「良く来てくれました。防衛陸軍兵器開発部の真田です」
人好きのする笑みを浮かべ出迎えてくれた軍人さんはそう名乗った。ここは恩納基地、達也君と深雪ちゃんと俺は軍の基地にお邪魔していた。
「軍に興味を持って頂けたようで何よりです」
「まだ入るかは決めていませんが」
「そうですね、とちょっと待ってて下さい」
達也君と軽く世間話をしていた真田さん(階級は中尉らしい)は何故か俺の方に向かって歩いてくる。え?何で?
「ついに捕まるんですね」
深雪ちゃん?ぼそりと怖い事言わないでくれる?
「なるほど、君が大尉の話していた子だね?」
「えぇと、多分そうだと思います」
風間さんがどんな話をしたのかわかんないけどとりあえず頷いてみる。
「お二人とも少し待ってて貰えますか?先に彼を別の所に案内しますので」
え、俺だけ別行動なの?
「別に構いません」
「ありがとう、といってもすぐそこなんですがね」
真田さんが指さす先には、あぁ確かに目と鼻の先に2階建ての建物があった。俺は真田さんに導かれるまま、その建物内部に入る。
どうやら恩納基地の事務系統は全部この建物に入っているようで、中はなんというか、一般企業とそう変わらない。違うと言えば軍服を着ているぐらいか
俺はその一角に案内される。そこには
『広報係』
と書いてあった。あぁなるほど、合点がいったよ。そいういや元いた世界でも自衛隊がAKB踊ったり萌えポスターとか作ったりして手を尽くして勧誘してたっけ、どうやら昨日披露した俺のサブカルチャー知識が風間さんのお眼鏡にかなったらしい。だから風間さんアルペジオ知ってたんだね。サブカルチャーとはいえ扱う以上ちゃんと学ぶ辺り風間さんの気まじめな性格が窺える。
「最近は入隊率があまり良くなくてね」
「あれ?でも魔法師の人は軍関連の仕事に就くことが多いって聞いてますけど」
そう、魔法という技術が一番役に立つのは哀しい事だが戦場なのである。ある意味魔法師は戦場に赴く事が義務付けられているようなものなのだ。
「魔法師はまず絶対数が少ないし、それ以外の人がね」
なるほど、非魔法師の人にどうやって興味を持ってもらえるか考えた結果、サブカルチャーなわけですか
「君はなかなか詳しいと聞く、子供の目線から忌憚ない意見を聞かせてほしい」
「わかりました」
ぶっちゃけ訓練より、こっちの方が楽しそうだ。俺は二つ返事で頷く
「失礼するよ」
「真田中尉、お疲れ様です。彼が?」
真田さんは俺の回答ににこりと微笑んだ後、扉を軽くノックし部屋に入った。中には男性が一人いて、真田さんが入ると敬礼しながら俺の方をちらりと見た。なんか、昨日達也君に謝っていた軍人さんに似ているなぁ。日本人離れした黒い肌と体躯を見てジョセフさんを思い出す。
そういや、ジョセフさんみたいな人をなんて呼ぶんだっけ?なんとかブラッドだったような……あ、思いだしたストライクザブラッドだ。うん、ここ沖縄だし、常夏の人工島と言っても差支えはないだろう。多分
「そうです。話の通りによろしくお願いします」
「了解しました」
「じゃ、後はよろしくね」
真田さんは最後に微笑むと部屋を出ていく。俺はストライクザブラッドさんと1対1になる。どうしよう。真祖だったら勝てる気しない。そうでなくても勝てる気しないけど
「わざわざ、悪いね」
「いえ、こちらこそありがたいお話を頂いたと思ってます」
失礼だけど、見た目のいかつさからは想像できないくらい優しい声色と笑顔で話しかけられ少しほっとする。どうやら眷属にはされなくて済みそうだ
「俺は金城リチャード一等兵だ。よろしくな」
ストライクザブラッドさん改め金城さんが自己紹介しながら握手を求めてきたので俺も快く手を差し出した。
「よろしくお願いします。で、早速ですがアルペジオですか?」
「そうだ。やっぱ戦艦といったらこれしかないと思ってな」
過程をすっ飛ばしていきなり主語から始めたがわかってくれたようだ。まぁ、ほら……金城さんの後ろにポスターがあるもの、何故か高雄のメンタルモデルだし
「非常にマッチしてると思います。でもなんでポスターが高雄なんです?ここは401の方が」
「大尉が好きでね」
マジかよ
「今の所、ポスターはこれで行こうと思ってるんだが、それ以外が決まってなくてね」
ポスターこれでいいの?高雄前面に出し過ぎじゃないですか?悪いとは言わないけどさぁ……
あ、閃いた。
「では脇に『大尉の押しメン!』って書いといて下さい」
「え?いいのか?」
「その方が、とっつきやすくウケがいいですから。ポスターはまず親しみやすさが第一です!来てもらえれば後はインパクトで勝負すればいい」
「それはそうかもしれんが、大尉にはなんて言えば」
う~ん
「結果さえ出せばよし!ってなりませんかね?」
「一応聞いてみるよ」
金城さんが窓の方に目を向けながら言う。
「それで、後のインパクトはどうするんだ?」
「そうですねぇ」
そこが一番の問題だよね。
「戦艦同士を戦わせたりとか」
「出来れば良かったんだが……」
戦艦を動かしたり空砲を撃つぐらいなら可能らしいが、激しい動きはNGだとの事。
「う~ん、そういえばメンタルモデルは?」
「当然いる。男だがな」
「ですよね~」
メンタルモデル(女装)は向こうも予想のうちだろう。むしろ悲劇的に似てない方が面白いかもしれん。だがそれだけじゃあインパクトには欠けるなぁ。どうしたものか?
「君は……」
ん?なんかいい案でも浮かんだんですか?
「本当は訓練を見学したかったんじゃないのか?」
金城さんがまっすぐに俺を見てくる。
「訓練ですか?いや~ここの方がいいですね」
どうせ出来ない訓練なんて見ても面白さ半減だし、俺だと邪魔して放り出されるのがオチだろうし
「ここの方がいいのかい?」
「えぇ、この方が楽しいです」
これは自信持って言える。なんたって自分の好きな事を思いっきり語れて、仕事にも出来るなんて、何これ天国?
「そうか、楽しい……か」
金城さんは遠い目をしている。金城さんは本当は訓練とか戦闘とかしたかったのかな?まぁ軍人として入ってるんだし多少はそんな願望もあるのかもしれないな
あ、そうだ
「閃きましたよ!」
「うおっ!?」
「歌です!」
「歌?」
金城さんが首をかしげる。
「戦艦で戦闘出来ないんだったら、戦艦の上でバンド組んで歌しかないでしょう!」
うむ、AKBでヘビーローテーションは出来ないがそれ以上にしてやるぜ
「バンドって急だな!?それに歌はどうするんだ!?」
「バンドメンバーは今から探します!歌はあれしかないでしょう!」
「あれって……あれか?」
「あれです」
「なるほど」
ニヤリと笑う俺と金城さん。うん問題はバンドメンバーだな。
「それと」
「それと?」
「これを用意します」
俺は金城さんに絵を書いた紙を見せる。
「これは!?」
「軍人なら大丈夫な筈です。数を用意出来ますか?」
絵を見て、驚愕していた金城さんだが、再びニヤリと笑い
「真田中尉に協力を呼びかけよう」
と言ってくれた。流石です。
「あとはですね~」
「ん?」
俺は金城さんにごにょごにょと耳打ちする。
「マジで?」
「マジっす。その方がリアルな意見が聞けると思います。それに」
「それに?」
俺はここで今日一番の悪い笑みを浮かべる。
「その方が楽しいじゃないですか」
「くくく、確かにな」
金城さんもつられてか悪い笑みを浮かべてくれた。越後屋、そちもワルよのぉ
「さて、そうと決まれば早速動くか!」
「了解であります!」
恩納基地 事務課 広報係いきま~す!!
今回出てきた金城さんですが、一応原作にも登場してます。