研修が始まり一ヶ月が経とうとしていた、ヒルダ夫人によれば陛下と姫殿下はこの一ヶ月間共和国に赴いていて、顔を合わせる事がなかったそうであった。
そして明日帰ってくるそうで、今日で研修が終わろうとしていた。
ヒルダ夫人に呼ばれ、図書館に俺とサラとヒルダ夫人の三人が揃っていた。
「レイ、研修お疲れ様でした、今日を持ちまして研修を終え、明日から姫殿下の護衛兼執事の方を務めるよう頑張って下さい」
「…はい、分かりました」
「サラもご苦労様です、今日から新しい場で勤めて下さい」
「……はい、ありがとうございます」
しかし、サラの表情は優れないようであった。
「(……折角レイと仲良くなれたのに、仕事場は別々……か)」
「サラ、貴女は今日より姫殿下の専属のメイドですので、くれぐれも失礼のないように」
「……………えっ!?ヒルダ夫人、………」
えっ、…………姫殿下専属!?
「あの…………えー大変失礼ですが、専属とは?」
ヒルダは呆れたような顔になり、目を細めた。
「…貴女、人事移動の張り紙を見てないのですか?一ヶ月前から今日をもって姫殿下専属と書いてあるはずですが、………他にいなかった事もありますが、そのためにレイの研修を頼んでみたようなものだったのですが…ハア〜」
呆れて溜息しかでなかったようであった。
「申し訳ございません!研修の事で頭がいっぱいで確認することができませんでした!」
…………休日にでも確認できたのでは?………そういえば休日は殆ど俺といたな…………
ヒルダには申し訳なかったが、無駄なことを言い、自分にも飛び火が来るのは御免だったので、黙っておく事にした。
「……分かりました、とにかく明日から誠心誠意心を込めてしっかりと働いて下さい、レイ貴方も…期待していますよ」
「分かりました」
………………………
しばらくして、サラは見る見る内に顔が青ざめてきたようであった。
「………あれ、すごい出世だけど、かなり責任重くない?」
………今更……過ぎだ。
◇◆◇◆
翌朝昼頃にどうやら到着したらしく、迎えを任されたので赴くことになった。
門の前で待っていると、何人もの親衛隊員に囲まれた女王陛下を確認することができたが、姫殿下らしき姿を確認する事はできなかった
「(……確かエステル位の年の子だと聞いていたが、……見当たらんな)」
すると陛下はレイに気がついたようで、向かってきた。
「お久しぶりですレイさん、研修お疲れ様でした、それと…サラさん今日からよろしくお願いします」
「お疲れ様です陛下、分かりました務まるかどうか分かりませんが、…頑張ります」
マニュアルどうりというか、月並みの答えだったが、挨拶をした、一方サラはまだ緊張を隠せていなかったようであった。
「レイさん、申し訳ありませんが、少し二人で話をしたいので、これからよろしいでしょうか?」
二人で……姫殿下の事であろうか?
「…分かりました、お願いします」
陛下の部屋に通され、文字通り二人きりで話をすることになった。
「お掛け下さいレイさん、今お茶を淹れますので」
「…いえ、私が淹れますので陛下はどうかお座りになってお待ち下さい」
そういうと、「分かりました」とだけ言い研修で習ったとうりお茶を淹れた。
「どうぞ、アールグレイですがよろしかったでしょうか?」
「はい、ありがとうございます…それでは頂きますね」
…この一ヶ月で感覚が麻痺したというか、陛下と二人でお茶など一般的にあり得ないことでも、普通に対応できるような感覚になってしまった。
「美味しいですね、レイさん」
「…ありがとうございます」
ティーカップを置き、陛下は真剣な表情になり話した。
「おそらく、気になったと思われますがクローディア…私の孫がいないと、もう少しすれば来ますので少々お待ち下さい………それと、お願いがあるのですが……」
再び紅茶に手をつけながら一旦会話をやめた。
「……お願いですか、一体どのような事でしょうか…」
「…クローディアと過ごす間、執事ではなく、出来るだけ兄のような存在で過ごして頂けないでしょうか?、クラウディアの事は妹のように対応して頂けると嬉しいです」
………一国の姫殿下に対し兄のようにだと?!
「一体何故でしょうか…………」
「はい、実は孫は………」
話を聞くと、姫殿下の親である皇太子は事故で亡くなり、姫殿下は兄弟はいなく、親戚なども年の近い人は居らず、友人もずっと城の中で生きて来たのでいなく、もう一人教育係の子がいるのだが、仕事があり中々毎日は一緒に居られなく、一人寂しい思いをしていて、そんな中兄のような対等に接してくれるような人を探していたとの事であった。
「しかし……分かりました、務まるかどうか分かりませんが、善処してみます」
親は亡くなり、兄弟も友人もいない……か、同情が無いと言えば嘘になるが、それ以上に…俺に近い物を感じる事ができた。
「そうですか!ありがとうございます」
暫く談笑をしていると、コンコンと扉が鳴り、一人の少女が入ってきた。
「失礼しますお祖母様………!レイさん!?」
名前を呼ばれ少女の方を見てみると、…数年前に一度助けた、少女の姿がそこにあった。
◇◆◇◆
今日から新しい専属のメイドさんと、執事の人が私に着くことになった、ユリアさんもいるのだが、仕事で中々来れなくこれからはこの二人が毎日お世話をしてくれるとの事になった。
お城に戻る前に、大通りを歩いていると、家族連れや友達どうしで歩いている人達が、よく目に止まった。
「ねえ、お兄ちゃん!?」
「はは、なんだよ!」
その会話や仕草を見て、私は凄く恥ずかしいが、嫉妬してしまった。
「…兄弟…か……」
「?、姫殿下どうなさいましたか?」
「いえ、なんでもありません!」
ユリアさんは不思議そうに、私の顔を見てきたが、出来るだけ悟られないよう、笑ながら返した。
友達、家族、兄弟……私は王家に生まれ今までお父様、お母様が亡くなり、私は例えようのない孤独感に押し付けられていた、また同年代の子達が外で遊ぶのを遠目から見ていて、虚しくも思ってしまった。
お祖母様、ユリアさんも仕事が忙しく、中々構ってもらえなく、部屋で一人泣くことすらあった。
「(どんな人なのだろうか?)」
今まで専属のメイドさんや執事さんはいたのだが、私が敬語をやめて対等に話して下さいと言っても、恐れ多いですと言われ、ユリアさんですら少し他人行儀な処が少しある。
「(どうか、仲良くなれますように)」
願わくは、姫殿下としてではなく、一人の少女として見て欲しい、そのような人に巡り会えますように。
お城に戻り、お祖母様の部屋まで行くようにと言われ、扉をノックし開けるとそこには
「失礼しますお祖母様………!レイさん!?」
かつて私を救い暖かい手を差し伸べてくれた人の姿がそこにあった。
レイの敬語が何故か知りませんがむず痒いほと似合わないと思っている作者です、本来敬語は普通に話せるのですが、…とにかく似合わないですね、むず痒いですが、少々我慢の方をよろしくお願いします。