沖縄に来て海に出ないのは味気ない、ということで本日は4時からクルーザーで沖に出るらしい。深雪ちゃんはそれまでの時間、海で泳いでくるとのこと
「・・・・・・」
ん?なんでこっち見てんの?
「覗かないでくださいね?」
どうやらここで水着に着替えるようで、俺が覗かないか心配だったようだ。
ハハッwwwワロスwwwここは冷静に興味などない事を教えて差し上げねば
「ふんっ、せめてB82以上になってから来るんだな!この貧乳めが!」
どうよ?(ドヤッ
「死んでください!」
「最低です!」
桜井さんと二人がかりでボコボコにされました。
あれ~?
プンプン怒りながら深雪ちゃんは達也君と一緒に海に出てしまった。達也君にはちょっと申し訳なく思う、頑張って御姫様の機嫌を取って欲しい。
で、俺はふかふかのカーペットに寝っ転がりながら相変わらずゲーム中、贔屓目に見ても俺ぐらいの年齢の子供がする行動としては怠惰的である。
「あなたは外に出ないの?こんなに天気がいいのに」
そんな俺の様子を見咎めるように別荘の清掃をしながら桜井さんが尋ねる。
「こんな天気がいいからこそ部屋で過ごす。まさに究極の贅沢!」
「はいはい、掃除の邪魔だからどいたどいた~」
ちょwwwたまの休日に休むお父さんを掃除機で突っつくお母さんみたいな事しないで下さい。仕方ないので、ソファに避難する。
「そもそも沖縄の青い海を見たかったのでは?」
「いや~実際来てみると」
「来てみると?」
「暑くて倒れそう」
「どんだけ貧弱!?」
何を言う、12歳のボディは貧弱ゥ!貧弱ゥ!なのですぞ。
「薄幸の少年なのです」
「神経は発酵しているようですけど」
腐ってると申すか、最近深雪ちゃんもだけど俺に対して容赦がないと思う。
「私はいいですが、あなたといると奥様の機嫌が悪くなりますから、程々にしてほしいんですけどね」
桜井さんはそう言いながら、机をササッと拭き終わると2階の掃除に行ってしまった。
さて、ゲームの続きをしようと目線を桜井さんの背中から携帯ゲーム機の画面に移し
「おや?」
桜井さんがさっきまで拭いていた机に瓶が一本置いてあるのが目の端にうつった。中には透明な液体が入っているようで、窓から入ってくる光を屈折しながら透過し、机に幻想的な文様を描いていた。
「ちょうど喉渇いてたんだよな~」
こっそり貰っちまえ、と俺はキッチンの乾燥機にあったコップを一つ取り、瓶の液体を注いだ。それを一気にあおる。
「うぇ、変な味」
喉が焼けつく感覚に思わず顔を顰める。となんか視界がぐにゃりと曲がった。
やべぇwwwなwんwかwテンションあがってきたおwww
「楽wしwくwなwっwてwきwたwww」
うっひょーwロックですねw
と一人だーりな祭りをしていると
「・・・・・・はぁ」
あれ?深夜さんじゃないっすかwちぃーっすw
深夜さんは俺を見るなり溜息をつきしばらく辺りを見回すと
「穂波は?」
と聞いてきた。どうやら桜井さんを探していたようだ。
「桜井さんなら2階ですよ。掃除してます」
「そう、入れ違いになったのね」
そういうと深夜さんは俺の向かいに腰を下ろした。また2階に行くのが億劫なのか、ここで待つつもりらしい。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
お互いに何も喋らない。ちょー気まずいw
「随分と家の人間と仲良くなってるようね?」
どうやって、沈黙を打ち破ろうか考えていたら向こうから話を振ってきてくれた。随分皮肉的な言い回しだったけど
「仲良くっていうかサンドバックにされてますけど」
「自業自得ね」
と、取り付くしまもねぇ・・・・・・なんか嫌われるような事したかなぁ?
心当たりしかなかったw
ははっwもう飲むしかないな!俺は瓶から液体を注ぎもう1杯飲む。うwまwいw
「いやぁまいったなぁw」
頭がグワングワンするwww
「そうやって、四葉にも取り入ったのかしら?」
え?何?声がすげー響いてまともに聞こえないんですけどwwwウケルwww
「実験体の分際で随分と好き勝手やっているようだけど」
実験?だれか実験すんの?
「あなたはただ真夜の気まぐれで生かされているだけよ。」
んえwww今真夜さんのマグロって言った?マグロなの?流石姉妹wwwすげぇ事まで知ってんなwwwへぇ、そうなんだぁwwwぐへへwww
「何がおかしいのかしら?」
イカンwww思わず顔に出ちまったwww
深夜にしてみれば彼の何も危機感を感じていなそうなにやけ面は非常に腹立たしかったがまだなんとか理性を保っていられた。
「さすがっすw真夜さんの事を良く御存じで」
彼のこの言葉を聞くまでは
「馬鹿にしてる?」
この場に、穂波や深雪がいたら顔を青くしていただろう。目は据わり、常時浮かべている穏やかな笑みは一片たりともその美貌からは窺えない。司波、いや『四葉』深夜の本気の怒りだ。少年はついに地雷を爆発させてしまった。
言っておくと少年にそのような意図はない。少年は真夜のマグロ云々の事を言っており
(誰にも言わないような事も知っているなんて流石ですね!)
といった意味を込めての上記の発言なのだが、そんな事情を知らぬ深夜にとっては、姉妹の複雑な関係を皮肉られているようにしか聞こえなかった。
「えぇ?いや何」
「言わなくていいわ。もう何もね」
深夜はゆっくりと立ち上がった。
殺す
深夜は今でこそ若いころの無理がたたり満足に魔法が使えないが、あくまで『満足に』であり、目の前の少年1人の精神を永遠に無にすることぐらいは今でも可能である。
(真夜への説明なんてどうでもいい。コイツは殺す。私を、私たち姉妹を嘲ったコイツは!)
深夜は静かに、それでいて確実に目の前の少年に死をもたらそうとし
「そういやw真夜さんポケモンこっそり進めてないだろうなwレベル30縛り対決やる予定だし、努力値稼ぎで先を越されないようにしないとwww」
少年の言葉でしばし止める、正確に言うとある単語で
真夜
深夜の双子の妹の名前、彼から聞くと否応もなく不快になる。
「次は真夜さんのどくどく&かげぶんしんストライクに勝つwwwよっしゃwそうと決まったら二ドラン狩りと炎ポケ育成に着手w」
また真夜、
「あwそういや真夜さんに最初ヒトカゲがいいっすよwwwって言ったら次の日ローキックくらったなww」
真夜真夜真夜真夜真夜真夜真夜真夜真夜真夜真夜真夜真夜真夜真夜真夜真夜真夜
「ん~、やっぱ努力値はこっちが不利か。もうこうなったら真夜さんに電話して釘刺すしか」
「いい加減にしてっ!!」
「ん?」
ようやく少年がこちらを見るが知ったこっちゃない。これ以上彼の口から真夜の事を聞きたくなかった。
「あなたに真夜の何がわかるの!?」
コイツは何も知らない。
「真夜が過去にどんな辛い思いをしたか知っているの!?」
真夜がどんな過去を送っているか知らない。その結果、何を失ったのかも、誰が失わせたのかも知らない
「私がどれだけ悔んでいるか、どれだけ・・・・・・っ」
真夜は30年前、大漢にさらわれ非道と凌辱の限りを尽くされ女性としての機能、生殖機能を失った。
そして、その記憶に真夜が耐えられないと考えた父と私は、彼女の当時までの記憶を全て経験へと変換しそれに生ずる感情全てを消失させた。
結果、姉妹の絆断ち切られ今に至るまで取り戻す事はおろかその機会すら与えられていない。
それから、真夜は当時の婚約者との婚約も解消され孤独にそれでいて絶対的な四葉の君主として君臨することになる。
深夜は、贖罪として四葉の為、真夜の為に精神構造干渉魔法を酷使し今はまともに魔法も使えず入退院を繰り返す事となった。
「ねぇ。おねえちゃん?」
「何?真夜」
「もしおねえちゃんが当主になったら、私が助けてあげるね」
「なら真夜が当主になったら、私がちゃ~んと支えてあげる」
「ホント!?約束だよ!」
「えぇ、約束」
遠い昔、二人で願った幼稚な願い、だけど美しい願い。それは絶望と悲劇に彩られながら叶う事となる。子供の頃考えたような光に満ちたものではなく、どす黒い、言葉も交わさぬ漆黒の黒で塗りつぶされた二人の未来。
そんな事も知らず目の前の人間はただたまたまの気まぐれで四葉に真夜に踏みこんでくる。何も知らないくせに、悲劇のかけらも知らないくせに、
「今までの真夜を知りもしないあなたが真夜の事を語らないで!!」
深夜は肩で息をしながら、少年を睨みつける。
ようやくわかった。私がこの男を嫌いな理由、無知のまま真夜に、私たち姉妹に入り込んでくるからだ。悪意もなく、善意もなくただただ無邪気に、それがどれだけ残酷か
「・・・・・・」
少年はポカーンと深夜を見ている、当然だろう。我ながら支離滅裂であったと思うが押さえがきかなかった。
深夜さんが厳しい目つきで俺を見ている。恐らく何か重大な過ちを侵してしまったみたいだ。
(だが問題は・・・・・・)
俺は少し考えるふりをする。
(何を言われたかほぼ聞いていなかったという事だw)
てか今も世界が回ってるし、耳鳴りもガンガンするしそんな中でまともに話なんか聞けないです。
(え~なんか真夜さんの過去が~とか言ってたな・・・・・・ダメだwww全く思い出せんwww)
多分真夜さんの過去について教えてくれたんだろうな。わざわざ教えてくれたんだから何かしら言わないといけないんだけど・・・・・・
ていうか考える力も低下してきているような・・・・・・あ、ダメだもう勢いでいくおwww
「ふふ」
「っ!」
嗤うのか・・・・・・っ!コイツは尚も笑うのかっ!深夜はもう手加減せず心をいっぺん残らず消し飛ばす事を決めたが、少年の言葉はまだ続くようだ。
「確かにwww過去について僕は全く知りませんwww」
ていうか聞けませんでしたし、申し訳ないw笑ってしまうのは勘弁してほしい、なんか笑っちゃうんだよ意味もなくwww
「ですが、今の真夜さんだったら良く知っていますw」
だったら、知ってる話題でどうにか繋ぐwww
「だからっ!昔を知らないあなたが語るなと」
「あなたは知ってますか?今の真夜さんをw」
「今の・・・・・・?」
知らない。知る事も出来ない。まともに会話したのなんて昨日の電話以前だともう何年も昔になる。
「知ってますか?真夜さんが僕の持ち帰ったミルメークをこっそり飲んでいる事をwww」
因みにバナナ味が好きなようですwww俺は無難にコーヒーが一番だと思ってますwww
「知ってますか?シルフスコープなしでシオンタワーに挑んで2日間詰まった事をwww」
葉山さん経由で聞いた時はフイタwww
「それが」
どうした!自慢のつもりか!と怒鳴ろうとしたが
「そんな真夜さんに会えたのはあなたのおかげですw」
そんな事を言われ、不覚にも言葉に詰まってしまう。
「・・・・・・っ!何故?」
「だって過去があるから今があるわけで~wwwだからwそのぉw」
自分でも何言ってんのかわかんなくなってきたw
「きっと過去の真夜さんにも色々あったんでしょうけど、僕が知ってる真夜さんは凄くいい人なんっひゅよ!得体のしれない僕にきょきょまでしてくれるんですからwていうことはきっとぉ~すねぇwww」
「真夜さんは昔からたくさんの優しい人達に囲まれて過ごしてきたってことです」
「な・・・・・・にを」
言葉に出来なかった。優しい人達?そんなのいやしなかった、自分も含めて真夜の周りには冷徹で愚かしい人間しかいなかった。
それなのに、この少年はどうしてこうまで言い切る事が出来るのか?
いや、と深夜は考え直す。
優しい人はいた。父はいつだって私たちを気にかけてくれていた。叔父も父に叱られたとき優しく慰めてくれた。
あの惨劇を真夜の為に本気で怒り、本気で悲しんでくれた。その命を燃やし大漢に真夜の苦しみと悲しみを思い知らせてくれた。
そう、いたのだ。真夜の為に生きてくれる人間は
だが今はいるのだろうか?真夜の救いになってくれる人間は
「ででしゅね~」
呂律が相当怪しくなっている少年はふらふらと頭を振りながら言う。
「やっぱ深夜しゃんが姉として支えてくりぇたから今の真夜しゃんがありゅんですよww」
「っ!?」
本当に無知とは罪だ。随分と痛いところを突いてくる。
「私なんて、何も・・・・・・っ」
歯を食いしばる。支えてなんかいない、そんなこと出来なかった。
(いや、しなかったというべきかしら?)
真夜が望まないと思ったから『しなかった』
そう、贖罪と言っておきながらしなかったのだ。
(ん?もしかして、あんま仲良くないのかな?真夜さんと深夜さん)
深夜さんはこんなに真夜さんの事大事に思っているのにな~。姉妹喧嘩でもしてるのだろうか?お気に入りのプリン食べちゃったとか?あwそれは俺かw後で真夜さんに謝ろう。
「喧嘩してるなら、謝るしかないっすねwww」
「ふ、ふざけないで!」
深夜は今日一番の大声をあげた。真夜の12年を奪いつくした罪、それを謝罪だけで済ませると言いたいのか
「謝ってすむような問題じゃないのよ!」
(え?そんなすごい事したの?プリン一個どころか一箱食べちゃったとか?)
あぁ~そりゃ謝って許される問題じゃないわ~真夜さんあれ大好物だもんね。大人になると謝るのもなかなか難しくなっちゃうよね。立場やらしがらみやらでさ、あ、そういや元の世界で上司に言われたことがあったな。何だったかな~?
「謝ってすむ問題じゃないなら謝らなくていいってわけじゃない」
「え・・・・・・?」
そうそうwこれだこれw禿げでメタボなおっさんだったけど、この言葉だけ覚えてるんだよな~ってもしかして口に出てた!?やべっ恥ずかしい
謝る?一体何をばかな事を、と一蹴しようとし深夜は思いとどまる。あの日、真夜の記憶を殺したあの日に私は謝っただろうか?
謝罪どころか、流れる涙すら分かち合えなかったではないか
もし、謝罪から贖罪が始まるのだとしたら、深夜の贖罪はまだ始まってすらいない事になる。深夜は罪滅ぼしの為に、魔法を酷使しあらゆる人間の精神を殺してきた。それは自らの子供すら例外ではない。
だがそれは真夜が本当に望んだ事だったのだろうか?もしかして深夜の自己満足にすぎなかったのではないだろうか?
(本当の贖い・・・・・・か)
真の意味での贖罪の為、まずは謝罪から始めろということだろうか?
(ま、コイツがそこまで考えているわけないわね)
目の前でのらりくらりと揺れている少年を見る。何を勘違いしたか知らないが、随分と癪な真似をしてくれる。おかげで大事な事に気づかされたらしい
「あら?」
ふと少年の飲んでいた飲み物が気になり、半分くらい残ってる瓶のラベルを見ると
泡盛
と書いてあった。
泡盛:沖縄原産のお酒、とっても美味しい。けど調子乗って飲むと二日酔いで地獄を見るので要注意
そういえば、深雪が貢からだと言っていたような気がする。どうやら知らずに飲んでしまったようだ。というか
(人がこんだけぶちまけておきながら、酒飲みながら聞いてたのかこのアホは!)
ふつふつと鎮火してた怒りが再点火しそうになるが
「はぁ」
なんだか毒気を抜かれてしまったようだ。酒を飲まねばやってられないというのはこういう事を言うのだろう。丁度おあつらえ向きに泡盛もある事だ。
「んっ・・・・・・ぷはぁ!」
「おぉ~!」
深夜は瓶ごと残りの泡盛を飲み干した。非常に行儀が悪いが、もう気にしない。今日は酒におぼれる事にしたのだから
「足りないわね」
「そういや、さっきキッチンで同じのを見たような気がします!」
「持ってきなさい」
「サーイエッサー!」
深夜が顎でキッチンをしゃくると少年はバタバタとキッチンに消えていった。
「ふぅ、ちょっとこの掃除機音が大きいですね」
二階の掃除を終えた穂波はダイ○ンと書かれた掃除機を持ちながら階段を下りていた。クルーザーの手配でもしようかと考えリビングのドアノブに手をかけ
「ん?」
違和感を感じ首をかしげつつドアを開けると
「・・・・・・ぅぇ」
「・・・・・・うっぷ」
机に突っ伏す主と少年がいた。
「奥様!?って酒臭っ!?」
見ると、泡盛と書かれた瓶が空で転がっていた。
(朝っぱらから飲んでたんですかこの二人は!?てか何未成年に飲ませてるんですか!?)
穂波は叫びたかったのを何とかこらえ、まずは主である深夜に駆け寄った。
「奥様?」
「ぅ・・・・・・穂波?」
深夜は穂波の声にうめくように応える。相当飲んだようだ。
「いい?穂波」
なんだろうと次の言葉を待つ穂波
「真夜は、赤いリンゴしか食べないのよ」
「いや知りませんよ!?」
結局穂波は部屋の掃除が終わったと思ったら、今度は酔っ払いの掃除をする羽目になったのだった。
な、長かった・・・・・・
コンセプトとしては深夜に救いを!という事で今回はその第1歩として書かせて頂きました。
真夜もそうですが、深夜が本当に可哀想で、罪と知りながらも良かれと思ってやったことをなじられ、それを償うために魔法を酷使し妹との仲も冷え切ったままなんて救いがなさすぎる!という思いがあったので
ただ問題は普通に言わせるだけだと主人公(仮)が主人公になってしまいますので、酒を使って勘違いが勘違いを呼んで1周回ってまともになる感じを出したかったんですが、上手く出来なかった気がします。
お待たせした結果がこれだよ!申し訳ない