しとしとと雨が降り出した王都グランセルの街のシンボル、グランセル城に一つの悲報が届いた。
《マーシア孤児院の運営者のジョセフ氏が事故死》
ルーアン市近隣にて孤児院の運営をし、クローゼが戦災を逃れマーシア孤児院で保護された時に世話になったジョセフという運営者が、ルーアン市での事故で死亡すると言う事が起こり、朝一番で手紙が届きクローゼは目を通しその場でうずくまり泣き崩れてしまった。
しばらく泣いていたあと、目を赤くしながらもなんとか落ち着いたようだが、すぐに疲れて眠ってしまったようであった、目の下に涙の跡を残して、陛下と相談しすぐさまルーアンのマーシア孤児院の方に向かうことが決まった。
翌日、ユリアは都合が合わずレイとサラはクローゼを引き連れルーアン行きの定期船に乗り込み、グランセルを後にした。
「…ジョセフさん…………」
「姫殿下……」
クローゼの変わり果てしまった姿にサラはいたたまれない表情になりながらも終始心配していた。
どうやら昨日から食事を取っておらず、目は赤く腫れて隈ができていた。
「…………」
レイは何も言葉を発する事は無かった。
◇◆◇◆
ルーアンに到着し、マーシア孤児院にすぐさま向かうと以前会った事のある女性、テレサが暗い部屋に椅子に覇気がなく座っていた。
「………クローゼ?…」
「……テレサ先生!?」
変わり果てしまったテレサに少し驚き別人だと思っていたようであったが、すぐさまテレサだと確認し駆け寄り抱きつき、大声で泣き崩れた。
テレサはそっと抱き寄せ、包み込むように強く抱き、クローゼを宥めた。
「テレサ先生……ジョセフさんが…………」
「クローゼ…泣なさい今は……」
テレサ本人も泣きたいはずだが、必死に涙を堪えてただひたすら抱きしめていた。
◇◆◇◆
ルーアン市の礼拝堂の横にある墓地に来ていた、テレサに教えてもらい指定された場所まで行ってみると、そこに一つの真新しい花に囲まれてた石碑があった。
その石碑の前にしゃがみ込みクローゼは丁寧に花束を添えた。
「ジョセフさん……」
既に涙は枯れてしまったようで、泣きそうにはなっているが、一滴も零れることはなかった。
それに続きサラとレイも、持っていた花束を供え、静かに手を合わせた。
「「……………………」」
ただ安らかに眠って頂きたい、それだけを思いながら。
夕日が傾くまで、クローゼは手を合わせ祈り続けていた、二人はただ見守る事しか出来なかった。
◇◆◇◆
夜、様子を見に行く為ホテルのクローゼとサラの部屋に行って見たが、俯き覇気が全くない状態で、呆然としていた。
一度部屋を出てサラに聞いたが、全く食事を取らずホテルに到着してからずっとこの状態であるという。
「…そうか」
「レイ、………どうしたらいいのかしら………余りにも姫殿下が………」
サラ自身も心配し、どうしていいか分からない状態であった。
「…済まないがしばらくクローゼと二人で話がしたい、席を外してくれないか?」
「…分かったわ、お願い…」
サラは少し考え、レイに託した様で、ロビーへと降りて行った。
「…さてどうしたものか………」
部屋のベッドに座っているクローゼの横に座った。
「レイさん………」
「クローゼ…今は無理はするな…」
「大丈夫ですよ、もう大分落ち着いてきましたから」
心配させまいと笑顔になるも、から元気だろう、無理もない気丈なようでもまだ子ども……。
「クローゼ…」
「…レイさん、すいません分かりますよね…………知ってると思いますが私は両親を生まれてすぐに亡くしています、裕福な親戚に引き取られてなに不自由なく育てられました」
「………そうだったな」
「ええ、そして数年前の百日戦役の時に…親戚の人とはぐれてしまって……テレサ先生とジョセフさんに保護されました、少しの間でしたけど、私は二人のおかげで家族を…お父様とお母様を知ることができました、…まだ何も返す事が出来なかったのに…」
「……そうか」
その話からどれだけ大切な人を亡くしたのかよくわかった、実の父親のように慕っていた人を亡くしたのだ。
「…クローゼ、少し俺の昔話をしよう」
「?」
「俺の実の両親も殺されて亡くなっているのだ」
「!?」
「…俺も様々な死に立ち会って来た、師父、俺を慕ってくれた妹弟子、一夜の安らぎを与えてくれた女、そして最大の宿敵、それ以外でも…」
「そんな…」
「だが亡くなって逝った霊……魂は俺の中で俺が生きている限り生き続けている、立ち止まる事はあったが俺は死んでいった者達と共にこれからも生きていくと誓った………それが残された人間にできる最大の恩の返し方だ、一緒に生きていく事が………」
自分自身死ぬ運命にも関わらず、生きている、ならば俺は命ある限り彼らの魂と共に生きていくそう誓ったのだ…。
「お前も両親、そして恩師の魂と共に生きていけ、それが最大の恩の返し方だ…」
「レイさん………」
クローゼはレイの胸の中に飛び込み再び泣き出した、枯れた筈の涙が再び頬を濡らした、しかしその涙は暖かく心地が良い涙であった、レイはただ何も言わずクローゼを優しく抱きしめた、今のレイの表情は慈母星の如く穏やかな慈しむ表情であった。
……………
「…昨日から何も食べていないのだろう、………これを」
レイが懐から出し、クローゼに手渡したのはチョコレートだった。
「はい!…頂きます」
今までとは迄と違い、元気が気持ち入ったようで、レイから渡されたチョコレートを口にした。
「ああ…」
こうして、クローゼは深い悲しみから立ち直る事ができ、改めて生きていく事を誓った、
…………
これで良かったのだろうか……ケン、マミヤ………
遠い元の世界の者達の事を思い出していた、確かにあの時に南斗六星拳のレイは死んだ、俺の魂は彼らの中で生きているのだろうか………
しかし、レイ自身は知らないが確かに生きているのであった、最愛の女マミヤは死兆星の呪縛から解放され、宿敵ケンシロウの中でも生き続け、その悲しみを背負い奥義を習得する事ができた、
アイリ、リン、バット、彼らの中でもレイは今だに生き続けて行ったのであった。
…一緒に生きて行こう…………
なんか独自解釈ですいません、毎回ですが……