では、どうぞ。
古城が居なくなった事が雪那たちが把握したのは昼休みが迎える少し前、四時限目の授業を終える十数分前にニーナが気付き連絡が届いた。
眠りから覚め古城がトイレから帰ってきていない事に気付きニーナは、急いでアスタルテに連絡して那月に、そして雪那にへ連絡がいった。
連絡を受けた雪那は担任の笹崎先生に事情に説明、そのまま南宮那月の教員室に向かい那月たちと合流した。
「南宮先生、古城が居なくなったって!?」
「落ち着け転校生」
慌てて教員室に入ってきた雪那に扇子の一撃を叩き付ける。
痛みで涙目になり叩かれた額を押さえる。
「さて、アスタルテよ。状況を説明を」
「
無表情で現状を報告謝罪、そのアスタルテの顔や雰囲気から悲痛感が感じられる。
誰もがアスタルテを攻める事など出来なかった。預けられた古城の面倒を見ていたのはアスタルテだ。
那月のメイドであり色々とする事が多く、古城の面倒を見ながら仕事を両立させる器用さはアスタルテでなければ出来なかっただろう。
「気にするなアスタルテ。責任があると言えば私達にもある」
那月も自身の油断に苦虫を噛み締めた表情を浮べる。
アスタルテから古城の傍から離れると連絡を受けた那月は、呪術を使い侵入者に警戒はしていたが古城の事を見ていなかった。
勿論、那月にも見れなかったのにも理由はある。
那月は英語の担任教師である。生徒たちとの授業、提出された宿題やレポートなど採点しなければいけなく、更に国家攻魔官としての仕事もある。
四六時中、傍に居続ける事は出来ない。
「さて、呪術的及び人物の侵入はなかった。それは即ち一人で勝手に出歩いた事になる」
「では一人で勝手に古城が学校から脱走したと言うことですか、南宮先生?」
「そうだろうな。それに今の暁は子供だ、脱走したとしてもそう遠くまでは行けまい」
現状を色々と検討していく。
子供の足では遠くには行けないし、一人で歩いているなら警備の人に保護されている可能性もある。だが、問題なのは先日の襲撃犯が発見されておらず捕まっていない。
今、古城が襲われれば抵抗も出来ずに敵の手中に収まってしまう。
焦る心を殺し冷静に状況を把握、雪菜は自身の出来る事を模索していく。
「……南宮先生、私は早退させてもらいますが構いませんか?」
「仕方あるまい。アスタルテも捜索に当たれ」
「
雪菜の早退を受理し、更にアスタルテにも捜索するように命令する那月。
アスタルテも即座に受託して捜査を協力の意を示す。
「私も何らかの事件を起きていないか管理公社を経由して調べてみる。少なくとも
那月の啖呵と同時に2人は教員室から出て行く。
「厄介事にならなければ良いんだが……」
顔を顰めながら窓の空を睨む那月。
ただ、古城の無事を信じ。
◆
「ハアアアアッ!」
「ッ!?」
銀の一閃が古城の首を絞める腕に走る。
走った一撃は綺麗に二つの腕を両断、その衝撃で小さい古城は吹き飛ぶが誰かに受止められる。
茶髪のポニーテイル、スタイルが良い長身の女性。片手には銀に輝く剣を持ち古城を殺そうとしていた女性を睨み警戒する。
「ちょっと暁古城、確りしなさい!」
「ゴホッガハッ……ハァ……ハァ、キラサカ?」
咳き込みながら酸素を取り込み、薄れていた意識で古城は自身を抱きしめている存在を見る。その目先には知っている人物の顔。
それを見た瞬間、古城は安堵の表情を浮かべ涙目で抱きつく。
急な抱きつきに沙矢華は困惑するも古城の抱きつきに拒絶する事無く背中を擦る。
「本っ当にあなたは私がいないと雪菜を困らせるんだから。――っで、あなたは何者なの?」
銀の剣。“
そこで、紗矢華は変に気付いた。
自身の剣である煌華鱗の第一の能力である空間切断は堅牢な刃、事実上切れない物はない。その刃は確かに敵の両腕を切断した。
切られた腕なら大量の血が流れ落ちる筈だ、だが腕からは血など一滴も流れていない。
吸血鬼でも血は流れる。ならば何故?
だが、その謎は直ぐに氷解した。
「魔術人形ね」
魔術人形。魔力を用いて形を与え命令や遠隔などで操作する魔術の一つ。日本で言うならば式神などが良い例だ。
だが、紗矢華は疑問に思う。
確かに魔術人形ならば納得はいくが、これ程までに強い人形を作る事など出来るのだろうか。何らかの魔力攻撃を受ければ形状が維持できずに簡単に霧散する脆い魔術。
だが、この人形は煌華鱗の一撃を受けても形状を維持している。
「まぁ良いわ。次で決めてあげる!」
片手に古城を抱えたまま一気に駆ける。
その駆ける姿は子供一人を担いで走っている様には見えないほどに速い。そして、距離が煌華鱗の剣域結界の間合いに入った瞬間、銀の横一文字が放たれる。
だが、その一閃には手応えがない事に気付いた沙矢華は後ろに跳ね飛ぶ。それと同時に、人形の腕が伸びる。
「ぐっ!?」
強烈な鞭の様な一撃。
煌華鱗を盾にして攻撃を退けるも先端が撓り背中に鋭い一撃を受ける。
背中の痛みに顔を顰めて痛みを耐えながら、抱えている古城は放す事無く強く抱きしめる。
「腕は伸びるし流動体の様な動き……それに、切ったと思ったら身体を凹ませ攻撃をかわした。厄介な相手ね」
煌華鱗の空間切断発生領域は刃先のみ。空間切断と聴こえは良いが、簡単に言えば何でも切れる剣だけでそれ以上の物ではない。
ウネウネと動かれては対象を斬れず空間切断の効果は発揮しない。もう一つの能力もあるのだが一対一での戦いでは絶対的な隙がなければ出来ない。
沙矢華が修めている舞威媛は呪詛と暗殺が専門で、白兵戦が専門である剣巫は一歩劣る。
「こうなるなら色々と持ってこれば良かったかしら」
「キラサカ」
不安を浮べて呼ぶ古城。その古城に紗矢華は頭の中の複雑な思考を一時破棄、深呼吸をして精神を安定させる。
「暁古城、この剣の後ろに隠れてなさい」
「でも……」
「はっきり言って今のあなたは邪魔なの。だから隠れていなさい、守って上げるから」
煌華鱗を突き刺し前に出る。
古城は言われたとおりに剣の後ろに身を隠す。
「さて、身軽になったわ。――鎮星/歳破!」
「ッ!?」
紗矢華は自身に呪詛を掛け
その一瞬の行動に反応出来なかった人形は強烈な一撃で吹き飛ばされ壁に叩き付けられる。だが――吹き飛ばされ叩き付けられるがゼリー状に張り付き、やがて元の形に戻る。
「ダメージなし。やっぱし
次に打つ手を模索して身構える。
人形は更に甲高い奇声を上げ、蛇の様に両腕を動かし紗矢華に放つ。
臆する事無く腕の撓る軌跡を見切り、身体を捻り相手との間合いを入り攻撃する隙を窺う。
一撃も入らない事に苛立ちを募らせているのか人形の攻撃が荒々しくなる。腕を大きく振り回している為に振り終えた隙が出来、勿論その隙を見逃す沙矢華ではない。
勢いのある動きに動作が隙を生むと、紗矢華は一気に敵との距離を縮め接近戦に持ち込む。勿論、人形も近づけまいと攻撃するが一歩先に沙矢華が攻撃範囲内に入った。
「辰星/歳刑!」
鋭い蹴りの一撃が放たれる。
だが、放たれた一撃は水を蹴った感覚で手応えがない事に気付くが反応が遅れた。
蹴った箇所は穴となっており、その穴に紗矢華の足が通っている。急いで足を抜こうとするが、足がある状態で人形は元の形状に戻ってしまい足が固定される。
「ちょっ放しなさいよ! ヌルヌルして気持ち悪い!」
液体が足に絡み抜けない状態に陥ってしまう。
「キラサカ!」
「ッ!?」
古城の声。
その声に反応して人形の視線を向ける。
そこには口部分が大きく開き飲み込もうとする人形の姿。さながらエイリアンが人間を丸呑みする姿に見え、沙矢華は息を呑む。
「食われる!」目を瞑り身構える紗矢華。だが、横から衝撃を受けて目を開ける。
「――ッ!?」
小さくなったも一目で分かる特徴的な白に近い髪。
一瞬、紗矢華は何が起きてのか分からず意識が凍る。そして、次に自身が何をされたのか理解した。
だが、理解したと同時に人形の口は古城を飲み込んでしまう。
「暁古城!」
無意識に近い反応。
手を伸ばし人形に飲み込まれた古城を掴もうとする。
人形の液体の身体に腕が入る。ヌメッとした感触が伝わり顔を顰めるが、それでも腕を人形内部に刺し込む。
「かえしなさい!」
腕は飲み込まれ、肩まで入ってしまう。だが、それでも刺し込んだ腕を抜く事無く顔ごと入ろうとしていた。
そして、指先に何かに触れる感触が伝わると紗矢華は大きく息を吸って顔ごと入れ指先に触れて物を掴む。
それと同時に人形は四散するように伸び、紗矢華を覆い被さるように包んでしまった。
ふっふっふっ、雪菜が来ると思いましたか。
残念、煌坂紗矢華が登場!
何故、この様な場所で出てきたのかは後々分かります。
しっかし、獅子王機関の作る武器って何気に凄いですよね。
魔力無力化、空間切断、どれもこれも凄い能力ですね。
さて、次も頑張って書きます。