少し時間が経ち、俺は一週間程の休暇を貰いロレントに帰省する事にした、土産に釣公師団で買った釣竿を持ち、グランセルからロレント行きの定期便に乗りグランセルを後にした。
「ただいま」
「レイ兄お帰り! ようやく私の元に帰って来てくれたのね!」
「…そんな言葉誰に教わった」
「シェラ姉!!」
シェラ姉?………シェラザードか………あいつは。
「お帰りなさい、レイ」
「ただいま…母さん」
ややダイナマイトなエステルの発言は置いとき、とりあえず帰って来た事に対しては喜んでくれた。
土産の釣りざおを見てエステルはとにかく喜び明日早速使おうと言っていた。
「あとこれ、母さん」
俺は今日まで仕事で貯めてきた金のほぼ全てを渡した。
「あらなに?…………レイ!こんなには受け取れないわ!」
「そう言われても使い道が無いからな、これから毎月送るよ、エステルに何か買ってやってくれ」
そう言われても引き下がらなく、結局毎月二割程で俺は妥協した。
「ふぅようやく着いたか、今帰ったぞ」
しばらくすると親父が帰ってきたようだが、手に持っている布は一体何だ?
「お帰りお父さん!」
「おう、ただいまエステル レナ、レイも帰って来たか、それよりもエステル今日はお前にお土産があるんだが」
「えっ、ほんと!?ストレガーのシューズ?それとも釣りざお?あっ釣りざおならレイ兄が買ってきてくれたよ!」
「なんで、ここで服とかアクセサリーという発想がないんだうちの娘は…。」
「それより親父、その布は一体何だ?」
「これはだな…」
持っていた布をめくると
「男の子!?」
どうやら眠っているようだが、黒の髪を持つエステルやクローゼ位の男の子だった。
それには俺もエステルも母さんですら驚いた。
「前からエステルは弟がほしいと言っていただろう。」
「お父さん…。」
「なんだエステル?」
「この子は、隠し子なの?お母さんを裏切ったの?」
「なんでそういう方向に持っていくんだ?」
「…シェラザードの影響らしい」
「全く、あの耳年増め。」
「それよりもあなた、この子はどうしたのですか?」
「それよりこの子を休ませたい、……レイ、部屋を借りてもいいか?」
「ああ、大丈夫だ」
親父から受け取り俺の部屋に連れて行き怪我してないか調べたが、細かい傷は目立つものの命に別条はなく、疲れて眠っているようだった。
「親父、一体何が?」
「ああ、…何処から説明したものか」
すると男の子が目を覚ましたようであった。
「うっ、ううここは?…………!!あなたは何を考えているんですか?あんな状況でなんで僕を助けて…」
「どうやら目を覚ましたようだな」
目を覚ましたようだが、とても友好的な表情ではなさそうだ。
「怪我人は黙ってなさい!」
エステルのドロップキックが綺麗に決まり、少年は情けない声を上げ落ち着いたようだ。
「怪我してるんだからおとなしくしてなさい!」
「なにを言ってるんだ。けが人にこんなことするほうが…」
「言い訳しないの」
その一言により、少年は静かになった。
「それよりあなたの名前は?あたしはエステルよ」
「……………」
「な ま え は !」
「…ヨシュア」
エステルの気迫により、無理やり聞き出した。
「…そうか、とりあえず今日はゆっくり休め、また朝に来る」
扉を閉めて部屋を後にした。
しばらくし、エステルが寝た頃に親父と母さんの三人が集まり事を聞いた、なんでも任務中に助けたのだが
「実はな、任務中に助けたのだが行く当てがないそうで養子として迎え入れようとな、レナ、レイ賛成してくれるか?」
「私は大丈夫ですよ、エステルにも弟が出来たみたいで嬉しそうでしたし」
「俺自身も養子だ、否定することはできぬ」
「そうか、ありがとう」
しかし気になる、あの琥珀のような目まるで昔の俺の目と瓜二つだ、飢えた狼の頃の俺の目だ。
母さんが寝静まった頃、一人で居間にいた親父に聞いてみた。
「親父、いくつか聞きたい事があるのだが」
「…レイ、あの子の事か?」
「ああ、あの子は一体!?」
「実はな、最初あの子に襲われたのだよ」
あの子供に!?
「まあ、とりあえず気絶させたのだが、その後すぐに仲間らしき者達が来て、あの子ごと攻撃してきたのだが」
あの子ごと!?…チッ、悪党の考えそうな事だ、大方口封じだろう、下衆が。
「まあ、撃退したのだが逃げられてな」
「それで今に至るか…」
…余りに似ているな、俺の襲撃事件と。
「その中に拳法使いは?」
「いなかったよ、どれも対した事はなかった、精々準遊撃士クラスだお前の言っていた逆立った黒髪の男もいなかった」
「そうか…」
だが、あの子が黒髪の拳法と知り合いかもしれない可能性は低くはなさそうだ。
「レイ、無理に聞くなよ」
「…心配するな、無理やり子供を痛めつけ聞き出すような下衆ではない、話してくれなかったらそれでいい、自分で探すだけだ」
それに、仲間から裏切られ身寄りのなく、深い事情がある少年を俺は見過ごす事はできなかった。
こうしてブライト家に黒髪の少年が家族になった。