自分でまだ起き上がれるほど回復していない桧垣に、達也は無言で手を差し出した。

桧垣は痛みが残っているのか苦笑しながらその手を取り立ちあがると

 

「負けたぜ。おかげで一昨日の事は俺の油断のせいじゃないって事が良くわかったよ」

 

完敗だと宣言した。

 

「改めて自己紹介させて貰うぜ。国防空軍沖縄・先島防空隊、恩納空挺隊所属、桧垣ジョセフ上等兵だ」

 

「司波達也です」

 

「オーケー達也。俺の事はジョーと呼んでくれ。沖縄にはしばらくいるんだろ?退屈したら声をかけてくれよ。こう見えても顔がきくんだぜ?」

 

桧垣はさわやかに笑い達也の肩を叩きながら言う。達也がされるがままにされている事が深雪には少し意外だった。

 

「こらジョー、まだ訓練中だぞ?」

 

風間に笑いながら声をかけられ、まだ何か言いたそうだった桧垣が姿勢を正す。

 

「無理を言って申し訳ない。おかげで部下のわだかまりも取れたようだ。疲れたでしょうしお茶でもいかがですか?」

 

そのまま、風間は達也と深雪をお茶に誘う。恐らくさっきの魔法について聞きたいのだろうとわかっていたが、達也はわからないが深雪としては確かに少し疲れてはいたので誘い自体は都合が良かった。

 

「お付き合いいたします」

 

達也も顔には出さないが疲労があったのか、申し出に即頷いた。

 

(それにしても……)

 

(それにしても……)

 

こちらだと案内する風間の後ろをついていく達也と深雪は奇しくも同じことを考えていた。

 

 

 

 

(あいつがいないとこんなにも平和だったとは)

 

(彼がいないとこんなに平和だったのね)

 

 

 

 

「ん?金城一等兵か?一体何の……何?」

 

二人の後ろにいた真田がポカンと口を開けたまま固まってしまったのにも気づかず二人は平穏?とまでは言わないが、『自分達らしい』時間を過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「へっくし!!」

 

「どうした坊主、風邪か?」

 

「いやぁ、誰か噂してるのかも知んないっすね。で、あの件なんですけど」

 

「おう!あの曲なら知ってるし昔ギターもやってたから大丈夫だぜ!」

 

「よっしゃあ!」

 

後は、衣装だけだ。たのんまっせディック(金城さんの事、そう呼んでくれと言われた)と真田さん!

 

 




うむ、三人称は難しいですね。主人公視点が一番簡単ですわw

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