「…お久しぶりです、レイさん」
クローゼは目に少しの涙を浮かべて笑っていた、しかしその涙は心細く泣いていた涙と違い、確かな暖かさが確認できた。
「クローゼ…か、久しいなあの日以来か、まさかお前さんが姫殿下とはな…」
ポーカーフェースを装っているが、レイ自身も驚いていた。
それを見ながら、陛下も見守るように微笑んでいた。
「まあ、まさかクローディアの事を知っているとは思っていませんでした…これも縁なのでしょうか…」
クローゼを見ている陛下の姿は、一国の女王ではなく唯、慈しみ育ててきた孫を見ている祖母の姿であった。
「せっかくですから、クローディアに今日は貴方が旅して来た話を話してあげて下さい、この子中々お城から外に出る事がありませんので、少しでも…レイさんよろしくお願いします」
◇◆◇◆
陛下の部屋から出て、城内の一室に通され、今までの事を話す事になった、途中何故偽名を使っていたのかを聞いてみると、王族ゆえ悟られないよう愛称であるクローゼと名乗るようにしているとの事である。
しかし、愛称のクローゼを気に入っているので、これからもクローゼと呼んで欲しいと言われたので、そうする事にした。
「それにしても、こうしてまたお会いする事ができるなんて、これもエイドスのお導きなのでしょうか…」
「……………」
クローゼは年相応に目をキラキラさせながら、俺の事を見ていた。
中で待機していただろうサラはお茶を淹れてクローゼに「座って下さい」と言われ、恐縮しながらも用意されていた椅子に腰掛けた。
「ではレイさん、お願いします!」
………一体どこから話したものか
陛下に言われた通り、元の世界の事は一切話さず少しはぐらかしながら、18の頃つまりこの世界に来て旅をしながらリベール各地の事をクローゼに話した。
最初は戦争の復興支援をしながら旅をしてきた事や様々な町や村を周りながらそこで問題になっているような事柄などを解決してきた事などを、今までの軌跡を話した。
クローゼはレイの話がどれもこれも城の中では味わえないような新鮮な話に感動しつつ、その場にいたかのように頭の中で風景を描いていた。
「…まあ、こんなところだ」
話終わるとすでに外は暗くなっており、グランセルの街中を導力機のランプが光、幻想的な光が街を照らしていた。
席を外していたサラが入室し食事の時間だとクローゼを呼びに来た。
「はい分かりました、レイさんまたお話を聞かせて下さい!」
満足そうに微笑んできた。
「…機会があるならな」
「はい!分かりました!」
クローゼは出て行き部屋にはレイだけとなった。
「エイドス………か」
二日目
午前はクローゼは勉学という事もあり、午前中は仕事も無く図書館に向かった。
城内にある図書館は一般的な図書館より小さいものであるが、その分貴重な本もあり、退屈はしなかった。
一応職員?…執事であるために貸し出しなどは問題なく、暇がある時は出来るだけ本を読む事になっていた。
「……………」
元の世界では本など読む事など無かったが、この世界にきてから時間がある時はしばしば本を読む事がある、その中で空の女神エイドスの事柄がよく出てきている事があるのだが、どの書物にも一通り一般常識程度や神話などありがたい事しか書いては無かった、他の都市の本など探ってみても同じような事しか書いてなく、素晴らしくありがたいと思うとしか無いように出来ていた。
「やはりか…」
「(いくらなんでもおかしすぎる、元の世界であったように神話でも、神が間違っているだとか捻くれた解釈が書いてある本などが絶対にある筈だが、これらはまるで意図的に消され、"この世界はエイドスにより守られている"と言い、否定為るのは許さないと言っているようなものではないのか!?
教団のような集団はともかく、何故一般的に否定する事を許さないのか?)」
考えても仕方がなく、読んでいた本を元の場所に戻し、時計を見てみるといい時間であったので図書館を後にし、クローゼの下に向かった。
昼食を食べ終わり、午後は教育係の軍人による武道の指導との事で、俺もそばで見守る事になっていた。
園庭に着くと親衛隊の軍服を着た短髪の女がいた。
「殿下、お疲れ様です、それと…」
「レイだ」
「そうですか、私は殿下の教育係を勤めていますユリアと申します」
綺麗なお辞儀であった。
「そうか、…別に敬語じゃなくていい、同じ位の年だからな」
「…そうか、申し訳ない」
軽く紹介を済ませると、早速鍛錬を行うと言って、一体一の試合形式で行うことになった。
…どうやら二人の武器は細身のレイピアか、…それにしても型の綺麗な流派だな、剣術など余り精通していないが、俺の目にも綺麗に見える。
暫く時間が経つと、休憩のようで二人とも手を休めたようだ。
「ふう、少し休憩にしましょう」
「はい、ありがとうございます」
俺は用意して置いたタオルと飲料水を二人に渡した。
「すまない…」
何か聞きたい事があるのだろうか、ユリアは俺の事を観察するように見ていた。
「…どうかしたか?」
「いやすまない、…レイ君はカシウスさんの息子だと聞いたのだが、…武器は一体なんだ?」
「…拳法だ」
驚いた顔になり目を見開いていた。
「なんと!いやそうか、道理で筋肉の付き方が違うと思っていたが…まさか拳法だとはな」
大方親父の息子だから剣術か棒術かと思っていたのだろう。
「ああ、すまない別に拳法が悪いとかではなくて、昔カシウスさんに剣術を習っていてな息子さんなら剣術をと思っていたのだが、拳法を習っていたという事に驚いただけだ」
親父、どこまで顔が広いんだ。
その後も日が暮れるまで行われ、クローゼは疲労困憊を隠せなかった。
「はあはあ、ユリアさんありがとうございました」
それと同時にクローゼは地面に倒れこんだ、無理もないこの年の子がやるレベルではなかった程の鍛錬だ。
「殿下…お疲れ様です」
一方ユリアもそれなりに疲れているようであった。
「しかし、殿下の今日の気迫…」
「いつもここまでするのか?」
「いや、普段と比べても今日は異常だ、まあ嬉しい誤算ではあるがな」
なるほど、何故か今日は異常であったのか。
クローゼを抱え部屋に戻ろうとした、部屋の前に着くと目を覚ましたようで微笑んできた。
「レイさん、私は強いですか?」
「…正直年にしてはかなり強いな、将来が楽しみだ」
今これ程ならば十年したらどうなるか?…楽しみだ。
クローゼは安堵したように再び微笑んだ。
「私は貴方を見て強くなりたいと思いました、私にも誰かを守れるくらい強くなりたいと…」
「……いや、俺ですらまだ弱い、上には上が居るものだ」
「そうですか…世界は広いですね」
「ああ、広いさ」
「いつか見てみたいです、レイさんのように自分の足で…」
再び深い眠りについたようだが、その顔は満足したように微笑みながら眠っていた。