「はぁ・・・・・・」
亜夜子は、落胆と失望を隠しきれず溜息を吐いた。
現在。午前中の訓練を終えて、休憩に出ている。
彼女は道場の裏手で、飲料を片手にうなだれていた。
(何故、こうもうまくいきませんの?)
原因は彼女の魔法の方向性に合った。
四葉の魔法師は大別して2種類の系統に分かれる。
一つは、生まれつき精神干渉の魔法を持つ者
もう一つは、実験の過程で歪な魔法演算領域を持ち、他の者にはない独創的な魔法を持つ者
文弥は、前者でダイレクトペインという彼だけにしか使えない魔法を持ち『四葉』としての地位を確立している。
それ自体は非常に喜ぶべき事なのだが、亜夜子にとっては焦りを隠せない。
魔法師として、身を立てる術のない者はすなわち四葉として生きられないと称されたも同然、このままでは、彼女は四葉として身を立てる事が出来ないということだ。
(嫌です!そんなの!)
四葉として生きられなければ、四葉から勘当されるかもしれないもしくは文字通り『無理やり』四葉の魔法師として調整されるかもしれない。
そうなれば、黒羽亜夜子という人間がどうなってしまうのか、比喩表現なく壊れてしまうかもしれない。
齢10年の子供にはまさしく恐怖である。
羨ましく思う。
既に四葉として確固たる地位を築いている父を
既に自分の行く道を知っている弟を
そして・・・・・・
(亜夜子ちゃ~ん。マリオテニスやろうず!)
(ふふふ、このネット際の帝王と呼ばれたこの俺に・・・・・・って顔面はらめぇぇぇ!!)
「いや、あれを羨ましがるのは間違いですわね」
魔法を使う術もないのに、自分らしく生きる少年
四葉しか知らぬ亜夜子にはそれが非常に新鮮に映った。
(あんな風に生きたいとは思いませんけど)
亜夜子は人知れず笑みを浮かべた。
そんな自分に気づき直ぐに首を振って、浮かんだありえない考えを打ち消す。
「さて」
もうすぐ、休憩が終わる。今は、自分に相応しい魔法を見つける事、それが重要であり、成すべきことだ。
亜夜子がそんな事を考えながら腰を上げた時、
「少し、いいかな?」
頭上から、或る少年の声がした。
「よし、これなら必ずや勝てる」
「一体何してるんだか」
文弥君が冷めた目で見ているのにも構わず、少年は磨きあげた技(ネタ)に勝算を見る。
「文弥にはわかるまい!あの絶対零度の目でことごとくネタをスルーされた俺の気持ちを!」
(それは、勘違いじゃないかな)
何故か、凹んでいた少年から事情を聴くに、彼が会ったのは、文弥が尊敬する再従兄弟であろう。
(確かに、達也兄さんは誤解されやすくはあるけど)
彼は、一見無表情に見えるが故、あらぬ誤解を受ける事が多い。
だがよく見れば喜怒哀楽を確かに見て取れる。それを初対面で見破れというのも無理難題ではあるが、
(まぁ、いいか)
実害があるわけではないので、文弥は好きにやらせておくことにした。
「そうだ、そのまま・・・・・・」
「!?出来ました!出来ましたわ!!」
休憩が終わり道場に戻ってみると、何やら興奮した様子の姉と、敬愛する再従兄弟の姿があった。
「達也兄さん!」
「文弥か」
聞くに、亜夜子と自分の魔法適性が似ている事を知り、自分の得意魔法を実演し、彼女に適した魔法をアドバイスしているという。
(やっぱり兄さんは凄い)
自分も父も気づいていたがどうしようもなかった問題に的確な助言と対策を行い、亜夜子を導いて見せた。
「それで、姉さんにどんな魔法を?」
「ふふん、聞きなさい文弥!私の魔法はですね」
達也に投げた問いを気分の高揚した亜夜子が問いを奪う形で答える。
普段そんなことはしない姉だが、よっぽど嬉しいのだろう。達也も満足げに目を細めながら見ているし、文弥は矢継ぎ早に話す亜夜子を嬉しそうにみていた。
故に見逃してしまった。
碌でもない事を考えているのが一目でわかる少年の姿を
「姉さん、僕にも見せてくれないかな?その魔法を」
「任せなさい!達也さん申し訳ないですけど」
「いいよ。見ていてあげる」
達也から微笑みながらの了承を頂き(亜夜子の頬が赤かったのはきっと文弥の勘違いではないと思う)亜夜子はCADの操作に取り掛かった。
「あれ?」
すると、いつの間にか達也と亜夜子の間に移動していた少年を見つける。
何故か、猛烈に嫌な予感がし止めに入る文弥だったが、残念だったが遅かった。
ヘ(^o^)ヘ いいぜ
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(^o^)/ てめえが何でも
/( ) 思い通りに出来るってなら
(^o^) 三 / / >
\ (\\ 三
(/o^) < \ 三
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/ く まずはそのふざけた
幻想をぶち殺す
「ぶふっ!?」
残念ながら?達也の鉄面皮をはがす事は出来なかったが、近くで見ていた亜夜子は盛大に集中を乱した結果、気流の流れを暴走させてしまい
「ぐはっ!?」
「達也兄さん!!」
達也は道場の壁に盛大に激突することになった。
「第2ラウンドは引き分け・・・・・・と言ったところか」
「いいからさっさとそっち持って!!」
「サ、サーセン(汗」
「達也さん!?大丈夫ですの!?」
幸いにして達也は大した怪我もなかったのだが、黒羽姉弟両方からめちゃくちゃに怒られ大人しくしている事を余儀なくされてしまうのだった。