翌朝の早朝、ブライト家から少し離れたところに大きな広場があり、そこに俺とカシウスは立ち会っていた。
「わざわざ済まないね朝早く」
「…いや、訳ない」
昨夜カシウスが出した二つの頼みとは、一つは“人を殺さない事”、当たり前だが例外を持ちそうして行こうと思ってたので別に構わなかった、しかしもう一つは以外というか予想出来なかった、まさか「私と手合わせしてくれないか?」なんて言われるなんて思ってもいなかった、最初は断ったが、彼の意思は揺るがなかった、目を見て、溢れている闘気を悟りその誘いに乗った、まぁ全力は出しても本気は出さないが。
「いや、本当に済まない私の最後のワガママに付き合わせてしまって」
鞘から剣を出し構えた、流石剣聖と呼ばれるだけあって全く隙が無い。
「軍と決別しようと決め、今日でこの剣を捨てようと思い最後に戦いたいと思ったんだよ」
「…そうか、しかし何故俺なんだ? 仮にも最後だというのに」
「見くびっちゃ困る、これでも剣聖と言われた男だ、君の話を聞いてそして何よりもその闘気は今まで会ってきた誰よりも強く輝いている、最後の花道にこれ以上ない位君はふさわしい!」
「それは光栄な事だ…」
俺は構えた
「では始めよう、いざ参る!」
その途端カシウスの闘気が溢れ出し大地が揺れた、相手は本気だ、ならばこちらも本気は出さずとも全力でやらなくては失礼にあたる。
「では攻めさせてもらおう!」
「来い!」
地面を蹴りカシウスに向かい二手三手と手刀を繰り出したが全て剣で防がれてしまった。
「グッ!…早いな」
「ほう、今ので無傷とは…」
「無駄口を叩いている場合か!」
カシウスの剣筋はまるで閃光の様に早く動きに全く無駄がなかった、昨夜の優しそうな面影はなく、歴戦の戦士の顔に変わっていた。
一旦距離を取り剣を振りかざすと、大地を揺るがすような衝撃波が俺を襲った。
「はぁ!裂甲断」
上空に飛び除けると既にカシウスは自分の間合いにまで詰め寄り何度も切りつけてきた。
一合二合三合と躱し距離を取るために俺は遠くに離れようとするが、すぐ様距離を縮めさらに強い一閃が迫ってきたが、俺はそれを白刃取の容量で止めた。
「!…まさかこれが止められるとはなぁ」
「いや、俺も一瞬肝を冷やしたさ」
「ならば、これを受けてみろ!」
カシウスは距離を取り一気に加速し
「そらそらそらそらぁ! うおぅりゃぁ! 」
そして回転しながら上空に舞、炎を纏い始めた、やがて炎の鳳凰と呼べるような炎が迫ってきた。
「奥義・鳳凰烈波!!」
「…ならば!南斗水鳥拳奥義!!」
俺は大地に手をつけそのまま飛び上がり上空に上がった、その直後にカシウスの鳳凰烈波が今まで居た周辺に激突し辺りを一面の炎が巻き込んだが。
「やったか?、ッ!!!」
手応えから直撃はしていないだろうと思っていたが、まさかよけられるとは思ってもいなかったようだ。
「一体何処に? なっ!!」
辺りを見回していた僅かな瞬間にレイが上空から現れたのだ、その姿はまるで水鳥の様に優雅で美しかった。
「飛翔白麗!!」
手刀を肩すれすれまで落とし、そして勝負は終結した。
◇◆◇◆
「ふぅ、参ったよ…まさか全力を出し切って負けるとは、すまなかった手合わせという事を忘れ本気で行ってしまってた」
「いや、想像を遥かに超えていたので俺も全力でやらせてもらった、…そして一瞬も気を緩める事が出来なかった」
「…本当に…最後にふさわしかった、ギャラリーが居ないのは残念だが、ありがとう最高の花道だよ」
先ほど険しい顔から満足げな優しそうな元の顔にもどり、頭を下げた。
「そして何よりも美しかった、途中手合わせの中だというのに一瞬見惚れてしまったよ、またいつか手合わせ願うよ」
そう言いながら互いに握手をし帰路についた。
家に着くとレナが朝食の準備をしエステルが上から眠そうな目をこすりながら降りてきた。
「………おはよう……お母さん、お父さん……レイ兄……」
「おはようエステル、外で顔を洗って来なさい」
「…は〜い」
エステルが外から帰ってくる間に食事の準備が整い食べ終え少ししてカシウスと共にブライト家から出ようとした。
「それじゃあそろそろ戻るよ、あまり長居していると将軍にドヤされるからな」
「…長い間世話になった」
「あなた行ってらっしゃい、…レイあなたもいってらしゃい、いつでも帰ってきなさい、ここはあなたの家でもあるんですから」
「!…考えておくよ…………母さん」
「‼︎、はい!」
「…レイ兄またね」
今にも泣き出しそうになっているがなんとか耐えることが出来ている
「あぁ! また会う日まで!」
「それじゃレイ、そろそろ行こう」
◇◆◇◆
「…行ちゃったね……レイ兄……絶対だよ……」
「ふふ エステル、レイなら必ずまた会いに来てくれるわよ」
「…うん」
「………いってらしゃい…レイ…私達のもう一人の息子」
◇◆◇◆
ロレントに着きカシウスに軍の駐屯地に案内されそこでリベール国内の通行証と身分証明書を受け取った
「レイ、これが通行証と身分証明書だ」
「…すまない礼をいう」
通行証と身分証を見てみると名前の欄にこう書かれていた(レイ・ブライト)と
「レイ・ブライト……か」
「あぁ、名字が無いのはおかしいからな、せっかくならどうかと思って! どうかな、お節介だったか?」
「…いや有難く頂こう、それじゃな………親父」
「!、あぁ行っておいで…息子や」
こちらの世界で出来た母親、父親、そして妹に見送られ、レイはロレントを後にした。
「……とりあえず南を目指すか」
本来ならば起こり得ない奇跡が交差し運命の歯車が狂い出す、
これから先の未来は空の女神エイドスですら分からないだろう
あっ、レイ南に行っても何もないぞ!
…えっ