四葉の影騎士と呼ばれたい男   作:DEAK

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今回から追憶編スタートです!

アニメ未放映部分なので、ネタバレされたくない人は御手数ですがブラウザバック願います


追憶編①(原作未読者ネタバレ注意!)

 ある少年が四葉の屋敷に来て2年・・・・・・この世界は変わらず慌ただしくも、危険に満ちていた。そんな世界で紡がれる一つの物語、ある兄妹の物語、そして・・・・・・

 

 

 

ある少年の物語

 

 

 

 

舞台は沖縄、に向かう飛行機の中から始まる。

 

 

 

私、司波深雪は夢を見ていた。夢の中の私は、ふわふわとした現実味のない空間にいて、なんの目的もなく漂っていた。

 

それがただただ気持ちよく夢の中なのに私はそっと目を閉じた。

すると、空間を割いて光が漏れだし、良く目を凝らすと、光の向こう側に人がいるのがわかる。

 

(誰?)

 

お母様?桜井さん?それとも・・・・・・

 

私は自らの兄でありながら、最も苦手な兄の姿を思い浮かべ・・・・・・

 

 

 

 

「ぶるぁぁぁぁぁぁぁっ!!わるいごはいねがぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

思いっきり幻想をぶち殺された。

 

「え!?だれ!?なんなんですか!?」

 

会った事も見た事もない人だった。これは夢だから記憶に残っている人しか出てこない筈なのに、覚えていないだけで会った事が?いやでも、と柄にもなく混乱していると

 

「なんだかんだと聞かれたら?」

 

質問に質問で返された。テストでは0点ですよ?

と頭の片隅で冷静にそんな事を考える自分がいたが、何と答えていいかわからないし意味もわからない。

 

「えぇ~・・・・・・」

 

しばらく沈黙していると、露骨に肩を落とし落ち込む男性、というより少年だろうか?年齢は深雪と同じくらいで、外見はなんというかザ・平凡といった感じ

 

「そこは『答えてあげるが世の情け』ですぜ?超初級問題なのでちゃんと覚えておくように」

 

「はぁ」

 

「む、どうやら反省の色がないようだな」

 

状況に全く付いていけず、気のない返事をしたのを敏感に察知され、見咎められる。

 

「そんな悪い子は・・・・・・」

 

ゴソゴソと何かを探しているようなしぐさをしたと思ったら

 

「アホのビンタを御見舞いよ♪」

 

何故か、ブリで叩かれた。

 

「いたっ・・・・・・くないけど、え?」

 

「アホのビンタを御見舞いよ♪アホのビンタを御見舞いよ♪」

 

ビターンビターンとブリの音?が鳴り響く

 

「ちょ、ちょっとやめて・・・・・・・なんかすごい不快!?その音凄い不快です!」

 

「アホのビンタを御見舞いよぉぉぉぉ♪」

 

もう限界だった。

力ずくでチェス盤をひっくり返そうと、魔法を使う。使おうとしたのだが、

 

「深雪様」

 

「あなたは、葉山さん?」

 

「アホのビンタを御見舞いじゃ♪」

 

「」

 

厳格で有名だったはずの老執事のブリビンタで魔法の構築式は雲散霧消する。

だが、深雪の不幸はここで終わらなかった。

 

「深雪姉さま」

 

「姉さま」

 

黒羽の双子が

 

「深雪ちゃん」

 

双子の父親で私の叔父にあたる人が

 

「深雪ちゃん」

 

小学校時代の友人が

 

「深雪さん」

 

私の叔母が

 

あの人もあの人もあの人もみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなっ!!

 

 

全員がブリを持っていた。

 

「い・・・・・・」

 

「「「「「「アホのビンタを御見舞いよ♪」」」」」」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

目を覚ますと、そこは飛行機のカプセルシートの中だった。シートベルト着用のアナウンスが聞こえる。

どうやら夢から覚めたようだ

 

「悪夢だわ・・・・・・」

 

空調は完璧の筈のカプセルの中で、深雪はびっしょりと汗をかいていた。

 

(結局、最初のあの男の子は一体だれだったのかしら?)

 

深雪は冷静になって考えてみたが、やっぱり心当たりはなかった。

夏休みを利用したせっかくのプライベート旅行なのに、出鼻を挫かれる形になってしまい飛行機を降りるとき思わず仏頂面になってしまう深雪であった。

 

「はぁ・・・・・・」

 

ただでさえ、お母様と二人きりでなく『あの兄』が一緒で憂鬱だというのに

 

「深雪さん?」

 

 

後ろから突然声をかけられ深雪はびくりとする。

溜息を見られただろうか?ちらりと深雪は声のした方を見たが、母親、司波深夜はただにこやかに微笑んでいるだけだ。どうやら気づかれなかったようだ。せっかくの旅行なのに、楽しみじゃないと思われるのは深雪には嫌だった。

 

「お母様」

 

「行きましょう」

 

微笑んだまま深雪に先んじて深夜は歩き始めた。

 

司波深夜

 

今でこそ全盛期の力はないが、かつて随一にして唯一の精神構造干渉魔法の使い手として恐れられていた魔法師

四葉で行われたありとあらゆる精神実験に関わり成果を残している。まさに『四葉』を体現している人物だ。

 

「そういえば」

 

その四葉深夜がふと立ち止まり深雪に顔を向ける。

 

「監視役が来るという話はしてなかったわね?」

 

「監視役・・・・・・ですか?」

 

お母様は上述の通り、私も四葉に連なる者としてそれ相応の危険とそれを未然に防ぐための監視が必要なのは当然だ。

当然なのだが、せっかくの旅行が台無しになる気がしていい気分ではない。

 

「そうよ。私はいらないって言ったのだけどね」

 

深夜もその時を思い出したのか顔をしかめている。やはり彼女にとっても愉快な事ではないらしい。

 

「その方はいついらっしゃるのですか?」

 

「もう来ている筈だけど、あら?」

 

深夜が歩みと言葉を同時に止めた。

怪訝に思い深雪も母の目線を追い・・・・・・

 

「!?」

 

息がとまりそうになった。

なぜなら

 

「達也く~ん、おっひさ~!2週間ぐらいぶり~!」

 

「あぁ久しぶりだな。何故ここに?」

 

「なんかさぁ、沖縄行きたい!って言ったら行かせてくれた。一人なのが不満だけどね」

 

「相変わらず自由な奴だなお前は」

 

先に降り、荷物を取って待っていた兄、司波達也と話していた少年は間違いなく

 

(あの夢の!)

 

1番にブリでひっぱたいてきた憎いあんちくしょうだったからだ。

 

「・・・・・・」

 

叫びはしなかったが、表情が氷像のように固まるのが自覚できた。

そのまま永遠の時が過ぎるかと思ったが

 

「達也」

 

深夜の言葉で、深雪の意識が覚醒する。

 

達也は深夜の言葉を聞くや否や、即座に姿勢を正し顔に鉄壁の無表情の仮面を張り付けた。

 

「はい」

 

「その子は?」

 

「あなたが司波深夜さんですか?」

 

深夜の淡白とも言える質問に達也でなく渦中の少年が言葉を挟んだ。深夜は答える代わりに視線を少年にむけた。

 

「これ妹さんからの手紙です」

 

向けられた視線を肯定ととったのか少年はポケットから4つ折りの紙を取り出した。

妹というのは当然深雪の事ではない。深夜にとって妹は一人しかいない

 

 

四葉真夜

 

 

四葉家の当主からの手紙を少年はもっていた。

 

(メッセンジャーかしら?)

 

深夜が四葉真夜からの手紙を読んでいる最中、深雪がそんな事を考えていると

 

「じ~」

 

(な、なんか見られてる!?)

 

少年がこちらに視線を向けてきた。別にぶしつけな視線で見られるのは慣れている。だが少年の視線はいままでの、羨みとかやっかみの視線とは違う気がした。

 

「な、なんですか?」

 

深雪はなんとなく居心地が悪くなり、少年に声をかけてしまう。

 

「なんだかんだと聞かれたら?」

 

あれ?なんかすごいデジャヴ・・・・・・

 

「こ、答えてあげるが世の情け?」

 

「Good!!」

 

別に魂を賭けようと言ったわけではないのに、凄いいい笑顔でサムズアップされた。

 

「いやぁありがとう!達也君はなかなか反応してくんなくてね~一発で返してくれる人なんてクラスメイト以外だと初めてだよ!ありがとう!そしてありがとう!」

 

満面の笑顔で手を握られそのままブンブンと振られる。

 

「あ、あははは」

 

少しはあの夢に感謝してもいいかもしれないわね。

 

「それで?あなたが監視役ということね?」

 

いつの間にか手紙を読み終えていたお母様が少年に声をかける。

って、え!?この子が!?とても監視なんて出来そうもないけど・・・・・・良く考えなくても失礼な事を言っている気がするが、何故かこの子なら別にいいかという気にもなってくるから不思議な少年だ。

 

「監視?あぁ、うん、そうそう、僕が監視役なんです。そんなことを言われたような気がします」

 

あなたも知らなかったの!?

少年は必死に取り繕っているようだが、まるで取り繕えていない

 

「・・・・・・はぁ、全く何を考えているのよ」

 

私で気付けたのだからお母様に気づけない筈がない。母の呆れを多分に含んだ声色はやるせなさを顕著に表していた。

 

「あぁ、君」

 

「は~い」

 

「車を手配するからそこでまってなさい」

 

「了解です!」

 

お母様の言葉に少年はことさら素直にうなずくがそれを見もせず、お母様は私と兄を連れて空港のロビーを出口に向かって歩き出す。

 

「お母様、彼は・・・・・・?」

 

「置いて行くわ」

 

「え?」

 

お母様の言葉に私は思わず聞き返してしまうが、お母様の顔を見て聞き返した事を後悔してしまう。

 

表情は表面上は変わらない。

 

だが、私にはわかってしまう

 

(怒っていらっしゃるわ)

 

それはもう盛大に怒っていた。

気持ちはわからないでもないけど

 

「正直付き合ってられないわ。そのまま放置しておきましょう。真夜がどうにかするわ」

 

お母様は声に苛立ちを乗せ足早に空港を去って行った。

 

私もそれについていくが、少し後ろを歩いていた兄が何回か後ろを振り返っていたのが印象的だった。

 

 




主人公追憶編1話目にして、置いていかれるの巻

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